第12話 「逆転っぽい裁判 要芽対御剣(後編)」




   「転送!! 宇宙探偵ディバン!!」
 かもめ第3小学校の校庭で、ジャングルジムの上に陣取った神塚ダイは、その姿をシルバーメタリックのコンバットスーツ姿『宇宙探偵ディバン』へと変えていた。
 「おのれ!秘密結社Q!! はやり貴様達の仕業だったのか!! 本物の用務員さんは何処だ!」
ディバンの眼下には、数人の秘密結社Qの戦闘員達がいる。 どうやら何か作業をしようとしていたのか、ロクな武器も持っていない。 彼らにとってもディバンの登場はアクシデントに違いない。
 「何か見落としは無いかと思って小学校に来て見れば・・・貴様達がいたとはな。」
 証人として召喚された用務員が、ニセモノと見抜いた長船達。 そこでダイが、もう一度現場を調べに来たのだ。
 その小学校に入った途端。 校庭の隅で妖しい動きをする一団を見つけた。 それが・・・秘密結社Qの戦闘員であったと言う事だ。
 秘密結社Qの戦闘員が意味も無くこんなところにいる訳が無い。考えられるのは、一つしかない。
 「本物の用務員さんはここにいるんだな!」
 ジャングルジムから飛び降り、戦闘員の真っ只中に踊り出る。 ディバンの出現に、何人かの戦闘員が校舎裏裏に駆け出したのが見えた。 恐らく証拠隠滅を図る気なのか・・・
 残った十数名の戦闘員が、ツルハシやシャベル、某フライドチキン創設者の人形、金属バット等を持ってディバンに襲いかかる。
 「時間稼ぎのつもりか! なら時間を掛ける訳にはいかないっ!!」
 襲いかかる戦闘員にディバンが吼える。


 ──同時刻 法廷

 「では、準備室の中にいたのは、被害者と被告の二名だけだったんですね?」
要芽の尋問は続いていた。 証人である用務員(ニセモノ)に対し、一歩間違えば誘導尋問にもなりかねない言葉を投げかけて。

 その様子を、傍聴人席で長船達は歯噛みしながら見ているだけしか出来なかった。
あの証人の用務員は、ニセモノに違いない。 だがそれを証明する証拠が無い。 よしんばあったとしても、伝える手段が無い。しかも、この事を伝える事は、自分達が『正義』である事をバラしかねなかった。
 「ここは・・・要芽さんが、なんとか矛盾を叩きつけて、奴の正体を暴いてもらうしかない。」
 長船が歯噛みしつつ呟いた。
 「でも・・・あの用務員がニセモノだとしても、アイツが大紋寺さんを陥れたって証拠が・・・」
 村正姉妹の姉、彩が言う。
 「ここは・・・姉さんを信じるしかない。 大丈夫・・・姉さんならどんな手段を使っても・・・」
 巴の言葉に長船は苦笑した。
 「どんな手段って・・・俺達『正義』には、似合わん言葉だな・・・」

 「どうして、二人だけだと解ったんですか?」
 「意義あり!! 証人は、言い争う二名の声を聞いたと証言している! また準備室は通用口以外は全て施錠されている。 それ以外の人物が現場にいれば、用務員が覗いた時点で発見されている!」
 バンッ!──机を片手で叩く御剣検事のするどい反論。
 「意義あり! 被告人は通用口の鍵を持っていない。すなわち、通用口は業者が入室していた時点では外部からの出入りは誰でも出来た筈。」
 「意義ありだ! 被害者を襲われた時刻を見てみろ!!鑑定では間違い無く7時半に犯行が行われた事を示している! 用務員が準備室にやってきたのはそれから5分と経っていない!」
 「5分あれば、準備室から退出するには十分過ぎます。」
 少々高ぶっている御剣検事に比べ、要芽は終始一徹無表情。 「意義ありッ!」の時だけは、多少引き締まった顔を見せるが、それは裁判長を始めこの法廷内にいる人間へのアピール行為に過ぎない。 彼女は絶対『氷』でなければならないのだ。
 「では弁護人には、現場に第3者が介入していたとでも言うのか?」
 ふふん。とうすら笑みを浮かべる御剣検事。
 (来た・・・。ここでジャブを)
要芽はそう思った。 ここにくるまで頭で何度もシュミレーションし、答えを練っていた。 要芽はまだ20代前半でありながら、歴戦の弁護士顔負けの力を見せる事がある。 経験不足を感じさせないぐらいの・・・
 
 「現状で第三者の存在を証明する事は難しいと判断します。」
それを聞いた御剣検事は「そらみろ」と言う顔をした。 だが要芽は表情を変えず、言葉を続けた。
 「ですが、被告人が犯人ではないと言う事は説明できます。」
 その言葉に裁判長が要芽を見た。
 「面白い。聞かせていただきましょう柊弁護士。」
 裁判長の許可が出たところで、要芽は頷いて口を開いた。
 
 「まず、この事を説明する以前に、被告人の身体状態に注目していただきたい。」
 「身体状態だと?」
御剣検事が怪訝な表情をする。
 「被告人は見てのとおり大柄で、かつこの体系。 かなり鍛えた体を持っています。 恐らく腕力も体重もかなりのものがあるでしょう。」
 「当然だ。 糸鋸刑事以上の体格だ。取り押さえる時、警官達が苦労したと聞いている。」
 「ですなあ・・・かなり鍛えてありますね。 いやいや、詳細を聞かされるまで体育教師かと思っていましたからね。」
 裁判長が何気なく言った言葉に、要芽はうなづいた。
 「裁判長のおっしゃる通り、被告人は体育教師の方が向いていたでしょう。 ある一点を除けば、私もそう思っていたはずです。」
 「ある一点?」
 そこで、要芽は証拠品の一つ、凶器である大紋寺の松葉杖を取り出した。
 「証拠は、これです。」
 「凶器となった松葉杖ですか?」
それを見た瞬間、御剣検事が「何を言うかと・・・」と言う顔をしたが、要芽は無視して言葉を続けた。
 「被告人は確かに屈強です。 このオーダーメイド品の松葉杖で、相手を殴り倒す事も容易でしょう。 ですが、それは上半身のみの話です。 強いて言えば腕力だけでも、と言ってもいいでしょう。」
 「確かに、この松葉杖は重くて頑丈ですね。 腕力さえあれば人を殴り倒す事も出来そうです。」
 「そして、証人は、犯行現場を見て『早く逃げなければワシがやられそうになったからジャガ』と証言しています。」
 「それがなんの関係が・・・って! ああ!?」
御剣検事がビックリして声を失った。 要芽はそれを見て口元を僅かに緩ませただけだった。
 「流石、御剣検事はお気づきになりましたね。 証人は襲われそうになったから、逃げたと言っています。」
 「それは当然でしょう。 犯人にしてみれば、犯行を見られたわけだから、目撃者の口を封じようとする行動に出るでしょう。 衝動的犯行ならば当然の事。」
 裁判長の言葉に要芽は頷いた。
 「だが・・・被告人はそうはしなかった。 いえ・・・出来なかったのです。」
 「そ・・・それは、被告人が松葉杖を必要とする身体状態だったからか・・・・」
御剣検事が震えた声で言った。
 「そうです。 凶器をもう一度見てください。 被害者を殴打した際に歪んでいます。そして被告人は松葉杖を常用している身体。 これから導き出される答えは、被告人は『証人を追いかけて襲う事など不可能だった』のです!」
 『ナニイイイイ!!!』
 法廷中にざわめきが響いた。 証言台に立つ証人等は汗を大量にかいているほどだ。

 「静粛に!静粛に!! 弁護人!これはどう言う事ですか?」
裁判長の木槌が響く。 その中で要芽一人が冷静だ。
 「はい、説明します。 被告人は数年前に負傷しており、身体のあちこちに後遺症があります。日常生活には支障はありませんが、歩行の際には松葉杖での補助を必要としている事が調書によって明らかです。」
 これは、勿論、大紋寺の現役宇宙刑事時代の負傷が原因だが、地球駐在の身分を偽る際には、事故と言う形で書類上、処理されている。
 「松葉杖無しの歩行も可能ですが、その際は著しく移動速度は遅くなる事は明白。 これでは犯行を目撃した用務員を追いかける等不可能です。」

 要芽の言葉に、メタモルVの3人は苦笑していた。 大紋寺が戦闘前に『とおおぅりゃああ!!』と、野太い声をあげて、現場に飛びこむ所をこの場の人達が見たら、要芽の言葉なぞ、一瞬で無意味な物にされるに違いない。

 そんな事は全く知らない要芽は、そんな傍聴人の思いなぞ知る由も無く言葉を続ける。
 「もし!被告人が犯人ならば、被害者を襲った後、目撃した証人を追いかける事は不可能だった。 と、なれば、その後すぐに警察の手を逃れる為に、隠れるなり逃げるなりする筈です。 幾ら松葉杖による歩行補助が必要な身体とは言え、通報から警察官到着までの時間で逃げ出す事は出来た筈。」
 「意義あり! 被告人は気が動転して自失茫然になっていたのだ! だから逃げ出せなかったのだ。」
 御剣検事がすかさず反論。 だが要芽もすぐに反撃する。
 「意義あり! それはありえない。 証人は『自分が襲われそうになった』と、証言している。 これは自我がハッキリしていた証拠。 そして御剣検事、貴方も証明している。」
 「な・・・私がだと・・・」
 冷や汗を流す御剣検事に対し、要芽は御剣を薄ら笑みを浮かべて見た。 嘲笑のような笑みを向けて。
 「御剣検事。貴方は先ほど、こうおっしゃいている。『取り押さえる時、警官達が苦労した』と! つまり、被告人は逮捕の際、警官に対し抵抗している。 つまり!!」
 「自我はハッキリしていたと言う事ですね。」
頷く裁判長。 くうぅぅ・・・歯噛みする御剣検事。
 「そしてこの行為は、『自分が罪を犯した事を悔やんで自首する為に留まっていた』と言う考えも無かった事を現している。」
 「自首するなら、逮捕の時に抵抗などしませんからね。」
 要芽の言葉に裁判長は頷いている。 チャンスだ・・・裁判長の心は自分の方へ傾いている。 攻めるなら今。 要芽は言葉を続けた。
 「この事から、被告人には、証人を襲う気など最初から無かったのです。 つまり・・・」
 「被告人は被害者を襲った犯人ではない・・・と?」
裁判長の言葉に要芽は頷いた。
 「つまり! この証拠品と証人の証言は明らかに矛盾しています! 被告人には証人を襲う意思が無いのに、証人は襲われそうになったと発言しています!」
 「ひいいいい!!!」
ズガーン!!───と、証言台に衝撃が走る!! 証人席に立つ用務員(ニセモノ)の額から汗が滝の様に流れ、小刻みに震えている。
 「そ・・それはジャが・・・・」
 明らかにうろたえている証人。 この気を逃さず、要芽は指をつきつける。
 「証人! これはどう言う事か説明願いましょうか?」
あえて笑みを浮かべて詰め寄る要芽。 顔は笑っていても、何故か背筋が寒くなる。 そんな氷のような笑みだった。



 「ここか!!」
戦闘員を片付けたディバンは、小学校の片隅にある体育用具などを入れておく倉庫の前に立っていた。
 「間違い無いわディバン! 戦闘員達の足跡がくっきり残ってる!」
パートナーのマリーが、地面をしめす。 流石、体育用具の倉庫だけある。 ライン引き等に用いる石灰の粉が散乱し、それが戦闘員達の足跡をはっきりと残していた。
 「・・・にしても、靴の型がバラバラだな・・・。全然統一されてない・・・」
そう・・・その足跡は、地下足袋やらスニーカーやらと、まるで統一されていなかった。 まるでサイズの合うのを適当にチョイスしたかのような感じが拭えなかった。
 「でもでも!こんな倉庫に連れこむなんて、秘密結社Qもマニアックねぇ・・・。 は!まさか、用務員さんの熟れた肉体を? 枝から落ちる寸前の果実を思うさまむさぼる気なのよ!! そしてビデオに撮るのね!売るのね!!」
 「マリー・・・どこからそんな発想が・・・」
 「あら?違うの? 地球の文化ではそう言うものと・・・」
大きく誤解している。 まったく、宇宙探偵連盟はどんな異文化教育プログラムをマリーに見せたのだろう・・・と、ディバンの頭を過った。
 「とにかく!」
ディバンは、気を取り直し倉庫のドアに手をかける。 突入と同時に腕のラスターレーザーを放つ準備はしておく。
 「いくぞっ!!」
 ガラッ──と、ドアを開けると同時に、姿勢を低くして転がり込む様に、倉庫内に突入するディバン。
 「動くなっ!!」
左腕を突き出し、ラスターレーザーの狙いを真正面につけるディバン。 マリーはドアから僅かに顔を覗かせるように身構えている。
 が・・・・
 「キュ、Q〜ぅぅ・・・」
 その刹那、ディバンの目の前で戦闘員が前のめりに崩れる様に倒れた。 目を凝らせば、倉庫中に戦闘員達が倒れている。
 「これは・・・・?」
 立ちあがり、見渡すディバン。 しかし動くものは見当たらない。
 「ディバン・・・一体・・・」
 尋常ではない状況に、マリーが心配そうに寄ってる。 だが・・・
 「!!」
 ディバンのコンバットスーツのセンサーが何かを検知した。 マリーを引き離し身構える。
 「マリー!油断するな! まだ動いている奴がいるぞ!!」
 「ええっ!?」
そんな時だった。 倉庫の奥の暗がりから、コツコツと言う足音が聞こえてきた。

 「ふふふ・・・」
 暗がりから現れたのは、真っ白な体を持つ、昆虫型改造人間の存在だった。 その身体から発せられる異様な気配に、身構えるディバン。
 「貴方が最近、世間を騒がしている連中と戦う『正義』側のお一人ね?」
 白い改造人間・・・頭部から長く伸びた2本の触覚。細くしなやかな指は鋭い爪の様に鋭い。 昆虫で言うならカミキリムシと、言った所か。
 「そうだ。 俺は宇宙探偵ディバン!!」
 異様な雰囲気に飲まれまいと、ディバンは一貫して姿勢を崩さない。 その堅物っぽい姿勢に、白い改造人間はクスクス・・・と笑ったようなそぶりを見せた。
 「お前は何者だ? 秘密結社Qではないな・・・。 他の勢力の改造人間か!!」
 「あら、ごめんなさい。紹介が遅れたわね。 私は『イド』。言っておくけど改造人間じゃないから。」
イドと名乗った存在は、女性の言葉で話した。 その口ぶりには笑みが含まれている。 何か面白がっている様だ。
 「まったく・・・。『正義』ってのは、私みたいなの見ると、すぐ改造人間って決めつけちゃうんだから。 HUMAの生き残りにも困ったもんよね。 似たような姿の奴が多いんだから。」
 両手を軽く挙げて首を左右に振る。 表情が伝わらないので、ボディランゲージで示すしかないのだ。
 「あ・・・そうそう。 この奥に用務員さんいるから。 体調も意識もしっかりしてるから、このまま連れてっても問題ないわよ。」
 そう言って、道を譲るようにして、その場を立ち去ろうとするイド。
 「ま・・・まてっ! 君は一体・・・何が目的なんだ!? 敵なのか味方なのか!」
 すると、鋭い爪の指を顎に当てて、考えるそぶりを示すイド。数秒考えた後、その場を離れながら口を開いた。
 「そうね・・・敵と味方といえば・・・敵かもネ? 目的は・・・貴方達の仲間に『柊巴』って、コいるでしょ?そのコかな♪」
 クスクスと笑いながら、倉庫を出ていくイド。
 「今回助けたのは、挨拶代わりかな? てっきり巴ちゃんが現れると思って見張ってたんだけど、まさか貴方みたいな子供ウケしそうなのが来るとは予想外♪」
 そう言って、ディバンの目の前でイドは、白いブラウスを着たロングヘアーの女性に姿を変えた。
 「じゃあね♪ 巴ちゃんに宜しくぅ! 指輪の戦士は一人だけでいいって伝えておいてね♪」
 そう言って、彼女は左手を見せた。そこには巴が付けている指輪と同じ物が。 そしてそのまま彼女は、警戒心を解かないディバンとすれ違いざま、投げキッス&ウインクして立ち去った。

 「な・・・なんなんだ、彼女は・・・」
 困惑するディバン。 それをムスっとした表情で見るマリー。
 「ディバン! ぼおっとしてないで! やる事あるでしょ!!」
そうだった・・・と、変身を解いたディバン・・・神塚ダイは、そのすぐ後、倉庫の奥で縛られていた本物の用務員を救出した。
 「た・・・助かった!! 一昨日、巡回の途中でゴキブリとジャガーの合いの子みたいな怪物に襲われて!」
 用務員の言葉にダイは目を見張った。
 「ほ!本当ですか!!」
 「間違いない! その怪物が口から何かガスみたいなのを吐いて、そのまま意識を失った!気が付いたら、黒タイツの集団にここに閉じ込められて!!」
その言葉に、ダイとマリーは顔を見合わせ頷きあった。
 「用務員さん! 今法廷で貴方のニセモノによって、校医の大紋寺先生が殺人未遂で裁かれようとしています!! どうかこのまま裁判所まで同行して、大紋寺先生を救ってください!!」
 ダイの言葉に、用務員が目を見張った。
 「なんじゃと! 校医さんが? よし解った!助けてくれた礼だ。どこでも連れて行ってくれ!!」



 「さあ証人!」
 要芽が詰め寄る。 証人はジャガ・・・ジャガとうろたえるばかり。
 「証人! ハッキリしない証言をしないと、貴方には偽証罪が適用されますぞ。」
裁判長でさえ、煮え切らない証人の態度に疑いを持ち始めている。
 (よし・・・このまま・・・)
要芽がそう思った。 だがすぐにその考えは撤回せざるを得なくなった。 何故なら御剣検事の顔が笑みを浮かべていたからだ。
 「ククク・・・。見事な推理だよ弁護士君。 確かにこの証人の証言には疑わしい部分がある。 だがそれがどうした?」
 御剣検事は笑みを崩さない。 その口ぶりからまるで今までの証言など意味がない様に・・・
 「証言内容がどうであれ、この証人が犯行を目撃していることには間違いない。」
 「な・・・・!!」
 御剣の言葉に、流石の要芽も言葉を失いかけた。
 「よく考えてみろ。 証人は証言にあやふやな部分がある事は認めよう。 だが!目撃者はこの証人ただ一人! 他に目撃者は無い! しかもこの証人と被告人には学校関係者という以上の関係・・・繋がりは無い! 誰かを庇って偽りの証言をする必要もないのだ!」
 「た!確かに・・・その通りです。」
裁判長がはっとした様に言った。
 「だが被告人は動機もあり、現場には被告人と被害者しかいなかった事は明白。 それに、凶器には被告の指紋しか付着していなかったのだ。」
 「意義あり! 証人が聞いたという被害者とのやり取りには疑わしい物が。」
 「意義あり! そんなもの聞き間違いという事もある! こんな事件に遭遇したのだ。記憶が混乱していても不思議は無い。」
 御剣の強引とも言える攻めに要芽も気落ちしかける。 今までの弁護士人生の中で、ここまで苦戦した男は初めてだ。
 タイプが似ているせいか、やりにくい相手とは思っていたがここまでとは・・・
今まで、自分と対しようとする男は、過去愛した恋人と義弟の空矢以外はゴミ以下と感じていたが、この御剣という男は違う。 強い・・・

 「では弁護人は、この証人が被告人を陥れる為に嘘の証言をしているとでも言うのか! だとしたら証人にとって何のメリットがある!」
 バンッと、今日何度目かの机の叩く音が響く。 要芽は表情を変えずに考えた。
 (確かに・・・証人が被告人を貶めても、何のメリットもない。 どうする・・・?こんな時、本来の弁護人の成歩堂ならどうしたろう・・・)
 要芽は、成歩堂と言う弁護士と直接の面識はない。 だが資料として、報道される範囲でならある程度、度のような人物かは判断できる。
 (確か・・・発想を『逆転』させる事が得意だとか・・・逆転!?)
 その瞬間、要芽の氷のような頭脳が、まさにコンピューター・・・機械の正確さで動き出した。
 (・・・・そう、証人が嘘をついている事は誰が思っている。 証人が今回の真犯人と見て間違いない。 証人が被告人を陥れるメリットは無い。 ならば発想を逆転させれば・・・)
 要芽の脳内であらゆる議論が行われた。 そう・・・静かに悟られる事のない議論が。
 (・・・何故、罪を押しつけてもメリットが無い被告人を陥れたか。 それは自分がやったからに違いないから! そう・・・目撃者は証人ではなく、被告の方! 自分の犯行を見られたから、それを被告に押し付けた!)
 この考えで間違い無いだろう。 だが、要芽は合点のいかない所がある。 何故なら被告人である大紋寺は、真犯人である用務員の顔を見ていないのだ。 見ているならば、取調べの際に警察や、自分に言うなりしているからだ。
 面会の時に聞いたが、やはり犯人の顔を見ていないのが痛い。 そこを逆に付かれてしまったのだ。
 話によれば、いきなりガスのような物を吹き付けられて昏倒させられてしまったという事らしい。 ガスならば、非力そうな初老の用務員に、屈強な大紋寺を昏倒させる事が出来るだろう。 しかし、そのガスという物を持っていたという証拠が無い。
 要芽に与えられた武器はあまりにも少ない。 どうする・・・
 (こうなったら、成歩堂弁護士のもう一つの特技・・・)
人真似する事は、プライドの高い要芽の本位ではないが、この場合は何でも利用させてもらおう。 人真似でプライドが傷つく事より、裁判に負けて自分の名誉が傷つく事の方が屈辱だから。

 「弁護側はあくまでも被告人の無罪を主張する。 証人の発言には納得がいかない部分が多すぎる。」
 「面白い。 では弁護側には証人が、被告を陥れている納得のいく証拠を見せる事が出来るのだな?」
御剣検事の言葉に、裁判長も頷いた。
 「そうですね。そこまで言うからには発言を許可します。 しかし誤った発言には、それなりのペナルティを与えますよ。」
 その言葉に、証人が「そうジャガ!与えてやれジャガ」と、野次を飛ばす始末である。 だが要芽は動じずに口を開こうとした。
 (成歩堂弁護士のもう一つの特技、それはハッタリ。)
 「裁判長。 弁護側は、証人、油虫邪牙雄氏を告発致します。」
 告発・・・その言葉が発せられた瞬間、法廷中がざわめいた。 静粛に!と言う木槌の鳴り響くのを無視して、要芽は言葉を続けた。
 「そもそも、最初から間違っていたのです。 目撃者と犯人を。」
 「なんですと! どう言う事ですか弁護人!」
驚く裁判長。
 「簡単です。 御剣検事、貴方は先ほどこうおっしゃった。『証人が被告人を陥れるメリットが無い』と。」
 ああ・・・と、頷く御剣検事。 それを確認して要芽は言葉を続ける。
 「そう、メリットはない。 でも証人にはそうしても被告人を陥れなければならなかった。何故なら、この犯行は証人、貴方が引き起こしたからに間違い無いからです!」
 「なんですと! この証人が犯行に及んだ張本人と言うのですか!?」
 「そうです裁判長。 事件を目撃したのは証人ではなく、被告人大紋寺激だったからです!」
そう言って、証言台の男を睨みつける要芽。勿論本心ではなく、相手をびびらせ、正常な判断力を失わせる為のパフォーマンスだ。 どうやら効果はあったようだ。 かなり動揺している。
 「証人は、午後7時半前に被害者を襲った。 そしてそこへ食料を恵んでもらう為にやってきた被告人と鉢合わせしてしまった。 事の発覚を恐れた証人は、被告人を襲った。 被告人は取り調べの際に、ガスのような物を吹きつけられたと供述している。 これにより昏倒させられた被告人の松葉杖を用いて被害者を殴りつけた。 被害者が抵抗できなかったのは、被告を昏倒させたと同様に前もってガスを用いたのでしょう。」
 ハッタリ・・・殆ど狂言じみた発言だが、効果はある。 明らかに証人の言動がおかしい。 どうやら図星の様だ。
 「そしてその場を立ち去った証人は、被告が意識を取り戻す頃合・・・恐らく10分も経っていなかったでしょう、幸いにも顔を見られていなかった証人は、巡回を装い犯行現場に何食わぬ顔で現れ、後は明らかに被告人が事件を起こした様に芝居をして通報した・・・」
 要芽のハッタリじみた推理。 証人はガクガク震えている。
 「そして、今の証人の様子が、この事を証明している。」
トドメの一撃とばかりに、証人を指差す要芽。 決まったか・・・

 「ククク・・・・なかなか面白い推理だったが、そんなハッタリは私には通用しない!」
御剣検事は、キッと要芽を睨みつけていった。 どうやらこの男にはハッタリは通用しなかったようだ。 確証に近いであろう推理で、証人の動揺を誘い、自供に持ちこむ作戦だったのだが、そうは上手くいかないようだ。
 「言った筈だ! 法廷で物を言うのは証拠だけだ。 証拠無き言動に意味は無い。 今の発言は弁護側の憶測に過ぎない! 証人がガスを用いた等と言う確固たる物証は無い!」
 「そ・・・そうジャガ! 憶測で人を犯人扱いして欲しくないジャガ!!」
証人も、御剣の言葉ですっかり調子を取り戻している。
 「弁護人。 これでは証人を告発する事などできません。」
 「その通りだ裁判長。 ふ・・・では何か? 弁護側には、この証人が犯行に及んだと言う確固たる証拠はあるのか! ありはすまい!!」
 御剣の言葉に、傍聴席の長船達は万策尽きたか・・・と、思った刹那!

 「あるぞ!確固たる証拠が!!」

 いきなり法廷内に、男の声が響いた。 皆が声の主を探した。 すると出入り口に息を切らせた神塚ダイの姿が!
 「な・・・なんですか!?貴方は?」
 「裁判長!突然の事をまずは誤ります。 俺・・・いや私は弁護側に雇われた私立探偵です。」
 「私立探偵ごときが、この法廷になんの用だ!」
今まさに要芽にトドメをさそうとしたタイミングを奪われた、御剣検事が怒鳴った。
 「弁護側へ、確固たる証拠を持ってきた・・・いや!御連れした!」
 「御連れした? どう言う事ですか?」
 怪訝な目で見る裁判長を無視して、ダイは一人の人物を法廷内に招き入れた。 そして・・・その人物が法廷内に入廷した瞬間。大きなどよめきが・・・
 なぜなら・・・姿を見せた人物は、今、証言台に立つ男と全く同じ顔をしていたからだ。
 
 「こ・・・これは? 証人は双子なのですか?」
 「い・・・いや、そんな報告は聞いていない・・・」
裁判長だけではない、御剣検事までも驚きを隠せない。 それはそうである。双子でもない同じ顔を持つ男が、同一箇所に存在しているのだ。
 「裁判長。 この方が『本物』の用務員の油虫氏です。」
ダイが裁判長に見せつけるように言った後、傍聴席にウインクをして見せた。 それを見て長船達は満面の笑みを浮かべた。
 「本物・・・・? これはどう言う事ですか?」
この気を逃すか!!と、ばかりに要芽が口を開く。 気は動転していたのはほんの数秒。 これは絶好のチャンス!!
 「裁判長! 弁護側は本物の油虫氏を証人として召喚し、証言していただく用意がある!」
 「な・・・何を言うジャガ!! ワシこそ本物の油虫ジャガ!!」
 「そ・・・そうだ!これは弁護側の悪質な、妨害工作と判断する! 即刻退廷を・・・」
 「意義あり!!悪質な妨害かどうかは、証言をしてみればわかる。」
 「意義ありだ! そんな事は認められるわけが無い!!」
要芽と御剣のやり取りを知ってか知らずか、ダイが連れてきた本物の用務員は、勝手に発言し始めた。 法廷内のルールなど完全に無視されている。
 「あ・・・あいつだ! ワシに変なガスみたいな物を吹きかけて、給食準備室の鍵を奪っていきおった!」
 その言葉に要芽は瞬時に反応した。
 「間違い無いですね!」
 「間違い無いですわ! 意識を失う直前までしっかり憶えておる!インパクトがあったからの! ジャガーとゴキブリの合いの子みたいな怪物が油ぎった手でワシの鍵を奪った後で、ワシそっくりに化けおった。」
 要芽の目が光った。 勝機ありと。 要芽はすかさず証拠品が包まれたビニール袋を取り出した。
 「裁判長! これは犯行現場にて採取された正体不明の液体です。 専門の鑑定を受けてはいませんが、内容物は油のようです。」
 「油・・・?」
 そして、もう一つの証拠品である。 用務員が持っていた給食準備室の鍵を見せた。
 「そして、この鍵には油が付着していると言う事ですが、このキーについた油とこの正体不明の油を調べてください。そして、証人の皮脂採取を要請します!」
 「どう言う事ですか?」
 「この二つの油と証人の皮脂が同一の物と一致すれば。」
要芽が言いかけた言葉を御剣が「意義あり」で、制した。
 「ふざけるな! この油はチョコレートに用いられるコーティング用の油だ。 そんな物が人間の皮脂から採取できるか!」
 「意義あり! 先ほど本物の油虫氏が発言した『ジャガーとゴキブリの合いの子』と、そして『油ぎった手』と。」
 「それがどうした! そんな与太話を信じろと言うのか!!」
 「意義あり! チョコレートのコーティング剤の主成分は何かご存知?御剣検事。」
要芽の言葉に、口篭もる御剣検事。 そんな専門的知識を答えられるわけは無い。
 「教えて差し上げましょう。 その主成分の多くはゴキブリから抽出される物よ。」
 要芽の言葉は事実だった。 最近のチョコレートや口紅のコーティングには、人体に無害なワックスが用いられる。 その多くはゴキブリから抽出される物とは意外と知られていない。
 「な・・・ゴキブリだと・・・」
 「そう。本物の油虫氏の発言が事実だとすれば、そのキーには証人の手と同じ油が検出される筈。与太話かどうかは調べれば済む事ですよ。」
あえて優しく言ってみた。 だが、これは御剣にも・・・そして証人にもかなり響いたようだ。

 「さあ証人。皮脂採取に協力してくださいますね?」
要芽が証人に詰め寄った。
 「そ・・・それはジャガ・・・」
 「貴方が犯人ではないと言うなら、採取を拒む必要は無い筈ですよね? 違う反応が出れば、貴方は事件とは無関係と証明できますよ。」
 「じゃ・・・ジャガな・・・それはジャガ・・・」
 汗が滝の様に流れ、明らかに動揺している。 当りか・・・
 「そ・・・そんな事をしなくても・・・・さっきのはただのそっくりさんジャガ・・・」
 「意義あり!! 証人!貴方が本件とは無関係なら協力できる筈です! どうなんですか!!」

 この一言が決定付けた。 ついに・・・・
 「ジャガな・・・ジャガしてから・・・ジャガ・・・ジャガ・・・・」
次の瞬間であった!!
 
「ジャァァァァガァァァァ!!!!」

 ──ベリベリベリッィィィ!!!
 証言台に立った証人の顔が真中からひび割れ、絶叫と同時に中から、先ほど本物の用務員が言った通りの、ジャガーとゴキブリの合いの子のような異形の怪物が姿を現した。
 「よくぞ見破ったジャガ!! 俺は秘密結社Qの怪人『ゴキブリジャガー』だジャガー!!」

 「み!み!御剣検事!! これはどう言う事ですか!! 貴方は秘密結社Qの怪人を!!」
 「知らない! 私はそんな事は知らないぞ!! 証人が秘密結社Qの怪人だなんて予想できるわけが無い!!」
 一瞬にして冷静さを失う裁判長と御剣検事。 証言台ではゴキブリジャガーが「ジャアガー!」と吼えている。
 「あ!アイツだ!! ワシを襲ったのはあの怪物じゃ!!」
うろたえながらも、本物の用務員はゴキブリジャガーを指差し、叫んだ。 その言葉を待っていたとばかりに要芽が口を開く。
 「さ・・・さい・・・裁判長! 聞いての通りです! 真犯人はコイツです! 弁護側は・・・」
流石の要芽もガラリと世界観が変わったようなゴキブリジャガーの登場に驚きを隠せない。 いや・・・それどころか意識を失いかけてさえいる。
 「しまった・・・。姉さんゴキブリ大の苦手・・・」
巴が呟く様に言う。 
 だが、その時妙な違和感を感じた。 法廷のど真ん中に怪人が現れたと言うのに、法廷関係者以外、混乱が少ない。 いや・・・・無いと言って良い。 これは・・・どう言う事だろう・・・

 「我々秘密結社Qが、小学校の給食に、俺の細菌兵器と毒キノコを混入させる作戦が台無しジャガー! それで俺を見たこの校医の犯行に見せかけたのに、苦労が水の泡ジャガー!」
 貴様のせいかぁぁぁぁ!!!と言う大紋寺の絶叫。 それ以前に自分で自分の悪事を、よりにもよって法廷内、しかも裁判長の目の前で大声で暴露する所に、彼の漢義を感じた。
 「業者の人間と校医に俺の細菌兵器を吹きかけたジャガー!! 俺の細菌兵器は痕跡を残さないんジャガー!!」
 「さ・・・裁判長・・・聞いての通りです。 ひ・・被告は、無罪で・・・。べ・・弁護側は、証人を告は・・・」
そこで要芽は力尽き意識を失った。 いや・・・よくぞここまで耐えたと評価したい。
 だが、裁判長は席の下に隠れ、「よおく解りました!!」と、悲鳴じみた声をあげただけだった。
御剣検事も「証人を即刻拘束しろ!!」と、命じただけで、うろたえ検察側の机の下に隠れてしまった。
 そして命じられた法廷係官も、関係者を非難させるだけで手一杯と言う状況・・・

 「くそっ!やっぱこうなったか!!」
そう発言したのは、傍聴席にいた長船達・・・ではなかった。 先ほどからやたら静かだった傍聴席の人間たちが、一斉に立ちあがると、そこには秘密結社Q幹部レイジとガデスの姿が。そしてごく一部の傍聴人以外は、全て・・・・秘密結社Qの戦闘員の姿に変貌していたのだ!!
 「な・・・傍聴人まで!?」
恐る恐る机から顔を出した裁判長が驚愕していた。 どうりで静かな筈だ。 傍聴人まで秘密結社Qで占められていたのだから。

 「レイジ!!ここは任せる。 この事件の真相を知る者は皆殺しにしてしまえ!!」
ガデスが激を飛ばすが、レイジは浮かない顔。
 「あの〜。それはいいですけど、裁判長まで殺したら、真相は隠せますけど、事が大きくなり過ぎやしませんか?」
 「・・・・・全員やってしまえば問題ない!! では、任せた!!」
 一瞬の躊躇いの後、ガデスは姿を消した。 面倒な事は全てレイジに押し付ける気なのだ。 ことごとく中間管理職は辛い・・・レイジはそう思った。
 「まあ・・・気が乗らないが・・・。 よしゴキブリジャガー!そして戦闘員ども! この法廷内の人間を血祭りにあげろ!!」
 「任せろジャガー!!」
今までの鬱憤を晴らすが如く猛々しく吼えるゴキブリジャガー。 そして『Q〜!!』と、戦闘員達が一斉に得物を手にして動き出した。

 「そうはさせるか!!」
 法廷係官に襲いかかりそうになったゴキブリジャガーを長船が蹴り飛ばした。 
 「彩!宮乃!マリーさんと一緒に他の傍聴人や係官達を安全な場所に!!」
 ザッ!と、身構え叫ぶ長船。 同様に長船の隣にダイや巴、メタモルの3人が、裁判長や意識を失った要芽を守る様に立ちはだかる。
 「そんな事言っても・・・アイツら隙なんて無さそうだし・・・」
彩が躊躇いがちにぼやく。
 「こんな事なら、フッラシュグレネードでも持ってくれば良かったぁ。」
 宮乃が言うと、彼女達の前に人影が射した。
 「それなら俺に任せろぉぉい!!」
その人影は・・・真っ白の全身タイツに身を包んだ大紋寺激・・・否!宇宙刑事シャトナーの姿であった!!
 「ちょ!長官!?」
 麗子が目をまんまるにして驚いていた。 法廷内では係官に身柄を拘束されている筈なのに?
 「こいつらのお陰で、係官が失神したわぁ! 検事も裁判長も隠れてる!今がチャンスだ!」
そして、シャトナーは、目の前の秘密結社Qに向け、頭の触覚(?)を突き出した。

 
「ボぉルトフラぁぁッシュ!!」

 触覚(?)から眩い光が法廷内を包み込んだ。 そのあまりの眩しさに、秘密結社Qの動きが止まる!
 「村正君達!マリー君!今のうちだ!!」
 大紋寺の言葉に、3人が逃げ遅れた係官達を外へと誘導する。 これで残っているのは隠れている裁判長と御剣検事。意識を失っている要芽だけだ。
 「よし!メタモルVと神塚君!柊君!備前君! 今のうちに変身だぁぁっ!!」
 『おっしゃあああ!!』

 「転送っ!!」
 ダイが叫ぶと同時に彼の身体を光の粒子が包み込む。
 「宇宙探偵・・・・ディバンッ!!」

 「成長っ!!」
 もえ子、麗子、くるみの3人がブレスレッドを掲げれば、各々色に包まれる。
 「メタモルイエロー!」
 「メタモルブラック!」
 「メタモルパープル!」

 「天女降臨っ!」
 長船が手甲を天にかざせば、神々しい光のカーテンに天女が舞い降りる。
 「聖魔装甲、ガルファー!」

 「・・・・・やるの?」
巴がなにか言いたげな表情で皆を見つめる。 そして返答代わりに頷かれただけだった。
 「・・・・・あぅ」
そう言いながらも、ポーズを取る巴。 要芽が意識を失ってて本当に良かった。
 「纏身っ!!」
巴が腕を突き出す。 指輪から黒い竜巻が彼女の体を包む。
 (なんて名乗ればいいんだろう・・・・)
 そう考え、仲間達の名乗りを見て、どうにか頭の中でまとめる。
 「指輪の戦士・・・・ジガっ!!(これでいいのかな・・・?)」
 多少照れながらポーズを決める巴。 だが仲間達は満足げに頷き、メタモルパープルに至っては「いいじゃん」と言われた。

 「一つ! 非道な悪事を・・・憎みっ!」
大紋寺・・・もといシャトナーがいきなり、そんな事を叫んだ。 突然の事だが、続くディバンも乗り気。
 「二つ! 不埒な輩を追って!」
 「三つ! みんなの思いを背負い!」
 「四つ! よからぬ企みを砕く!」
 「五つ! 怒りを正義に変え!」
ディバンに続き、メタモルの3人まで、練習していたのでは無いかと思えるぐらい見事な口上を。 こうなったら後は流れだ。ノリでいくしかない。 長船は急いで『む』。巴は『な』の付く口上を考えた。
 「六つ! 虫の知らせは悪事の証!」
 「七つ! 涙を隠して悪を討つ!!」

 
『我等!!』
バッバッ!!と、7人同時に見栄を切る。 練習も無しにここまでいけるのは、ある意味凄い。
 
『サイバーヒーロー!!』
 決まっていた・・・・前準備も無しに綺麗にポーズが決まっていた。 これも『正義』が成せる業か。

 「・・・7人全部見てしまった・・・」
レイジが半ば自分に呆れる様に呟いた。 敵の名乗り中は攻撃してはいけないと言う約束でもあるのか。 これも『悪』のサガか。

 「法廷内だと、イマイチ乗りが・・・」
ガルファーがぼやく。 彼は高いところから見栄を切るのを常套手段としているので、この場合は煮え切らない部分があるらしい。
 「でもぉ! 多人数揃っておんなじポーズ決めるって、イカスじゃない?」
やたら胸を強調する黄色のバニーガールがウインクしながら笑みを浮かべていた。 もえ子の変身体メタモルイエローだ。 あのおどおどとした雰囲気がまるで消え去り、やたら軽い雰囲気に変貌している。
 「そんな事は、どうでもいいですわ。 長官を陥れた落とし前をキッチリつけさせてもらうでございますわ!」
黒いコスチュームの女性・・・麗子の変身体メタモルブラック。 性格的にはそれほど極端な変貌ぶりは見えないが、言葉に残虐性を感じる。
 「その通りっ! ブスッ!とやっちゃおう!!」
 巨大な注射器を背負った看護婦・・・くるみの変身体メタモルパープル。 性格は・・・・まったくと言って変わっていない。 それだけ性格に裏表の無い証拠の現れか。

 「おのれ!妙なコスプレ集団め!」
決して人の事は言えない格好のレイジが言っても説得力に欠ける。
 
 「誰がコスプレだ!!」
 ガルファーが怒鳴る。 コスプレ呼ばわりされたのが頭にきたのか、装甲の色が赤くなる。
 「いや・・・お前と白い奴、それと改造人間は比較的正義に見えるが・・・」
ガルファー・ディバン・ジガの事を指して言うレイジ。
 「そこの4人! お前ら明らかにコスプレだろ!!」
 メタモルとシャトナーを示すレイジ。 確かにメタリックタイプのディバン。改造人間風のジガ。超人兵器タイプのガルファー。 この3者に比べ、メタモル達はコスプレと言われても反論できないような容姿だ。
 レイジはさらにイメクラ嬢呼ばわりしてけなす。 その言葉にシャトナーが怒る。

 「貴様ァ!! 小学生の教育上よろしくないような言葉を吐くなぁぁ!!」
 「やかましい! 全身タイツの変態め!! やれっ!ゴキブリジャガー!!」
 「ジャガー!!」
ゴキブリジャガーが、戦闘員と共に飛びかかってきた。 狭い法廷内は瞬時に戦場に姿を変えた。
 
 「お前だけは許せない! お前は私達が倒す!!」
メタモルの3人は、各々の得物・・・ハリセン・モリ・注射器を手にゴキブリジャガーに立ち向かう。
 「ふんっ!貴様達に俺様が倒せるジャガー!?」
イエローのハリセン攻撃をひらりとかわしたゴキブリジャガーは宙に浮く。 黒光りする羽をバサバサ羽ばたかせて飛ぶ姿に3人はいきなり寒気を感じた。
 「なんだっていうんですの・・・この悪寒は・・・」
 羽ばたくゴキブリジャガーを見て動きが鈍るブラック。 次の瞬間!ゴキブリジャガーが急降下しながら突っ込んできた! 両手の爪が鈍く光る!
 「い!いやぁぁぁぁっ!!」
 突っ込んできたゴキブリジャガーに、悲鳴を上げしゃがみこむブラック。 爪の攻撃は避けたものの、身体がガタガタ震えている。
 「ちょっと!ナニやってんの!!」
 震えているブラックを無視して、パープルが押しのける様に前に出る。またしても急降下攻撃をしかけようとするゴキブリジャガーを、注射器を構えて待ち構える。
 「来なさい・・・ブスッといっちゃ・・・」
 間近まで来た所でカウンターの注射器の一撃。 長官の仇を打とうと燃える人一倍パープルだったが、迫り来るゴキブリジャガーに、身体が震え、注射器を落としてしまった。
 「ばかっ! なにつったんてんの!!」
 イエローが叫んだが遅い。 フォローに入る前にパープルは爪の一撃を食らい。しゃがみこんでいるブラックにぶつかってしまう。
 「い・・・いやああああ!!」
 爪の一撃は、パープルの肩口を襲ったが、それほどたいしたダメージではない。 だが、パープルは表情を一変させ、コスチュームの肩の部分をまるでむしり取る様にはたいている。 その表情は必死だ。
 「このお・・・」
 三度目の急降下攻撃はイエローを襲う。 見切れば単調な攻撃。威力もさほど事は無い。あの二人がどうかしているのだ・・・。 イエローはそう思った。 ガタガタ震えるブラック。今だ肩の部分を必死の形相ではたくパープルを無視して、ゴキブリジャガーに対峙する。 今度こそ・・・と、ハリセンを構えた。
 チ・・・───爪攻撃は軽くイエローの胸元を擦った程度。 傷にもならないダメージ。
だが、次の瞬間イエローは「いやあああああ!!」と、絶叫した後、そのバニー衣装を脱ぎ捨てるようなそぶりを見せた。
 
 「ちょ・・・!何をしてるの!!」
 気を失った要芽を守る様に戦っていたジガは、人目はばからず服を脱ぎ捨てようとするイエローを抱きかかえ、近くに落ちていたレイジ達が脱ぎ捨てたコートをかけてやる。
 イエローはコートをまるで雑巾の代わりにでもするように胸元を擦り始めた。 顔は涙目だ。
 「一体・・・どうしたって言うのよ3人とも!!」
ジガが、豹変した3人を見て冷や汗を流した。 そこに、動きの止まったブラックとパープル目掛けて、ゴキブリジャガーが羽を羽ばたかせ、突っ込んでくる。
 「ひいっ・・・!!」
声にならない悲鳴を上げたのはブラックだ。 涙目でモリを手にした。
 「デビルズウィンドー!!」
 半泣きで、モリから必殺技を放つ。 これはブラックの必殺技の一つで、モリから黒い竜巻を発生させる技だ。 だが・・・
 竜巻は、確かにゴキブリジャガーを襲った。 だが、ゴキブリジャガーを吹き飛ばすほどの威力は無い。 ブラックが動揺している為に、威力が落ちているのだ。
 「これがどうしたジャガ?」
 ニヤリと笑みを浮かべるゴキブリジャガー。 その笑みに肩を擦っていたパープルが半狂乱で注射器を構えた。 パープルの必殺技『超強力しびれ薬』だ。 それを見た瞬間、シャトナーが叫んだ。
 「バカモノっ!! 今それを使うなっ!」
だが遅い。半狂乱で平常心を失ったパープルには聞こえない。 ゴキブリジャガー目掛けて放たれた注射液は、いまだブラックの技の影響下あるゴキブリジャガーには届かず、反対に注射液を周囲に飛び散らせるだけの結果に終わった。 しかもそのあおりでイエローが注射液をかぶり、動けなくなった。
 「ああ・・・」
 茫然とするパープルとブラックをジガが抱えて、動けないイエローと意識を失っている要芽の元につれていく。 結果としてジガは、4人をガードする様に戦わざるを得なくなり、得意分野である敏捷性が生かせ無くなってしまった。
 その様子を、シャトナーは歯噛みしながら思った。
 (やはり・・・リーダー不在のメタモルVでは力が足りん・・・どうすれば・・・)


 「貴様・・・あの怪人はなんなんだ!?」
 警棒を取りだし、レイジと戦うガルファーが怒鳴った。 対したダメージでもないのにメタモルの3人があそこまで追いこまれるとは、尋常ではない。
 「くくく・・・教えてやろう。 ゴキブリジャガーの真の恐ろしさは、細菌兵器や爪なのではない!」
 警棒と言うより殆ど十手のようなガルファーの警棒を、安物のなまくら日本刀で受けとめる事が出来るレイジの技量・・・。恐るべし、さすが幹部といったところか。
 「貴様はゴキブリを叩く事は出来ても・・・自分に向かって飛びこんでくるゴキブリを直視できるか?」
 「なっ! それは・・・」
口篭もるガルファー。 そんな事は殺虫剤メーカーや害虫駆除業者でもない限り不可能だ。
 「そう・・・!ゴキブリジャガーの最大の武器は・・・その心理攻撃にあるのだ!!」
 その言葉にガルファーは背筋が凍るのを感じた。 なんと言う恐ろしい怪人だ・・・メタモルVとは言えど、中身は普通の小学生の女の子なのだ。 ゴキブリに襲われれば一たまりも無い。
 「お・・・恐ろしい奴め・・・」
 
 「ははは! この勝負貰った!!」
勝ち誇る様に笑うレイジ。 が・・・・
 
 「レーザー点棒!!」
 「へ?」
いきなりの言葉にレイジの拍子抜けした声。 見れば、ディバンのレーザー点棒に、ゴキブリジャガーが滅多切りにあっていた。

 「な・・・アイツにはゴキブリジャガーの心理攻撃が通用しないのか!?」
 「あ・・・彼、宇宙人だ。」
ガルファーの言葉に、レイジの顔色がこわばる。 そう・・・宇宙人に地球の文化と言うか・・・心理は通用しない。

 「さてと・・・」
形勢大逆転。 戦闘員どもも、ジガの攻撃によってあらかた片付いていた。 残るはレイジと半死半生のゴキブリジャガー。
 「秘密結社Qの怪人、ゴキブリジャガー!! 傷害、殺人未遂!そして法廷内における偽証罪ならびに威力業務妨害の現行犯で・・・ジャッジメントっ!!」
 ガルファーが警察手帳をゴキブリジャガーに付きつけ、今だ隠れている裁判長に指示をあおった。
 
 「こほん・・・・あ〜色々ありましたが・・・証人ゴキブリジャガーを・・・緊急逮捕と言う事でよろしいかな?」
 その言葉にガルファーは頷いた。 その為に警察手帳を見せたのだ。
 「では・・・略式になりますが・・・」
コンッ!!──木槌が叩かれた。
 
有罪
 
 判決が下された。 もうこうなったら、ナンデモアリと割り切ったのかもしれない裁判長。 白目剥いて震えている御剣検事にも、意義は無さそうだ。
 「デリート許可!!」
ガルファーは、勝手にそう判断して、ディバンとジガを呼んだ。
 「いくぞぉっ!!」
ガルファーの言葉に3人は身構える。ジガは必殺技である肘打ち『パープルストライク』の構え。ディバンはレーザー点棒を振り上げ、ガルファーは警棒を逆手に構えなおす。
 「はあっ!!」
ジガが一陣の風となって駆け抜けた。 強力な肘打ちがゴキブリジャガーを打ち据え吹き飛ぶ!
 「ディバン・・・クラッシュ!!」
吹き飛んだゴキブリジャガーをディバンが上段から叩き斬る!
 「こいつで・・・・終りだぁっ!」
ガルファーが振りかざした警棒から、衝撃波のような物が放たれ、ゴキブリジャガーの体を完全に消し去った。
 
 「お!おのれ〜!! 次はこうはいかんぞぉ!!」
レイジが御決まりの捨て台詞を残し、戦闘員達と逃げていった・・・・


 カンカン──
ボロボロとなった法廷内に、木槌の音が響く。 ゴキブリジャガーが自分で自分の犯行を暴露したお陰で、大紋寺に対する容疑も晴れたのである。
 「危ない所でした。 私達はもう少しで秘密結社Qの罠に陥り、罪も無い校医に罪を多い被せる所でした。」
 裁判長が沈痛な面持ちで語っていた。 着ている服がボロボロだが、あの戦闘の最中、それだけで済んだのは奇跡と言えよう。 それは御剣検事も同様の様だが。
 「真実が明らかになった今、形式だけでありますが・・・被告人に対する判決を言い渡します。」

無罪

 次の瞬間、法廷内に紙ふぶきと歓声が舞った。


 数日後・・・・柊家客間

 「巴・・・・これはどう言う事か、説明してもらえる?」
巴は、テーブルの上に山と置かれたアイスクリームのカップを見ながら「あぅ・・・」と、呟いた。
 「もしかして・・・これが弁護報酬・・・と言うんじゃないでしょうね?」
 要芽は、超ビッグサイズのミントアイスのカップをつつきながら、詰め寄った。 その表情はアイス以上に冷たく冷ややかであった。
 「さあ!無罪判決の御祝いに、ベエリイメロンでも頂こうではないかぁ!」
証人を喚問するような目つきの要芽を無視して、その横では無罪の祝いにと大紋寺達は、麗子が持ってきたメロンにかぶり付こうとしていた。
 「・・・・どう言う事かしら?」
 「お・・・お金がないから報酬は、現物でって・・・。 姉さんがミントアイスとペンギンが好きって言ったら・・」
確かにアイスのカップの横には、ペンギンのぬいぐるみと、水族館の割引券が・・・
 「じゃあ・・・多すぎるから御釣りを出さなきゃね・・・」
珍しくひくついた表情を見せる要芽。
 
 後に大紋寺はこう語る。
 「死ぬかと思いました。」



  次回予告

 銀座の地底深く・・・・歴史に何が起きたのか?調べる長船はとんでもない物を見つけてしまった!
 その頃! ついに動き出したアドニス王家が、侵攻を開始する! メタモルVついに全員集合か?
 さらに、ベラボーマン不在をいい事に、爆田軍団まで動き出す! あの怪ロボット軍団に立ち向かうのは誰だ!? メイドさんだ!!
 次回、サイバーヒーロー作戦 第13話『ドリルとメイドと赤と青』に、男の夢とロマンが凝縮される!

 長船「お前そこで何をしている。」 なぞの筋肉男「お・・・オラはジョーイ=デマイオ。 ただの武器商人のアルバイトダス。」
 長船「ダス?(やっぱ、お前らか・・・)」