第七話   「巨人と筋肉」



 

 ピッシャアアアンッ!!───
落雷にも似た衝撃が、地下格納庫を襲った。恐らく、先ほどの地震となにか関係があるのだろう。皆がそう思った瞬間だった・・・
 「きゃああああ!!!」
半ば狂乱じみた悲鳴が格納庫中に響いた。
 バタンッ───崩れ去る様にさくらが倒れた。今の悲鳴も彼女のものだ。
雷鳴で倒れるなんて、可愛らしいところもあるもんだな・・・・とは思えなかった。さくらは倒れた後、意識を完全に失っていたのだから・・・



 「やった!やったぞえ!天海様の勝利ぞ!わらわはうれしゅうございます!」
ほうほうで帝劇から脱出したミロクであったが、次の瞬間、更なる地割れと轟音に彼女は飲みこまれていった。しかし、帝都中を巻きこむ大パニックの中、それはほんの些細な出来事に過ぎなかった・・・


 黒之巣会の本拠地で、天海は笑っていた。
天海の切り札『六破星降魔陣』により、地脈は乱され、魔のエネルギーが帝都中に満ち、街は炎を上げ、人々は悲鳴を上げ絶望する・・・天海は愉快で仕方が無かった。
彼に幸せという感情があるのなら、今をもって他に無いだろう。
 「カカカカ!!見たか!これが悪しき西洋分化に汚染された帝都の末路だ!この力をもって、帝都をあるべき徳川の世に変えてやれる!」
 愉快に笑っている天海を冷ややかに見つめている二つの眼差しがあった。一つは葵叉丹。そしてもう一つは・・・・
 「GKとやらの使いよ!見たか我の力を!せっかく増援を連れてきてもらったのに、申し訳ないが必要無さそうじゃっ!」
 そう言って、叉丹の隣にいる若いタキシードの青年に笑いながら呼びかけた。
 「いえいえ・・・私は総統の命令に従って来たまでですので・・・」
タキシードの成年はそう言って薄く笑った。
 
 このタキシードの青年。そう・・・秘密組織『ジェネレーション・キル』の一員にして総統ハル=バートの側近の一人だ。
 30世紀の天才科学者ハル=バート。彼は時間跳躍の術を手に入れ、その力を野心の為に使用した。
その為、何者かが作った・・・・ハル=バート曰く「異次元人の女」が生み出した、初代ガルファーと戦う事となった。
 そして、ハル=バートは組織を壊滅寸前まで追いこまれ、異次元に閉じ込められた。そしてようやく力を回復し、今こうして多の時間軸に干渉している。
 この青年は、その過程で他の時間軸からハル=バートが実力を認め、配下にした人間の一人であった。
 彼は、ハル=バートほどではないが未来世界の出身で、その時代の政府を打倒する為の革命運動のリーダーだった。だが、余りにも危険思想の持ち主であった為、味方に裏切られ投獄されていた。
 だが、その時間軸に侵攻してきたGKに助けられ、唯一自分の思想に理解を示したハル=バートに心からの忠誠を誓ったと言う。
 彼は決して悪人ではなかった。礼儀や態度をわきまえてもいるし、何と言っても純真でまっすぐだ。彼は自分が正しい事を行っていると信じ、毛ほどの疑いも持っていなかった。彼の罪は、何が正しいのか判断する能力に欠如していた事・・・

 「ですが、天海様。この帝都にはまだ、ガルファーがいます。彼を見くびると・・・痛い目に会いますよ。」
その言葉に叉丹が同意し頷いた。
 「あの銀色の戦士か・・・。確かにな。それに帝国華激団がいる。追い詰められた手負いの獣は恐ろしい。」
 だが、天海は笑みを崩さなかった。華激団やガルファーがいかな存在であろうと、今の自分に対抗できるとは考えてもいない様だ。
 「カカカカ!心配は無用よ!じゃが・・・叉丹、貴様達の意見にも一理ある。陽動を兼ねて帝都を火の海に変えてやれ!そしてGKの使いよ、お主にも働いてもらうぞ。」
 「御衣に。それと天海様、これからは私の事は『レイピア』とおよびください・・・」
レイピア・・・細身の剣。確かに細身だが、鋭さを感じさせる彼に相応しい名だった。
 「外来語と言うのは、ちと気に食わんが・・・。まあいい、早速日本政府に降伏勧告でも付きつけてやるかのぉ。」
 天海はまたしてもその顔を緩めた・・・・




 「品川・・・浅草・・・築地・・・・何処をとってもひでえありさまだ。」
 帝劇地下司令室の外部モニターには、帝都各地の被害状況、そして炎に燃える町々が映し出されている。米田指令が悲観的になるのも無理は無い。
 「それに加えて・・・・天海は、政府に対して10億円ものお金と米田指令を差し出せ・・・とまで言ってきてるのよ。」
 藤枝副指令が、表情を曇らせて言った。
 「事実上の降伏勧告か。政府が降伏すれば、この日本は、トクガワ・・・とか言う19世紀の政府体制に逆戻り・・・と言うわけか。」
 クレインが他人事の様に呟いたが、その顔は真剣だ。彼はこのようなクーデターを数多く経験していたからだ。
 「これも・・・天海が言う『六破星降魔陣』ってやつの力か・・・魔の力を呼びつけるって・・・」
翠がそう呟いて、隣に座っているセツナを心配そうに見つめた。セツナは気分が悪いのか顔色が優れない。ずっとニジーナが寄り添っている。
 「セツナお嬢ちゃんは、花組に近い力を持ってるんだろ?その影響か・・・」
ヴィンドがそう言ってモニターを見ている。モニターには悲鳴を上げながら逃げ惑う人々が・・・・。彼にしてみれば見慣れた光景なのだが、やはり気分の良い物ではない。
 「恐らく・・・いえ、そうですね。地の底から深闇の力が感じます・・・・。震えが止まらない・・・」
 そう言ってセツナは両手を抱きしめている。身体が寒いのではない、精神に直接感じている影響かもしれない。
 「さくら君が倒れたのも、彼女と似たようなものですか?副指令。」
ブレイドがあやめに尋ねると、彼女は頷いた。あやめが説明するにはショックが大きすぎて、一種のトランス状態に陥っているらしい。身体は何ともなくても、精神的ダメージが大きいらしい。医療カプセルの中でずっと昏睡状態なのだ。
 「魔の者か・・・・こないだ相手したばっかなのによ。」
太助がぼやいた。科学的技術で構成されたサイボーグである彼とキャピ子が、何故黒之巣会に対抗できるのかは、いまだ解っていない。
 「どうにかしないと・・・・このままだと帝都は全滅だ。なんとかしないと・・・」
大神が拳を握り締めている。こうしてじっとしているだけでは我慢が出来ない。
 「しかし・・・このような状況、どうやって覆す気だ?普通の警察や軍の装備じゃ歯が立たないんだろ?」
クレインが大神に言いきった。確かにそうだ。この状況・・・・そして現在の戦力ではどうしようもない。
 「こっちの戦力は、光武が7・・・いや6か。それと僕達のモジュールが6・・・。これにセツナちゃんと翠くん。太助君にキャピ子さん・・・・」
 シャインが現在戦える戦力を提示している。
 「そして・・・俺か。」
長船が静かに呟くと、シャインは頷いた。
 「けどよ。長船の獣皇全部出しても、数の上じゃ6+6+2+2+1+6で、23だぜ!?これだけで帝都全域をカバーできるもんか!」
 クレインが半ば諦めがちに言い放った。確かにその通りだ。たった23の戦力で、帝都中の黒之巣会を倒せるわけは無い。
 「隊長・・・・」
マリアが不安な顔を大神に向けた。普段冷静な彼女も、この状況では弱気にならざるを得ない。
 「お兄ちゃん・・・それにブレイドのおじちゃん。アイリス達負けちゃうの?」
アイリスが今にも泣きそうな顔を示した。いや・・・アイリスでなくても泣きたくなるような状況だ。
 この状況に米田指令が「いいだろう!死に場所をくれたんだっ!」と、言い出したのを大神が慌てて止めた。だが、今の彼らにはそれしか手がない事も事実だった。
 「ブレイドさん・・・何か・・・何か、この状況を覆せる手は無いでしょうか・・・」
同席していた風組のかすみがすがるようにブレイドに話しかけた。
 その問いにブレイドはじっと黙り込んだままであったが、大神に視線を移して口を開いた。
 「手は二つある。」
その言葉に全員の視線が一斉にブレイドに集まった。
 「一つは、我々が総力を上げて帝都の守りを固める。ただし・・・時間が掛かるうえ、消耗戦になりかねない。そしてもう一つは・・・・」
 そう言って大神を見た。ブレイドには大神が「君には答えがわかっているんだろう?」と、目で語っていた。大神もブレイドの言いたい事は理解できた。ただ・・・言う為の勇気が出なかった。何故なら、それはとてつもなく危険で賭けに近い方法だからだ。
 ブレイドが後押ししてくれなければ、大神は口に出せなかったかもしれない。「これは・・・ブレイドが俺に課せられた課題の一つだ・・・」と、大神は理解し、勇気を振り絞って口を開いた。
 「敵の本拠を叩く。」
──『!!』
 大神の言葉に全員が言葉を失った。
 「奴等が術を完成させる前に、敵の本拠に突入し、天海を倒す!帝都を救うにはこれしか方法は無い!」
その言葉に、ブレイドは笑みを浮かべた。「やはり彼にはわかっていたか・・・」と。
 「確かに・・・それしかなさそうですね。」
マリアが一息ついてから言った。それにカンナも呼応する。
 「敵の急所を狙って、一撃必殺か。空手と同じだぜ!」
 司令室中が、活気に沸き始めた。確かにこのままに何もしないよりは遥かにマシだ。今、天海を倒せなければ今までやってきた事が全て無駄になってしまう。
 「『祈っている時間があれば前進せよ』・・・か。」
ブレイドは静かに呟き微笑した。
 「なんです?今の言葉は?」
セツナがブレイドに尋ねてきた。
 「ああ・・・聞こえていたかい?これは我々が銀河中心星域で出会った知性体が言った言葉さ・・・」
 「せかすようにも聞こえますけど・・・・良い言葉ですね。」
セツナの台詞にブレイドは苦笑した。

 「けど、肝心の天海は何処にいるんだ?場所がわからなきゃどうしようもないぜ。」
太助が言うと、紅蘭がピキ〜ンっ!!と、眼鏡を輝かせた。
 「大丈夫や!その為にウチらには蒸気演算機があるんや!」
紅蘭は、そう言って司令室のモニターに備えつけられたキーボードを叩き始めた。
 「蒸気演算機とソードフィッシュのMICAはんを連結したんや。これに霊子力レーダーを繋いで・・・」
そう言っててきぱきと作業する紅蘭。そして紅蘭はセツナを手招きした。
 「なんですか?」
 すると紅蘭は有無を言わせずセツナの頭にヘルメットのような物を被せてしまった。
 「な!なんですかコレ!?」
 「ソードフィッシュのメディカルルームにあったクローン再生用の記憶を機械に入力させる為の装置を一つ拝借して、それと似たような物をつくったんや。」
 するとニジーナが怪訝な顔をした。
 「ミューオンスキャナーのレプリカ?それとセツナが、どう関係するの?」
その問いに紅蘭はまたしても眼鏡を輝かせた。
 「そこや!セツナはんは、ウチらよりも『魔』に対しての反応が高い。そこでセツナはんを霊子力レーダーの増幅器代わりにして、霊視反応の感度を数倍にするんや!」
 「・・・・・わ、私はAVアンプですかぁ〜」
情けない声を上げるセツナに翠が笑っていた。
 「帝都のためだ。我慢しろセツナ。パーマ当ててるようなもんだからよ。」
 人事だと思ってぇ〜と、泣き声を出すセツナをよそに紅蘭はスイッチを入れた・・・・・

 「・・・・・・・・・・」
帝都全域を示すレーダーに、霊子力を示す赤い斑点が広がっていく・・・・
 「!!」
そして、品川にひときわ大きな斑点が示された・・・・

 「隊長・・・・」
マリアが大神を見た。大神は言うまでも無く頷いた。間違い無い!天海はここだ!
 「・・・・・・・」
大神は司令室中を見渡した。皆、大神の言葉を待っている。
 ポン・・・ブレイドが大神の肩を叩いた。
 「今、ここの指揮官は君だ。」
 「はい・・・・・・」
大神は、拳を握り締めて指示を出した。
 「帝国華激団出動せよ!目標、品川!天海を倒しに行くぞっ!」


 轟音を上げて出撃していく轟雷号を米田指令とあやめが静かに見送っていた。
 「立派になりましたね、大神君。」
あやめが微笑した。
 「ま・・・良い教官がついてるからな。」
そう言って、米田指令は一升瓶の酒を軽くラッパ飲みした。
 「・・・・大神を頼むぜ・・・ブレイドさんよぉ・・・そして・・・正義の味方ぁ。」



 品川───
この街も炎に包まれ、人々は逃げ惑っている。悲鳴と絶望だけが漂う負の場所・・・・
 「兄貴ぃ・・・・やめましょうぜ、こんな火事場ドロみたいな真似ぇ〜。」
筋骨隆々のスキンヘッドの男が、泣きそうな顔で兄貴と呼ばれた男・・・・イダテンを見つめていた。
 「何を言ってるダス!!ここんところ黒之巣会も鬼どもも、ぜぇぇんぶシュビビンマンとか言う奴等に取られて、オラ達はここんところ無収入なんダスよ!」
 そう言って無人となった商店に忍び込み、金品や食料を盗んでいた。とてもではないが『正義の味方』の姿ではない。
 「でも・・・ワシ等ぁ・・・正義なんですぜぇ・・・」
 「何を言うダスっ!また山の中でキノコかじって、夜露に身を震わせる生活に戻りたいんダスかぁぁっ!!!」
 
正義の慟哭だっ!!
 「こうでもしなけりゃ、オラ達は正義の名のもとに飢え死にダスッ!!大事の前の小事っ!これも正義ダスゥゥ!!」
 そう言って、次の店に足を踏み入れるイダテン。運の良い事に米屋だっ!
 「よし!まだ炒飯になってない米が多く有るダス!これは今週のオススメダス。」
 そう言って、店の奥から無事な米俵を担ぎ出す。勿論、筋肉の維持の為に精米されていない玄米を選んでいることも忘れない。
 渋々アドンとサムソンも続く。確かにこのところまともな食事を取っていない。このままでは筋肉の維持どころか生命の危機すらある。
 「よし・・・コレだけ有れば三日は大丈夫ダス。」
抱えられるだけ抱えて、店を出たイダテン一行。そこで・・・
 「おんや?」
彼等は、遠目に妙な一団が炎の街の中を進軍しているのを見つけた。
 「あいつ等は・・・・」


 「大神君。霊子レーダーの反応はこの辺りかい?」
先頭を歩いている大神の光武に、ブレイドのレックスが尋ねると、大神は頷いた。
 「間違い有りません。この辺りなんですが・・・」
しかし、周囲には何の気配も無い。だが、霊視レーダーには相変わらず強力な霊子反応があるだけだ。
 「もう少し進んでみましょう。」
 大神とブレイドを先頭に、一行は前進を再開した。
 (!?)
 (セツナ!)
セツナに突然精神的な声が呼びかけられた。これはセツナに憑依する意識体『華麟』の声だ。普段はセツナの深層意識にいるのだが、戦闘時はセツナの精神力を触媒に、彼女の身体を保護するバリアーとしての役割を持つ。
 「どうしたの?華麟。」
 (これは・・・・罠です!大きな・・・・大変大きな悪しき感情が・・黒い・・黒くて青い感情が!)
 「なんですって!」
セツナは慌てて先頭にいるブレイド・・・レックスの右足を掴んだ。
 「ブレイドさん!これは罠です!!」


 「気づくのが遅かったな。」
大神は、その声に頭上を見上げた。
 「貴様は・・・・葵叉丹!」
 そう・・・・彼等の目の前にいたのは、天海ではなく、黒之巣会の幹部、葵叉丹であったのだ。
 「貴様に用は無い!天海はどこだっ!」
大神の光武が叉丹目掛けて刀を突き付けて叫んだ。
 「ふ・・・・知る必要は無い・・・。何故ならお前達はここで死ぬのだからな・・・」
叉丹が軽く後ろを振り向くと・・・・・叉丹の後ろから・・・否!メンバー全員を取り囲む様に無数の脇侍と時鬼がざわめいていた。
 
 「こ・・・これは・・・」
シャインがうめいた。無理も無い、まるで帝都中に展開していた脇侍が全て集結したかのような数だ。30体や40体と言う数ではない。
 「す・・・凄い数だ。」
太助が剣を構えながらも冷汗を流していた。
 「まずいぞ・・・・。これだけの数・・・例え倒せても・・・」
ブレイドが大神を見た。
 「ええ・・・この後で叉丹と天海を叩ける余力は・・・無い。」
 だが、皆がそう思っている中で、長船だけは別のことを考えていた。それは脇侍の中に時鬼が混じっているからだ。しかも今回は敵幹部が目の前にいる。長船は決めていた。「この機会を逃す物か」と・・・

 「叉丹と言ったな・・・・そこの色男さんよ。」
長船がずいっと前に出た。皆が武器を構えて臨戦体制である中で、変身もしていないし銃も手にしていない。完全な無防備状態だ。
 「そっち系の女の子が見たら殺されそうな流し目だな。俺が女だったら惚れてたかもな。」
 駆る愚痴を叩きつつも、目は真剣そのものだ。
 「命乞いか?用件は何だ。」
叉丹がこれまた表情を変えず返答する。叉丹の方も長船の言葉が単なる冗談や命乞いでない事ぐらいは解っている
 「単刀直入に言おう。脇侍とは違う戦力・・・・俺は鬼と呼んでいるが、あれはお前達の戦力ではないだろう?」
 その言葉に叉丹は口元を緩めた。その仕草に長船は「やはりな・・・」と感じた。
 「こいつ等はどこの戦力だ?答えろ・・・少なくとも、この時代の兵器じゃない。もっと・・・未来の生物兵器の類じゃないのか?」
 長船の言葉に、花組が驚いていた。サイバーナイトやセツナ、シュビビンマン達が、自分達より未来からやってきたと言う事は解っていたが、まさか敵まで未来の存在とは・・・


 「流石ですね。正解ですよ、2代目ガルファー。」
叉丹の背後から、タキシードを着こんだ青年が姿を現した。叉丹も美男子だが、この男もなかなかのものである。
 「きゃ〜♪イイ男〜♪」
 キャピ子が吠えた。サイボーグとは言え彼女も年頃の女子高生だ。無理も無い。
 「美男子が二人も〜♪目移りしちゃう〜♪」
キャピ子の言葉に、タキシードの男が深深と頭を下げた。
 「ありがとうございます。お褒めに預かり光栄ですよ、お嬢さん。」
だが、キャピ子を無視して長船は更に前に出る。
 「俺の事を、2代目と呼ぶ・・・。先代ガルファーと関わりを持っていたのか?」
 「左様です。」
男はまるでホテルのボーイのように頭を下げた。
 「貴方はガルファー・・・・その『対時空兵器用マイクロマシンアーマー』を受け継ぎながら、先代の事をご存知無いようですね?宜しければご説明しましょうか?」
 「ああ・・・頼むよ。それとアンタの事もね・・・。出来ればあんたが所属する組織の事も知りたいんだが?」
 すると男は、またしても頭を下げた。
 「かしこまりました。冥土の土産・・・・と言うわけではありませんが、ご説明いたします。それから、私の事は『レイピア』とおよびください。」
 
 それから、レイピアは語り出した・・・・。自分が所属する組織の事・・・時鬼が自分達が開発した『インベイド・オーガ』と呼ばれる生物兵器であること・・・・
 「我々は、30世紀からやってきた、侵略組織『GK(ジェネレーション・キル)』。私はそこに所属する幹部の一人。私が唯一忠誠を誓う総帥『ハル=バート』様の側近。」
 「ハル=バート・・・・ソイツが俺が倒すべき組織のボスか・・・。地球人なのか?」
レイピアは頷いた。
 「左様です。30世紀で、時間跳躍の技術を持った総帥は、その力を持ってして全ての時間軸を自分の手中に収める為に活動なさっています。」
 レイピアの言葉に叉丹が僅かに顔をしかめた。だが、それ以上にショックが大きいのは花組やシュビビンマン達だ。
 「なんと・・・・時間全てを制する・・・」
 「天海が・・・小物に聞こえる台詞だぜ・・・」
マリアとカンナが冷汗を流しながら呟いた。
 「時間を往来できる技術・・・・理論は20世紀には出来ていたけど・・・実際に作ったって言うのか・・・」
シャインが驚愕していた。隣にいるヴィンドも同様だ。

 「貴方達の中には・・・・ガルファー同様、この時代の出身ではない方も多くいらっしゃる様ですね・・・」
そう言って、サイバーナイト達やシュビビンマン、セツナと翠に視線を移す。
 「2代目ガルファー・・・・貴方の装甲を作った存在は、前回の失敗を繰り返したくない様ですね・・・」
 「な・・・」
 レイピアの台詞に長船の片眉が動いた。
 「ガルファーを作った・・・存在・・・・」
天女の書には、『天女が作った』と、されている。だが、長船はガルファーが高度なテクノロジーで作られている事から、未来人ではないか?と仮定していた。
 「ガルファーを作り出した存在・・・・それは、我が総帥、ハル=バート様ですらその正体は掴めていない。」
 レイピアは目を細めた。その様子から、本当に知らないのだろう。マイクロマシンアーマーと言う実態も、恐らく高度な技術か何かで解析したのかもしれない。
 「我々は、この時間軸の存在ではない・・・・。もしかしたら別の宇宙、「並行世界」と言われる世界からの干渉者と、推測しています。ま・・・詳細は解りませんが、女性と言う事だけは判明しているんですがね。」
 「何故、女性とわかる?接触した事があるのか?」
 「はい・・・3度ほど。私は直接出会った事は無いですが、それはそれは美しい女性でしたよ。何と言うか・・・吸い込まれるような雰囲気を持っていられる女性です。」
 長船は、天女と称されていたのは、その雰囲気からか?と推測した。残念な事にガルファーの装甲から情報は引き出せないかと思って念じてみたが、装甲からは何の返答も無かった。

 「出会ったのは、お前達の組織の人間か?」
長船ではなくブレイドが尋ねた。時間跳躍の技術・・・・もしかしたら自分達にも関係が多いあると踏んだからだ。関係無くてもGKが持つ時間跳躍の技術を手に入れれば、元の時代に帰れる望みが出てくるからだ。
 
 「そうです。貴方がたは・・・・24世紀ごろの方々ですね。当時の記録に貴方達の名前がありましたよ。『ジャンプミスの傭兵部隊、奇跡の生還』と・・・」
 その言葉にブレイド達は目を見開いた。その言葉が事実なら、自分達は故郷に生還できていた・・・と言う事だからだ。
 「ですが・・・どうやら通常の時間の流れとは違う流れに乗ってしまったようですね。」
レイピアは冷ややかに言いきった。ブレイドは言葉の意味が理解できた。本来ならば自分達はバーサーカーを撃ち滅ぼした後、きちんと故郷に生還できていたのだ。これが歴史の本来の流れだ。
 ところが何らかの原因で、この大正時代に引き込まれた。銀河の中心で出会った超知性体メンターナは、『未来は霧のように曖昧だ』と言った。メンターナのような超知性体でも知性体・・・人間の運命だけは予測が不可能に近いと言う。
 歴史の流れは木に似ていると言う。つまり過去から現在までは一本で続いているが、未来は無数に枝分かれしている。枝が何処へ向かって伸びるかは予測できない。
 つまり、この場合ブレイド達は『地球へ生還する』と言うルートには乗ったものの、その先の分岐点、『24世紀』への路線ではなく、『大正時代』という路線に乗ってしまったと言うのだ。
 恐らくセツナやシュビビンマン達も、ほぼ同様の理由だろう。ブレイドはそう仮定した。

 「お話を戻しましょうか。」
レイピアはブレイドのレックスをじっと見つめながら言った。恐らくこのメンバーの中でリーダー格と感じたのかもしれない。もちろんその通りなのだが。
 「今から数年前・・・・、とは言っても我々の時間でですがね。ハル=バート様率いられる我々GKは、生体兵器インベイドオーガを用い、30世紀から時間の流れに乗り、この時代から数百年前の・・・そうですね飛鳥時代でしょうか・・・」
 長船の眉がまたしても動いた。飛鳥時代・・・・近江の方で天女の羽衣と言われる伝説があったとされる時代だ。間違い無い・・・長船は確信していた。
 「別に、その時代を狙って襲撃したわけではありません。我々は時間軸を自由に移動できる術を持っていますからね。さまざまな時代に侵攻していたんです。」
 「その女性が現れたのが・・・たまたま飛鳥時代だった・・・と?」
長船の問いにレイピアは頷き、言葉を続けた。

 GKは、さまざまな時代に侵攻してた。これは時間跳躍とインベイドオーガの実験の意味合いも強く、本番前のリハーサルと言ったところらしい。
 飛鳥時代に侵攻したのは、高度なテクノロジーを持っていないためだ。例えオーガが敗れたとしても戦闘等での損傷等でその時代にオーガや跳躍機等のオーパーツを残す事になっても解析できないからだ。
 加えて、当時の人間たちにとっては生体兵器など理解できうるも無い。神や悪魔としか見えないはずであるから、歴史に大きな干渉も与える事も少ないからだ。
 「人類が高度な文明を持つ以前の時代で、我々の実験はほぼ成功していました。推測の通り、高度な文明を持つ前の時代でならば、時間と空間に与える影響も少ない・・・・。確信を得た我々は、いよいよ高度な文明を持つ時間軸に侵攻しようとしていたんです。」
 そこでレイピアの顔が僅かに曇った。言葉が進行形ではない、過去形だ。長船には何が起きたのかが容易に予測できた。
 「ガルファーを作った・・・女性が現れたんだな?」
 長船の言葉にレイピアは頷いた。
 「飛鳥時代で実戦テストを終えようとしていた我々の前に、何処からとも無く現れました。高度な技術を有している事は一目で解ったそうですよ・・・。ガルファーに似た装甲を身にまとっていましたから。」
 飛鳥時代に現れたその女性は、最後まで名を名乗らなかった。名称不明のまま謎の女性はGKと戦ったと言う。そして態勢の不利を悟ったGKは飛鳥時代より撤収した。だが他の時間軸に侵攻していた部隊にも、その女性は姿を現した。
 GKは驚いた。まさか自分達以外にも時間跳躍の技術を持つものがあろうとは・・・。加えてその女性はこちらの時間跳躍の移動先や侵攻先を感知できる能力まで持っていたのだ。明らかにこちらと互角以上の技術力を持ち合わせている。
 GK・・・ハル=バートは、自分達以上の未来からの者か?と推測した。そうとでも考えなければ納得がいかない。恐らく未来には歴史の秩序を守る組織か何かが存在していて、女性はそのエージェントだと。
 ハル=バートは僅かに焦ったと言う。何故なら過去に行く事は簡単なのだが、自分達が存在している以上の未来に行くことは不可能だった。
 簡単に言えば自分達が存在している30世紀より未来に行く事は自分の技術では難しいのだ。歴史は進行方向に次々に繋いでいく未完成の線路のような物、既に繋がれている過去のレールに乗ることは簡単だし、逆はレールを辿ればいい。
 だが、未来はそうはいかない。未来は不確定要素の多い確率の世界。何処へ進むかは誰にも解らないのだ。
 ハル=バートの技術なら行けない事も無いのだが、それは数ある選択肢の中の一つの未来の路線である為、どんな未来に辿りつくかは予想が出来ないのだ。ハル=バートのような頭のいい人間が、そんなリスクの大きい事をする訳は無い。
 「それならば、その女性がやってきた未来のルートを辿ればよかったんじゃないか?」
ブレイドが尋ねるとレイピアは首を横に振った。ブレイドは察した、不可能だったのだろう。それはそうであろう。帝国華激団が自分達の基地を必死に隠しとおそうとしていると同じ事で、誰が自分達の本拠が何処にあるかなど、物証を残す筈が無い。原理は不明だが自分ならそうする・・・とブレイドは考えた。

 「激しい戦いでした・・・。その戦いの末、我々は戦力の大半を女性との戦いに費やしてしまった。」
2年に渡る戦いの果て、ついにGKは女性を倒す事に成功した。正確には殆ど相打ちのような状態だったらしいが。
 だが、女性は生きていた。彼女は命からがら他の時間軸へ逃れ、GKから姿を消した。
そして女性がいなくなったのを好機とし、GKは戦力の回復を図り始め、そして女性との戦いの教訓を生かし、新たなインベイドを開発、文明のそれほど発達していない時代にテストの意味で送りこんだ。
 「ですが・・・・送りこんだ先の時代で私達は予想もしない敵に遭遇しました。」
言葉と同時に長船を冷ややかに見つめた。

 「先代ガルファーか。」
長船が言うとレイピアは頷いた。
 送りこんだ時代・・・・長船には予想が出来た。恐らく数百年前の日本・・・・長船が駐在として勤務していた村の伝承に伝わっている時代だろう。
 
 GKには予想も出来なかった敵だった。あの女性が、逃れた時間軸の人間と接触し、そして子を生していたのだ!
 その子こそ、長船の先代、初代ガルファーだった。レイピアが説明するには、少しばかり形状が違うものの、長船のガルファーと差ほど変わりない姿だったそうだ。
 そこで始めてGKに対してガルファーと名乗ったらしい。

 「そして・・・我々の戦力の疲弊、ガルファーが母親である女性ほどの力を持っていなかった事も含めて、戦いは1年で終わりました。その後・・・我々は女性が作った封印により、時間軸に侵攻できなくなりました。つい最近まで・・・」
 長船には、皆まで言わずとも理解できた。村の伝承に伝わっているとおりだからだ。先代ガルファーが、母親ほどの力を持っていなかった・・・つまり長船も試した事の無い、ガルファー最終形態への変身だ。
 最終形態がどれほどの力を持っているのかは解らない。だが先代はそれが出来なかった為に母親を犠牲にしなければならなかった。
 自分は、それすら超えなければならない・・・長船は拳を握り締めた。

 「先ほど・・・先代の失敗を繰り返したくない・・・と言ったが、それはもしかして我々の事ではないのか?」
ブレイドがレイピアに向かい言い放った。その言葉に全員が目を見張った。ブレイドは何を言ってるんだ?と・・
 「君の話を聞いていると、なんとなく想像が出来たんだが、先代ガルファーや君達を封印したその女性・・・この二人は、それぞれ一人だけで戦っていたように聞こえた。」
 ブレイドの言葉に、皆が「ああ・・・」と何か感づいたような表情を見せる。
 「一人で戦っていたから・・・・完全には倒せなかった。戦力不足だったと言う事ですか?」
大神がブレイドに言うと、レックスの頭部が頷いた。
 「つまり・・・その女性は、死んでいなくて実は生きていて、GKを倒す為にガルファーの増援として我々をこの時代に・・・と言う事ですか?」
 クレインがブレイドに呼びかけた。もう一度レックスの頭部が頷いた。
 「我々より進んだテクノロジーを持った存在だ。我々をこの時代に呼び込むなんて簡単な事なのかもしれないな。」
 もちろん、これはブレイドの仮説に過ぎない。だが確信に近い気がした。そう考えれば全てに納得がいく。

 「私もそうだと思いますよ。ハル=バート総統も、そうおっしゃられておりました。あの女は生きている・・・と。」
 レイピアは平然と言いきった。

 「そうとなれば・・・・・」
太助がレイピアを睨んだ。
 「お前やお前さんのボスを倒して、さっさと元の時代に帰らせてもらうまでだっ!!」
太助が剣を構え、飛びかかろうとした。だがそれをセツナが制した。
 「邪魔すんな!お前だって元の時代に帰りたいだろうが!」
 「待ってください!周りを見てください!今ここであの男性二人を倒したところで、我々の不利は変わらないんですよ!」
 セツナが言うのはもっともだ。長船達は数十体・・・いや百以上はいると思われる脇持とインベイドに囲まれているのだ。一転突破しようにも数が多すぎる。

 「流石ですね。素晴らしい状況把握能力だ、『絶対存在』と戦う為に選ばれた一人に相応しいですよお嬢さん。」
 レイピアの何気なく言った言葉にセツナは驚いた。見れば隣にいる翠まで驚いている。何故この男から絶対存在・・・イハドゥルカの名前が出たのか・・・
 「驚く事はありません。貴方達が敵対する絶対存在は、多次元に存在します。我々も接触した事がありますよ。その際・・・赤いコンバットスーツを装着した青年が戦っていましたがね。」

 「断罪さんだ・・・」
 セツナはそう呟いた。
 「え?断罪って、あの正義の味方?アイツイイ奴なんだけどな、少なくとも慧矢よか遥かにマシだけど。」
 どうやら翠もセツナの会った事のある人物と接触したことがあるらしい。

 「さて・・・・お喋りが過ぎましたね。そろそろ攻撃に移らせていただきますが、よろしいですか?」
レイピアが、片手をあげた。それに呼応して脇侍とインベイドが一斉に身構えた。次の合図で一斉に攻撃を仕掛けてくる事は間違い無い。そうなれば長船達に勝ち目は無い。
 「くそ・・・・」
太助が悔しそうに歯を食いしばった。
 「玉砕覚悟で・・・・いや、皆!最後まであきらめるな!チャンスはある!」
大神が皆を激励するが、どうしようもないのは目に見えている。この状況を覆す手段は無いに等しかった。

 だが、奇跡は起きた。突然の轟音と共に敵の一角が崩れ落ちた。長距離からの砲撃だ。
地面全てを揺るがす砲撃音と振動に、脇侍達がなぎ倒されていく。
 「翔鯨丸だ!」
 爆発から生じる破片や炎からセツナと翠を守っていた大神が声をあげた。上空に帝国華激団が誇る装甲飛行船翔鯨丸が待機していた。先ほどの砲撃は翔鯨丸からのものだ。
 翔鯨丸からの支援砲撃により、崩れた敵の包囲陣の一角に、ピンク色の機体が舞い降りた。言わずもがな真宮寺さくらの光武だ。
 「皆さん、遅くなりました!大丈夫ですか!?」
ピンクの光武からさくらの声が響く。

 「ナイスタイミングだ。助かったよ。」
ブレイドが笑みを浮かべた。
 「良かった、さくらさん目を覚ましてくれたんですね。」
 大神の光武に抱かれているセツナが微笑んでいた。その光景に少しばかり嫉妬心を覚えるさくら。だがこの場合は我慢する事にした。
 「大神さん。皆さん。天海の居場所が解りました。急いで撤収してください!」
 「何だって!!」
大神が声をあげた。霊子レーダーの測定ではここが一番高い反応を示していたのに・・・
 「詳しい事は後です!早く翔鯨丸に!」
さくらが声を荒げた。確かにその通りだ。今こうしている間に被害は拡大する。今やる事は叉丹やレイピアを相手にする事ではない。
 「よし!総員撤収!急いで翔鯨丸に搭乗!!」
大神が檄を飛ばす。崩れた包囲陣を突き進み、翔鯨丸から下ろされた回収用ワイヤーの元へ走る。垂らされたワイヤーの側にはさくら機が護衛している。今がチャンスだ。

 「そうはさせません!」
レイピアが叫び、インベイドをけしかける。長船達に一斉にインベイドが駆け寄ってきた。

 「・・・・・・・・・」
長船が足を止めた。そして進行方向から逆の方に駈け出した。そして体が銀色に輝く、変身だ!!
 「長船さん!」
 「備前君!何をする気だ!」
 長船・・・ガルファーは腰を叩くと、ベルトから警棒を取り出した。一振りすると警棒は槍に姿を変えた。今回は両端に刃のついた長刀状ではなく、片方の先端に鋭い切っ先がついた通常の槍形態だ。
 「ここは俺が食いとめる!!皆は行ってくれ!」
 ガルファーは槍を構えて無数の脇侍とインベイドに踊りかかっていった。
 「元々コイツ等は俺の敵だ!皆は天海をっ!!」
 「けど・・・・」
ためらう大神。無理も無い、幾らガルファーでもこの集団を相手に無事でいられる保証は無い。自分達が天海を倒すまで持ちこたえられるわけは無い・・・
 ガシッ!!───大神の光武の肩をレックスの腕がつかんだ。

 「いくぞ。」
 「ですが・・・ブレイドさん。」
 「そうや!備前はんを残して・・・」
 「そうだよ!備前のお兄ちゃんが!」
花組が躊躇いの声をあげる中、レックスの腕が半ば強引に大神の光武を引っ張る。「行くぞ・・・」と無言で言っているのだ。
 「君は、備前君を信頼していないのか?」
 ブレイドは大神にそう言った。信頼・・・・ブレイドがもっとも大事にする言葉だ。
 「備前君は、我々が天海を倒すと信頼しているんだ。それまでは必ず持ちこたえる。我々はそれを裏切るわけにはいかない。」
 ブレイドはそれだけ言って腕を放した。大神は一瞬目をつぶった後、ブレイドの後を追って駈け出した。
 「総員!翔鯨丸に搭乗せよ!!」
大神は振り絞るように叫んだ。それを聞いて、長船はヘルメットの中で微笑する。普通の人間ならここで長船を見捨てて逃げ出すと思うだろう。
 だが長船には解っていた。先ほどの大神とブレイドのやり取りを聞いていたからだ。
 仲間を心から信頼しているから、このような事態でも戦えるのだ。何かあっても仲間が必ず何とかしてくれる・・・そう思っているから、この場に残る事が出来るんだ・・・。ブレイドは大神にそう伝えたかったのだ。
 信頼・・・ありきたりな言葉だが、これが最も重要な協調関係を生むのだ。

 「そうは・・・・いきませんよ。」
レイピアが不適に微笑んだ。
 不審に思うガルファーをよそにレイピアが指をパチンと鳴らした。

 「!!!!!!」
突然、周囲に地響きと轟音が響いた。次の瞬間、レイピアの背後に巨大な・・・そう巨大な影が現れた。
 そして、影からいきなり炎が走った!巨大な火炎弾が翔鯨丸の気球の装甲を襲った。

 「そ!上部装甲被弾!気球から空気が漏れています。高度を維持できません!」
操舵主を務める藤枝副指令が悲痛な声を漏らす。
 必死に操舵輪を握り締めながら、翔鯨丸を不時着の態勢を取らせる。さらに次の攻撃が飛んできた!
なんとか回避するが、片方の推進用プロペラを破壊され、スピードが著しく落ちる。


 「あ!あやめさん!米田指令っ!!」
大神が空に向かって悲痛な声をあげる。翔鯨丸はふらふらとしながらも高度を下げ、なんとか着地には成功した。だが、ゴンドラ部分はかなり破損しており、気球部分の装甲があちこち剥げていた。気球に大穴が空かなかっただけ幸いだ。
 「な・・・なんなんだ・・・今の攻撃は!?」
大神が火炎弾の発射された方向を向く。そこには・・・・
 「!!」
大神が息を呑んだ。いや・・・大神だけではない。花組のメンバーもサイバーナイト達、シュビビンマンやセツナと翠まで驚愕の表情だった。
 レイピアの背後から現れた影・・・・そこには、予想も出来ないような敵がいた。

 「な・・・・・」
大神が息を呑むのも無理も無かった。彼等の目の前にいたのは50mはあろうかという巨大なインベイドだった。しかも・・・5体も!
 「こ・・・こんな巨大な物が・・・・」
 ガルファーの槍を持つ手が震えた。外観自体は今まで相手にしてきたインベイドの外装をややメカニック的にカバーしたという感じだが、大きさが違う。近くにある建物が小さく見える・・・・それほど巨大なのだ。しかも一体ではない。5体もいるのだ。


 「いかがですか?これが女性との戦いの教訓を生かして開発された地域殲滅用のインベイドです。我々は『ジェノサイド・オーガ』と呼称しています。」
レイピアの勝ち誇ったような口調が憎らしかった。勝利を確信しているのかもしれない。それはそうであろう、一体ぐらいなら何とかなるかもしれないが、5体もいるのだ。
 普通、相手を確実に倒す為には相手の3倍の戦力がいる・・・と言われている。これは3倍どころではない、5体も連れてきているのは、より確実性を増す為だろう。
 「それだけ・・・ガルファーを恐れているのか・・・」
逆を返せば、その通りである。だがどうしようにも、この巨大なインベイド5体も相手に勝つ自信はまるで無い。加えて通常のインベイドすら100体近くいるのだ。
 絶望感が皆を襲った。
 「負けたか・・・・」
 大神が力なく呟いた。言いたくなる気持ちはわかる。他のサイバーナイト達でさえ顔色が変わっているのは解るぐらいだ。
 
 「おい・・・・一体ぐらいは何とかできるかもしれない。その間、ザコを押さえておいてもらえるか?」
絶望感の漂う大神に声をかけたのは意外にも太助だった。すぐ後ろにはキャピ子もいる。
 「なんとか・・・できるのかい!?」
大神の言葉に太助は頷いた。
 「元の時代で、これぐらいある奴を何度か倒した事がある。ただ・・・そいつ等と同じ位の強さと仮定すれば・・・の話だけどよ。」
 「何でもいい!やってくれ!ザコを押さえておけばいいんだな?」
 「ああ・・・・俺とキャピ子の力合わせれば・・・ただチャージに時間がな・・・。加えて一発撃ったら再チャージに時間が掛かる。隙もデカイし・・・」
 「構わない!何とかする!」
その声に、沈黙していたブレイドも声をかけた。
 「私の方でも何とかできるかもしれない。一体なら。」
 「本当ですか!」
ブレイドの言葉にヴィンドが慌てた。
 「コマンダー!ひょっとして『ディスインテグレイター』を!?」
 「それ以外にあるか?」
 「解りました。生き残る為ですからね。」
ヴィンドの様子に、妙な雰囲気を感じたセツナがシャインに声をかけた。
 「なんですか?ディスインテグレイターって?スゴイ武器なんですか?」
 シャインは、少し躊躇った後口を開いた。
 「僕達が、銀河中心で手に入れた武器の中で最強の武器・・・・分子分解砲だよ。」
その言葉にセツナは声を失った。

 「よし!太助君とキャピ子君の充填が完了するまで、みんなはシュビビンマンの護衛!ニジーナさんとシャインさん、アイリス、紅蘭は翔鯨丸から米田指令達の救出!いくぞ!」
 大神の激が飛ぶ!先ほどとは打って変わった表情に皆が活気付く。
 (よし・・・リーダーとして成長してきたな大神君)
 レックスの左肩のロケットランチャーを緊急排除し、後方の部隊にオプションを持ってきてくれるのを待つブレイドは、心の中で呟いた。
 (だが・・・・どこまでやれるか・・・)
迫りくるインベイドの群れに向かうメンバー達を見て冷たい物が流れるのを感じるブレイドであった。モジュールの中では、汗はぬぐえない・・・・


 「ほう・・・あきらめないと。見上げた執念ですね。奇跡でも信じているのでしょうか?」
大型インベイド・・・・ジェノサイドの火炎弾攻撃の中、必死にザコからシュビビンマンとレックスを守って戦うガルファー達を見て、レイピアは呟く。
 「ですが・・・どこまでもちますかな?」


 長船は悔しかった。槍を振るいながら既に10体以上のインベイドを串刺しにしながら、己の力の無さを嘆いていた。
 インベイドと・・・GKと戦うのは本来自分の役目である。だがその本人が、この巨大なインベイドに対して何の手段も無いのが悔しくてならなかった。
 「くそっ!!」
キャピ子に襲い掛かろうとしたインベイド数匹をまとめて串刺しにするガルファー。他力本願・・・・仲間の事は信頼しているが、人任せにするというのが長船が最も嫌う事であった。
 自分の仕事を他人に取られて悔しいのではない。自分が仕事をこなせないから、それを仲間に押し付けているような気がして、それが悔しいのだ。
 「畜生・・・っ!!」
損傷した翔鯨丸から、シャインやアイリスに支えられて米田指令と藤枝副指令達がようようと這い出してきた。大きな怪我はなさそうだが、ニジーナが傷を見ている。
 「無事か・・・あぶねえっ!!」
 米田達にインベイドが数匹襲い掛かろうとした。とっさに駈け出し、槍を投げた。
槍は正確にインベイドを貫いた。腰を再度叩き、剣を取り出し進行方向にいるインベイド数匹をなぎ払う。
 「大丈夫ですか!!」
 「ああ・・・助かった。陸上競技の経験でもあるのか?見事な槍投げだったぜ。」
 米田のジョークにガルファーは苦笑した。米田が一瞬苦痛そうな表情を見せたので、装甲の色を紫色に変えた。癒しの力を持つパープルガルファーだ。
 「ああ・・・たいした事はねえからいいぜ。それより・・・話は俺も聞いた。アレがお前さんの倒すべき存在だってな?」
 「はい。」
 「それなら・・・お前さんにもああいうのに対抗する力とかは無いのか?」
 「え?」
米田の言葉に、はっとするガルファー。米田の言葉を補足するように藤枝副指令が口を開く。
 「さっき、あのレイピアとか言う男が言った言葉を覚えている?『女性との戦いの教訓を生かして開発された・・・』って。」
 藤枝副指令の言葉に、ガルファーは腰から天女の書を取り出した。ガルファーに関してまだ解らない事が多いので常に携帯しているのだ。もっとも戦闘中に閲覧している余裕なぞ無いが。
 「つまり・・・・先代ガルファーには、ああ言う巨大な敵に対する手段があったと言う事ですか!?」
藤枝副指令は頷いた。
 「女性との戦いを教訓に・・・と言う事は、初代ガルファーに対してのものじゃ無いと思うの。つまり先代ガルファーには対抗する術があったと考えてみるべきよ。貴方がまだ完全にガルファーの力を発揮していないから、今のうちに完全に叩き潰そうと思って、あれを投入したと考えていいわ。」
副指令はそう言って天女の書を示した。まだ読んでいない部分も多い。この中に対抗する術がある・・・といっているのだ。
 「私が読んでみるわ。とにかく今は太助君たちの護衛に向かいなさい。」
 「読めるんですか!?それ古代文字ですよ。」
 副指令は微笑んでガルファーから天女の書を受け取った。
 「あら?貴方よりは日本史には強いわよ。」
 『副指令が無理なら私が読みます。』
 近くにいたシャインのウィナーからMICAの声がした。長船は微笑して頷いた。

 「みんな!俺達の前から避けろっ!!」
太助の声が響いた。見れば太助とキャピ子が縦一列に並び、体が金色に輝いている。ブレイドには解った。エネルギーのチャージが終わったのだ。そして体が輝いているのは体内の機械部分から発生する熱を光に変換して放射しているからだ。機械だけで光学兵器を放つサイバーナイトとは違い、二人は生身と機械の融合体なのだから、熱の放射は光に変換しないと、とてもじゃないが間に合わないのだろう。
 「やるぞキャピ子ぉっ!!」
 「OK!!」
キャピ子が自分の目の前の太助に向けビームを放った。それもいつもより強力な・・・エネルギーを通常以上にチャージして放つ・・・シュビビームという光学兵器らしい。
 キャピ子の放ったビームが太助を包む込むと同時に、太助の両手から凄まじい光の濁流が放たれた!
その光景に、敵はおろか味方すら震えた。
 「す・・・すげえ・・・まるで戦艦クラスのビームだぜ。」
クレインが驚きを隠せなかった。まさか170cmそこそこの男女からここまで強力なビームが放てるとは思わなかったからだ。
 これぞ、シュビビンマンの最強の武器『合体シュビビーム』だ。フルチャージしたシュビビームをパートナーにぶつけ、さらに増幅して放つのだ。
 太助が前に出れば、貫通力が高く。キャピ子が前ならば拡散となり広範囲に攻撃が出来る。ただしチャージに時間が掛かる上、チャージ中は完全に無防備なので隙も大きい。加えて二人のタイミングが合わないと、どちらか片方がエネルギーを放射できずに炎に包まれてしまう。
 だが通常のシュビビームの2倍・・・いやそれ以上の威力を持つのだ!

 ボッ!!!───放たれた光線は、射線上にいた無数のザコをも巻き込み、ジェノサイドの一体の胴体を貫いた。
 「グオオオオオ!!!」
断末魔の叫びをあげ、ジェノサイドの巨体が燃え広がり、その場に崩れさった。
 「くっ!!だが・・・そんな攻撃連発は不可能でしょう!焼け石に水です!!」
一瞬ひるんだレイピアだったが、すぐにもとの平静さを取り戻し、ジェノサイド達に攻撃を続けさせた。一体倒されたところでこちらの優性は変わらないのだ。
 だが、もう一体のジェノサイドが突然、全身を青白い火花に包まれたと思うと突然内部から破裂したように爆発した。
 レイピアが慌てて周囲を見渡した。すると巨大なジェノサイドからは死角になる位置に、青いパワードスーツが左肩のランチャーを携えていた。
 「くっ・・・分子分解砲・・・・。迂闊でした、貴方がたは異星人のテクノロジーを有していたのでしたね。」

 残りのジェノサイドは3体。ザコのインベイドも半数近くが残っている。加えて天海の六破星降魔陣の影響か脇侍の力も強く感じられる。グズグズしていては天海に帝都が乗っ取られてしまう。
 だが、翔鯨丸が損傷し、周囲を包囲されたこの状況覆す手段は、殆ど無い。
シュビビンマンのエネルギーチャージには時間が掛かるし、ディスインテグレイターは一回に一発しか撃てない。
 脅しになるかと思い、隙を突いて突破しようとも考えた大神だったが、不可能だった。レイピアもシュビビームとインテグレイターが連発できない事を早々と悟っていたようだ。
 「残る可能性は・・・・」
 シャインとアイリス達に護衛された藤枝副指令が必死に天女の書を読んでいる。ガルファーにこいつ等に対抗する手段があることを祈るばかりだ。
 「ぐわっ!!」
 ジェノサイドの火炎弾が大神を襲った。直撃は避けたが爆風に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。幸い大きな損傷は無いが、このままでは天海と戦えなくなってしまう。ブレイド達もミサイル類などのオプションをかなり消耗している。足止めすら危うい状況だ。
 「きゃあああ!!」
 「!!」
甲高い悲鳴が響いた。さくらの声だ。大神がさくらの方へ向くと、巨大なジェノサイドの火炎弾を浴びたのだろうか、さくら機の光武の装甲があちこち焼け焦げていた。
 となりに倒れたオレンジ色のバトルモジュールが見える。クレインのウィナーだ。恐らくさくらと臨時でペアを組んでいたのだろう。ウィナーの装甲も焼け焦げていた。
 「ふぃ・・・フィールド張ってなかったら、し、死んでた・・・」
無線から弱弱しいクレインの声が聞こえた。フィールド・・・バトルモジュールには防御用のバリアーの発生装置が組み込んである。異星人の技術を加えられたサイバーナイトのバリアーは地球人の既製品以上のバリアーが装備されている。
 クレインが張ったフィールドは、異星人から供与されたバリアーの中でも最強クラスの防御兵器『ブラックグローブ』だ。氷の惑星で人口冬眠についていた異星人を救った事で、礼として受け取ったバリアーで、ミサイルや砲弾等の質量兵器以外の攻撃を90%防御できる。
 90%でも防いでもこの威力・・・直撃しなかった自分は幸運とも言えた。さくらが助かったのはクレインの傍にいたからだろう。ウィナーのバリアーの範囲内にいたからこそ助かったのだ。直撃を食らえば光武と言えど一たまりも無い。
 「くっ!・・・・」
大神は悔しかった。帝都を守る帝国華激団が手も足も出ない。せめて一太刀でも浴びせてやる・・・と、刀を構えた大神。だが動きが遅すぎた。ジェノサイドが口を開いて大神の目の前にいたからだ。
 50mの巨体から見れば、大神など蟻にしか見えない。やられた・・・・大神は瞳を閉じた。

 ボッ!!!───
 きらめく白い3本の光が大神を狙っていたジェノサイドを貫いた。
 「なにっ!!」
レイピアが声をあげた。信じられない高出力の光線が、易々とジェノサイドの体を貫き、そして爆発した。
 「そ・・・そんな!彼等にそんな力が!?」
 慌てているレイピア。だが現実にジェノサイドは倒された。
 カッ!!──もう一度光が放たれた。それはジェノサイドではなく、半数近く残っていたインベイドや脇侍を一掃してしまった。叉丹すら目を見開いている。

 「だ・・・誰だ?シュビビンマンの二人じゃない・・・」
光線は3本。シュビビンマンではない。大神はおろか、サイバーナイト達もあちこちを見渡した。
 「お!大神さん!あそこっ!!」
 さくらが声をあげて、まだ無事だった建物の屋上をしめす。するとそこには!!


 
「そこまでダスっ!!」
屋上にいた3人の男のうち、真ん中の男が叫んだ。
 
「愛と正義の使者、イダテン!その他2名。只今参ッ上っ!!」
 上半身裸の屈強な男3人が、レイピアを睨みつけていた。

 「あ・・・あいつ等は・・・」
長船は勾玉が輝いているのに気付いた。
 「あれも仲間なのかぁ?」
 疑問そうな声をあげる長船に、紫色の光武・・・すみれが頭を抱えていた。
 「いや〜〜〜!!!あんなのが仲間ですってぇ〜!!この間の変態じゃないのよ〜!!」
どうやら長船の言葉が聞こえていたらしい。髪を振り乱して嘆いていた。

 「そこの場違いなタキシードの男っ!」
ビシッ!!と、かっこよくレイピアに向けて指を付きつけるイダテン。
 「オラ達が来たからには、たぶん3秒くらいで即死ダスっ!!」
 「アニキ、カッコイイッスゥゥゥっ!!」
両脇を固めるアドン&サムソンが滝のような感動の涙を流す!!

 「申し訳ありません・・・どちらさまで?」
 レイピア返答。
 「ぬうっ、言葉の暴力で精神的優位を取るツモリダスねっ!」
SHIT!!と、ショックを感じるイダテン。
 「たんにワシ等、知らないだけじゃ・・・」
それはさておき、トウッ!!と、建物の上からかっこよく飛び降り、着地っ!!
だが、着地したのはすみれの光武の上・・・・
 「いたっ!!」
 「ご・・ゴメン、悪気はなかったんダスが・・・」
ボコッ!!光武のパンチがイダテンを襲うッ!!
 「い!いきなり何するダスっ!・・・・って、この間のナギナタ女〜!!」
 着地した場所の光武が紫色と言う事に気付いて、慌ててあとずさるイダテン。
 「こんな所で会えるなんて、ワタクシはラッキーですわ!是非、この間のお礼をしなくちゃならないと思っていたところですのよ〜!!」
 ひくついた笑顔を見せながらイダテンに迫る紫色の光武っ!
 「でも!その前に、こいつ等どうにかしてくださいなっ!その為に来たんでしょう!」
と、言ってまるで死刑台に囚人を連行するように後ろから長刀を付きつけるすみれ。
 「も!勿論そのとおりダス。いくダスっ!アドン!サムソン!」
 「オウっ!」
そう言って3人はザッ!と陣を組み、イダテンは右手を。アドン&サムソンは頭をジェノサイド達向ける!先ほどの強力な光線は、ここから放たれたのだろう。それを見てブレイドがとっさに「総員、対閃光防御!」と叫んだ。
 「くっ!!」
レイピアと冷や汗を流し、叉丹があとずさる。

 「必殺!トリプルメンズビぃぃぃ・・・・」
と、そこで3人はまるで空気の抜けた風船のごとく、ふにゃ〜と倒れこんでしまった。
 「ちょ!ちょっと!どうしましたの!?さっきの光線は!?」
倒れたイダテンの首を掴みガクガク揺さぶるすみれ。
 「い、いや〜実は、ここ数日、まともなもの食ってなくて・・・腹が・・・さっきのビームで、エネルギーを・・・」

 「役立たず〜!!何しに来た〜!!」
すみれどころか、シュビビンマンや翠、ヴィンドまで一緒になってイダテン達を足蹴にしている。
 「・・・・・・・・」
 何も言えず、ずっと黙っている長船。とりあえずインベイドを一掃して、ジェノサイドを一体倒してくれた事だけは感謝しているが。
 そこへ、無線が入った。藤枝副指令からだ。
護衛にあたっている紅欄の光武の通信機を借りているらしい。

 「備前君、聞こえる?あったわよ!対抗手段が!」
 「ほ!本当ですか!?」
長船は思わず聞き返してしまった。藤枝副指令の事だから嘘は無いだろうが、この状況だと仕方がない。
 「いい?良く聞いて、獣皇に関する記述の所に書いてあったの。どうやら獣王は本来、こういったガルファー単体では力及ばない状況を想定して開発されたものらしいの。」
 藤枝副指令の言葉に長船は納得していた。確かにガルファー単体では攻撃力に頼りない部分が若干感じられる。防御力は申し分ないが、攻撃に関しては平凡だ・・・。その為に獣皇はサポートだけでなく武器になったりするのだ。
 「まず、手鏡と短剣を出して、獣皇の宝珠を全部はめ込んで。」
長船は言われた通り、短剣と手鏡に宝珠をはめ込んだ。ここまでの手順は、いつもと同じだ。
 「それから、短剣と手鏡の柄を見て、ジョイントみたいになってる部分があるでしょ?」
 「ああ・・・本当だ。気付かなかった。」
 「それらを繋ぎ合わせて、『獣皇大召還』と叫ぶの!」
 「了解です!」
長船は指示どおり、手鏡と短剣を繋ぎ合わせた・・・・すると、組み合わさった手鏡と短剣に光が流れる。まるで、エネルギーが行き渡っているかのように・・・
 「よし・・・・」
長船は意を決し、短剣を頭上に掲げた!
 
 
「獣皇っ!だいっしょうっかぁぁぁぁんっ!!!」
短剣から6色の光が天を貫いた!!天海の魔力によって、黒々としていた空の一角に光がさしこむ。そして・・・
 「きたっ!獣皇だ!」
太助が声をだした。空から地上に向け虹が走り、その上を6体の獣王が走ってくる。
 「いつもと同じ・・・・あれ?」
セツナが何かに気付いた。獣皇を呼び出す光景は見たことはあったのだが、何かおかしい。
 「なんか・・・遠近感が・・・」
キャピ子が呟き、目をこすった。何か変なのだ。いつもより獣皇が大きく見える。
 「違う!遠近感がおかしいんじゃない!でかいんだ!」
ヴィンドが叫んだ。そして・・・・獣皇6体が地面に降り立ち、吼えた・・・だが・・・

 「でかい!!でかすぎるゥゥっ!!」
そう!でかいのだ!いつもは2m程の獣皇がいつもの5倍くらいの大きさで地面に立っているのだ!
 「こ!これが・・・・」
長船が一瞬うろたえた。そう・・・・これがガルファーの為に用意された獣皇の戦闘形態ともいえる姿だったのだ。
 「そんな馬鹿な!物体が巨大化するなんて信じられるか!」
ヴィンドが声をあげた。確かにその通りだ。獣皇は、外見上ロボットに見える。そんな物体が巨大化するなんてありえない事だった。
 「いや・・・出来ない事は無いさ。量子レベルで質量を操作すれば・・・いや足りないな。まあ、足りない分は他の物質を変換すれば・・・巨大化できる。」
シャインが平然と言った。
 「すべての物質は、同じ材料・・・クオークと電子です。クオークが集まって陽子や中性子になり、原子核を構成する。原子核と電子が結びついて原子、原子が結びついて分子になります。それらを一瞬で制御できるなら、巨大化だって可能さ。」
 「それは核融合じゃないか!!ものすごいエネルギーが要るし、そんな事を間近でやられたら、俺達はγ線で黒焦げどころか蒸発するぞ!」
ヴィンドが声をあげて反論する。だが、シャインは首を横に振った。
 いや、トンネル効果を制御できるなら、エネルギーは殆ど要らない。結合エネルギーは開放せずに集めて粒子に変換すればいい。質量保存の法則には全く反しない。」
 シャインは巨大化した獣皇を見ながら言葉を続けた。
 「ガルファーを作った存在は、僕達以上のテクノロジーを持っているんだ。案外、メンターナに近い知性体なのかもしれないな。」

 「難しい話はそれぐらいにしてくれよ!」
さっぱり話が理解できないカンナが声をあげた。
 「とにかくさ!この大きさなら対抗できるぜ!あいつ等に比べたら・・・ちょっと小さいけどさ。」
 確かに、今は論議を重ねている時ではない。利用できる物があるのであればトコトン利用する。そうでなくては生き残れない。
 「よし・・・いけ!獣皇っ!!」
長船が獣皇めがけて叫んだ。その命に獣皇達は一斉に、2体のジェノサイドに飛びかかっていった。


 「くっ!サポートロボの使い方に気付かれてしまいましたか・・・」
悔しそうに呟くレイピア。ジェノサイドの火炎弾攻撃から、巨大化した亀型獣皇マンネンが防御し、空から鷲型グランプリが口から超音波を放ち動きを封じる。
 そこにゴリラ型ゴリ・ライモーが強烈なパンチを浴びせた。よろめくジェノサイドの一体に、熊型ツキノワと龍型ドラゴ・ロードが両脇から噛みついて両腕を引き千切る!そこへ狼型フェンリロウガンがオーラをたぎらせ突進した!
 「ロウガン!アグレッシブファングッ!!」
長船の指示に、ロウガンは牙を剥き、両腕を失ったジェノサイドの喉に食らいつき噛み千切った!
 「やった!!」
大神が声をあげた。残りは一体だ!


 「おのれ・・・調子に乗らないで頂こう!残ったジェノサイドは試作タイプでも屈指の完成度を誇ります!獣の牙なぞ通りません!」
レイピアが最後の一体・・・黒いジェノサイドに指示を飛ばす。ジェノサイドは口から火炎弾を連発し、獣皇を近づけない!
 グランプリが攻撃をかいくぐり、接近するものの、ジェノサイドを倒せるだけの決定打がない。
マンネンが同じように口から火炎弾を放ち、ドラゴロードも光線を放つが火力が足りない。ゴリ・ライモーとツキノワには飛び道具が無いらしく。接近戦に持ちこむ隙をうかがっている。


 「ダメだ!バラバラに攻撃したんじゃ効果が薄い!」
大神が叫んだ。確かに一体一体の攻撃では致命傷を与えられない。飛び道具での攻撃力は向こうが勝っているようだ。
 「こう・・・なんかないのかよっ!」
苛立った翠が長船に詰め寄るが、長船に答えようも無い。
 そんな中、ロウガンがじっと長船を見つめている。まるで、何かを訴えるかのように・・・・
 「どうしたロウガン?何が言いたいんだ?なにか・・方法があるのか?」

 「備前はん、聞こえる?」
無線に紅欄の声が響いた。
 「ああ、どうした?」
 
「備前はん!合体するんや!!」
 突然の紅蘭の言葉に、長船は驚愕した。それどころか通信を聞いていたメンバー達も驚きを隠せなかった。
 「合体って・・・そんな事が出来るの?」
キャピ子が尋ねると紅蘭は頷いた。
 「今あやめはんが、備前はんの本読んでな、解ったんや。備前はん、獣皇に関するページんとこ、絵が描かれとったやろ?」
 長船は、ああ・・・と声を漏らす。確かに獣皇に関する記述の所に、6体の獣に囲まれている武人の絵が描かれていた。
 「あの武人はガルファーや・・・と思っとたんやろ?違う!アレが獣皇の真の姿や!」
そこで通信にいきなり米田指令が割り込んだ。藤枝副指令と一緒に天女の書を読んでいたのだ。
 
「そうだ!合体巨人『獣帝王』になって戦うんだっ!」

 「了解!」
キッ!と、ロウガンを見つめる長船。ロウガンが言いたかったのはこの事だったのか・・・長船はそう感じた。
 「よおし・・・・
獣皇合体!!
 その命を待っていた・・・・と、言わんばかりに6体の獣王は目を輝かせ、吼えた。
そして・・・ドラゴ・ロードを中心にして、ロウガンが先頭、ツキノワが右・マンネンが左、そしてグランプリとゴリ・ライモーが後ろに並ぶ。

 「な!なんだ!?何をする気なのですか!?」
レイピアがうろたえた。その様子を見てブレイドは感じた。
 (もしかして・・・先代ガルファーは、この合体を行わなかったのか?そうでなければこのうろたえ様は無い・・・)

 フォーメーションを組んだ獣皇はそれぞれ変形を開始する・・・・まるで組み体操を見ているような光景だった。ゴリ・ライモーが変形を終えるとそれは両足となり、グランプリと重なる事で下半身を構成した。
 ドラゴ・ロードが中心になったのは胴体となるためだった。そしてツキノワ・マンネンがそれぞれ両脇に合体すると、それそれ熊と亀の頭を手首とした腕となる。
 最後にロウガンが変形し、上半身・下半身と合体する。そしてロウガン自身の頭部が人型の頭部となり、狼の口が開くと、そこには人間を模した顔が現れる・・・
 「ソウルインッ!!」
 狼の目から放たれた光線が、ガルファーを包み込むとそのまま狼の頭部へガルファーは吸い込まれていった。
 「・・・・・・」
 長船が気付くと、そこにはまるで戦闘機のような操縦席が存在していた。
 「俺が操縦しろって事か。」
 ニヤッと笑みを浮かべ席についた。見れば操縦桿と思える物の中心にくぼみがあった。そしてくぼみは勾玉の形をしていた。
 「なるほど・・・」
 長船はくぼみに勾玉をはめ込み、操縦桿を握った。

ビンッ───その瞬間、狼の目が輝き、口から「オオオオオ!!」とまるで雄叫びのような声が響いた。
 
「合体巨人!ジュウテイオー推っ参っ!!」


 「そ!そんな事が・・・・」
レイピアは完全にうろたえていた。どうやら本当にジュウテイオーの事は知らないらしい。
 「・・・・・」
それを横目でチラッと確認した叉丹は何か呟くと、音も立てず姿を消した。だが今のレイピアは叉丹が姿を消した事にすら気付いていない。
 ズシン・・・ズシン・・・ジェノサイドと殆ど同じ大きさ、50m近い巨人がジェノサイド向け歩いている。近づけまいとしてジェノサイドが必死に火炎弾を連発するが、幾ら当たっても平然とジュウテイオーは歩みを止めない。
 「ジュウテイオーには通用しないぜ!」
火炎弾を何事も無いように振りきったジュウテイオーは右腕を振り上げた。
 「キング!サーモンっ!!」
すると右腕を構成しているツキノワの顔でジェノサイドをぶん殴った!あまりの威力にジェノサイドが片膝をつく。
 「シャケライアット!!」
長船が叫ぶと、右腕に鮭の形をしたショットガンが現れる。すぐさま構え、ボルトアクションを行う。
 「くらえっ!!」
操縦席で狙いを定めるガルファー。操縦席のモニターにターゲットサイトが定まる!
 「イクラブリッド!シュートっ!」
鮭型ショットガンの銃口から紅いイクラ型散弾がジェノサイドを叩く。この攻撃でジェノサイドの装甲はズタズタだ。
 「とどめだっ!」
足を踏ん張り、両腕を前へと突き出す。するとジュウテイオーの顔が元の狼の顔に戻る。
 「一斉咆哮・・・・」
 頭部・胸・股・両手首の獣皇の口が輝きを増す・・・
 
「アニマブレストォォォォっ!!!!!」
獣皇の口から放たれた光はそのままジェノサイドを消し去った・・・・・・



 次回予告


 強敵ジェノサイドを退けたジュウテイオーの脅威のパワー!
 いよいよ黒ノ巣会首領、天海と一騎打ちだ!負けるな帝国華激団
 だが、そこでとんでもない事態がガルファーを襲う!どうなる備前長船?

次回 サイバーヒーロー作戦 第八話『黒ノ巣会の最後!さらば大正時代』
 柊空也「この人、巴姉ぇの彼氏?」  柊巴「違う・・・」  長船「あ?お世話になります」



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