第8話  「黒之巣会の最後! さらば大正時代」





 「圧倒的じゃないか・・・」
大神は、巨大インベイドを、容易く葬ってしまった眼前に立つ巨人を見上げて、そう呟いた。
 「ひえ〜、ロボットだぜ、ロボット。」
クレインが呆れたように言う。彼らのような戦場を日常とする傭兵にとって、こう言ったアニメじみた巨大ロボなどナンセンスなのだ。
 「あたし・・・こういうの子供の頃にTVで見たなぁ。」
キャピ子がぼやいた。彼女にして見れば、この手のロボットが登場するアニメはとっくに卒業している。
 「ねえ!コレで天海の居場所に行って、踏み潰しちゃえ!!」
アイリスが、名案とばかりにはしゃいだ。その言葉に大神がう〜んと、唸った。
確かに、可能かもしれない。やり方に少々気が引けるものはあるが、確実だし、被害も最小限に済みそうだ。
 「それはよした方が良いな。」
反論したのはブレイドだ。
 「この巨体が、練り歩くんだ。歩くだけで帝都にはかなりの被害が出るぞ。この辺は、かなり破壊されてるからいいとして、コイツが大暴れしたら日本橋は壊滅だぞ。」
 確かにブレイドの言うとおりだ。
 「ま・・・・コイツが飛べるなら話は別だが?」
 と、見上げると、ジュウテイオーの首が横に振られた。どうやらブレイド達の会話を長船・・・ガルファーは聞いていたらしい。
 「無理。コイツ(ジュウテイオー)は飛べない。」
ジュウテイオーの顔の部分から長船の声がした。
 「それに・・・・もうじき合体が解ける。」
へ?・・・と、大神が言うと同時に、一瞬輝くジュウテイオー。次の瞬間には十数メートルの大きさの獣皇に戻っていた。
 「よっ・・・・と!」
巨大化したロウガンの口の中からガルファーが飛び降りてきた。着地と同時に、変身が解け長船の姿に戻っていた。
 「エネルギー切れだ。合体を維持するのって、結構エネルギー食うんだよ。」
そう言って、長船はへたり込んでしまった。

 シャインの推測したとおり、ガルファーならびにジュウテイオーは、物質の量子レベルの操作により、装甲の脱着・変化、獣皇の巨大化・合体を果たしているらしい。荒唐無稽な話に聞こえるが、トンネル効果を制御し、クオークや電子などの結合エネルギーを開放せずに粒子に変換している為、質量保存の法則にはまったく反していないと言う事だ。
 ただし、それは変身や巨大化のみの話だ。実際に活動する為には膨大なエネルギーを必要とするらしい。
マイクロマシンとはいえ、機械には変わりない。機械が活動する為には燃料の補給が不可欠だ。ガルファーは、精神エネルギー変換装置とも言うべき機能が備わっているらしい。感情の起伏に敏感に反応し、その精神状態に合わせたコンディションを設定するようにガルファーは造られているらしい。
 「ガルファーの色が変ったりするのはその為か・・・」
ブレイドがぼやいた。
 精神力・・・・加えて人間の想像力、イマジネーションにも反応してエネルギーを生み出しているらしい。
例えば「気」。物質世界には存在しない「気」と言う力を想像し、『気と言う力が有る』と仮定する。そしてその「気」の力により、『病気が治る』と想像すれば病気が治り、『離れた相手を倒す』と想像すれば、相手は倒れるのだ。
 実際に、人がイメージする力は具現化することも実証されている。ボクシングのシャドーボクシングなど、その一端だ。
 ガルファーは、その力を増幅する能力が備わっているのだ。長船の精神力やイマジネーションが尽きない限り、ガルファーは無尽蔵に近い力を発揮する。
 「だが、変身が解けた・・・って事は、長船くん自体が、ガルファーを完全に把握していないからね・・・」
あやめが言うと、長船は頷いた。その通りだ。今の長船は100%ガルファーを把握しているわけではない。故に力が完全に発揮できないのだ。
 「じゃあ、ロボットの合体が解けたのは?」
キャピ子が尋ねる。へたばっている長船は話を続けた。
 「ガルファーとおんなじさ・・・」

 ジュウテイオーも、ガルファーと同じくマイクロマシンの集合体でボディを構成している。獣皇の形態のときは、様々な物質をマイクロマシンが分解してエネルギーに変換する。科学的なエネルギーで活動するわけだから、人間や動物の食事に近い方法でエネルギーを得ているのだ。
 巨大化するときは、それなりのエネルギーが必要となるが、量子操作はそれほどエネルギーを必要としない。問題は、巨大化した後と合体後だ。
 身体が大きくなるのだから、それに比例してエネルギーも多量に必要となる。エネルギーを得る為には、物質を分解しエネルギーを得れば良いが、そんな瞬時に変換するのはさすがに無理がある。故に獣皇内に蓄えられたエネルギーと、ガルファーのエネルギーを必要とするのだ。ガルファーは、ジュウテイオーの頭脳でも有り、エネルギーを生み出す心臓も兼ねているのだ。

 「人の精神力やイマジネーションには限界は無い。故に膨大なエネルギーを必要とするジュウテイオーの動力にはうってつけか・・・。まさに一体化だな。」
 大神が感心したように言った。霊力が高まれば高まるほど強さを発揮する光武にも通じるものがあったからだ。
 大神の言葉に、セツナが黙って頷いた。ようは心の力が全てを左右する・・・・。何故自分がこの時代に引きこまれたのか、理由が一つ解ったような気がした。
 (ねえ、華燐・・・・。私がこの時代に来たのって、もしかしてこの人達に会う為だったのかも・・・・。心を鍛える為に・・・)
 セツナの言葉に華燐は頷いた。
 (そうかもしれませんね・・・。セツナが求める『強さ』と『勇気』を・・・この人達が・・・)


 「とりあえず・・・日本橋に急ごう!時間食っちまった!」
ヨロヨロと長船が立ちあがった。確かにグズグズしている暇は無い。このままでは帝都が天海の物になってしまう。
 幸い、ジュウテイオーに恐れをなしたのか、叉丹もレイピアの姿も無い。今のうちに日本橋に向かわなければ・・・
 「せやけど移動手段が無いで・・・。翔鯨丸はもう・・・」
紅蘭が悲しげに言う。確かに帝国華激団が誇る装甲飛行船『翔鯨丸』は、巨大インベイドの攻撃により大破してしまっている。輸送手段が無い事には、どうしようもない。
 「くわえて、結構みんなへたばってるぜ・・・」
クレインが周りを見渡して言う。彼のバトルモジュール、ウィナーは敵の攻撃を食らいあちこち被弾している。光武もみんな似たようなものだ。これで黒之巣会の本拠に乗り込め・・・・と言うのは無理がありすぎる。
 だが、移動手段も無ければ、修理を受けている時間も無い。まったくの手詰まりだ。
 「それなら心配無い。獣皇に乗っていけばいい。 おいドラゴ!マンネン!」
長船の言葉に、了解したとばかりに、ドラゴロードとマンネンが地面にしゃがみこんだ。
全員の前でドラゴロードの胴体の一部が開く。同じようにマンネンの背中の甲羅も一部が同じように開いている。ココに乗れ・・・と言っているのだ。

 ドラゴロード・・・・龍型の獣皇は、ジュウテイオーでは胴体を構成する。
ジュウテイオーの胴体に変形する際、頭部や身体の一部を胴体内に収納する。その為、通常の龍型形態の胴体にはある程度の空洞が存在するのである。その空洞を人員運送のスペースにしようというのだ。
 同じ事はマンネンにも言える。天女の書を読んで解った事なのだが、マンネンは獣皇の中でも初期タイプだと言う事らしい。その為マイクロマシンと精神エネルギー変換システムが、他の獣皇に比べてそれほど優れてはいないらしい。その為エネルギーを蓄えるスペースがどうしても大きくなったと言う。
 最初から亀の形に作ったのではなく、エネルギー許容スペースを考えた結果デザインが亀になったと言う事だ。
 時間も無いので、一同ぞろぞろとマンネンとドラゴロードに分乗する。その他の獣皇は鷲型のグランプリ以外は飛行不能なので、エネルギー温存の為に帰還させた。
 そして、グランプリを護衛機代わりにして、紫色の龍と緑色の亀が飛びあがった。獣皇の飛行速度なら日本橋まで10分と掛からない。
 「あ・・・・光武の傷が・・・」
さくらが呟いた。隣にいる大神の甲武がゆっくりとだが、元の白い美しい輝きを取り戻しつつあった。見れば自分の光武も同様だ。刃こぼれした剣も徐々に戻りつつある。
 「マイクロマシンのリペア効果だ。獣皇の中はマイクロマシンと精神変換エネルギーによって作り出された・・・そうだな『気』のプールだ。その効果によって獣皇自身と一緒に一緒に俺達も・・・な。」
 長船はそう言って自分の腕を見せた。先程の戦闘によって付けられた打ち身の跡が消えていく。
 「なんか良くわかんねえけど、ありがたいぜ!これで天海と戦える!!」
カンナが腕を鳴らした。
 「だが・・・それだと、天海のとの戦いには獣皇は使えないな。」
通信機からブレイドの声が聞こえてきた。
 「え?どうしてですか?」
さくらがたずねる。彼女の光武は既に今しがた整備が終えたような状態にまでに回復している。
 「シャインから聞いたんだが、我々のモジュールも回復している。つまり獣皇のエネルギーを我々が間借りしてしまっているんだ。その分、獣皇のエネルギーの回復が遅れることになる。」
 「そうか・・・じゃあ、長船さんは獣皇無しで!?」
さくらが慌てて長船を見た。長船は黙っていた・・・・寝息をたてて。
 「わずかな間でいい。休ませてあげましょう。獣皇の分は私達でカバーすればいい。」
マリアがそう言うと皆頷いた。
 
 「ところで・・・・・」
大神が、寝息を立てている長船から目線を外し、視線を切り替えた。その先には・・・
 「君達何者?」
 そこには、上半身裸の男とスキンヘッドの見た目そっくりのパンツ一丁の二人の男がいた。
先程、巨大ジェノサイドとインベイド・脇侍連合を一掃してくれた3人の男・・・イダテンとその舎弟アドン&サムソンだ。
 彼らは大破した翔鯨丸から運び出した非常食に食らいついていた。
 「あ?ああ・・・オラ達ダスか?安心してくれダス、アンタ達の味方ダス。」
そう言って、持ち出した非常食全てたいらげるような勢いで食事を再開し始めた。
 「そうは言われても・・・素性の知れない君達を安易に味方と判断するわけには。」
大神の言う事は最もだ。だがイダテンは口から非常食のカンパンを飛び散らせながら反論した。
 「さっき、あのデカブツと雑魚を一掃してやったじゃないダスか。あれじゃ不充分ダスか?」
 「確かに、あの援護には感謝している。」
 「なら、オラ達は共通の敵を相手にしているわけダス。ここは協力し合うダス。」
 少し黙ってから、大神は口を開いた。
 「解った。協力に感謝する。君達は何処から来たんだ?先程も言ったが何処の誰なんだ?」
 「オラはイダテン。こいつらは舎弟のアドンとサムソン。オラ達は・・・・」
その直後、イダテンの口から出てきた言葉に、全員が目をむいた。



 日本橋地下・・・・・・黒之巣会の本拠地
ジュウテイオーの圧倒的パワーの前に、命からがら秘密結社ジェネレーションキルの幹部、レイピアは自室の通信機の前に、顔面蒼白で立っていた。
 そして通信機の向こうには、ジェネレーションキル総帥ハル=バートの姿があった。
レイピアは心酔する総帥に、事の様を報告していた。
 「獣皇が合体するとはな・・・・。先代ガルファーにはあり得なかった力だな。」
 モニターの向こうで、ハル=バートは表情を変えず、そう言った。
 「全く予想外です。ガルファーにあのような巨大人型兵器があるとは・・・」
 「レイピア。あれはなスーパーロボと言うのだ、覚えておけ。なかなか厄介な相手だぞ。何しろスーパーロボと言うのは、たった一機で戦況を覆すほどの力を持った兵器なのだ。」
 ハル=バートは、にやりと笑みを浮かべながら言った。まるで強敵の出現が嬉しくてならないように・・・
 「しかし、手持ちのインベイドを全て失ってしまうとは失態だな。」
 「申し訳ありません。」
レイピアは言い訳一つせず頭を下げた。総帥を前にしていいわけが通じるとは思えない事は解りきっていたからだ。
 「・・・そのジェノサイドを易々と葬った謎の3人組、調査が必要だな・・・・戻ってこい。」
 「了解しました。ですがこの時代はいかがするのですか?」
 「天海の力量既に見切った。もうヤツに干渉する必要は無い。我々が手を貸すまでも無く・・・勝利するよ。」
 「天海がですか・・・」
だがハル=バートは笑みを浮かべ、首を横に振る。
 「・・・?、帝国華激団ですか。」
 「いや、勝利するのは天海でも華激団でもない・・・・魔が勝利するのさ・・・」
レイピアは総帥の言葉がまるで理解できないまま通信を終えた。
理解できずとも、総帥の命令は絶対だ。総帥の事だから何かあるのだろう・・・。彼はそう考え撤収の準備をはじめた。



その場で、天海は笑みを浮かべていた。ジュウテイオーの出現は予想外だった物の、降魔陣の完成は間近。あと数時間もしないうちに帝都は崩壊する。
そうなれば、自分の理想とする幕藩体制が蘇る。
 品川から叉丹の連絡が途絶えたが、今はそんな事はどうでも良かった。帝都が自分の手中に納まれば、部下など幾らでも作れる。
 「クハハハハ・・・・もうじきじゃ!もうじき帝都は正しき徳川の世に戻る!この魔神天海によってな!!」
 黒き野望をたぎらせて、天海の喜びは最高点に達しようとしていた。



 「んで、オラ達はブラフマー様からの命を受けて、遥か時空を超えて、アンタ達を助けに来たんダス。」
 『・・・・・・・・・・』
その場にいた全員。いや無線を通じてマンネンの方に乗っているサイバーナイト達からも声が聞こえてこない。
 「おい。」
 ひくついた声で、米田司令がイダテンに詰め寄った。
 「ブラフマーっていやあ、おめえら、古代インド仏教の3大神の一人じゃねえか。お前らは、何か?神様の使いって言いたいのか?」
 「その通りダスッ!!!!」
堂々と胸を張るイダテンと舎弟二人。その大胸筋はご立派。
 今まで眠っていた長船が目を覚まし、黙って指をぱちんと鳴らした。それに答え、ドラゴロードの胸ハッチが開く。ちなみにまだ空の上・・・・
 「ま・・・待て!嘘は言っていないダス!!」
無言ですみれが薙刀を付きつけ、開いたハッチから3人を突き落とそうとしている・・・・
 「さ・・最後まで聞くダス。オラ達は天界・・・・いやその、アンタ達が敵対している天海じゃなくて、ほら・・・その・・・そう『天の世界』って意味ダス。」
 そう言って空の上を指差すイダテン。とりあえず長船はドラゴロードにハッチを閉じさせた。
 「ふう・・・。オラ達は、アンタ達から見れば『神様』・・・って、そこの金髪姉ちゃん、なに銃構えてるダスっ!!」
 イダテンの目線の先には、なにやらいいたげな表情をしたマリアが愛銃をイダテンに付きつけていた・・・震える手で・・・
 マリア、落ち着け・・・と、カンナと大神がマリアから銃を降ろさせた。見ればこの場合、真っ先に止めなければならない藤枝副指令まで複雑な表情を隠せずにいた。
 「まあ、オラ達はブラフマー様、そこのオッサンの言うとおり、凄く偉い神様の命を受けてアンタ達を・・・正確には・・・そこの国家権力の兄ちゃん、アンタを助けに来たんダス。」
と、ビシィッ!!と長船に向けて人差し指を付きつけるイダテン。
 「アンタは、ガルファーを受け継いだ男、アンタはハル=バートと・・・いや、この地球の時間の流れ・・・う〜ん、歴史ダスかね?まあ、そういった歴史の流れを乱す悪党と戦う宿命を背負っているんダス!」
 「ちょっと待て!じゃあ、アンタ達はガルファーを作った存在を知っているのか!?そればかりか時間を移動する手段も知ってるって口ぶりだが!」
 長船がイダテンに詰め寄った。長船だけではない。セツナとシュビビンマンも詰め寄った。時間を移動する手段・・・・それが解れば元の時代に戻る事が出きるからだ。
 「まあまあ・・・落ち着くダス。物事には順番ってものがあるんダス。」
イダテンはそう言って、セツナと翠の方へ向いた。
 「アンタがセツナちゃんダスね?ブラフマー様が言ってたダス、アンタは『絶対存在』と戦わなければならないとか・・・アンタがこの時代に来たのは、心を鍛える為だとか・・・」
 イダテンの言葉にセツナは、やっぱり・・・という表情を隠せなかった。自分がこの時代にやってきたのは、なかしら理由があると思っていたからだ。
 「んで、シュビビンマンと翠さんですかい?それと、サイバーナイトとか言う方々ですか?そちらさんは、セツナさんと帝国華激団を助けさせるために呼びこまれたんです。」
スキンヘッドの男・・・・アドン&サムソンがそう説明した。
 その説明は理解できる物だった。・・・・ただ理解できたのはサイバーナイトと帝国華激団ぐらいだったが・・・。
 大神には、解るような気がした。黒ノ巣会だけならまだしも、インベイド等の正体のはっきりしない相手を敵にして、自分達だけで戦えて来られたかどうか・・・。ましてや黒ノ巣会だけでも苦戦していたのだから。
 自分達、花組を支援する為・・・何者かがサイバーナイト達、未来世界の戦士達を呼び寄せた・・・。イダテン達はそう言っているのだ。

 「言っておくダスが、オラ達もガルファーの正体は知らないダス。あくまでもブラフマー様から、アンタ達を助けろ・・・と言われて来ただけで、詳細は知らされていないんダス。なんでもガルファーに関しては、スゴイ秘密なんダスようで。」
 その説明も理解できる。帝国華激団が徹底した秘密主義を貫くと同じように、超Aランクの機密を部外者に漏らさないようにする為には、真相を知る人間は少ない方がいい。信頼している部下にも混乱を招かない為に、必要最低限の情報しか与えないのは当然の事だからだ。
 「敵は、初代ガルファーが張り巡らした結界効果によって侵攻できる時間範囲が限られているんダス。そこで、ヤツラの勢力がそんなに広範囲に広がらないうちに、2代目ガルファーをぶつければ・・・」
 「ヤツラを・・・ハル=バートとか言う連中の組織をつぶせると?」
 大神が口を挟んだ。イダテンは頷いた。



 「む?ヤツラ・・・・きおったか。」
天海は、地響きと気配から自分達の本拠に、帝国華激団が侵入した事を察した。
 妖術で本拠の各所をモニターする。正面ゲート前にサイバーナイト達が陣取っている。どうやら入り口を死守するらしい。
 「残りは・・・」
 花組以下の連中は、徒党を組んで基地内を進撃している。
 「クケケケ・・・果たして間に合うかな?」
天海は既に、勝利を確信していた。例えたどり着いたとしても、自分には切り札があった。
この時の天海には、既に死天王もハル=バートからの援助も失っていた。だが、魔からの力を感じ始めている天海には『敗北』という言葉は既に忘却していた。


 日本橋の地下、魔の封印の地・・・。その真っ只中で長船・・・ガルファーは槍を振るいながら突き進んでいた。
 通常とは外見こそ同じだが、本拠防衛用に強化された脇侍が行く手を阻む・・・
 目の前に、蒸気と魔の力を併用した、脇侍生産プラントが見える。ためらいも無くリボルバーを抜き、最終工程用と見られるゲートに向け発砲・・・水蒸気を飛び散らせ・・・爆発した。爆発にまきこまれて、完成間近の脇侍が数体巻き込まれる。
 破壊されたプラントにわき目も振らずガルファーは突き進む。そして彼の脳裏には、ここに来る直前にイダテンから聞かされた言葉がよぎっていた。

 「ブラフマー様は、オラ達も知らない誰かから、時間軸が乱されている事を聞いて、オラ達を派遣したんダス。」
 その誰か・・・と言うのは、恐らく先代ガルファーと関わりのある存在だろうと、長船は仮定していた。恐らく未来人か宇宙人か・・・とにかく自分達の到底及ばないテクノロジーを有した知性体であることは確かだろう。
 何らかの理由で、自分達では直接手を出すことはしないのか、出来ないのかは解らない。それが長船の不安だった。
 (他人の考えたシナリオで動くのはどうも・・・な。)
 身の危険は感じる物の、ガルファーの力はそれを帳消しにしてくれるほど優れている。それに加え花組やサイバーナイト達の頼もしい仲間もいる。
 (まるで実験台になったような気分だ・・・)
長船は自分で言った言葉が当っているような気がした。村の伝承に伝わっていた鬼を討つ鎧・・・その正体は高度過ぎるテクノロジーで造られた強化装甲。
 時間を行き来出来るほどの技術を持っているならば、数百年の時間の経過なぞ些細な物だろう。
誰かが、先代そして長船に、このガルファーを与え、ハル=バートとやらの組織をつぶす為に新兵器の実験をしているのではないかと・・・・
 花組やサイバーナイト達は、そのサポートとして呼びこまれた・・・・そう考えていた。
 「面白くないな・・・だが、今は!!」
眼前に、金色の脇侍が刀を振り上げて襲いかかってきた。
 脇侍が刀を振り下ろすより早く、ガルファーの槍が脇侍の顔面を捉えていた。
 「今は・・・帝都の為に戦う!それだけだ!」
悩んでいても今やることは帝都を救う事だ。誰がどう言う事を考えているかは解らない。なら今出来る事をやるだけだ。長船にはそのぐらいの分別はつけられた。

 「他の時代は、まだ比較的ヤツラの侵攻に抵抗できてるんダス。けどこの大正時代は、ヤツラのテストケースも含めてるらしいんで、結構戦力があるんダス。」
イダテンはこうも付け加えた。その為にガルファー達、比較的実戦経験が豊富な連中がこの時代に集められたと言うのだ。ちなみにセツナは、先程も述べたとおり、絶対存在と戦わなければならない為、スキルアップのために呼びこまれたそうだが。
 「じゃあ、この時代のヤツラを倒せば、俺達は元の時代に戻れるのか?」
太助がイダテンに尋ねると、イダテンは頷いた。
 なんでもイダテン達は、小型だが特殊な宇宙船を持っており(詳しく聞けば、どこぞの惑星の自警団所有の物を正義の名の元に接収(強奪)したらしい)、大正時代での任務が終了次第、ハル=バート達の勢力拡大阻止のため、次の時間軸へガルファー達を連れていく手筈になっているらしい。
 もし、大正時代で敵を取り残したりすれば、残党が大正時代を制圧し、それを足がかりにして他の時間へ大きく影響が出てしまう。
 この時代の敵対勢力は、この時代で全滅させなくてはならないのだ。

 「しっかし!そのアタイ達をこの時代に引きこんだ奴の正体はだれなんだ?説明もなしに、ああしろこうしろとよぉ!」
 翠がぶっきらぼうに尋ねたが、イダテンもそれだけは解らないとの事だ。とにかくイダテン達の上司(?)であるブラフマー様という神様を通して、依頼してきたと言う事だ。そのブラフマー様は正体を知っているようだが、頑なに詳細は教えててもらえなかったと言う事だ。
 「つまり、イダテン君たちは、それだけブラフマー様と言う神様を信頼していると言う事だな。」
ブレイドがそう言うと、理解できるような気がした。サイバーナイト達が指揮官であるブレイドを全面的に信頼していると同じように、イダテン達もブラフマー様の言う事が最善だと言う事が解っているから、余計な疑問も持たずに、信頼してこの時代にやってきたのだ。
 「とにかくダス。この時代での任務が終了次第、次の時代に連れていくダス。サイバーナイトの方には悪いダスが、少し遠回りしてもらうダス。けど、必ず24世紀に戻すって、ブラフマー様はおっしゃっているダス!」
 それを聞いて、キリが不服そうな声を出した。彼女は故郷に母親と弟を残しており、出来る事なら早く帰りたいのだが。
 「あんたらが一番強いからダス!」
この一言で、サイバーナイト達は納得した。



 「来おったか!」
天海は眉を細めた。だがすぐにいつもの表情に戻る。いまさら何をしようと言うのか。魔の力が満ち満ちている自分に勝てるとでも思っているのか。六破星降魔陣は既に完成間近。勝利は目前だ。
 目の前に忌まわしき色付きのデク人形が数体・・・そして、小娘二人・鎧武者二人・裸の男三人。そして銀色の戦士が自分を睨んでいた。
 「カカカ・・・・。身のほど知らずどもめ!間もなくこの帝都は、あるべき姿に戻る!再び正しき幕藩体制へとな!」


 「天海!貴様の好きにはさせない!我々帝国華激団の正義の力を見せてやる!」
大神が刀を付きつけて叫んだ。
 「幕藩体制なんて、時代錯誤もほどがあるぜ!」
太助が剣を構える。
 「貴方には・・・忌まわしい深闇の力を感じます!そんな闇の力を許すわけにはいきません!」
セツナが叫ぶと同時に、彼女の身体を華燐が覆った。
 「アンタを倒してさっさと元の時代へ戻りたいんでね!」
翠がぱちんと拳を鳴らす。
 「オラのハガネのごとき筋肉を見るダスっ!!」
イダテン&アドン・サムソンがポーズを決める。
 「行くぞみんなッ!!」
ガルファーの装甲が赤と白のストライプに変色する・・・・怒りの赤と正義の白が一つになっているのだ。

 「いい気になるなよ若造ども!見るがイイ!」
天海が叫ぶと同時に、天海の背後から金色の光がほとばしる。それは全項5m程の。人型蒸気としては大型の部類に入る黄金の魔操機兵であった。
 「これが我の『天照(あまてらす)』!!我の前には無力!!」
 天海の身体が、まるで天照の中へ吸いこまれるように消えた。次の瞬間、金色に輝く光線が大神達を襲った。

 「くそっ!負けてたまるか!」
二刀の刀を振りかざし、大神が突っ込む。天照が光線を大神の光武に向けて放ってくる。大神の突入を助けようとマリアの光武が右腕を振り上げる。マリアの速射砲が天照にむなしく弾かれる。大型だけあって装甲が厚い、だが効果はあった。
 天照の攻撃は、直線的なのだ。一直線上への攻撃は凄まじいが、その攻撃範囲は狭い。マリアの生んだ隙を付いて左右からセツナと翠が天照目掛けて剣と拳を叩きつけた。
 「くっ!硬ぇ・・・」
翠が拳を押さえながら顔をしかめた。拳を保護する為にファイティンググローブを付けてはいるものの、脇侍の装甲すら歪める己の拳が通じない。
 同じ事はセツナにも言えた。渾身の一撃が効果が薄い。そればかりか邪魔だっ!と言わんばかりに天照の巨大な腕が彼女達を振り払う。
 「あぶねぇっ!!」
翠をカンナが、セツナをサクラが、それぞれ庇う。光武に覆われている彼女達はともかく、生身の二人にはきついものがある。光武ではなんでもなくても、彼女達には致命傷になりかねない。
 「くっ!キャピ子ぉっ!!」
太助が叫び、キャピ子と太助が身構えた。巨大なジェノサイドすら倒した必殺のシュビビームだ。まばゆい光が天照に突き刺さる。が・・・やはり霊力を持たないシュビビンマンの攻撃では天照には効果が薄い。いくばくかのダメージは与えたようだが致命傷ではない。
 御返しとばかりに光線が二人に迫る。
 「やば・・・・」
キャピ子の顔が青ざめる。サイボーグとは言えコレをまともに食らえば致命傷だ。

 「ポージングバリヤアアア!!」
アドン&サムソンが、ガッ!とポーズを固める。オイルで輝く身体が光線を湾曲させ、シュビビンマンを守った。
 「アッシらが防御に徹している隙になんとかしてくだせぇ!!」
先程から、彼ら二人は防御に徹底している。強力なメンズビームが放てれば一撃必殺なのだが、チャージにはシュビビンマン以上に時間が掛かるうえに、天照はその隙を与えさせない。大きい割に小回りが効くのだ。
 「離れれば光線・・・近づけばあの腕が・・・打つ手無しか・・・」
太助が悔しそうにぼやく。しかも魔の力が開放に向かっている今、それを浴びて天照は自己修復を繰り返す・・・あいまいな手では効果が無い。
 「クソ・・・・どうすれば・・・」
 長船が歯を噛み締める。中距離からの攻撃ならどうだ!?と、すみれと共に攻撃を敢行したのだが、魔の力を帯びた天照は、ガルファーの槍を、すみれの薙刀を通さない。

 カカカ・・・・と天海が笑い声を上げた。恐らく勝利を確信しているのだろう。そろそろ花組達がうっとうしくなってきたに違いない。
 「見るがイイ!我が力をォォォ!!」
次の瞬間、天照の足元に金色の魔法陣が描かれる・・・・
 「六星剛撃陣ンンンっ!!!」
そして!地面から金色の光が周囲を照らす・・・・そう天照のごとく・・・

 「総員散開っ!!!」

その言葉が一瞬遅ければ、全員が巻き込まれていただろう。だが、余波だけでも恐るべき威力の攻撃だった。直撃は免れた物の、全員が傷だらけで横たわっていた。
 「しっかりしろ!大神君!」
ボロボロの光武を、青いパワードスーツ・・・・ブレイドのバトルモジュール、レックスが助け起こした。黒之巣会本拠の入り口で、沸き侍の足止めをしていたサイバーナイト達が、ようやく追い付いたのだ。先程の声はブレイドが発したものだ。
 「ブ・・・ブレイドさん。」
 「しっかりしろ大丈夫か?」
ブレイドは大神に気遣う一方で、部下達に指示を飛ばしていた。キリとクレインを天照の足止めに向かわせ、残りのメンバーで、花組達の救援にまわしていた。
 いつもの事にしろすごい・・・・大神は、ブレイドの指揮官としての技量に感心していた。
イダテンの話によれば、サイバーナイト達を、花組に最初に接触させるように仕組んだらしい。そうする事で花組のスキルアップを計ったらしいのだ。
 「正解だよ・・・」
痛む身体を揺り起こし、大神は呟いた。まるで隊長の御手本だ・・・大神はブレイドをそう思っていた。
 「動けるな?さあ!君達の正義を見せてやれ!」
傭兵という職業柄、『正義』と言う言葉にやや抵抗は感じるものの、今の大神達を鼓舞させるにはそれ以外イイ言葉が思い浮かばなかった。

 「ふんっ!鎧武者が少々増えた程度で我に勝てると?」
天海がサイバーナイト達を小馬鹿にするようにあざ笑う。だがのせられるブレイド達ではない。
 「貴様達も、我の前に屈せ!!」
天照が光線を放ってきた。まずは自分の目の前をウロチョロしているキリとクレインが標的だ。

 「あぶないっ!」
さくらが叫んだ。だが、予想外の出来事が起きた。キリとクレインのモジュール・・・サウルスの全面にいきなり銀色の膜が現れた。そして天照の光線を弾き返したのだ!!
 「なにっ!?どんなカラクリだ?」
 二人が張った銀色の膜・・・これは銀河中心で手に入れた対レーザー用の防御兵器『ミラーディフレクター』だ。その効果は、光学兵器を90%無効化する。
 天海が放った光線も霊力または妖力による物だろうが、光線には違いない。それなら防御する事はサイバーナイト達にとっては容易であった。
 御返しとばかりに2機のサウルスはナックルバスター・・・高電圧のパンチで天照を殴り飛ばす。大きさでは劣っていても、重量と装甲はサウルスのほうが圧倒的に上なのだ。加えて地球外の物質で装甲を補強されているバトルモジュールに、ただの鉄と鉛の合金に過ぎない天照の装甲が耐えられるわけは無い。
 「おのれっ!!」
怒りをあらわにする天海。だが優性に見えるサイバーナイトであるが、霊力を持たないが為、天照に対して有効打を与えられない。
 つまり、天海及びサイバーナイトはどちらにも決め手を与えられないのだ。

だが、サイバーナイト達が稼いだ時間は決して無駄ではない!!このチャンスを逃してたまるかッ!!
 そして、天海がそれに気づいた時は既に遅かった!!


 「妖晶剣っ!!」
セツナが剣を眼前に掲げ、術を唱えると、三人の半透明の妖精が天照の動きを封じた!霊力に近い力を持つセツナだから、天照を封じる事が出来るのだ。天照の動きが止まったのを確認して、2機のサウルスが天照から、離れる。何故なら次撃の翠が突っ込んできたからだ!

 「不韻流、穿霞(せんか)っ!!」
翠が天照に飛びげりを浴びせ、そのまま空中回し蹴りを、怯んだ所に再度思いっきり蹴飛ばした!その先には、シュビビンマンの二人が・・・今回はキャピ子が前だ。

 「シュビビームッ!!」
キャピ子の絶叫と共に、散弾状の光弾が天照をまるでラッシュを受けたボクサーのようにのたうった。だがそこへガルファーが突っ込む!ガルファーの拳は炎をまとっている。

 「ガルファー!!ナパーム・パンッチィィィッ!!!」
キャピ子の攻撃がジャブならば、ガルファーの攻撃は強烈なアッパーカットだ!ガルファーの渾身のパンチに天照の機体が持ちあがった。
 「今だっ!!」

 「隊長!」「少尉!」「大神はん!」「隊長!」「お兄ちゃん!」「大神さん!」
花組全員の霊力を全て大神に集中させた。大神の剣が霊力で、天照以上に光り輝く!
 「これが俺達、帝国華激団の正義の力だぁぁぁっ!!」
大神の剣が、天照に振り下ろされた・・・・


 大神の一撃は、天照を完全に粉砕した。そして、それに呼応するように六破星降魔陣は急速に力を失い、周囲が崩れ崩壊をはじめた。
次々に崩れ去る黒之巣会本拠・・・その中で、狂ったように笑う天海の声が聞こえたような気がしたが、轟音の中、すぐにかき消された。

 「いかん!総員退避だ!」
大神は直ちに退避命令を出した。全員が、それに従おうとした時であった・・・・

 「あれは!?」
ガルファーが声をあげた。それは、本拠の床に描かれた魔法陣。そう・・・魔を封じていた結界のような陣だ。
 声をあげたのは、それが輝き、陣の周囲が歪んで見えたからだ。
 「空間が歪んでいる?・・・・似てるぞ、鬼を封じた『時の空洞』に!」
その言葉に、シュビビンマン達が過敏に反応した。
 「って事は、これに入れば元の時代に戻れるわけか?」
 「解らない。もしかしたら天海の魔の力は、時の流れ・・・時空エネルギーが源だったのか!?」
長船の推測に、キャピ子が割り込んだ。
 「だったら、コレ封じなくちゃヤバイんじゃない?」
 全員が頷いた。あくまでも仮定だが、直接時の流れと関係無くとも、六破星降魔陣が時空に何らかの影響を及ぼしたとも十二分に考えられるからだ。
 「じゃあ・・・・私がやってみます・・・」
 セツナが恐る恐る陣に近づこうとした。だがそれを長船が止めた。
 「危険過ぎる!ここは俺が・・・」
と、言った次の瞬間、陣の周囲の崩落が激しくなった。今、自分達が立っている場所すら崩れ始めた!!

 「う!うわああ!!」
足場が崩れ去った太助が、悲鳴を上げた。そして転がり落ちるように陣の中に吸い込まれていった!
 「太助君!!」
ブレイドが叫ぶ間もなく、続いてキャピ子が、翠が、セツナが、そして・・・
 「うわああ!が!ガルファー号っ!!」
ガルファーもまた吸いこまれていった。愛車であるガルファー号も間に合わず、ガルファーは陣の中へ消えていった。そして数秒遅れて、主人の後を追うように、何処からとも無く飛んできたガルファー号も、歪んだ空間へと消えていった・・・

 「び!備前君ッ!!みんなっ!!」
大神が声をあげた。だが叫びむなしく、陣からは誰も戻ってこない。そして・・・・

ゴゴゴゴ・・・・地響きが止んできた。どうやらこれ以上の崩落は無いようだ。そして陣から発していた光も止み、歪んでいた空間も、元に戻っていた・・・・
 ダッ!と大神が魔法陣に駆け寄った物の、陣は何の反応も示さない。静にそこに在るだけだ。
 「みんな・・・・」


 戦いは終わった───六破星降魔陣は、その力を失い消え去った・・・・帝都は救われたのだ。
だが、花組は勝利に酔いしれる事がどうしても出来なかった。魔法陣に消えた仲間達・・・・
彼らの安否は・・・
 「本当なら・・・・みんなで勝利のポーズがやりたかったのに・・・」
さくらが悲しそうに言う。
 「お兄ちゃん。セツナ達は何処へ行ったの?」
アイリスが尋ねるが大神には答えようも無かった。

 「彼らが無事だと言う可能性は在ると思う・・・」
シャインがそう口を開いた。
 何故なら、自分達やガルファーは時空の歪みを通り抜ける事が出来たのだ。だが、何処へ飛ばされたかは全く解らない。そうなれば救助も出来ない。とは言ってもサイバーナイト達にすら時間跳躍は不可能なのだが。
 「できる事なら、飛ばされた先が、彼らの元いた時代である事を祈るだけだよ。」
丁度、帝都の空に朝日が昇り始めた・・・・
 大神は、消えた仲間達にも、輝く朝日が上がる事を祈るだけだった。

 「オラ達にまかせるダス!」
胸を張って発言したのはイダテンだった。そう言えばこの時代での任務終了後、彼らを元いた時代に連れ帰る事も、彼らの任務の一つであった。
 「オラ達が宇宙船で、みんなを探してくるダス。このままではオラ達も任務を継続する事が出来ないダスからね。」
 そう言って、ドンっ!と胸を叩いた。
 「本当に出来るのか?」
クレインが疑わしそうに見つめた。だが、他に方法も無い。ここは彼らを信頼するしかない・・・と、ブレイド。
 「なら!私達も!」
さくらが一緒に連れていって!と言うがイダテンは断った。花組は帝都の守りが最優先であるし、不用意に他の時間軸へ、大量に人間を連れて行く事は危険だからだ。
 サイバーナイト達はどうだ?と、尋ねる大神。24世紀の人間ならば問題無いだろうという判断だが、ブレイドがそれに反対した。
 ただでさえ23名しかいないソードフィッシュのクルーを裂くわけにはいかないからだ。イダテンが言うには、本来はここでサイバーナイト達を、別の時間軸へソードフィッシュごと連れていく予定だったのだが、ガルファーがいない為、ソードフィッシュを運べない・・・と言った。
 「ガルファーが・・・備前君が必要なのか?」
 「そうダス。オラ達の宇宙船は小型で、一度に運べる人間は限られるダス。だからソードフィッシュを運ぶのは、ブラフマー様が言うに、ガルファーの力が・・・・なんでも、ある要因を満たせばガルファー単体で時間跳躍ができるらしいんダス。」
 その言葉は、ブレイド達を驚かせた。ガルファーにそこまでの力があったとは・・・・長船が今後ガルファーを使いこなせれば、予想もしない力を発揮できる・・・そういうのだ。
 
 そして、数日後・・・・奥多摩に隠してあったイダテンの宇宙船が、陸軍の軍用地に運び込まれた。
 「んじゃ!任せるダス!」
その一言を残して、イダテン・アドン&サムソンの乗った宇宙船はその姿を消した。
不安そうに見送る大神は、仲間の安全を祈るばかりであった。
そして、平和を取り戻した帝都は、一時の平和がおとずれようとしていた・・・・・・・・・・



 「ここは・・・・」
太助が目覚めたのは、夕暮れの海岸であった。隣にはキャピ子が不安そうに太助を覗き込んでいた。
 「ねえ、太助。大丈夫?」
 「ああ・・・・ここは、商店街の福引で当ったリゾート地・・・か?」
その問いにキャピ子は頷いた。どうやら自分達が魔界ならびに大正時代に呼びこまれた直後ぐらいらしい・・・
 「ねえ、太助。戻って来れた・・・と言う事はさ・・・」
 「・・・・俺達の役目は、終わったってことか?」
日が沈みかけた海岸に、波の音だけが響いていた。



 セツナは、ベッドの上で目を覚ました。家に戻ってきた?と思ったが、すぐに違う事が解った。部屋の造りが全然違っていた。どこか、中世のお城を思わせる石造りの部屋の中にいたのだから。
 「ここって・・・・まさか。」
 そこへ青い髪をした少女・・・否少女のような容姿の少年が入ってきた。
 「あ!セツナさん気づかれましたか!良かったぁ・・・二日も寝ていたんですよ。」
 「アル・・・君?と言う事はここ、イ・プラセェルなの?」
アルと呼ばれた少年は頷いた。ここは異世界イ・プラセェル。セツナが本来なすべき事をなす為に召喚された世界。
 「本当に良かったですよ。神鏡(みかがみ)さんが、翠さんと一緒に倒れているところを連れてきてくださったんです!」
 「断罪さんが・・・?そうだ!姉さんは!?」
ベッドから飛び起きて、アルに詰め寄った。
 「翠さんは昨日目覚められて、その足で出発されました。セツナに先に行くぜ・・・って伝えておいて欲しいとおっしゃられていました。」
 それを聞いて安心したのか、セツナはもう一度ベッドにへたり込んだ。落ち着きを見せたセツナに安心したのか、アルは笑みを浮かべた。
 「しばらく休まれてください。あ・・・お食事持ってきますね。」
そう言って、アルは部屋から出ていった。
 しばらく黙っているセツナは、心で華燐に話掛けた。
 (華燐・・・・。)
 (なんですか?セツナ・・・)
 (戻ってきたと言う事は、今度こそわたし・・・)
 (ハイ・・・)
セツナの脳裏には、大正時代で敵の幹部が言っていた言葉を思い出していた・・・・
 『貴方は絶対存在と、戦わなければならない』
 (イハドゥルカ・・・・)




 すっかり日が沈んだ海岸・・・・・海岸に沿う海岸線道路、街灯の灯りが美しい・・・山と海に覆われた自然の景観が美しい街だった。
 長船は海岸に倒れていた。日が沈んでいるせいか人の通りは全くと言ってない。打ち寄せる波の音で長船は目を覚ました。
 「ここは・・・・何処だ?」
立ちあがった瞬間、身体中がズキリと痛んだ。天海との戦いのダメージが残っている。あれから幾ら時間が経ったかは解らないが、変身が解けていると言う事は、相当の時間が経っているのだろう。
 「痛ぅ・・・流石の俺も・・・」
痛む身体を酷使して、周囲を見渡す。幸いな事にすぐ傍に、自分のスクーターがあった。魔法陣に飲み込まれる瞬間に呼んだガルファー号が自分の後を追ってきたのだ。
 「とにかく・・・考えるのは後にしよう・・・身体を休めなければ・・・」
周囲の様子から、大正時代ではない。恐らく自分がいた時代とそう変わりない・・・と判断した。その証拠に大正時代では役に立たなかった、私物の携帯電話が動いているからだ。
 私物の類の殆どはバイクのキャリングスペースに入れてある。金銭はしばらく問題無い。ヨロヨロとバイクにまたがった。とりあえず街の方に出て、今夜の宿を取ろうと考えた。この身体では戦闘はおろか野宿は辛い。

 バイクのエンジンをスタートさせ、とりあえず海岸に沿って走り出した。きちんと近代的に舗装された道路を走るのが随分しばらくぶりに感じ苦笑した。
 しばらくして仲間の事が気になった。いや・・・目が覚めた時点で気にはなっていたのだが、現在の自分の状況を知るほうが優先だと判断して、考えないようにしていたのだ。
 「みんな・・・・どうしたかな・・・」
懐にいれてある勾玉は何の反応もない。周囲に仲間の存在は無いと言う事だ。

 そんな時だった。

キャー!!絹を裂くような女性の声───と、文章に表すのは簡単だが、まさに文字通りの絶叫が長船の耳に飛び込んできた。
 「・・・チッ、正義の味方は・・・・人命優先なんだよね・・・」
 そう苦笑して、声のした方向へ向けてバイクを走らせる長船。その途中で、背中に寒気が走った。この感覚は大正時代でも感じた事のある感覚だった・・・・そう降魔やインベイドと戦った時の感覚が。
 「この感覚は・・・まさか!」
悪い予感がした。そしてそれは当ってしまった。


 「こ!来ないでぇ!!」
 「こ・・・怖くないぞ!怖くなんか・・・」
二人の女性・・・・一人は眼鏡をかけた胸の大きい女性。年齢は二十歳ぐらい。
そしてもう一人は、作業帽を被り、上着のあちこちに工具をぶら下げている少女だ。年の頃は、16、7と言ったところだろう。スパナを手にして震えていた。
 彼女達の目の前には、鴉天狗(からすてんぐ)を近未来的にSFっぽくリメイクしたような、異形の存在。とにかく怪物と言って差し支えない存在がそこにいた。
 羽とは別に鋭いツメを伸ばした二本の腕を持ち、屈強な二本足で立っている。「ギッギッ」と鳴き不気味さを漂わせている。
 純粋な殺気を漂わせながら、ツメで首を掻っ切るジェスチャーを二人に示した。
 「あ・・・ああ・・・」
メガネの方の女性は今にも泣きそうな表情だ。もう一人の少女はスパナを握り締めたまま動かない、いや動けずにいた。恐怖で身動きが取れないのだ。
 「こ・・怖くなんか・・・ううう・・・」
腰も引けている。この状況では無理も無い。

 獲物が動けない事を悟ったのか、怪物は笑ったようなそぶりを見せると、ツメを翻して二人に襲いかかってきた!
 その時!
バイクの駆動音を響かせて何かが両者の間に割ってはいった。
 間一髪で二人を救ったのは、銀色に輝く装甲を着こんだ戦士・・・・ガルファーだった。


 眼鏡の女性は、この時の事を後に日記にこう記していた。
 「この時でした。私達の運命を大きく変える・・・銀色の戦士が現れたのは。」



次回予告
  

 現代に現れた異形の怪物、その正体とは!?二人の女性が長船の運命を大きく変える!!
 そして、倒した筈の魔の物がどうして現代に!?謎が謎を呼ぶ!
 慈愛を秘めた女性、「柊巴」彼女が背負う宿命!今こそ纏身だ!
 次回サイバーヒーロー作戦 第9話『メカ好きパートナー誕生!柊巴は変身姉御!?』にご期待ください!

 巴「この指輪で・・・纏身を・・・」 長船「指輪?ベルトじゃないの?」
 巴「違う・・・」 長船「流行りは携帯やカードだぜ!?」 巴「あぅ・・・」



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