第六話 「魚屋と女子高生。危うし大帝国劇場!」




  冬が近づく帝都東京・・・・・。その中心地銀座の大帝国劇場では『西遊記』の公演が締めくくられようとしていた。
 劇場は連日大賑わいであった。すみれとカンナの演技と、紅蘭の新型舞台装置の導入により、追加公演が行われたほどだ。
 帝都は、普段通りの平静を保っている様にも見えるが、細かいところで事件は多発していた。
 ──浅草で、アイリス用光武の暴走。それと同時に黒之巣会の幹部『羅刹』を撃破。
 ───機械を愛するが故、花組の光武の扱いに疑問を抱いた紅蘭を説得。
 ────喧嘩状態にあるすみれとカンナを率いての深川の偵察。
等など・・・・幾多の事件が帝都を騒がしていた。
幸い、築地でのマリアの一件以来、帝国華激団のチームワークも取れてきているようだ。助っ人的役割のサイバーナイトとセツナの協力もあってか、大規模な事件に発展する事は未然に防がれていた。
 敵は黒之巣会ばかりではない。長船が・・・ガルファーが対峙するべき存在『時鬼』も・・・

 「タートル!ソォォサァァ!!」
ガルファーの右腕に緑色の円形の盾が出現した。これは獣皇の「マンネン」が変形した姿だ。獣皇は獣の姿ばかりではなく、ガルファーの武器へとも姿を変えることが出来る。以前使った「破邪獣皇剣」は獣皇全ての武器が合体した最強の武器の姿である。長船は個別に使った事が全く無かったので場合によって使い分けることにしたのだ。
 ───目の前には数匹の時鬼がいる。あれからまた何度も帝都に現れては人を襲い食らっていたのだ。勿論ガルファーがそんな存在を許すわけは無い。
 「ソーサースラッシュッ!!」
右腕を振りかざした。盾は亀の姿をしたオーラを放ちながら時鬼達を切り裂いていった。たちどころに数を失う鬼達。それを見てか、形勢の不利を感じた時鬼達の後ろにいた脇侍が逃げ出すそぶりを見せた。勿論見逃すガルファーではない。盾を右腕に再装着すると同時に駆け出し、刀を取りだして次々と切りかかる。そして脇侍が最後の一機になったのを確認すると右足を振り上げた!
 「ガルファー!居合切りキック!!」
───脇侍の首が飛んだ。
 
 「おお〜!!凄い!」
後ろで見ていた白い光武から感心した声が出た。大神だ。
 「まるで、鞘から刀を抜くような蹴り・・・抜刀術のようだ・・・」
 「本当です。凄い・・・剣術を足技に応用するなんて・・・」
 大神と同じく剣術を基本スタイルとするさくらも感心していた。

 「ふっ・・・これぞ、居合の抜刀スタイルを足技に応用した必殺キックだ・・・。我ながら惚れ惚れするぜ・・」
─<居合切りキック>─抜刀術の基本スタイルを蹴りに見たてた長船オリジナルの技だ。腰から膝までを鞘としてイメージし膝から下を刃とする。技自体はミドルキック・ハイキックのオーソドックスなものだが、長船の優れた運動神経とガルファーのパワーを併用する事で、スピードを極限まで上げる事で必殺技の名に恥じない威力を有するのだ!!

 戦闘は終了した。陸軍や警察機構に後始末を任せ、長船達は早々に引き上げていった。
引き上げる轟雷号の中で、長船はじっと何かを考えていた。その雰囲気にブレイドが話しかけてきた。
 「どうした?何か考えている様だが。」
 「ええ・・・脇侍と一緒に時鬼がいました。これってどう言う事だと思います?」
そう・・・ここ頻繁に現れる黒之巣会の襲撃に、ガルファーの敵である時鬼が混じっていたのだ。これは・・・
 「黒之巣会と時鬼が、手を結んだと言う事でしょうか?」
長船が言うとブレイドは頷いた。
 「簡単に考えるならばな。だが、時鬼は君も詳細な事は知らないんだろう?」
 「はい。天女の書をじっくり読んでみたんですが、古から人々を襲う存在らしいのですが、どうも詳しくはわからなかったみたいで・・・」
 そう。時鬼に関しての詳細なデータは少ない。幾ら天女の書と先代のデータがあるとは言え、微々たる物だ。時鬼が何処から現れたのか?その正体は何なのか?上部組織はいるのか?等など・・・解らない事だらけだ。
 「時鬼にはレベルの高い奴がいるらしいな?」
ブレイドが尋ねると、長船は頷いた。
 「はい。頭領・・・とか言われている知性の高い奴がいるそうです。先代が半ば相打ちに近い状態で倒したって言う。」
 「恐らく、時鬼にも知性の高い奴・・・ひょっとしたら生体兵器かもしれない。」
 「生体兵器!?作られた存在だって言うんですか!?」
 ブレイドは頷いた。銀河中心での経験からありうる・・・と言った。
なんでも、ブレイド達サイバーナイトが戦ってきた機械生命体バーサーカーの正体は、元々無機物の機械生命体であるメクハイブという存在が、別の星に住む有機生命体から攻撃を受けた事が原因で、その原因をさぐる為に作り出した、有機生命体の思考を模したシュミレーションプログラムだったらしい。
 「ところが、その思考プログラムは、良く出来すぎていてな。結果・・・「自分の存在以外の知性体の排除」という答えをはじき出してしまったんだ。」
 「それと、時鬼がどう言う関係が?」
 ブレイドは、乗り合わせている帝国華激団輸送部隊、通称「風組」の一人から水筒を二つ受け取ると、一つを長船に手渡し、自分はぐいっと水筒のジュースを飲み込み話を続けた。
 「・・・思考プログラムは、鉱物運搬船に自分を転送、母星から脱出し暗黒星雲に辿り着き、バーサーカーとなった。宇宙資源や星間ガスを貪り食ってな。そして、自分達の戦力として宇宙戦艦やバーサーカーマシンを作り出した。」
 ブレイドはもう一口ジュースを飲んだ。戦闘終了後は飲酒が許可されているが、ブレイドは酒は全くと言って飲まない。なんでも「酔っ払うたびにコンピューターがくだらないジョークを言う」との事だ。本心は故郷に帰るまで酒を飲むのは止めているそうだ。
 「バーサーカーマシンは、ロボットと思いがちだが、れっきとした生物なんだ。内部メカニズムも地球に住んでいる外骨格系生物に良く似ている。違いは体組織が有機物か無機物であるかぐらいだ。」
 そしてブレイドはそこで長船を見た。
 「だがバーサーカーマシンは、たいした知能を持っていない。その為か原理は不明だが、前線基地内部の中枢からリアルタイムで操られている。そして中枢を破壊すると全てのマシンが機能を大幅にダウンし、やがて止まる。時鬼もコレに近いんじゃないか?」
 「つまり・・・たいした知性を持ってない時鬼をどこからか操っている奴がいると?」
ブレイドは頷いた。
 「そうだ。そして時鬼を操っている奴がどんな奴なのか、または組織なのかは解らんが、そう言った奴が黒之巣会と結託したんじゃないか?メリットは・・・解らないがな。」
 そうこう言っている間に轟雷号は、帝国華激団基地へと帰りついた。光武やバトルモジュールが整備員達によって運び出されていく。そして花組やブレイド達も降車を始めた。
 轟雷号から出る直前でブレイドは後ろにいた長船に向かって一言言った。
 「米田指令の指示で、時鬼の死骸を軍部で解析しているらしい。そのうち何かわかるんじゃないか?」



 「ハル=バート総統。黒之巣会首領、天海様から伝聞が届いています。」
 28世紀の大天才科学者にして、秘密組織GK(ジェネレーション・キル)の総統、ハル=バートの元に秘書官らしき男が一枚の紙を持って来た。
 「読め。」
 「はっ。『増援ヲ要請ス』との事です。どうやら貸与したインベイド・オーガを大幅に失ったそうで。」
その報告にハル=バートは面白そうに笑みを浮かべた。
 「流石、24世紀の傭兵とガルファーだ。そうかそうか・・・フフフそうこなくてはな。」
敵が強い方が面白いのか、含み笑いをこらえきれない様だ。
 「いかがいたしますか?あの時代にこれ以上オーガを送りこんでも・・・」
 「結果を出せないと?」
 「はい。天海ごとき、所詮徳川の亡霊に、これ以上あの連中を止めておけるとは思えません。」
ハル=バートはフム・・・と言ったきり少し考えている様だ。そしてたっぷり2分は考えただろうか、やっと口を開いた。
 「天海の切り札・・・『六破星降魔陣』・・・・地脈エネルギーを封印し、魔のエネルギーを呼び寄せる・・・と言うのに期待するかな?」
 「本気ですか?本当にあの術で奴等を倒せると?」
 するとハル=バートは笑みを浮かべた。
 「無論、本気にはしていない。が、それで奴等が倒せればそれで良し。だが・・・それがダメなら。」
 「天海もそこまで・・・。ということですか?」
 「そうだ。そうだ・・・地域殲滅用オーガの試作が4体ほどあったな?あれを天海に送ってやれ。」
 「は・・・。では私も現地に向かいます。」
 その言葉はハル=バートを軽く驚かせた。
 「お前がか?」
 「はい。試作ゆえ、アレは近くで操作しないと。」



 大帝国劇場は、千秋楽を控えていた。そして、みなの提案により最終公演終了後、公演の成功を祝って宴会が行われる事になり、その前準備と言うか、通常より多くの買出しをしなければならない事もあり、その食料品等の買出しに、さくら・アイリス・ブレイド・キリ・長船の5人で町に繰り出していた。
 「明日はいよいよ千秋楽だな。」
 買い物袋を抱えたブレイドが言うと、さくらがハイ!と笑顔で答えた。
 「でも〜、ブレイドのおじちゃんが手伝ってくれるなんて、珍し〜い。」
 「私にだって、たまには気分転換が必要さ。」
と、短く答えた。だが、さくら達は気づいていなかったようだが長船には解っていた。気分転換・・・・恐らく本当だろう。だが、本質は普段冷静で落ちついているブレイドが、気分転換が必要になるほど精神的に、不安を感じていると言う事だ。
 (無理も無い・・・・。俺やセツナちゃんだって元の時代に帰れるか保証は無いんだからな・・・)
 長船は自分は一人だからいい・・・。だが、ブレイドはそうはいかない。宇宙船ソードフィッシュのクルー23名を背負っているのだ。その重圧・・・長船の想像を絶する物があるだろう。
 大神がブレイドに師事しているのも、そんな彼の人望からだろう。指揮官たる大神にとって、まさに指揮官のお手本のような人物がいるのだから。

 「ところで、次の公演はなんなんだい?」
ブレイドがさくらに尋ねると、さくらは笑みを浮かべて答えた。
 「クリスマスの特別公演です。その後は・・・忘れちゃいました♪」
と、舌を出していたずらっぽく笑うサクラ。
 「なら、また書割とか舞台看板描いてあげるよ。まーかしといて!」
と、キリが笑みを浮かべた。彼女は傭兵でありながら絵が上手い。自分のモジュールの肩に可愛らしい妖精のエンブレムを自分で書いているほどだ。
 「小さい頃は絵本作家になりたかったんだけどねぇ。」
苦笑交じりに言っていた。その言葉にさくらが、「傭兵を引退した後で始めたらどうです?」と、言うと「いいかもね。」と笑顔で答えていた。
 「今度、光武にもエンブレム描いて下さい。」
 「いいよ。さくらって、確かニホンのシンボル的な花と同じ名前だよね?ならその花をイメージする奴が良いかな?」
 すると、アイリスが笑みを浮かべて手を上げた。
 「アイリス、ジャンポールがいいっ!」
 「了解。他の皆は何が良いかな?」
そんな事を談笑しながら買い物を続ける5人であったが、それが終盤に差し掛かったところ、最後に飲み物を買いこもうとしていたさくらの耳に、町人達の噂話が聞こえてきた。
 さくらは、それをじっくり聞くと、買い物袋を抱えて長船達の元へ駈けてきた。
 「お待たせしました!これで全部です。」
 「よし、帰ろうか。」
そう言って帰路につく長船達に、さくらが「さっき、スゴイ噂を聞いたんですよ!」と、声をかけてきた。どうせ他愛も無い事だろうと思うが、帰路までの暇つぶしにと・・・長船達は聞くことにした。
 だが・・・・その噂話は、長船の驚かせる物だった。

 「どんな噂なんだい?」
 「それがですねぇ、ここ最近、帝都周辺に、スゴイ賞金稼ぎが出没するんですって!」
 「賞金稼ぎ?」
長船が、そう呟くとアイリスがブレイドのズボンを引っ張った。
 「おじちゃん。賞金稼ぎってなぁに?」
 すると、ブレイドの代わりにキリが答えた。
 「賞金稼ぎって言うのは、政府が『捕まえてくれたら、お金をあげますよ』って言う人間を、狙うハンターの事さ。」
 すると、アイリスはブレイドの顔をじっと見てから口を開いた。
 「なんだぁ!ブレイドのおじちゃん達とおんなじお仕事なんだね!」
子供の無邪気な答えに長船は腕を組んで考えた。
 「ちょっと・・・違うような?」
 考える長船をよそに、ブレイドはただ笑っていた。

 「それで、どんな奴なんだい?」
 「ハイ!それが、凄いんですよ!普通の賞金首だけじゃなくて、黒之巣会や時鬼とも戦えるそうなんですよ!それで、倒した脇時なんかの数によって政府にお金を貰ってるそうなんですよ!」
さくらは、嬉しそうに言うが、長船は顔色を変えた。みればブレイドまで確かに表情が険しくなった。
 「なんだって!?」
 長船が声を上げた。考えられない事だからだ。
 時鬼は、通常兵器でも相手にできるが、よほどの戦闘力が無い限り五分に渡り合う事は難しい。加えて脇侍は、霊力を持った兵器で無いと倒せないと言われている。花組のような強力な霊力の持ち主や、セツナの様に特殊な力を持った人間がそういるとは限らない。
 「しかも二組もいるんですって。一組は青と赤の鎧を着た男女と、凄腕の拳法家の三人組で、もう一組は・・・確か、殆ど裸の三人の男性だそうですよ。何でも、お巡りさんに職務質問されかけてたとか・・・」
 「俺も警官なんだけどな・・・。しかし・・・鎧の男女と拳法家・・・三人の裸の男か・・・何物なんだ?」
 「我々同様、この時代に引き込まれた連中かもしれないな。」
ブレイドが、言うと長船は頷いた。
 「帰ったら、セツナちゃんと相談してみよう。心当たりがあるかもしれない。」
そう言った長船であったが、その賞金稼ぎと言われる人物達とは、意外にも早く出会う事になった。


 大帝国劇場地下───そこには何度も述べた様だが、帝国華激団の本部施設となっている。この劇場ですら、偽装。
 そして、その存在は政府高官や一部の軍人しか知らない。劇場に勤務する人間も、支配人から末端の清掃係に至るまで、全て帝国華激団関係者で占められていると言う徹底的な秘密主義を貫いている。
 だが・・・・
 地下格納庫・・・・そこには、帝国華激団花組の主力兵器、光武が待機している。
その光武の一機・・・・ピンク色の機体、さくら機の頭部カメラユニットの隙間から何かが這い出してきた。
 それは猿の様にもネズミの様にも見える奇怪な生物であった。大きさは十数センチもない。手のひらに乗るサイズだ。
 帝国華激団の徹底された秘密主義も、この僅かな大きさの生物の前には無力だった。
 生物は、素早く光武から這い降りると、劇場の外壁に出てスルスルと壁面を登っていく。
 大帝国劇場の屋根に、人が立っていた。大胆に大きく胸元を空けた芸者のような容姿の女だ。
生物は、その女の手のひらに乗り、嬉しそうに小さく鳴いた。
クシャッ───小さな音と茶色の飛沫を飛んだ。女が手を握り生物を無慈悲に握りつぶしたのだ。
 「うふふふ・・・・・見つけた。」
女・・・・黒之巣会死天王の一人、『紅のミロク』は、不適に微笑んだ・・・・


 「・・・・・・・・・」
その日、帝国華激団に出撃命令が下った。
 「・・・・・・・・・・」
 浅草に現れた時鬼と脇侍の混成部隊を叩く為だ。
 「・・・・・・・・なんだコレ・・・」
 サイバーナイトの一人、クレインが思わず声に出していた。彼の赤いバトルモジュール<間接支援用タイタン>の眼下には時鬼の死骸と、脇時の残骸が散らばっていたからだ。
 「見ての通りだクレイン。我々の到着より早く、敵を殲滅した者がいる。それだけだ。」
 ブレイドが冷静に言う。彼のバトルモジュール・レックスはしゃがみこんで、脇侍の残骸を手にとって調べていた。
 「ふむ・・・・」
 ブレイドは、倒れている脇侍を見た。胴体に人間の拳の大きさほどの穴が空けられている。穴の周囲が溶けている所から見て、間違いなく光学兵器だ。
 「シャイン、ヴィンド、それに紅蘭君。どう思う?」
ブレイドが三人に呼びかけた。三人はそれぞれ転々としている脇侍の残骸を調べ始めた。
 「ブレイドはん、大神はん。こっちの脇侍は、刃物でやられとります。見てんか、この切り口・・・」
紅欄がしめした脇侍は胴体を両断されていた。しかもその切り口はとても鋭い・・・とてつもなく鋭利な刃物でやられたと見える。
 「さくらはんや大神はんの攻撃でも、こうは綺麗に切断できへんし・・・ブレイドはんのレイブレードやったら切断面が解けとるはずやけど・・・それも無い。実剣や、それもえらい斬れる・・・」
 紅蘭の考察は正しい。大神もそう感じていた。自分達とは全く違う剣での斬激後だ。

 「おい隊長〜。こっちも見てくれよ。」
赤い光武・・・カンナが大神に呼びかけた。大神達が寄ろうとすると、カンナが待ったをかけた。
 「アイリスは見ないほうがいいな。さくら、アイリスと一緒に向こう調べてくれ。」
 「解りました。行きましょうアイリス。」
 「う〜、またアイリス子供扱いする〜。」
 と、多少駄々をこねながらも、渋々さくらとこの場を離れるアイリス。それと入れ替わる様に大神やブレイドがカンナの元へやってきた。
 「見てくれよ隊長。この鬼のやられ方・・・」
 カンナがしめした時鬼の死骸は数体・・・・。その数体とも普通ではない死に方をしていた。最初にしめした鬼は、首が妙な方向へ向いており、口から体液を流して死んでいた。
 それを見て、すみれがうっ・・・と口元を押さえた以外は皆冷静に見ていた。そしてキリが即答した。
 「素手ね・・・。」
 「ああ・・・アタイもそう思う。頚骨が妙な角度でヒネリ壊されてる。」
カンナがキリの反応に頷く。二人とも体術に覚えがあるゆえ、すぐに解ったのだ。
 「それとこっち。見てくれよこの殴打の後、まるで数人がかりでタコ殴りにしたみたいなのに、周囲の足跡は、皆同じ物なんだぜ。」
 「忍者みたいに、分身の術でも使ったんじゃありませんこと・・・。わたくし、周囲の調査に行きますわ。さくらさんだけじゃ心配で・・・」
 すみれはそれだけ言って向こうへ行ってしまった。恐らく鬼の死に方に気分が悪くなったのだろう。
 「お嬢様はヤワだねぇ。ま、いいや。問題は最後のコイツなんだよ。」
最後にしめした鬼は、不可解な死に方をしていた。骨格が人間に近いので、それに例えて言うのであれば、首・背骨・腰骨が折れており、股も裂かれ、腕も引き千切られていた。しかも死骸のある所が、まるでクレーターの様に放射線上に広がってくぼんでいたのだ。なにか・・・空中から地面に叩きつけられたかのように・・・
 「どう思う?アタイにはどうやったらこんな風に仕留められるのかわかんねえ。」
 カンナが意見を求めるが、大神やブレイドにもさっぱり解らなかった。
 「どんな技をかけたらこんな風にやれるのか・・・空手や柔術の技じゃとても・・・」
 カンナが感心する様に呟く。一回の攻撃で、ここまで鬼の身体を粉砕できるのか?ブレイドにも解らなかった。
 「MICA、推測できるか?一回の攻撃で、しかも素手でこのような倒し方が出来るか。」
 ブレイドは、大神達が聞き覚えの無い名前を呼んだ。この場にそんな名前の人間はいない。
 「理論上は可能です。ただ・・・非常に高度な格闘技術を要しますが。」
 若い女性の声で返答が帰ってきた。それは大神には聞き覚えの無い声だった。
 「今のは?誰です。ミカ・・・とか言っていましたが。」
 大神の隣にいたマリアがブレイドに尋ねてきた。
 「ああ・・・話してなかったか。コイツは、我々の宇宙船『ソードフィッシュ』の人工知能MICA(Machine-Inteligence-for-Combat-Advice)だ。」
 「人工知能!?」
 コンピューターという概念はおろか、単語すらないこの時代に生きる大神やマリアにとってはまったくもって理解不能な事だ。
 「こうして花組の皆さんに話しかけるのは初めてですね。私はMICA、ソードフィッシュの戦闘補佐コンピューターです。」
 「・・・・機械が喋るなんてなぁ・・・」
カンナが呆然と呟いた。
 「おまけに、自意識まで持ってる・・・・未来はスゴイな。紅蘭が聞いたら飛んで喜びそうだ。」
 「聞こえてるで大神はん!いや〜嬉しいなぁ、機械と話ができるなんて!」
通信機から紅蘭の嬉しそうな声が聞こえてきた。
 「MICAは、僕らの時代でも、もっとも進んだ人工知能なんだ。」
赤い重量級モジュール、タイタンからシャインが説明してくれた。コンピューターの概念の無い大神達にMICAの事を解りやすく解きほぐしながら説明していく。大神やマリア、紅蘭などは理解し様と聞いているのは解るが、カンナは、「蒸気演算機が人間みたいに喋るっことだろ?」で、片付けてしまい、シャインを苦笑させた。

 花組とサイバーナイト達のやりとりを何気なく聞いていた長船であったが、鬼の死骸だけは真剣に見つめていた。
 (このところ頻繁に現れてる・・・・。何か、事を起こす前兆なのか?それとも・・・それを隠す為か?)
 思案しながら死骸や残骸を見つめていた。まだガルファーには変身してはいない。あれから何度か戦闘を経験しているので、変身時間は最初の頃に比べて10分ほど延長していた。それでも1時間に満たない時間ではあるが・・・
 限りある変身時間を有効利用する為にも、ギリギリまでガルファーになることを控えているのだ。
その代わり、何かあってもすぐに対処できる様に今回はあらかじめ獣皇を呼んでいた。長船は3mほどの大きさの黄色の熊型ロボット・・・・『ツキノワ』にまたがっていた。そしてその隣には青色の狼型ロボット・・・『フェンリロウガン』が、地面に鼻を突きつけ、フンフンと匂い探っていた。
 「フェンリロウガン、何か解るか?」
 長船が尋ねると、フェンリロウガンは長船に向かい首を横に振った。どうやら「解りません」と言っているようだ。
別に動作に示さなくても、長船と獣皇はテレパシーのような物で繋がっており、言葉に発せずにコミュニケーションを取る事が可能なのだ。
 以前、獣皇の武器形態をテストしようと、帝劇の地下射撃場で6つの獣皇全部呼び出した事があった。その時、花組やサイバーナイト達が「自分達の言う事も聞くかな?」と、コンタクトを取ろうとした時、あっさりそっぽを向かれ、クレインが「可愛げのない奴らだな」と苦笑していた。だが、アイリスがツキノワを見て、「ジャンポール、お友達だよ♪」と近づいた時、ツキノワはアイリスに友好的な反応を見せた。
 「この熊、子供好きなのか?」
と、皆がそう思ったが、サイバーナイトの一人であるニジーナと、セツナにも獣皇は反応を示した。これにクレインは「ご主人様以外は女にしか言う事聞かないのか?」と、ぼやいたが、さくらやキリにはそっぽを向く。 これはどう言う事なのか?と皆首をひねったが、よくよく考えてみればアイリスとニジーナには、テレパシストとしての能力があったからだ。セツナにも似たような力はある。
 つまり、獣皇を従えるには、言葉ではなく精神で語り掛ける必要があったのだ。勿論、主人である長船の命令が最優先事項であるが。

 その時、地面の匂いを嗅いでいたフェンリロウガンが、ピクンと何かに反応し、左を見た。そして確信したかのように長船の方を向いて吠えた。
 「向こうに何かあるんだな?」
そう言うと、フェンリロウガンはまた吠えた。そして前足を長船の胸元に向けて突きつけた。勾玉が輝いていたのだ。
 「勾玉が・・・・・」
 するとそれに気づいた黒いバトルモジュール<対空戦闘用・シェリフ>が近づいてきた。サイバーナイトの一人、ヴィンドだ。
 「光ってるな。なんだそれは?」
 「3種の神器の一つである勾玉だ。光ってると言う事は・・・・また新しい仲間みたいだ。」
 「探知機みたいなものか?」
ヴィンドが言うと長船は頷いた。それを指揮車から見ていた米田指令とあやめは目をむいた。
 「あ!あれは・・・・指令!何故彼があれを!」
 「おちつけあやめ君。似ているが少し違う。あれとは別物だろう。」
米田指令はすぐに冷静さを取りもどし答えた。だが、内心はかなり驚いていた。長船が持つ勾玉・・・・。自分の予想が正しければ残り二つも持っている・・・米田指令は推測した。
 (恐らく魔神器とは別物だろう・・・。だがあれだけ似た物だ。持ってる力も同じような物かも知れねえな・・)

 「大神さん!皆さん、こっちへ来て下さい!!」
通信機に突然、さくらの絶叫が響いた。
 「どうした!さくらくん!」
 「さくら、落ちついて報告なさい!」
 大神とマリアがほぼ同時に声を上げた。
 「浅草寺付近に、脇侍の残存戦力が・・・それを・・・それを倒している人達がいるんです!今、すみれさんが警戒しています!早く来てください!」
 長船はフェンリロウガンを見た。この事を言っていたのだ。長船はツキノワにまたがったままで銀色に輝いた。若い警官から・・・・鬼を討つべく選ばれた戦士、ガルファーへと変わった。
 「先行きます!」
 そう言ってツキノワは全速力で走り始めた。慌てて大神達も後を追う。


 「・・・・・・・・」
 紫色の光武が薙刀を構えたまま、止まっていた。目の前の出来事に対して警戒しているのだ。いつもなら先陣きって突っ込むすみれが動かない。その訳はさくらにも解った。自分達が脇侍と戦うには光武があってこそ五部以上に戦えるのだ。
 だが、目の前の連中は違う。生身同然なのだ。生身同然で脇侍を葬っているのだ。一体二体ぐらいなら自分も生身で戦える自信はある。
 だが、目の前の連中は違う。先ほどの残骸の数から想定しても、ざっと20体以上・・・。目の前の連中は3人。一人で約6体前後倒しているのだ。自分なら生身で6体も倒せるだろうか?・・・難しいところだ。
 そこへ長船・・・ガルファーが辿り着いた。勾玉の輝きは増すばかり・・・間違いなく、自分と関わる存在だ。長船は確信した。
 「ああ・・・長船さん。見てください・・・」
だがさくらの言葉は耳に入っていない。目の前の3人に注目するばかりだ。
 「あいつ等が・・・新しい仲間・・・」
 「え?」
さくらが長船の言葉を尋ね返す。そこへ残りの連中も合流した。
 「彼らが・・・・」
 ブレイドが呟いた。目の前で脇侍と戦っている3人・・・・ブレイドはようやく合点がいった。目の前の3人のうち、二人の男女は色違いの同型プロテクターを上半身に纏っている。頭部はヘルメットではなくインカムとヘッドセットを組み合わしたような物を装着。そして・・・鋭い長剣を持っていた。
 「あの切り口は、あの剣だったんやなぁ・・」
 そして、青いプロテクターを装着した男が、逃げるそぶりを見せた脇侍に向けて腕を突き出した。何をする気だ?と、考える暇もなく、男の手から青い光線が放たれ、脇侍を貫いた。ブレイドが推測した光学兵器はこの事だったのだ。
 「コマンダー。あの男性と、ペアを組んでいる女性の一人から電磁反応が出ています。」
MICAからの通信だ。
 「そりゃ光学兵器装備した強化スーツみたいなの着てるんだ。それぐらいでるだろう?」
 と、クレインは軽く言った。だが・・・
 「違うよクレイン。あの二人の電磁反応は体の内部から出ているんだ。勿論電磁波放射はかなり押さえられてるけど、身体の内部に機械的な処置が施されてる。」
シャインが言うと、ヴィンドが驚いた。
 「まさか!サイボーグとでも言うのか!あれだけのプラズマビームを放つには、バトルモジュール並の反応炉を積まなきゃならないんだぞ!しかもそれを人間の体内でか!?奴らの身長を見ろ、お前より背が低いんだぞ!」
 「不可能じゃないさ。彼らのエネルギーが、僕らと同じモノポールだと言う証拠は何もない。別のエネルギーを使ってる可能性もある。それに僕らだって人間をベースに光学兵器を積んだ存在を知っているじゃないか。」
 「『メロウ』や『リャナンシー』か・・・」
 「何やそれ?」
 聞いたことのない単語に紅蘭が尋ねてきた。シャインは余り話したく無さそうだったので紅蘭はヴィンドに尋ねた。
 「・・・あまり気持ちの良い話じゃないぞ。メロウやリャナンシーってのは、俺達が銀河中心で戦ってたバーサーカーマシンの一種だ。」
 「ああ・・・あのちょいと気味の悪い機械の死骸やね。ほいで?」
 「メロウはな・・・バーサーカーが誘拐した人間の身体を改造した兵器だ。」
その言葉に紅蘭は絶句した。
 「じ・・・人体実験したっていうんか・・・。人の身体に無理矢理機械を埋めこんだっていうんか・・・戦わせるだけに・・・」
 「そんな生易しいもんじゃない。人体で残ってる部分は骨と筋肉組織だけ・・・残りは金属とプラスチック・・ああ解らねえか、樹脂系の素材に取りかえられてた。動く死体だ。」
 ヴィンドの説明に、紅蘭は声を上げて鳴きそうになったのを必死で堪えた。自分は機械を愛する・・・機械は人々を幸せにする物・・・それが紅蘭の心情だ。
 だが、そんな戦わせる為だけに、人間の身体にそんな処置を加えるなんて・・・紅蘭は今まで感じた事のない悲しみに覆われた。
 「あの二人も・・・そうやって言うんか・・・なあシャインはん・・・」
 シャインは頷いた。
 「メロウほどじゃないけど、間違いなく戦う為のサイボーグとして強化されてるね。恐らく生身の部分・・・外見と脳ぐらいかもしれないな。」
 悲しげに呟くと、青いサイボーグの男が、砲塔を装備した脇侍の攻撃を浴び、こちらの傍まで吹っ飛んできた。

 「いててて・・・・油断した。畜生・・・エネルギーが・・・んん?」
男がこちらの存在に気づいた様だ。じっとこちらを見ている。
 「おい、そこの赤いロボット。お前の燃料、電気か?」
サイボーグの男はシャインに向かってそう言った。どうやらタイタンをロボットと思ってるらしい。
 「はい。モノポール反応炉を電力に変換して・・・」
 「まどろっこしい事はいいや。動力ケーブルは・・・とっ。これか。」
 そう言って、タイタンのバックパックの反応炉からケーブルを取り出して、引き千切ってしまった。
 「あ・・・・」
と言うシャインの言葉を最後にタイタンはピクリとも動きを止めてしまった。動力が断たれたのだから当然だ。それを見たヴィンドが、慌てて緊急開閉ハッチのスイッチを押した。タイタンの上半身部分がバックパックを支点にして前部・左側・右側と、3方向に開放された。その瞬間、ほっとした表情をしたシャインが姿を見せた。3m近い巨体のタイタンに比べて、ほっそりした体格のシャインは、やけにか弱く見えた。
 「あ?人乗ってたのか?すまねえすまねえ、ちと電力借りるぜ。」
サイボーグの男は苦笑しながら謝って、引き千切ったケーブルを握っていた。
 「お前!動力が切れたモジュールの中で、搭乗員がどんな思いをするか!」とヴィンドが怒鳴っていたが、サイボーグの男は無視してタイタンのケーブルを胸に突きつけた。
 バチィィッ!!───と、凄まじい火花が上がる。その中でサイボーグの男は恍惚の表情を浮かべていた。
 「くぅ〜キクぅ〜。たいしたエネルギー量だよコレ。サンキュー、満タンだ。」
そう言ってヴィンドにケーブルを渡すと、残りの脇侍に向かっていった。
 「・・・・・あれが、サイボーグのエネルギー補給なのか?」
ヴィンドが呆然と呟いた。
 「あ・・・ヴィンド、悪いけどケーブル繋いでくれないかな?」
シャインが言うとヴィンドは「OK」と言い、応急処置をはじめた。だが・・・・
 
 「あ〜!!ちょっと待って!あたしにも〜!」
今度は赤いプロテクターを着けた女のほうのサイボーグが駆け寄ってきた。いや・・・女と言うには若い、年の頃は16〜18と言ったところ、少女と言っていい。
 「ちょっと貸してね。あたしもエネルギーが・・・」
そう言って、ヴィンドのモジュールの手からケーブルを取ると、自分の胸元に突きつけた。
 先ほどと同じように火花を上げながら、恍惚の表情を浮かべる少女サイボーグ。
 「ありがと。あ〜助かった。なにせ、この時代って電気エネルギー手に入れるのって大変でぇ〜。」
そう言うと、その場に座り込んでしまった。
 「貴方達も、あたし達と同じ境遇みたいね。良かったぁ〜これで高い宿賃払わなくても済む〜。」
どうやら残りの脇侍は、男のサイボーグともう一人に任せるようだ。お腹空いた〜とか、咽乾いた〜とか言っているので、シャインが仕方なく開けっ放しになっているタイタンから、搭乗員補給用のドリンクチューブを引っ張り出し、それを彼女に譲っていた。
 「スポーツ飲料?あんまり美味しくないけど、久しぶりに近代的な物を飲んだ気がする。」
そう言いながら、チューブからアイソトニック飲料をすすっていた。
 そいつの水分の幾らかは、排泄した物が濾過した奴だぞ・・・と、ヴィンドは口が裂けても言えなかった。

 「しかし・・・最後の一人もサイボーグか?」
クレインが最後の脇侍に掴みかかっている女性を眺めながら言った。
 「いえ、身体的能力が常人より、やや上回っていますが彼女は普通の人間です。」
MICAが言うと、確かにそのような気がする。Gジャンに同様のパンツ。スニーカー履きで頭には鉢巻。左腕の上腕にバンダナを巻きつけ、ファイティンググローブさえ除けば、見た感じ体育会系の女子高生といった感じだ。
 「たいした運動能力だよ。ありゃあ傭兵でも通用するぜ。」
クレインがぼやくと、クレインのタイタンの脇にいたセツナが呆然としていた。
 「ん?どうした嬢ちゃん?」
 「姉さん・・・・」
 「へ?あいつお前の姉さんなのか?」
 セツナの言葉にクレインは拍子抜けした。詳しく聞けば、本当の姉ではなく、昔から家族ぐるみの付き合いをしている格闘道場の娘で、セツナにとっては姉的な存在だったらしい。
 「なんで姉さんが、こんなところに・・・・。姉さんもイ・プラセェルに召還されていたはずなのに・・・」
 「そんなの本人に聞けばいいじゃん。名前・・・何て言うんだ?」
 「『姫野 翠(ひめの みどり)』。不韻流(ふいんりゅう)古式格闘術の後継者です。」

そうこう言ってる間に翠は脇侍を抱え上げた。そしてクレインの目に信じられ無い物が映し出された。翠の腕が突然6本に増え、脇侍の身体をガッチリとホールドしていたのだ。
 「あ・・・ア○ュラ○スター!?」
長船は思わずそう言ってしまった。長船の脳裏に6本の腕を持つ超人が技をかけている姿が浮かび上がった。
 「ああ・・・あの鬼の死に方は、あの技だったのか。」
カンナがようやく納得が言ったらしい。翠は脇侍を抱え上げ、頭を脇侍の肩に乗せ、6本の腕でガッチリと両足・両足首・両腕をホールドし、空高く飛びあがった。
 そして・・・・轟音を上げ大地に叩きつけた。その瞬間、脇侍の身体はバラバラに四散してしまった。完璧な破壊技だった。

 「うん?おお、セツナじゃないかよ。こんなところで会うなんて奇遇だな。」
話しかけようとしたセツナより早く、翠の方から話しかけてきた。先ほどまで6本に増えていた腕は元に戻っていたのが不思議でかなわなかった。
 「姉さんこそ・・・どうしてこんな所に?」
すると翠は笑いながらセツナにくっつきながら話しかけてきた。
 「それがさ〜。慧矢とエルツヴァーユの入り口巡ってやりあってたら、もんでりうって慧矢と一緒に入り口に入っちまったんだよ〜。」
と、頭をポリポリ掻きながら苦笑する翠。
 「そしたら、この時代に来てた・・・って訳。そこで・・・」

 「似たような境遇の俺達と知り合って、行動を友にするようになった・・・と言う事だ。」
先ほどの青いサイボーグが話しかけてきた。
 「そこの細い兄ちゃん、さっきは済まなかったな。エネルギーが尽きかけてたからさ。」
サイボーグの男は、苦笑してシャインに謝っていた。
 「シャインを蒸し焼きにする気はなかったようだな・・・」
相変わらずヴィンドはムスっとしたままだ。彼は動力の切れたバトルモジュールに閉じ込められた時の恐怖を誰よりも自覚していたからだ。
 「俺は『太助(たすけ)』、シュビビンマン一号だ。ま・・・本業は魚屋なんだけどよ。」
 「あたしは、『キャピ子』。シュビビンマンニ号ね。本業は、女子高生ね。」
サイボーグである二人は、そう自己紹介した後、ひ〜ふ〜み〜と、倒した脇侍の数を指折り数えていた。
 「全部で・・・26匹か。換算して・・ま、30万って所かな?」
 「んじゃ、分け前は一人10万か。」
太助が言うと翠はにやりと笑みを浮かべていた。
 「よし、寝泊りする場所は確保できたし、後はさっさと換金しに行こうぜ。」
その言葉に、大神がきょとんしていた。
 「ね・・・寝泊りする場所って・・・まさか・・・」
翠はにやりとしたまま大神の光武へと向いた。
 「あんた等のトコに決まってんだろ。ああ腹が減ったな。セツナ、換金終わったらメシ食いに行こうぜ。」
 「え?ああ・・・はい。」
勝手に、こちらの陣営に加わる事を決めてしまったようだ。大神は呆然としているし、ブレイドは苦笑するしかない。こうして・・・・セツナの姉的存在である翠。そしてサイボーグ戦士シュビビンマンが大帝国劇場に居座る事になった。



 ・・・・暗い闇の中、広い空間があった。その中でまるで祭壇のような場所に鎮座している不気味な男・・・
 黒之巣会総帥、天海。その男が紅のミロクより出撃直前の報告を受けていた。
 「では、あの色付きのデク人形どものねぐらを・・・・」
 「ウム。頼んだぞミロク。刹那も羅刹も帝国華激団と、不可解な機械人形どもにしてやられた!六破星降魔陣完成までの時間を稼ぐのじゃ!」
 はっ・・・と、言う言葉を最後にミロクは出撃していった。
 その様子を蒼の叉丹が静に見つめている。
 「どうじゃ?叉丹。ミロクが時間を稼いでいる間に陣を完成できるか?」
 「お任せを。既に手筈は・・・・。しかし油断はなりません。帝国華激団・・・あやつらは少しづつですが力をつけております。それに・・・『電脳騎士』と名乗る連中(サイバーナイトの事らしい)に、妙な術を使う小娘(セツナらしい)。」
 「そうじゃのう・・・加えて、奇妙な鎧武者(シュビビンマンらしい)や、神出鬼没の裸の男が、我等の戦力を叩いていると言うではないか!ええい!忌々しい!」
 だが、天海はそこで表情をコロリと変えた。にやりと笑みを浮かべる。
 「じゃが・・・六破星降魔陣さえ完了すれば、奴等とて・・・ケケケケ」
 「ところで天海様。例の組織・・・ジェネレーションキルとか言う奴らから増援の手筈は?」
 「おう、それが援軍をよこしてくれるそうじゃ。側近の一人をこちらに向かわせたとな。」
そう言いながらも笑いつづける天海を、叉丹は静かに見つめているだけだった。
 (愚かなジジイだ・・・。向こうの組織に利用されているとも知らずにな・・。)
そこで叉丹は初めて口元を緩めた。
 (向こうが利用している間はされてやるさ。だが・・・・こっちはそれを逆利用してやるまで・・・奴等の技術を手に入れてな・・・それに・・・)
 叉丹は視線の先を変えた。魔術のような術で鏡を取り出すと、そこにはサイバーナイトが映っていた。
 (技術は・・・何もGKだけではない。)



 「その・・・・豪徳寺博士という人に、サイボーグにされたと?」
 大帝国劇場は、千秋楽を迎えていた。そして公演中は大神はやる事は無いので、事務のかすみと由里と一緒に食堂でシュビビンマンの二人・・・・太助とキャピ子の話をブレイド達と一緒に聞いていた。
 「そうさ・・・他に被験者がいなかったとかでよ。『事は一刻を争う事態だ・・・』とか言われて、半ば無理矢理。」
 太助が日本茶を飲み飲み思い出すのも嫌なのか、顔をしかめて話していた。
 「そうそう。おかげでとんでもない目に3度もあっちゃって!日常生活でさえ大変なのよ!」
 キャピ子はジュースをすすりながらぼやいた。平時の二人は普通の私服を着ていた。戦闘時のみ、あの強化プロテクターが装着されるらしい。
 話を聞けば、突然の侵略者の襲来に、危機に陥った日本を救う為、豪徳寺博士という一種のマッドサイエンテイストが、近所に魚屋を経営する太助と近くに住むキャピ子を、半ば無理矢理サイボーグ手術を施し、『改造町人シュビビンマン』にしてしまったと言う。
 日本の危機でもあり、しかも気づけば改造されていた・・・と言う事もあり、シュビビンマンとして二人は戦うこととなった。
 そして二人は、3度にわたり宇宙からの侵略者や、魔界と呼ばれる異世界人の襲来から世界を救った。
 そして魔界から自分達の世界に戻ろうとした時に、この時代に引き込まれたと言う。
右も左もわからない大正の世界で、二人は何とか元の時代の世界に戻る為の方法を模索していた。そこで、この時代が黒之巣海や鬼から狙われている・・・と知った時、二人は当面の活動資金を稼ぐ為、賞金稼ぎとしてサイボーグの力を使うことにしたのだ。ちなみに翠とは、同じように脇侍を倒して荒稼ぎしていた過程で知り合い、行動を友にすることにしたと言う。

 「日常生活が大変って・・・どんな風にですか?」
由里が尋ねると、太助は苦笑しながら答えてくれた。
 「俺が本業は魚屋だって事は話したよな?魚さばいてたら、力の加減が解らずに魚どころか、まな板まで切っちまったんだ。」
 「あ、あたしも〜。バレー部なんだけど、スパイク打ったらボールが床突き抜けちゃったのよね〜。」
キャピ子も太助と同じような表情だ。二人とも進んでサイボーグになったのではないので、たまったものではないのだろう。
 「しかしだ・・・なんで俺達って、この時代に連れてこられたのかね?ゴタゴタは沢山なんだけどよ。」
 太助の言葉に、黙って話を聞いていたブレイドが口を開いた。そして、自分達が銀河中心星域での体験から推測した事を語った。
 このようなサイバーナイトやセツナと翠。そしてシュビビンマンのような特別な力持つ存在が、一堂に会す・・・。偶然の類ではない。何か・・・誰かの意思により引き込まれたとしか言いようが無いと・・・。

 「その・・・誰か意思ってなんだよ。」
丼飯片手に翠が口を開いた。
 「それは解らない。少なくとも第2ブレイクスルーに達した存在だろうな。我々は少なくとも、銀河の中心でそういった存在を2つ知って、話もしたからな。」
 ブレイドはそう言った。一つは惑星全土が有機物のスープで覆われ、惑星自体が一つの生命体であった存在。もう一つは全宇宙の生命を作った存在・・・・『全ての生命の父にして母なる存在』であるメンターナだ。
 だがメンターナならば、我々をこのような状況に出来る事は容易だが、それは彼の意思に反している・・・とブレイドは言う。少なくとも彼ではない。
 「とにかく・・・・我々がこの時代で成すべき事・・・それを見定めるのが今の課題だな。」
ブレイドはそう言って手元にあったコーヒーカップを口にした。
 「コーヒー御代わりは?」
かすみが薦めると、ブレイドは笑ってカップを差し出した。
 「ありがとう。何せ銀河中心でソードフィッシュに積んであったコーヒーは、全部物々交換してしまったからね。」
 「コーヒーが好きな宇宙人がいるのねぇ・・・」
 その言葉にサイバーナイト達は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。

 「皆さん、話しこんでいるところ申し訳ありませんけど、そろそろ公演終わりますので、配置について頂けないでしょうか?」
売店担当の椿が、ブレイド達に申し訳なさそうに言ってきた。ブレイドは時計を見て「おっ、もうこんな時間か。話しこんでしまったな。」と苦笑している。
 「配置?何の事だ?」
翠が尋ねると、クレインが苦笑しながら答えてくれた。
 「裏方の仕事だよ。俺はキリみたいに絵が書けるわけでも、ヴィンドみたいに手先が器用じゃないからな。」
 「そんな事までするのか?傭兵が?」
 その言葉にシャインが笑いながら答えた。
 「米田指令の指示でね。平時の際も、なんか働けってさ。まったく・・・僕達は軍人じゃないから命令に従う必要はないんだけど・・・」
そう言って、ブレイドを見た。ブレイドは既に来賓者出入り口の方へ向かい、来賓の偉いさんらしき紳士膳とした人と何か話している。交渉の類らしい。
 「コマンダーの指示でね。ま・・・暇つぶしには良いかもね。」
そう言ってシャインは事務室の方へ向かった。彼が理系の大学を出ていると聞くと、事務方の仕事に回されたらしい。美人に囲まれて仕事をしているので、クレインが「俺と代われ!」とか言ったぐらいだ。
 「しかし・・・セツナが舞台女優とはな。んで・・・アタシ達は何をやれば良いんだい?」
食事を終えた翠に、かすみが答えた。太助は食堂で板前。キャピ子はウエイトレス。翠はその豪腕を生かして、大道具だそうだ。
 
 やがて来場者も去り、一息ついた劇場では、花組の面々は楽屋で打ち上げを兼ねた宴会を行う事になった。勿論、サイバーナイトとセツナと翠、太助とキャピ子も一緒だ。
 そして、さくらが飲み物の追加の買出しに行った以外では、皆自由に飲み食いを楽しんでいた。
・・・・・数時間後に迫る脅威も気づかずに・・・・

 長船は、宴会には「後で来る」と言い、帝劇地下の蒸気演算室に来ていた。この蒸気演算機は地下大空洞に隠された、強襲揚陸艦ソードフィッシュとリンクする様に改造されていた。
 蒸気演算機から、ソードフッシュのMICAの声が聞こえてきた。
 「分析結果から、ガルファーの装甲は、マイクロマシンの集合体である事が判明しました。」
 「マイクロマシン・・・・微生物サイズの微小機械か。道理で・・・色とか形とか簡単に変わるわけだ。」
予想はしていたものの、やはりショックはあった。天女の羽衣・・・・・それから作られたと伝承には伝わっていたが、その正体は、高度なテクノロジーの産物であったのだから。
 時鬼は、時を越えられる・・・時間を往来できる存在。そしてそれらと戦う為に作られたガルファー。長船は自分なりの答えを出した。
 「ガルファーは・・・おそらく未来人が作った物だ。先代・・・初代ガルファーは、ガルファーを作った存在が、過去の人間に与えた物なのかもな・・・」
 MICAは、うつむいている長船に声を掛ける事はしなかった。人間には自分自信に言い聞かせる事もある・・・と、知っているからだ。
 「だとすると・・・・俺は誰なんだ・・・・。過去のガルファーの血を引いた人間で片付けられるのか?」
長船は、それだけ言うと、静かに席を立った。席を離れる間際にMICAに礼を言う事も忘れない。それぐらいの気配りを言う自我は維持していた。
 肩を落としながら部屋を出ていこうとする長船。そんな時、部屋中に轟音と振動が響き渡った。
 「な!なんだ!?何が起きたんだMICA!」
長船は慌てて演算機に呼びかけた。
 「敵襲です。地下第2層・・・格納庫及び備品倉庫近辺に蒸気及び霊子反応。黒之巣会です。深川で現れた機体と同一の物です。」
 「真下か!MICA、急いで皆に知らせろ!俺は先に出るっ!」
ダッ!と、長船が駆け出そうとしたのをMICAが制した。
 「待ってください。先ほどの振動で、地下鍛錬室及び更衣室の壁が崩落!」
 「それがどうした!まさか!壁が崩落して地下通路が塞がれたのか!」
 「はい。その通りです。・・・・生命反応確認、大神少尉とさくら隊員が更衣室に閉じ込められています。」
その言葉に長船は頭をかきむしった。
 「なんでそんな所に二人がいるんだよ!」
 「どうやら・・・個人的な相談だったようで・・・・プライベートな内容なので、お話するわけにはいきませんが。」
 長船は、こんな時に逢引か?と、思いながらも、ここからどうやって出ようかと考えていた。
 「とにかく、皆に知らせろ。マズイな・・・ブレイドさん達じゃ、黒之巣会と戦えるかどうか・・・」
長船の言う通り、霊力を持たないサイバーナイトの武装では、脇侍程度ならば何とかなっても、幹部クラスがいたのでは通用するかどうか難しいところ。
 ここは、新参者のシュビビンマンと、セツナと翠に期待するしかない。特にセツナの力なら確実に通用する。ややスタミナ不足なのが問題だが・・・
 「その問題ならクリア済みです。モジュールに、対黒之巣会用の装備は搭載済みです。・・・・・出撃を確認しました。」
 「例の、霊視水晶の組み込みと、霊力入り弾丸が完成したのかい?」
 「はい。ですが、敵の数が多く苦戦中です。特に花組は指揮官である大神少尉を欠き、戦力が落ちています。」
 「仕方が無いところだな・・・・。とにかく今は!」
長船は崩落した通路をキッと見た。


 「クッ・・・・なんて数だ。」
カンナが息を切らせながら呟いた。
 「マズイで・・・・このままやとジリ貧や。」
紅蘭だ。砲弾もかなり消耗している。
 「さくらさんと少尉は何をしてますの!こんな時に!」
 「落ちつきなさい!とにかく・・・今はコマンダー・ブレイドの指示で動きなさい。」
マリアが檄を飛ばすものの、心の中では「持ちこたえるだけで精一杯・・・」と考えていた。それにブレイドの指示で動け・・・と言うが、ブレイドの指揮能力は確かに自分や大神より遥かに優秀だ。若い大神よりも、実践経験豊富で、尚且つ冷静さを失わないブレイドの指揮の方が確実だ。
 だが、ブレイドには霊力が無い。故に花組全体の力を束ねると言う『触媒』としての力は無いのだ。
 そして、その事を最も解っているのは、当のブレイド本人だ。大神は、指揮は未熟だが、花組の力を束ねる事が出きる。自分にはそれは出来ない。出切るのは戦闘指揮だけだ。とにかく今は、敵に決定打を与えられる花組を守り、大神が来るまで持ちこたえるしかない。
 「雑魚程度ならなんともないんだが・・・・流石に幹部は違うぜ。ゲイシャガールじゃなくて、アマゾネス・・・いや、狂気の女だな。」
 クレインが敵の幹部・・・黒之巣会『紅のミロク』を見て、そう苦笑した。流石に今はミロクの大きく開いた胸元に見惚れるわけにはいかなかった。
 「一度、ゲイシャってのを見たかったんだが・・・こんな場面で会いたくは無かったぜ。俺はキツイ女は好みだが、ココまでキツイのは勘弁して欲しいぜ。」
 軽い口を飛ばしながらも、顔は真剣だ。右から襲ってきた赤い脇侍・・・・ミロクの親衛隊とも言うべき機体で、防御力は変わらないが、攻撃力と機動性が格段にアップしている強敵だ。クレインは慌てずウィナーのノヴァフレイム(核融合バーナー)で、そいつを焼き払った。膨大な熱に、蒸気機関が耐えきれず爆発した。
 見ればサイバーナイト達は、今回全員、ウィナーとレックスに身を包んでいた。今回のような屋内で、しかも行動範囲が狭い場所では、サウルスやタイタン等の大型で重量級モジュールではかえって不利になるのだ。
 加えて、大型火器が使えない。小型火器や近接戦がメインとなるので、万能型のレックスが前面に立ち、射撃性能が高いウィナーが後ろからライフルやマシンガンで援護すると言う形だ。勿論シュビビンマンやセツナと翠も参加しているが、防御に関してはサイバーナイトの方が圧倒的に上なので、4人ともレックスを盾にして接近のチャンスをうかがっているといった感じだ。
 だが、ミロクの方も解っているのか、銃を携えた脇侍を前面に立たせて、刃を装備した脇侍は基地施設の破壊に専念する。
 更に言えば、ミロクの機体はやや大型で芸者を模したデザインだが、足の代わりにホバー機能が取りつけられ、機動性がこっちの数段上を行っている。加えて右腕には機関砲の砲門が10門もある。迂闊に近づけば機関砲の餌食だ。幾らレックスの装甲が軽量級モジュールの中でも厚いとは言え、あの機関砲の前にはボール紙同然だ。
 「ブレイドさんよお!何とか隙を作れないか!懐にさえ飛びこめばアタイが何とかできる!」
翠が叫んだ。確かに彼女の格闘術は凄まじい。脇侍すら一撃で葬れる彼女の技ならミロクとて無事ではない。
 「キビシイな。動きが素早いし、おまけにこっちはミサイルやビームが使えないんだ。クレイン、狙撃できるか?」
ブレイドが後ろのウィナーに呼びかけた。ウィナーの首が横に振られた。
 「この状況じゃあキツイですぜ。おまけに20mmライフルじゃあ、連発しなきゃ奴の装甲は撃ちぬけない。」
 あのクレインがそう言うのだから無理なのだろう。恐らく自分も無理だ。
 「もう我慢できねえ!シュビビーム使うぞ!」
頭に血が上った太助が右腕を掲げたのを見て、黒い光武・・・マリアが慌てて制した。
 「こんな狭い所で、光学兵器なんか使うんじゃない!敵は倒せるかもしれないが、基地の被害が大きくなりすぎる!宿無しになりたいの!」
 「くっ!」
悔しがる太助。それを見てミロクが高らかに笑った。

 「おほほほほ!!色付きのデク人形どもめ、悔しがるがいい!」
そう笑いながら右腕の機関砲を連射する。慌てて物陰に引き下がるレックスとマリア機。
 「天海様!もうすぐでございます!もう少しでこやつらの基地を!」

 「そうはいくかっ!!」

ボッ!!!───突然ミロクの背後から光が走った。そしてその光はミロクの機体の右腕を消し去った。
 「な・・・・なにが!?」
 まるで自分の右腕がやられたかのようにうめくミロクが後ろを振り返る。するとそこには自分が予想もしなかった存在がいたのだ。
 「帝国華激団参上ッ!!」
 ミロクの目線の先には、白とピンク色の光武が・・・。ミロクは馬鹿な・・・と思った。今まで何処に潜んでいたのかと・・・そしてこの光武には大型火器は搭載されていない。2機とも近接専用に調整されているからだ。
 「だ・・・誰が・・・」

 「俺だっ!」
 次の声に、ミロクは愛機の左腕も光と共に消え去るのを見た。そんな馬鹿な・・・・こんな閉鎖空間で大型火器を・・・しかも自分の腕だけを狙い、基地の設備には殆ど被害を与えていない。
 「ど!どこにいる!姿を見せぬか卑怯者め!」
うろたえながらも声高なミロク。すると、今度は両足のホバーの一部が砲撃された。これでミロクの機動力はガクンと落ちた。
 「お前等に卑怯者呼ばわりされたくないねぇ?」
すると、白とピンクの光武の後ろから、銀色に輝く装甲を纏った男・・・・ガルファーが姿を現した。見ればガルファーは右肩に大砲を携えていた。
 「き・・・貴様・・・どこから・・・」
ミロクが精一杯恨みを込めた眼でガルファーを睨んだ。するとガルファーは笑ったようなそぶりを見せて、天井を指差した。
 「上・・・?」
 「ああ。この二人コイツで助けた。」
と言って、肩に担いだ大砲をポンポンと叩いた。
 「ま・・・・まさか!!」
その言葉に絶句するミロク。するとピンクの光武・・・・さくらから笑ったような声が聞こえてきた。
 「その通り。ガルファーさんが、この大砲で床を撃ちぬいたんですっ!」

 さくらが言うには、更衣室に閉じ込められた大神とさくら。それに気づいていたのは長船一人。そして長船自身も、演算室に閉じ込められていた。
 敵が来ていたのは解っていた。もはや一刻の猶予も無いと感じた長船は直ちにガルファーに変身。ナパームパンチで崩落した壁を突き破った。そしてその足で大神達を救出・・・・とは簡単に行かなかった。更衣室をふさいだ瓦礫はもろく、下手をすれば二人は生き埋めになってしまう可能性すらあった。
 そこで、ガルファーは獣皇の1頭『ツキノワ』の武装形態が大砲である事を思い出したのだ。
 「でも、大砲でなんて、よく隊長達無事でしたね?」
マリアが尋ねた。貫通力の高い砲弾ならば、穴を空ける事も可能だが、同時に中にいる二人をも巻き込みかねないし、反対に破壊力を優先すれば、更衣室が埋まってしまいかねない。
 「そこが・・・士官学校主席の腕の見せ所さ。」
大神が自慢げに笑みを浮かべた。
 「俺は壁を軽く叩いて、モールス信号で外にいるガルファーに、意思を伝えたんだ。ここにいるぞってね。ガルファーが地下にいる事は解っていたからな。」
 そう、大神は長船が演算室に用がある・・・と言う事を前もって伝えていた。そして、振動で敵襲があった事を知った。早くココから脱出し、見方と合流しなければ・・・・と。
 だが、脱出の方法が無かった。そこで長船が演算室にいる・・・と言う事を思いだし、望みをかけて壁を叩き自分達の存在を教えたのだ。
 勿論、長船は二人が更衣室にいる事は知っていた。そして壁を叩く音から大神達の状況を知った。
 ガルファーも壁を叩いて、モールス信号で大神に自分の存在を教えた。そして救出のプランを立てたのだ。
 「まさか・・・モールス信号だけで、砲撃のポイントをやりとりしたんですか!」
すみれが驚嘆していた。だがその通りである。大神と長船は、今ガルファーが持つ力の中で最もこの状況に適した救出方法を模索した結果、ツキノワの大砲で吹き飛ばすことにしたのだ。
 そしてツキノワの大砲の威力・射程等から、壁が崩落しないギリギリの地点を、モールス信号だけで伝え合い、そしてガルファーは見事に二人を救出した。
 「力学的なポイントを押さえれば十分可能だったよ。」
大神は胸を張った。そして急いで光武に搭乗。そして、地下からの敵襲と言う事は解っていたので、ミロクがいるであろう場所を検索。そして背後に廻れるポイントへ移動・・・そして床を撃ちぬいて、ミロクへ奇襲を仕掛けたのだ。

 「形成逆転だな。覚悟してもらうぜ・・・・」
ポキポキと拳を鳴らしてミロクへ近づくガルファー。そればかりか、雑魚はあらかた掃討した花組・サイバーナイト達が何やら言い知れぬ雰囲気を漂わせて近づいてくる。
 「よ!寄るなぁぁぁ!」
ミロクが機体を捨てて脱出しようとしたのを翠が遮った。
 「よくも、宴会の邪魔してくれたなぁ・・・せっかく美味いモン食ってたのによぉ・・・」
パンチ一閃っ!───翠のパンチがミロク顔を襲った。その衝撃で編んだ髪がバラバラにほどける。
 「どうする?殺る?捕虜にする?」
 翠がブレイドの方へ向いた。それを受けてレックスがずいっと前に出る。
 「捕虜だ。黒之巣海に対しての情報が少ない。彼女を尋問して情報を聞き出す。」
 「幹部だしな。デカイ情報もってるぜ。」
太助が捕縛しようと、ロープを持って近づこうとした。だが、その時またしても大きな地震が起きた。地下まで響く大きな地震だ。
 「!!ッ」
ミロクは、その一瞬の隙を突いた。バッ!と人間とは思えないスピードで駈け出し、そのまま襲撃してきたと思われる大穴へ逃げこんだ。
 「しまった!逃げられた!」
 翠が後を追ったが、既に遅かった。ミロクの姿は何処にも無い。MICAにサーチさせたが、既に帝劇外へ逃亡したとの事だ。
 「逃げ足の早いやつめ・・・」
翠が悔しそうな顔をすると、クレインがウィナーのヘルメットを外しながら「イイ女だったんだがなぁ。こっちはガキばっかだったからよぉ」とぼやいた。その背後でキリとニジーナ、そして花組のメンバーが凄い形相だったのに、彼は気づいていなかった。
 「どちらにしろ、帝劇を守る事は出来たが・・・・」
ヴィンドが表情を変えず花組を見た。その中でマリアが頷いた。
 「基地の場所を知られたのは痛い・・・」
 「早期決着が必要と言うわけか・・・」
大神が腕組んで考えた。その横でブレイドがなにやら通信をフンフンと聞いていた。
 「大神君・・・。どうやら、その時は近いみたいだぞ。さっきの地震は、その前兆だ。」
今までに無いブレイドの真剣な表情に、全員の表情がこわばった。



 次回予告

 君達に、更新情報を公開しよう!
 ついに発動した、黒之巣海の切り札『六破星降魔陣』!!その恐ろしい力が帝都を襲う!
 その中に現れる、巨大なインベイド・オーガ!!花組達が手も足も出ない中、果敢に立ち向かうあの男達はなんだ!?
 そして・・・そして、ついに!獣皇が真の姿を現す!!これこそ、ガルファー最強の力っ!

 次回、サイバーヒーロー作戦  第7話『巨人と筋肉』   登場!獣帝王!!

 これが、半端な鍵だっ!  ───『筋肉』



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