第9話『メカ好きパートナー誕生!柊巴は変身姉御!?』
古都、鎌倉・・・・・夏は避暑地として、または海あり山あり寺ありと、観光地としても有名な土地。
その街の外れに、比較的新しい自動車修理工場が存在していた。
『村正自動車商会』と看板を有する建物・・・・というか、廃業した大型ガソリンスタンドに作業場を追加し、事務所部分の隣に倉庫と住居を増設しただけに過ぎない。
元々は別の場所にあった小さな工場であったのだが、事業主である男性が今まで貯め込んだ財をはたいて、この元ガソリンスタンドを手に入れ、自分の工場にリフォームしたのだ。
その住居部分、3階の部屋に一人の女性がワープロを叩いていた。
女性の名は『村正彩(むらまさ さい)』この家の長女で、電子工学を専攻する大学生であった。
彼女・・・彩はメタルフレームの眼鏡を外し、ふう・・・と一息ついた。ワープロの画面を眺めつづけて、目が疲れてしまったのだ。
「む〜」
椅子に腰掛けたまま軽く背伸びをした。肩がこる・・・・それは自分の胸のせいだ。
90に迫る大きさのバスト・・・。このバストのせいで女子高生時代がどんなに周囲から好奇の目で見られたか・・・
彼女にとって、これが悩みと言うかコンプレックスとなっていた。
背伸びをした後、机の上に飾っている写真盾に目をやる・・・
写真には、彼女を取り囲むように様々な年齢の男女・・・と言うか、様々な格好をした男女・・・中には明かに人間でないロボットのような者まで映っている。
一度、この写真を知人が見たことがあるのだが、その時は「どこのイベントだ?」と疑われたりもしたものだ。
確かに・・・と、思う時もある。何故なら写真に映っている彼女もピンク色のごつごつとした装甲服のような物を着込んでいたからだ。
だが彼女はこの写真が気に入っていた。そしてこの写真に映っている人達も気に入っていた。彼女が今まで生きてきた二十年の中で、ここに映っている連中ほど気心の知れた仲間・・・そう『仲間』と真に呼ぶに相応しい人間がどれだけいただろうか?
写真には連中は、クラスの集合写真のように階段状に並んでいる。
最後列には御揃いで白・ピンク・黄・紫・黒・赤・緑と色違いの制服を来た男女。その後ろには3m程の制服と同じ色のロボットが数体。また、違うデザインのロボットも数体おり、落ち着いた表情の男女がその前に立っている。
その前の列には、手足がジャバラ状になったコスチュームを着た仮面の男。銀色に輝くプロテクターを身につけた茶髪の青年。そしてTVの特撮番組に出てくるようなメタリックヒーロー風の男が3人、それぞれ青・赤・白と実にヒーロー色が強い。白色のヒーローの隣には赤い髪をした革ジャンを着た女性がいる。そしてメタリックヒーロー達の隣には逆に改造人間っぽい姿の紫色のヒーローがおり、和服を着て扇子を持った幼女と白いイタチのような生き物を連れている。
次の列には女の子が勢ぞろいしていた。まず女学生らしく黒いブレザーを着た少女。そのブレザー少女に馴れ馴れしく肩を廻して屈託のない笑みを浮かべるGジャンの少女。そして自分以上に大きいバストを持った金髪の少女が隣にいる水色の髪の少女・・・否少女に見える美少年に抱きついている。それを苦笑して見つめている女子中学生3人組・・・。
最前列には、赤のプロテクターを着けた青年と金髪の少女、同じような物を着た男女のペアが座りこんでいる。無表情に見えるが口元が笑っている。その隣には行儀良く正座したメイド服とセーラー服の少女・・・みれば手にドリルが・・・。そしてバレリーナ・婦人警官・バニーガール・子悪魔・看護婦と5人の少女と全身タイツの男が笑っている。そして写真の隅に無理矢理フレームに入りこんでいる上半身裸の屈強男が3人。
クス・・・写真を見つめる彼女は微かに笑みを浮かべる。
写真の中央には、彼女自身と銀色の装甲を纏った男がいた。そしてその男に甘えるように首に手を廻している少女・・・彼女の妹だ。
彼女は、銀色の装甲を纏った男をいとおしそうに見つめると、表情を戻し眼鏡をかけ直し、再びワープロに向かった。
「いつからこんな世の中になったのだろう・・・・」
彼女のワープロの文字は、そんな言葉からつづられていた・・・・
いつからこんな世の中になったのだろう・・・。
ここ数十年、日本は・・・いや世界は混乱と戦いの最中にありました。
いつの頃からか、街中に魑魅魍魎が跳梁跋扈し、私利私欲に走る闇の組織が破壊活動や悪質な事件がはびこる世の中になってしまった。
おじいちゃんが言うには、おじいちゃんが若い頃からこう言った魑魅魍魎達は現れて、人々を襲っていたんだそうです。
勿論人々はこの怪物達に戦いを挑んだものの、怪物達の力は強く、とても人間の力では太刀打ちできなかったと言うのです。
そして、おじいちゃんが若い時、ある時期を境に、怪物達の力は増し、ますます怪物達は増徴し、人々はおびえる生活を余儀なくされていたそうです。
だけど、人間はそんな怪物達に怯えながらも、力を合わせ発展を遂げ今の世の中が有るんだそうです。
そして・・・お父さんが子供ぐらいの時期に、人間はようやく怪物達と互角に戦う力を身につけたのです。
その戦う力がどこから得た物なのかは解りません。ですが、ようやく人間は怪物を押しやり平和な世を手に入れつつあったのです。
ですが、人間とはかくも愚かなのでしょう・・・・。怪物と戦える力を・・・人々を守る為の力を技術を同胞へと矛先を変える者も現れたのです。
それは、現在でも変わりません。怪物達と五部に渡り合えるようになったとはいえ、怪物たちはいまだ蔓延っていますし、世界征服を狙う悪の組織等が、世界的に猛威を奮っているのですから・・・
ですが、闇ある所光あり・・・絶望もあれば希望もあります。
それは、幾多の怪物達や悪の組織に対して、立ち向かった正義の味方達・・・
かつてこの地球を守っていた数々のヒーロー達、ベルサード・セルサード・ディルサード・・・健康戦隊ダレンジャー・勝利戦隊バックレ5・・・爆発闘神ジェネレンガー・時空忍者シゲハル・・・時空の騎士テックメン等など・・・
これら正義の味方の力により、世界は何とか平穏を保っていました。
ですが、悪の組織はまるで巣穴から這い出るアリのように次から次へと現れています。さらにそれに呼応するように古の怪物達も活動が盛んになっています。
これらの悪に対して、人類は国際防衛組織HUMAを組織し、これらに対抗。そして多くのヒーロー達がコレに参加していました。
ですが私が小学生の時に、HUMAは半ば相打ちに近い状態で壊滅してしまいました。そして各国政府にはHUMAを再建する力は残されていませんでした。
そう・・・・今の世の中には、悪に対抗する正義の味方が存在していなかったのです。
東京湾に建てられた人工都市、新東京に『秘密結社Q』とか言う組織が暗躍している・・・
また、狂気の天才科学者爆田博士という人物が作り出したロボット軍団が、町を荒らしている・・・
奇妙な怪生物達が、人々を襲っている・・・
女性型異生物が、テロ活動を行う・・・
そして・・・・古の魔物達が、跳梁跋扈する・・・
こんな状況において、戦う術を持たない人達は恐れおののき、恐怖に見を奮わせる日々を送っていた。
いつか・・・新たな正義が現れる事を信じて
「まさか、私がその『正義』になるなんてね・・・」
彩はふとそう漏らした。
「あの人に出会わなければ、私は今ごろ・・・」
そう呟き、再びワープロに向き合う。
私達姉妹が・・・・あの銀色の戦士と・・・
時は遡る・・・・・・・・・
その日、村正彩は朝食の仕度をしていた。
「よっと!」
手馴れた手つきで、フライパンを振る。フライパンの中にあった目玉焼きが手元の皿に飛び移る。
「ほほう。彩はなかなか手つきが鮮やかになったのう。」
台所に隣接したダイニングで新聞を読んでいた祖父が感心したように言った。
「まあね。私が料理を受け持つようになってだいぶ経つもの。」
村正家では、一族総出で修理工場を営んでいる為、どうしても家事全般が疎かになりがちなのだ。その為、手すきが多い長女の彩が家事全般を受け持つのは当然とも言えた。
炊事を押しつけられるのは別に苦ではなかった。家業が忙しいのは子供の頃から知っていたし、両親や祖父母達に余計な手間を掛けさせたくなかったからだ。
「これさえなきゃね・・・」
憮然とした表情で姿を現したのは、妹の宮内(くない)だ。16になるのだが、いかんせん背が低く小学生と間違われる時も多い。見れば上半身が濡れている
「コレって?」
彩が尋ねると、宮内は目覚し時計を差し出した。デジタルの時計だったのだが、わざわざアナログに変換して針を動かすと言う改造が加えられている。
「それがどうかした?」
「どうかしたじゃないよ!ベルが鳴ると同時に水鉄砲が発射されたわよ!!」
そう言って時計を床に叩きつけた。上半身の濡れた原因はコレのようだ。
「心地よい目覚めにはマイナスイオン・・・ヒーリングウォーターシステムと言ってよ。確実に目覚めたでしょ?」
「いい加減、電化製品に変な改造加えるの止めてよぉ・・・ホラそこも!」
そう言って、ティーポットを指差す。
『ノンノン。「ウォーター」ノ正シイ発音ハ・・・』
まるで駅前留学の英会話教室の講師よろしく、ティーポットから発音についての注意が飛ぶ・・・。
村正彩・・・彼女の趣味は、機械いじり。妹の宮内も似たような物なのだが、彩は余計な機能まで付け加えてしまう癖があった。
先ほどの目覚し時計はまだ実用的な方だ。ティーポットには英会話のレッスンというティーポットに全く必要の無い機能が備わっている。彼女が大學受験の際は炊事をしながら英語の勉強が・・・と言うが、現在の村正家には全く必要の無い機能だ。それでいて肝心のティーポットとしての機能は殆ど向上していない。
コレだけではない。炊飯器には何故かDVDとマイクデバイスが接続されており、カラオケとして使用することができる。
またアイロンには電話機としての機能が・・・トースターには低周波マッサージが・・・電子レンジには有事の際には火器として使用できる。
はっきり言って役に立たない機能ばかりである。
「まったくもう・・・。」
ブツブツ文句を言いながら、台所から出ていく宮内。濡れた頭を朝シャンついでに洗ってくるのだろう。
「くーちゃん。トーストでいい?」
出ていく妹に彩が呼びかけると、不機嫌そうな声で返事が返ってきた。
こうして村正家のあわただしい1日が始まる・・・・
そして、この姉妹にとって運命の日が・・・・
250ccの大型スクーターが夕暮れの街中を走っている。乗っているのは彩と宮内だ。彩は今日は休講なので、宮内を学校へ迎えに行っていたのだ。今はその帰りである。
「で?くーちゃん、今日なんかあった?」
彩がヘルメットでくぐもった声で後ろに抱き着いている妹に話しかけた。妹は電子機器のクラブに入部しており、クラブの日は決まって帰りが遅いのだ。
最近は、この鎌倉で妙な神隠し事件が多発していると言うので、用心の為彩が迎えに来たのだ。
「特にな〜んにも。ただ、ウチのクラスでも神隠しにあっちゃった子がいて・・・」
「そうなの!?」
「うん。なんでも一緒にいた子が、物凄い精神的ショック受けて、今病院にいるの。」
「よっぽど怖い事が起きたんでしょうね・・・」
「その子がうわ言のように、『怪物が出た』って言ってるんだって。」
「怪物・・・。もしかしたらこの辺にも、秘密結社Qとか魔物が出たのかな・・・」
彩は最近話題になっている悪の組織の名前を出した。他にも悪の組織の類は多くあるのだが、名前がはっきりしているのは秘密結社Qだけなのだ。
「でも秘密結社Qって、活動してるの新東京だけでしょ?こんな鎌倉まで来るかな?」
「んじゃ魔物かもよ。」
そう冗談を飛ばしながら、他人事のように笑い飛ばしていた。
やがて彼女達は、大きな和風の大邸宅の前を通りすぎようとしていた。古風な雰囲気の残る鎌倉でも、これだけ純粋な和風の造りは珍しい。
「いつ見ても凄い御屋敷ねぇ・・・」
彩がふとぼやいた。
「ここね、私の学校の先輩の家なんだ。御父さんが大企業の社長さんで、お姉さんが凄腕の弁護士なんだって。」
そう宮内が言い、屋敷の前を横切ろうとした時、屋敷の中から凄い音を立てて大型のバイクが飛び出してきた。慌ててブレーキを握る。ギギイッと音を立てて急停車するスクーター。
「ゴメン!急いでるんで!!本当にゴメンね!」
黒のロングコートを着た背の高い女性が振り向いて謝ると、瞬く間に爆音を響かせて走り去ってしまった。
1200cc以上はある大型バイクを軽々乗りこなしている・・・相当体力に自信があるのだろう。
「・・・ここの人・・・かな?」
彩が呆然とバイクの走り去った跡を見ながらそう言った。
「先輩、お姉さんがいっぱいいるっていうから、その一人かもしれない。」
やがて、気を取り戻した二人は、そのまま家路に戻ることにした・・・・
「グルルル・・・・」
この時、二人に向かって禍禍しい眼光が放たれている事は気づいてもいない・・・・
二人は、そのすぐ後、多少の寄り道をした為、家に通じる道に出るころには、辺りはすっかり暗くなっていた。
「遅くなっちゃたね・・・」
「お姉ちゃんが寄り道するから〜。」
「ハハ・・・ゴメンゴメン、どうしても欲しい雑誌があったんで・・・」
もう・・・とむくれる宮内をよそに、二人を乗せたスクーターは、すぐにでも家にたどり着く筈であった・・・
「・・・お姉ちゃん。」
「どうしたの?くーちゃん。」
「なんか・・・変な感じしない?」
一瞬、バイク酔いかとも思ったが、瞬時に撤回した。妹の口調が普通ではないからだ。
そして、自分も何か言い知れぬ殺気のような物を感じていたからだ。
「!?」
背後から何か風を切るような音が聞こえた。二人は確実に何かを感じ、スクーターから飛び降りた。そして、数秒遅れて自分達の判断が正しい事を知った。
ガッシャアアアン!!───
轟音を立てて、愛用のスクーターが破片を飛び散らせ真っ二つにへし折れた。
ボッ!!───タンクから漏れたガソリンに引火し、スクーターが燃え出した。
だが、今の姉妹にとってはそれは取るにたらない些細な出来事。彼女達が感じている本命は、燃えるスクーターをバックに自分達に赤い瞳を輝かせ、そのうでから伸びる爪を舐めている異形の怪人であるからだ。
鴉天狗(カラステング)をSFっぽくリメイクしたらこういった感じなんだろう・・・と、彩は思った。だが、のんきに考えている暇はない。相手が自分達に殺意を持っている事は間違いないからだ。
「こ!コイツも秘密結社Qの怪人!?」
宮内が泣きそうな顔で叫んだ。雑誌やテレビで様々な悪の組織の怪人や戦闘兵器、魔物を知識として知ってはいたものの、実際に見るのははじめてだ。
──ッ!!
声にならない泣き声を立てて、怪人が爪を振るいこっちに駆けて来た!
二人は手にしたヘルメットを投げつけ、距離を取ろうとするが軽く爪で弾かれてしまった。
ザッ・・・後ずさりするが、ここは路地。かべで背後は封じられている。彩はこの時ほど慣れ親しんだこの路地が憎く感じた。
妹だけは守らなければ・・・・そう思い妹の前に出ようとするが足が動かない。助けを呼ぼうと携帯電話を手にするが手もガクガク震えてボタンを押す指が定まらない。
(殺される・・・)
純粋にそう思った。目の前の相手は情けも微塵に感じられない。もしかしたら純粋に人を襲う事が楽しみなのかもしれない・・・そう感じたほどだ。
「こ!怖くなんかないぞ!怖くなんかぁ!!」
動けない彩の前に宮内が庇うように立ちあがっていた。身体はガクガク震えている。怖くない筈がないのだ。だが、腰の用具ベルトに差した大型スパナを剣道よろしく構え、気丈にも相手を涙目で睨んでいる。
ニヤ〜・・・・
「!?」
その様子に怪人がニヤリと笑みを浮かべたようなそぶりを見せた。表情がつかめないが、間違いなく「笑った」。
このままでは、確実に殺される・・・。こんな時、怪人を倒す正義の味方が現われる・・・。と言うのが定石だが、悲しいかな、この鎌倉に正義の味方が現われたと言う情報はない。
「くーちゃんだけでも逃がさなくては・・・」
そう思うと、微かにではあるが力が出てきた。腰が抜けかけた身体を揺り起こし、相手を睨みつけた。
「メガネサーチャー!!」
彩は突如叫んだ。すると彼女のかけている眼鏡のレンズに、様々な電子記号やグラフが表示される。
村正彩・・・彼女のかけている眼鏡はただの眼鏡ではない。彼女のメガネは某英国諜報員も顔負けのハイテク機能が満載されているのだ!
見た目はただのメガネだが、彼女にとってはなくてはならない物なのだ。彼女がコンタクトを拒み、メガネを愛用しているのは、コンタクトだと機能を組みこめないからなのだ。
(弱点は・・・・何処だ?)
機能その1・透視機能。別にいやらしい雑誌の通販なので売っている奴ではない。超小型X線放射装置が組みこまれており、電子レントゲンとして、相手の内部を知ることが出きるのだ!
「外見は結構怖そうだけど・・・、皮膚がそんなに強くない?そうか!太陽光に弱いのよきっと!よおし・・・」
彼女は、クックッ・・・と喉を鳴らして爪を舐めている怪人を睨みつけた。
「くーちゃん。あの怪人がひるんだら・・・解るわね?」
「お姉ちゃん・・・?はっ!そうか、解った!」
「いいわね?息の続く限りよ!」
コクリ・・・宮内は頷いた。それを確認した彩は、めがねのフレームに指をかけた・・・
「メガネティックブラストぉぉぉっ!!!」
ジャッ!!───彩のメガネから光線が放たれた!
彩を侮ったのか、光線をまともに浴びた怪人はキシャアっ!と悲鳴に似た泣き声を上げ、目を押さえて苦しんでいる。
「お姉ちゃんやった!」
「さあ今よ!!せ〜のっ!」
ダッ!と、二人は一目散に駆け出した。
機能その2・光線発射機能。太陽光を吸収・濃縮し、メガネのレンズから光線を放つ。主に護身用としての意味合いが強いため、威力は差ほど強力ではない。
「お姉ちゃんの発明もたまには役に立つね!」
「余計な事は言わなくてもいいの!とにかく今は!」
『逃げる事だぁ〜』
必死に駆ける二人。だが怪人も黙ってはいない。くらくらする頭を押さえ、やがて気を取り戻すと今まで以上に赤い目を輝かせた。
シャアッ!!───走っている二人の真横を何かが走った。
「!?」
次の瞬間、二人の上着が切り裂かれていた。特に彩の方は外からはっきりブラが見えるぐらい深く切り裂かれていた。
だが、二人の身体には微かな切り傷すらない。衣服のみ切り裂かれている。
「あ・・・やば・・・」
横切った物の正体は、怪人。低い唸り声を響かせ爪を舐めている。先ほどは衣服のみ切り裂いた・・・つまりいつでも自分たちを切り刻めるぞ・・・と言っているのだ。
二人の身体に恐怖が再び支配した。身体が震え、足が動かない・・・・宮内が腰からスパナを抜いたのがやっとだ。
ギッギッギ・・・・怪人の爪が、首を掻っ切るジェスチャー。
「い・・・いやだぁ!」
「こ・・・こないでよお!」
だが、そんな二人をあざ笑うように、怪人は胸の前に拳を付き合せる。そして左手の指二本だけを伸ばし右の拳と擦り合わせた。
この動作にどういう意味があるのかは解らない。だが、確実に二人を襲う気なのは確かだ。
キシャアッ!!───怪人が二人に向かって飛びかかってきた!! 二人は硬く目をつぶり叫んだ。
「助けてぇぇぇ!!」
そして、叫びは届いた。生にすがる姉妹の必死の叫びを正義は聞き逃さなかった。
ドッドッドッ・・・・・二人は、一向に訪れない恐怖を変に思った。確実に自分達を葬り去れる時間が経過していると言うのに、いっこうに恐怖は訪れない。それどころか、聞こえてくるのはバイクのエンジン音だけ。バイクのエンジン音?
ドッドッドッ・・・・・確かにバイクのエンジン音がする。二人は目を開いた。
「!!!」
自分達と怪人の間に割り込むように、バイクが一台止まっている。そして怪人の動きが止まっている。
そして、バイクに跨った銀色に輝く装甲を纏った『正義』の姿がそこにあった。
「お・・・お姉ちゃん・・・正義だ・・・」
宮内が涙目でそう言った。気づけば自分を掴む手が歓喜で打ち震えている。
「そうよ・・・私達の前にも正義が・・・正義が・・・」
彩も思わず涙声になっていた。まさか自分達の目の前に現われるとは思わなかったのだ。定石道理、ご都合主義と言えば言え。今の二人にはそれすら喜ばしい。
『正義の味方が!』
ザッ・・・銀色の正義がバイクから降りた。そして軽く二人のほうを振り向いた。
「大丈夫か?正義の味方は登場をじらす物でな。」
仮面の中から男の声がした。何か・・・とても安心感が持てる男の声が・・・
この声の人なら、なんとかしてくれる・・・・そんな感じにしてくれる声だった。
「さて・・・名乗りがまだだったな。」
銀色の正義は、怪人に向けそう言った。こんな時に何言ってるんだ・・・と、思えたが右手首を一回軽く振った。余裕の表れなのかもしれない。
「この辺に高いところない?」
銀色の正義が、まるで道でも尋ねるように怪人に問いかけたが、返事は返ってこない。
「・・・ったく、愛想のない奴だな。やっぱ降魔とおんなじレベルの魔物か・・・しゃあないっ!」
次の瞬間、銀色の正義は、腰を落とし、腕を大きく振った。
「聖魔装甲!ガルファー!!」
「・・・・・・・・・・」
決めポーズを取った銀色の正義・・・ガルファーはしばらく黙り込んだ後、身体が微かに震えている。
「あ、あの〜?」
彩が何か尋ねようとすると、ガルファーは「あああ〜!!」と声を張り上げて立ちあがった。
「やっぱ、高いところじゃねえと、きまんね〜!!」
そう言った後、地団駄を踏むガルファー。
「地べたじゃしまらねんだよっ!解るか!?」
そう言って怪人に指を付きつけるガルファー。
「くーちゃん。ヒーローって、自己顕示欲強いのかな?」
「さあ?でも・・・」
ガルファーを見つめる宮内の目は歓喜に満ちている。そう言う自分もそうだ。絶体絶命のピンチを救ってくれたヒーローが目の前にいるのだから。
「しかし、どう言う事だ。天海が倒れた事で、魔の物は封じられた筈じゃないのか・・・。」
ガルファーは、そう呟いた。彩には言っている意味は解らなかったが、とにかくガルファーにとっては、魔物はいてはならない存在らしい。
「とにかく!目の前に魔がいるんだ。まずは貴様を叩く!」
ガルファーはそう言って腰を叩いた。ところが何も起こらない。
「くそっ!エネルギー切れか。武器を実体化する余力も残ってないのか・・・」
見れば、ガルファーのベルトのバックル部分がオレンジ色に光っている。
「天海との戦いでエネルギーを使いすぎた・・・。そうでなくてもジュウテイオーを呼び出した後だったし・・・。」
よくは解らないがピンチらしい。彩はそう思った。
「一撃だ!一撃で倒さなきゃ、マジでヤバイ!」
ガルファーは、そう言って、腰を落とし身構えた。彩は思った。このヒーローは武器なんかに頼らなくても十二分にやれると・・・
そしてそれは確信へと変わる。叫び声を上げて襲いかかってきた怪人目掛けてガルファーは真っ赤に燃える拳を、その胴体に叩きつけたのだ。
「ガルファー!!ナパームパぁぁぁンッチッぃぃぃっ!!!」
格闘技などまるで知らない姉妹でも解るほどの、見事なカウンターだった。
ジャンプし上から爪を振りかざしてきた怪人に対して、完璧なタイミングでカウンターパンチを決めている。
彩は聞いた事があった。己の感情を制御し、確実なタイミングさえ得られれば、力なぞなくても相手を倒す事が出きると・・・・
目の前の光景がまさにそれだった。
ガルファーのパンチを浴びた怪人はたちまち燃え広り、そして・・・
「成敗っ!!」
ザッ!と、ガルファーがポーズを決めると、爆発消滅した。
「やったあ!!」
その光景に二人は思わず歓喜の声を上げた。
「あ・・・ありがとうございました!」
彩が深深と頭を下げる。
「あの・・・お名前は?」
「ふ・・・さっき名乗ったろう?聖魔装甲ガルファー。それが俺の名だ。」
ガルファーは微かに微笑むような声を出した。
「すっごおい!秘密結社Qの怪人を簡単に倒しちゃった!」
宮内がはしゃぐと、ガルファー首をかしげた。
「秘密結社Q?」
「知らないの?てっきりHUMAの生き残りかと思ったのに・・・」
「HUMA?・・・、全く知らないんだが・・・」
「え?正義なのにHUMA知らないの?」
ガルファーは首を横に振った。全く知らないとの事だ。
彩には考えられなかった。出身や目的の違いはあれど、ここ十数年の大概の正義関係者は、HUMAと関係しているのが普通だ。
HUMAが壊滅した現在、フリーの正義の味方・・・と言うのは考えられなくも無いが、なにかしらHUMAと関わりがあったものとされている。
「ま・・・ありがとう!助かっちゃった!」
宮内が屈託の無い笑顔で微笑んだ。見ていて気持ちのいい笑顔だ。
だが・・・和やかな雰囲気は、すぐに終わりを告げた。
「!?」
ガルファーが何かを感じ取ったそぶりを見せた。きょろきょろと辺りを見渡している。
「どうしたんですか?」
「さっきの奴がまた出た・・・。君達は家へ帰るんだ。急いで・・・」
そういってバイクに跨るガルファー。だが、彩がその肩を掴んだ。
「そんな!無茶よ!さっき自分で言ってたじゃない!エネルギー切れだって!」
「チッ・・・聞いてたのか・・・。しかし、この辺には君達の言うHUMAとかの正義はいないんだろう?」
「それは・・・」
彩が口篭もった。だが彼女の言葉を宮内が代弁する。
「ベルトのランプが赤色になってるよ!そんな状態じゃさっきの必殺パンチも出せないんじゃ・・・」
「良く見てるな・・・君。流石工具を常備しているだけあるよ・・・」
そう言って宮内の頭を軽く撫でてやるガルファー。
「だけど行かねばならない。俺は、君達で言う『正義』だからな!」
そして二人が何か言う前に、ガルファーは走り去ってしまった。
「お姉ちゃん・・・あの人・・・」
心配そうに彩を見つめる宮内。
「くーちゃんの言いたい事は解るよ。・・・でも、また怖い目に合いたいの?」
「でも!あの人あんな状態じゃ!」
宮内は涙目だ。言いたい事はわかる。ガルファーが心配なのだ。命の恩人のピンチを放って置けないのだ。だが、自分達に何が出来る?なんの戦闘力も持たない自分達では足手まといになるだけだ。
「足手まといになることぐらい・・・でも!」
「そうね・・・じゃあ、行く?」
笑顔を宮内に向ける彩。宮内の表情がたちまち笑みに包まれる。
「そうこなくっちゃ!お姉ちゃん発信機は?」
「あの人のバイクに付けておいたわよ。実はあのバイクにちょっと興味があったのよねぇ。」
すると宮内もにや〜と笑みを浮かべた。
「お姉ちゃんも?実はあたしも〜。それに一度正義の味方のスーツをいじってみたいと思ってたんだ。」
「そうとなれば!」
二人は、すぐに駆け出した。家はすぐ傍だ。彼女達は家に跳んで帰ると真っ先に自分達の部屋に飛びこんだ。
二人は切り裂かれた衣服を脱ぎ捨て、すぐに動きやすい服装に着替えた。見れば上着にはプロテクター状の板のような物が所々に取り付けられている。
「護身用の防弾服を改造した物がこんな所で役立つとはね・・・」
これは彩が通販で手に入れた防弾チョッキを、さらに改造加えた物だ。特に外観には特に手を入れている。
そして宮内が物置からゴソゴソと何かを取り出す。ギターケースに酷似した箱を幾つか取りだし、中を開けると・・・
「お父さん達には見せられないよねぇ〜コレ。」
と、ニマ〜と笑みを浮かべる。
取り出した物は、ガスガンのショットガンとハンドガンがそれぞれ二丁。加えて大型のアーミーナイフと警棒。そして火炎放射器とスパークショット(電極を飛ばす銃)だ。
勿論、ナイフ以外は全て彼女達によって改造が加えられている。実は彼女達、以前ニュースで海外においてゾンビや生物兵器の類と思われる生物災害(バイオハザード)が発生したという事を知った。その時に鎮圧に活躍した警察の特殊部隊が使用していた装備に注目し、既製品を改造し似たような物を作ってしまったのだ。
「用意できた?」
着替えを終えた彩が尋ねると、宮内は頷いた。
そして装備を確認すると彼女達は直ちに行動に移った。幸いな事に家族はまだ仕事で自宅に戻ってはいない。
彼女達は、家業で使用している軽ワゴンに乗りこむと、早速出発した。なにしろ家業は修理工場。車には事欠かない環境であることに感謝している。
「お姉ちゃん。ちゃんと発信機動いてる?」
助手席で、ハンドガンの調整をしながら宮内が運転する姉に尋ねる。彩はバッチリと言って運転を続ける。彩のメガネにはガルファーのバイクに取り付けられた発信機の信号が映し出されていた。
機能その3・・・受信機とナビゲーションシステム。発信機の信号を受け取り、そしてそれをナビゲーションする機能である。
「そんなに放れていなかったみたいね・・・これならすぐに・・・と!」
と、彼女達の車の真横を爆音を上げて大型バイクが駆け抜けて行く。見れば夕方出会った女性だ。
「あれはさっきの・・・」
「とにかく急ぐわよ!」
「くっ・・・・エネルギーさえあればコイツ等なんぞ。」
ガルファーは苦戦していた。先ほどと同じ鴉天狗型の怪人が。それも3体も。エネルギーを使い果たし、武器も実体化できない、必殺技もまともに放てない。そんな状況のガルファーだった。
変身時間はとっくに過ぎている。それでもガルファーを維持していられるのは気力と強靭な精神力のたわものだ。だが、それとて限界はある。
ガルファーのエネルギーは着用者の精神力だ。東洋の気功に近いやり方で、人間の潜在能力を引き出し、それを具現化させる。そしてそれらの力を有効に扱う為の装甲がガルファーなのだ。
その為、精神力が衰えれば当然エネルギーの供給が弱まり、ガルファーの力は弱まる。ガルファーの外装を構成するマイクロマシンは機械。その為エネルギーの供給は絶対。
精神力以外にも、周囲の物質などを量子変換してエネルギーに変換する事が出来るが・・・
「今の状況でそんな事する暇あるかぁ!!」
怪人の攻撃を避けながらガルファーはそう叫んでいた。量子変換はあっという間に行えるのだが、その為には若干の精神統一が必要となるのだ。しかも今だ完全にガルファーの力を把握しているわけではないので、色々と不都合な事があるらしい。
そして最大の問題は・・・・着用者が疲弊していると言う事だ。
疲れ切った身体では、幾らエネルギーがあってもガルファーの力を発揮させる事が出来ない。
シャアッ!!──と甲高い声を上げ、怪人が爪を振り下ろす。装甲が重く感じる・・・・避ける事が出来ないと判断したガルファーは左腕で攻撃を受けとめた。
「くそ・・・このままでは・・・」
気力も限界だ・・・変身時間もとっくにオーバーしている。少しでも気を抜けば変身がとけてしまう。そうなれば自分なぞあっという間に奴裂きだ。
「くそ・・・どうすれば。」
絶体絶命のピンチだった。怪人の爪はじわじわと左腕の装甲に食込んで行く・・・。
だが、突如怪人がキシャアっ!と悲鳴に似た声を上げ仰け反った。チャンスだっ・・・・その隙を逃さずガルファーは右の貫手を怪人の胸に叩きこむ。至近距離からの貫手は怪人を貫き、確実に絶命させた。
「なにが・・・」
胸に風穴の開いた怪人を放り捨て周りを見渡す。そこには物々しい装備を持った先ほどの姉妹が立っていた。姉の方はバチバチ・・・と電気火花を散らす銃らしき物を持っていた。先ほどの怪人はこれを食らったらしい。
妹の方は、もう一体の怪人に目掛けて火炎放射器で炎を浴びせている。
「馬鹿やろう!!早く逃げろっ!」
感謝するより、叱咤が飛ぶ。その程度の装備で何が出来ると言っているのだ。
「あ〜ピンチ救ってあげたのに〜。」
宮内が怪人に火炎を浴びせながら文句を言い放つ。
「ごめんなさい。どうしても気になって・・・」
そう言いながら、怪人にスパークショットを浴びせる彩。怪人たちは予想もしない増援に戸惑っているようだ。なかなかガルファーに近づけないでいる。
「いいから早く逃げろ!そんなスタンガンのデカイVerと家庭用ガスバーナー改造した物ぐらいでヤツラが倒せるかっ!」
ガルファーが怒鳴って駆け出した。実際彼女達が持っている物はその程度なのだ。
キシャ・・・どうやら相手も姉妹が対した戦闘力を持っていないことに気づいたらしい。炎を全く無視してじりじりと宮内に近づいていく。
「こ!こないでよっ!コレでも食らえっ!」
火炎放射器を右手で持ったまま、左手でハンドガンを抜いた。
「非合法レベルにまで改造してるんだから・・・」
弱気な声を上げてハンドガンを放つ。ガス圧を限界近くまで高め、弾もホワイトメタルで造りなおしていると言う危険極まりない改造銃だ。
バスバスッとガス銃特有の音を立てて、怪人目掛けて乱射する。だが、人間相手ならまだしも怪人に対しては一瞬動きを止める程度の力しか無い。
「くーちゃん!」
「逃げろっ!!」
ガルファーが宮内に駆け寄るが間に合いそうも無い。火炎放射器は燃料が切れ、ハンドガンを乱射しているが焼け石に水だ。
そして、怪人がついに自分の間合いに入ろうとした時であった。
「!!」
怪人たちの動きが突如止まった。姉妹やガルファーの事など眼中に無いように、ただ一点を見つめている。
「なにが・・・」
その隙にガルファーは宮内を抱えて、彩の元へと走り寄った。
3人が怪人たちの目線の先をじっと見ると、暗がりの中に長身の女性の姿が・・・
「・・・・・・」
暗がりで顔が良く見えないが、かなり長身の女性のようだ。黒いロングコートを羽織っている。女性と解ったのは、その彩にも匹敵しようかという胸のふくらみからだ。
女性は右手に携帯電話を持っていた。彼女は片手で軽く二つ折りの携帯電話を開くとポッポッポッ・・・と器用にボタンを押していく。
<スタンディングバイ!>・・・・・どうやらメールの送信音らしい。
そして携帯を元に戻す。すると、警告音のような物が流れた。どうやらメールのデータ転送中の音らしい。
女性はそこで携帯をしまうと、左腕を引き、右腕をぐっと曲げガッツポーズに似た姿勢をとる。
すると、モーター音似た音が響き、彼女の左手の薬指に指輪が浮き出てきた。
「纏身っ!!」
<コンプリート!>・・・・メールの送信が終わったらしい。
次の瞬間、彼女の身体が黒い竜巻のような物に覆われた。
ダッ!───「うぇぇぇぇいっ!!」
彼女は竜巻に覆われたまま駆け出した。そして竜巻が消え去ったその後には・・・・
「変身だと!?」
ガルファーの目線の先には、もう長身の女性の姿は無い。変わりにそこにいたのは緑色に輝く複眼を持ち、頭に昆虫のような触覚を生やした、紫色の外骨格を有した戦士の姿であった。
「あ・・・HUMAにいたバトルファイターモスやインセクトFに似てる・・・」
彩がそうぼやいた。
「なんだ?そいつら?」
「HUMAにいた虫をベースにした正義の改造人間・・・バトルファイターモスが蛾で、インセクトFがトンボだった。」
彩がそう説明すると、なんとなく納得がいった。確かに虫っぽい雰囲気がある。
「じゃあ、アイツ・・・いや彼女はなんだ?バッタか?イナゴか?」
「コオロギじゃない?鎌倉の虫でエンマコオロギ。」
宮内がそう言った。確かに・・・そう言われて見ればコオロギに見えなくも無い。
「じゃあ、彼女はコオロギの改造人間か。その・・・HUMAかなんかの生き残りか?」
ガルファーがそう言った時、宮内がガルファーの胸をつついた。
「何か光ってるよ。」
「なに!?」
それはガルファーの勾玉の光だった。この勾玉は自分と関わりがあるとされた人物が確認された時に輝くのだ。
「じゃあ・・・彼女が、この時代での俺の仲間・・・」
「え?」
「ジ!ジガァァァァ!!」
怪人たちが初めて言葉らしい言葉を発した。ガルファーには「ジガ」と聞こえた。どうやら彼女・・・紫の改造人間の事を言っているらしい。
「魔物が、あの改造人間の事を知っている?じゃあ彼女はあいつ等と戦う宿命を背負った戦士なのか?」
そうこう言っている間に、ジガと呼ばれた改造人間と怪人達の戦いが始まった。
怪人達の鋭い爪の連激を身軽な動作でひょいひょいと避け、隙を見ては蹴りを繰り出し、パンチを叩きこむ・・・。多少迷いのような物が見られるが、明かに戦いなれしていた。恐らく怪人達ともう何度も戦っているのだろう。
「あ!危ない!」
彩が叫んだ。形勢の不利を悟ったのか、怪人達は二手に分かれジガの前面と背後に位置すると周囲をぐるぐると取り囲むように走り始めた。
それは常人の彩と宮内には目にも止まらぬ・・・という表現が相応しいほどのスピードでジガの周囲を走っているのだ。
恐らく、高速で走り取り囲む事でどこから攻撃してくるのかを悟らせない為だ。走ったまま攻撃してもいいし、突如飛びかかるのも良い手だ。
そして、それは的中する。突如怪人達は動きを急変させ、正面と背後から同時に襲いかかってきた。挟撃する気なのだ。
だが、ジガは怪人達の攻撃をジャンプで軽く避けてしまった。突如自分達の攻撃目標が視線から消えた事にうろたえた怪人達は互いに正面衝突してしまった。
そしてジガが狙っていたのはまさにそれだった。ジャンプしたまま上空に待機していたジガは、そのまま怪人達目掛けて、右足を突き出して急降下!
「あ!あの技は!!」
ガルファーは思わず叫んでいた。今まさにジガが放たんとしていたのは、数あるヒーロー達の伝統とも言える必殺技。そう急降下飛び蹴りこと、○イダーキック!!
そして、ジガの右足が紫色の光に包まれ、そのまま怪人達に炸裂した。
必殺キックを浴びせられた怪人の一体は白く塩の塊のような物に変色した後、ボロボロと崩れ去ってしまった。
だがもう一体の方は、ギリギリで難を逃れたらしい。ギッギッ・・・と悔しそうな声を出すと、そのまま闇夜へ消えていった。
「君は・・・HUMAの改造人間なのか?HUMAはまだ存続しているのかい。」
怪人達を倒したジガにガルファーが近づき、声をかけた。
だが、ジガからの返事は無い。黙ってガルファーを見つめたまま立っているだけだ。
「・・・仲間がいたんだ。私のほかにも変身できる人がいたんだ・・・」
と、検討ハズレな答えが返ってきた。
「わたしだけかと思ってたんだ。・・・なんか嬉しいな・・・。」
と、グスっと鼻を鳴らす音まで聞こえてくる。
「あ・・・私は、柊巴(ひいらぎ ともえ)。この姿はジガっていうんだけど、貴方は?」
逆に尋ね返されてしまった。話が通じているのかどうか不安になったが、助けてもらった手前、無碍にも出来ないので答える。
「私はガルファー。聖魔装甲ガルファー・・・本名は・・・・」
と、言いかけた所でガルファーは声を失った。そして次の瞬間ガルファーは音も無く倒れてしまった。
「ど!どうしたの!?」
慌ててジガと彩と宮内が駆け寄る。
「限界なのよ!エネルギーもとっくに尽きて、気力だけで支えていたんだから!!」
するとマイクロマシンの拘束が解け、ガルファーの代わりに、若い警官が倒れていた・・・
「これが・・・ガルファーさんの正体・・・」
宮内がそう呟くと、彩がぽ〜と、していた。
「かっこいい・・・」
「え?」
だが、ジガがそれを遮った。
「ぼうっとしてないで!彼を運ぶの!」
そう言ってジガは変身の解けたガルファーを抱き上げた。
(ガルファーが、柊巴に接触しました・・・)
(この時代こそ、本番。大正時代はスキルアップの為の前哨戦・・・)
(HUMAに代わる新たなヒーローと呼ぶべき正義達を・・・)
(・・・ガルファーにとって、最も重要なパートーナーが・・・)
(ところで、例の連中は・・・・いいようだな)
(ええ。あの3人でなければ・・・花組やブレイド達を・・・)
(敵の動きに対処する為には、この様な手段でなければ・・・)
「う・・・・うん・・」
男が和室の一角に寝かされていた。ご丁寧に布団が敷かれ、男はそこで寝ていたのだ。
うめく男の額に手が当てられた。暖かい手だ・・・。朦朧とした意識の中で男はそう思った。
「心配するでない。今は休め・・・」
威厳に満ちちつつ、少女と言っても良いぐらい幼い声が掛けられた。手を当ててくれたのもこの少女だろう。
「・・う・・・ううん?・・・こ、ここは?」
男が目を覚ますと、全身に痛みが走った。苦痛に顔をしかめる。
「無理をするでない。そなた、丸1日寝たきりだったのだぞ。」
声のした方を男が向くと、そこには小学校高学年ぐらいの青い和服を着たおかっぱ頭の少女・・・否幼女と言ってもいいぐらいの年齢の女の子が座っていた。
ざ!座敷わら・・・と、言いかけたのを慌てて飲み込んだ。助けてもらった相手に対して開口一番の台詞がそれでは怪我人ならずとも叩き出されかねない。
「あ?気がついたんすか。今ともねぇ呼んで来ますね。」
水の入った洗面器を持った少年が、洗面器をその場に置くと、大声で「ともねぇ!友達目ぇ覚ましたぁ!」と、家中に響き渡るように叫んだ。
「これ、くうや。客人はまだ病み上がりの身だぞ。大声を上げるでない。」
と、叱責する。
「すまんな。騒がしい弟で。」
少女の台詞に男は目をぱちくりさせた。「弟!?貴方より年上に見えるぞ!」と、言いかけたのをまたしても飲み込んだ。
それにしても、ここは何処なのだろう?どうやら結構豪華な日本家屋のようだが・・・倒れてからの記憶が待ったく無い。
そうこうしている間に、背の高い女性が部屋に現われた。
「君は・・・」
と、言いかけたのを背の高い女性はしっ!と口に指を当てた。そして上半身だけ身を起こした男に寄り添うと、耳元に向かって囁いた。
「一応、貴方は私の友達と言う事で、みんなには伝えてあるの。とりあえずそれで合わしてもらえるかな?」
その言葉に男は頷いた。年若い女性が見知らぬ男を家に呼びこんだと言う事で、奇異の目にさらされることを嫌がったのだろう。男は素直に応じる事にした。
「君は、確か巴さん。柊巴さんでしたね・・・あのコオロギの改造人間の。」
男の方も、近くにいる和服の少女に聞かれないように小声で囁くと、巴と呼ばれた女性は頷いた。ただ、「私は改造人間じゃない・・・」とだけ付け加えられたが。
「これ、なにをひそひそ話をしておる。それより・・・」
と、少女が言いかけると部屋の中にどやどやと騒がしく数人の女性が群れをなして入ってきた。どうやら全てこの家の住人らしく、巴の姉妹らしい。
「にゃは〜。トモの彼氏がどんなんかな〜と思って!」
タンクトップの金髪グラマー美女がまったく邪気の無い顔で言い放つと、彼氏・・・と呼ばれた巴の顔は真っ赤に染まる。
「あ〜巴姉さん妬ける〜。でも本当に結構良い男ねぇ。」
髪を二つに分けた少女・・・と呼んで良いだろう。結構スレンダー系の美少女がからかうように笑っていた。
「あ・・・拳銃整備しといたよ。タマには手入れした方がいいよ〜。」
メガネをかけた女子高生が男に拳銃と警棒を差し出した。それを見て男は大慌てで「わ〜!!」と奪い取るように拳銃を受け取った。すぐに点検するが、ピカピカに手入れされてる他はなんの異常も無いのでほっとした。
「海・・・民間人の私達が、警官の装備を勝手にさわっちゃダメでしょ・・・。でもこの場合、装備を無断で拝借される貴方にも問題ありよ。」
黒いロングヘアーの女性が、感情を感じさせない冷たい声でそう言った。少しムッとしかけたが、この場合は彼女の意見の方が正論なので、素直に聞き入れることにした。
やがて先ほど、巴を呼んでいた少年が男の制服やら何やらを持ってきた。綺麗に洗濯されており、ほころびも直っていた。
「ああ・・ありがとう。これは君が?」
男が素直に礼を言うと少年は「ともねぇの頼みでやっただけスから・・」と謙遜した。
「色々とご迷惑をかけたようですね。私は巴さんの友人で・・・」
「備前長船。年齢24歳、Y県警の巡査部長で、実花村の駐在。現在、諸事情により休職中・・・かしら?」
先ほどのロングヘアーの女性が、男・・・長船の言葉を代弁するように言った。そう言ってから持っていた手帳を長船に手渡す。それは長船の警察手帳だった。
「貴方・・・本当に巴の友達?それに休職中の警官が拳銃を携帯しているなんて・・・。」
明かに疑いの眼差しを長船に向けている。それを聞いて巴が「あぅ・・・」とばつの悪そうな顔をした。嘘のつけない性格なのかもしれない。
「それとも・・・休職中と言うのは建前で、表ざたに出来ない事件を追ってる秘密捜査とでも・・・言ってくれるのかしら?」
そう言って、近くにいた空也と呼ばれた少年に向け、大き目のスポーツバッグ一つとツリザオを入れる長いケースを手渡した。
空也がその女性から手渡されたバッグとケースを長船に受け渡す。長船が中身を確認すると、そこには長船のバイクにしまってあった私物。そしてケースの中には形見の日本刀が・・・
「失礼なようだけど、中身確認させていただいたわ。明かに訳ありみたいなものが三つ。そして水晶玉が六つ・・・。日本刀の方は、私の部下がこの様な物に精通しているから、手入れしといたわ。」
恐らく神器と獣皇の宝珠の事を言っているのだろう。素人目には、ただのアンティークしか見えない筈だ。
「これ、かなめ。客人に対して尋問のような真似はやめんか。ここは法廷ではないぞ。」
「すみません、姉さん。つい職業柄・・・。ですが、見知らぬ男を連れこんだ・・・と言うのは・・・」
『姉さん!?』
どちらかと言うと、その言葉の方にびっくりした。その様子に空也がそっと耳打ちした。なんと一番年下かと思っていた少女が、長女らしい。幼い頃から病弱で、その辺りから成長が止まってしまったらしい・・・と空也が語っていた。どうりで威厳がある筈だ。
そして、長船に冷たい声をかけたロングヘアーの女性が次女の要芽と言う名前で、職業は弁護士らしい。なにやら長女(雛乃と言う名前らしい)と言い合っている。弁護士と聞いて、長船は顔をしかめた。警官と言う職業柄、どうも対立してしまいがちな関係だからだ。
「ど・・・どうしよぉ・・・」
おろおろする巴をよそに長船は要芽と雛乃の方を向き、口を開いた。
「お姉さんのおっしゃる通り、私は秘密捜査中の捜査官です。」
開口一番に長船はそう言いきった。別に嘘をついている訳ではない。それに相手は弁護士だ。下手な嘘は通じない。ここは正攻法で行くしかない・・・と長船は考えた。
「この話は他言無用にしていただきたい。私は賢人機関と言うある組織を通じて警視庁から、最近頻発している悪の組織や怪人達を探る為に派遣された捜査官です。」
賢人機関と言うのは、長船が大正時代、花組やサイバーナイト達と戦っていたときに聞かされた組織の名だ。帝国華激団の上部組織らしい。
そして長船が怪人や悪の組織の事を調べているのは事実。そこでこの名を出したのだ。要芽の方から秘密捜査・・・と言う言葉を出してくれたのを利用したのだ。
要芽や雛乃達には、捜査の過程でこの鎌倉で頻発している神隠しが怪人によるものと判明し、調査の為に訪れた大学で、考古学を専攻している巴と知り合い、協力してもらっていた・・・と言う事で説明した。
「なんで、悪の怪人とトモが関係あるわけ?」
金髪美女(3女の瀬芦里といって、彼女だけ母親が違うそうだ)が尋ねてきた。どさくさに紛れて長船の拳銃に手を伸ばしてきたので、慌てて引っ込める。
「調査の結果、この近辺に現われる怪人は、古来からの魔物・・・と判明してね。それで古くからの文献が多く所有している柊家・・・巴さんに協力をお願いしたんだ。実際、この家にはそういった文献があるんだろう?」
と、逆に尋ねて見た。確かに文献は存在するし、巴が考古学を専攻していることも事実だ。要芽も認めざるを得なかった。
勝った・・・・長船は表情こそ変えなかったが、頭の中でほくそえんだ。当の要芽も100%納得したわけではなさそうだが、雛乃に言いくるめられ、表情こそ変えなかったが「解りました・・・そう言う事なら・・・」と、そのまま立ち去っていった。
その後、他の姉妹からあ〜だこ〜だと、色々質問攻めに合いはしたが、やがて皆ぞろぞろと部屋を出ていき、長船と巴だけが残された。
「ごめんなさい・・・色々と気を使わせちゃって・・・」
と巴がすまなさそうに頭を下げた。
「何、気にしなさんな。それより、君の事を詳しく教えてもらえないか?」
「はい。」
巴・・・本名、柊巴。地元の大学で考古学を専攻している女子大生だ。
彼女が言うには、この柊家は古来から霊力が強い事でも知られ、特に長女の雛乃に関しては、霊媒などの霊的なトラブルを解決できる力があるらしい。最近では幽霊などに対しネゴシエーターのような事までやってるらしい。
巴は、学業の資料探しに自宅の倉庫をあさっている時に、古ぼけた指輪を発見する。それがジガへの変身アイテムだった。
「指輪ねぇ・・・ベルトや携帯じゃないのね。カードとかは?」
「無い・・・」
指輪にはある種の呪いがかけられており、自らを異形と姿を変え、魔の者と互角異常に戦う力を授ける『退魔の指輪』だと言うのだ。
興味本位で指輪を装着した巴はその瞬間から、魔の物の気配を察する事が出来るようになり、指輪が外れなくなってしまったらしい。
指輪は霊子レベルで巴と融合しているらしく、当事者が死亡しない限り外れないらしい。
こうして、退魔の力を得た巴は、「指輪の戦士ジガ」となり、HUMAが壊滅し魔物に怯える鎌倉の町を守る為、孤独に戦いつづけていたらしい。
その為、似たような力を持つガルファー・・・長船の存在が嬉しくて仕方が無かったのだ。仲間がいたんだと・・・
「なるほどね・・・とんだ災難に巻き込まれたわけだ。」
「はい・・・。でも後悔はしてません。そのお陰で・・・みんなを・・・家族を守る力が手に入ったんだから・・・」
「そうか。じゃあ君はHUMAの生き残りじゃなかったんだ。ところで、変身できる事を家族は?」
巴は首を横に振った。当然だろう・・・長船はそう思った。話せるわけは無い・・・恐らく理解はしめしてくれるだろう。だがそれは同時に家族を危険に巻き込む事にもなりかねない。
「OK・・・ありがとう。それじゃ、俺も君に対して御礼をしなきゃな・・・」
「御礼?」
「力を貸すよ。どうせ、俺も魔物退治の為に変身能力を持たされた身でね!」
そう言って左手を掲げる・・・・そこにはガルファーに変身する為の手袋と手甲が・・・・無かった。
「!?無い!手甲と手袋が!!」
そう言って、慌てて私物やら服やらあちこち探すが、全然見当たらない。長船の顔から血の気が引いた。
「あ・・・アレなら・・・」
「知ってるのか!何処だ!何処にある!!」
巴の肩を掴む長船。巴は言い出しにくそうに懐から一通の手紙を出した。
「何コレ・・・」
手紙を受け取りそう言った。
「あの・・・あの時一緒にいた姉妹の人から・・・」
そう言えば、あの時、確かに巴のほかに別に姉妹がいた。
「・・・彼女達が貴方の手袋持っていった・・・。返して欲しければ・・・・仲間になれって・・・でないと正体ばらすぞって・・・」
長船は、その言葉を聞いた瞬間、意識を失いかけた。
次回予告
現代にやってきたガルファー!ともねぇの力を借りつつ、調査を開始する。華激団に倒されたはずの魔物が何故!?
そして東京湾に作られた人工島、新東京にてついに秘密結社Qが動き出す!!幼稚園バスが危ない!
民間ヒーロー、中村等と山田太郎。君達に勝機はあるか!?
度重なる危機に、シルバーメタリックの凄い奴と、チチのでかい美少女達が立ち向かう!
次回、サイバーヒーロー作戦 第10話『転送!成長!宇宙探偵と代理刑事!』にコイツぁはスゴイぜ!
シャトナー「私が、宇宙刑事シャトナーだ!」
ダイ「どうしよ・・・言うべきかな・・・」 マリー「言うしかないんじゃない・・・銀河連邦警察壊滅したって・・・」
シャトナー「アガ〜ンッ!!」