第三話  『セツナと華麟と帝国華激団』




 「何処やねん?ここ・・・」
 長船が、時の泉に飛び込み、やってきた場所で開いた第一声がそれであった。
 てっきり鬼の巣窟だと思い、ガルファーに変身したのがバカらしく思えてきた。
 長船の目の前に広がっていた光景は、どう見ても小高い山の中・・・・。遠くに町並みが見えていた。
 「う〜ん・・・とりあえず変身は解こう。」
 長船は変身を解き、ガルファーから警官の姿に戻った。
 「随分と・・・・変な所に来ちまったな・・・。とりあえず街に行ってみるか・・・うん?」
 長船は首から下げている三種の神器の一つ『勾玉』が輝いているのに気付いた。
 「いきなり光った・・・・」
 勾玉の光は東の街のほうを照らしていた。
 「あそこへ行けというのか・・・」
 長船はバイクを走らせ、街へ向かった。


 長船が街に辿りついたのは、もう昼近くであった。そして、その町並みは一風変ってはいたが、長船は知っていた。
 「東京・・・・上野公園・・・」
 西郷隆盛の像と桜並木がそれを物語っていた。長船はバイクのエンジンを止め、押しながら公園内を眺め歩いていた。
 「どう言う事だ・・・?何故上野に・・・。それに・・・」
 長船は回りの人々を見まわして思った。やけに和服の人が多い。洋服の人もいない事は無いのだが数は少ない。しかも随分と時代かかっていた。
 「今の時代にあんな格好する人間・・・御祭りか正月ぐらいしか見かけないぞ。まるで・・・昭和初期か大正時代にでもタイムスリップでもしたのか?俺は・・・」
 長船は考えた。ありえない話ではない。時鬼は時代を・・・時を超えられる魔物だ。鬼が大正時代に現れても不思議ではない。
 「この時代に・・・鬼がいるのか・・・?」
 そんな事を考えていると、長船は回りの目線が自分に向けられている事に気付いた。
 「だとすると・・・俺のこの格好とバイクは目立つかな?」
 長船は、バイクはしょうがないとして、とりあえず警官の帽子だけ脱ぎ、無線機を外した。記章とか階級章が少々目立つが構わない事にした。
 やがて長船は東京の街を見渡せるほどの高台にやってきた。美しい桜の木が花びらを散らして美しい光景だった。
 周りを見渡しても花見客と思われる人々が大勢いた。皆、それぞれ酒を飲んだり、歌を歌ったりして楽しんでいた。魔物とは無縁そうな光景だった。
 「平和じゃないか・・・」
 長船はそう呟き、人々を見ていた。こんな中で、戦う為にこんな時代にやってきた長船は不釣合いであった。すると、長船は数いる民衆の中で、自分の格好と似た青年を見つけた。真っ白な制服を着た若者だった。
 「軍人かな・・・。この時代は自衛隊じゃなくて軍だっけ。あの格好は海軍かな?」
 やがてその海軍の若者は、ピンク色の着物を着た少女と一緒に、何処かへ歩いて行った。
 「待ち合わせでもしてたのかな・・・。着物着た子、可愛い子だったな・・・。羨ましいヤツ。」
長船は苦笑して、その場を離れようとした。だが、長船は気付かなかった。勾玉の輝きがその青年と少女を示していた事に・・・
 しばらく歩くと、何か人が群がっていた。長船はバイクをその場に止め、見に行く事にした。
 「何があるんですか?」
 近くにいた人に長船は尋ねてみた。
 「おうよ、兄さん見てみろよこれ!」
 長船が見たのは、放射線状に広がった爆発跡だった。中心部の芝生は完全にえぐられ土が白く掘り返されていた。
 「これは・・・」
 すると男は、持っていた新聞を長船に手渡した。
 「なんでえ兄さん、知らないのかい?巷で噂の怪蒸気が出たのよ!」
 「怪蒸気!?」
 すると、別の男が話しかけてきた。
 「ああ、その怪蒸気がこの間ここで大暴れしてよ!それを一人の少女が一刀でぶっ倒したって寸法よ!詳しくはその号外に載ってるわ!見てみろって!」
 そう言って、男達は何処かへ言ってしまった。長船は新聞を読む事にした。だが・・・・
 「うん?・・・え〜と・・・あっ!そうかこの時代は左からじゃなくて、右から読むんだ!」
 やっと気付いたようである。
 「カタカナ多いなあ・・・。何々?『少女剣士、怪蒸気を一刀』ねえ・・・。あっそうだ。日付見とかないと・・・」
長船は新聞の日付を見て、驚いた。そこには『太正十二年四月・・・・』と書かれていたからだ。
 「太正?大正じゃないのか・・・。」
 考えた。ここは『太正』時代であって『大正』時代ではない。歴史書を紐解いても『太正』という年号は存在しない。
 「並列世界って奴か?」
 自慢じゃないが長船はSFにはあまり詳しくない。
 「そうだよな・・・この新聞に出てる怪蒸気っての、どう見ても人型ロボットだ・・・。俺の時代でもこれほどのものは存在していない。」
 しばらく長船は考えていたが、やがて考えるのを止めた。
 「まっ!ここが何処でも、俺は俺の役目を果たすだけだ。」
 考えの速い長船であった。
 「じゃあまずは・・・何をやるかな・・・?」
 と、長船がこれからの行動について考えようとした時、それは起きた!
キャ〜!──
 耳を裂くような少女の悲鳴!長船は職業柄、敏感に反応した。
 「ふっ・・・。俺はやっぱり警官なんだな・・・」
 僅かに微笑みながら長船は悲鳴のする方向へ向かった。


 「や、やめてください!」
 一人の少女・・・ブレザーの制服を着た女の子が、いかにもガラの悪そうな男達に囲まれていた。
 「いいじゃあねえかよ。お嬢ちゃん。」
 「そうそう。見なれない可愛いおべべ着てるんだ。少しぐらい付き合えよ。」
下品そうな声で少女に絡んでいた。
 「(セツナ・・・このような人達は私が・・・)」
 「ダメよ華麟・・・。いくらこんな人達でも普通の人間に、貴方が・・・」
 「(でも・・・)」
 男の一人が少女の腕を掴んだ。
 「は、離して!」
 「一人で何ブツブツ言ってんだ?いいからよお・・・」
 男は少女の腕を掴んだまま、自分達の方へ引き寄せようとした。
 「(セツナ!私はいきます!!)
だが、その時であった!
 「待てっ!!」
 男達にいきなり声がかけられた。男達が振り向くとそこにはバイクにまたがった長船がいた。
 「その少女から手を離せ!」
まさに正義の味方の台詞で長船は叫んだ。
 「なんだ?テメエ。怪我しないうちにかえんな!」
 「そうそう、親分の言う通り!」
すると、長船は笑った。
 「三流の台詞だな・・・・。来な、相手してやるよ。」
長船は左手の指で手招きした。「かかって来い」と言うのだ。
 「ふざけんなあ!」
 男が長船に殴りかかってきた。だが長船は避けようともしない。そればかりか顔には笑みが浮かんでいる。
グシャッ!!──
 なにかが潰れたような音が響いた。少女と残った男は呆然と見ていた。殴りかかってきた男の顔面に長船の右の拳がめり込んでいたからだ。
 「久しぶりにやってみたぜ、カウンター。」
長船は確かめるように言ってみた。長船は男のパンチを左手で返して、そのまま右の拳を叩きこんだのだ。男の顔面は完全に潰れていた。顎も砕けてしばらくは固形物は噛めまい。
 「しばらくは流動食だな。さて・・・」
長船はもう一人の男の方へ向いた。男は足がガクガク震え、すでに少女から手を離していた。
 「どうする?あだ討ちでもやるかい?」
 男の顎を左手で軽く持って睨んだ。男はすでに涙目だ。
 「やるんだったら・・・遠慮はしない。このような手も使うぞ。」
 腰のホルスターから拳銃を抜き、口の中に押し込んだ。男はとうとう涙を流しうろたえた。
 「やる?やらない?どっち?」
 引き金に指をかけ、あえて優しく言ってみた。男は恐怖のあまり失禁し、そのまま白目をむいて伸びてしまった。
 「張り合いの無い・・・」
 その場に倒れた男二人を見て長船は何気なく言った。

 「あ、ありがとうございました。お巡りさん・・・」
少女は長船に頭を下げた。
 「怪我は無いか?それと・・・その君の後ろにいる背後霊みたいなの何?ス○ンド?幽○紋?」
 拳銃をホルスターに戻しながら聞いてみた。少女は目を見開いて驚いた。
 「華麟が見えるんですか!?そんな・・・あたししか見えないと思っていたのに・・・」
 長船は頷いた。
 「なんか・・・ピンク色のひらひらした服着た女の子に見えるけど?」
 「貴方は一体何者なんですか?」
 「それは俺の台詞だよ・・・。それから俺の事『お巡りさん』って呼んだな?ひょっとして君も現代・・・・昭和か平成から来たんじゃないのかい?」
 少女は頷いた。
 「そうか・・・。とりあえず立ち話もなんだ。昼飯でも食いながら君の事を聞かしてくれないかい?」
 「ナンパ・・・ですか?」
 長船は苦笑した。
 「事情聴取って所かな?俺は警官なんだよ。」

 「まっ、これだけあればしばらくの滞在費にはなるな。」
 お札の枚数を確認しながら長船は言った。この御金は村長の遺物の一つで、古銭収集が趣味だったのでそれを譲られた物だ。勿論それだけでは不充分なので、砂金の一部を換金してきたのだ。
 「随分と、準備がいいんですね・・・」
 「まあね。さっ!昼飯にしよう。君もその様子じゃあ、何も食べてないんだろう?奢るぜ。」
 少女は赤面しながら長船の後を付いて行った。
 やがて二人は近くにあった洋食屋を見つけそこで食事をとることにした。

 「特製オムライス二つ、お待たせいたしました。」
ウエイトレスが、湯気の立つオムライスをテーブルに運んできた。銀座が近いせいでもあるのか、洋服を着た人達が多く、長船と少女の事を気にする人間もいなかった。
 「お〜!待ってました。く〜!!久々の洋食だぜ・・・。」
 長船は早速オムライスに食らいついた。それを不思議な顔で見ている少女。
 「お好きなんですか?オムライス・・・」
 「ああ!俺がいたのは過疎化が進む農村だったからな、和食ばっかりで!洋食に飢えていたんだよ。」
 ガツガツと、とにかく食べる長船。その食欲に少女は呆然としながらも自分も食事をはじめた。
 しばらくして食事が一段落した二人は、御互いに自己紹介をはじめた。
 「俺は備前長船。職業は見ての通り、警官だ。やってきた時代は・・・恐らく君と大差ないだろう。」
 少女は頷いた。
 「はい・・・そうでしょうね。私は『斎月(さいづき)せつな』・・・。セツナって呼んでください。中学生です。それで備前さんがさっき背後霊みたいなのと言ったのが『華麟(かりん)』。私の大切な友人です。」
 「セツナちゃんと華麟ちゃんか・・・いい名だ。羨ましいぜ。」
 長船は実は完全無欠のお巡りさんに見えるが、実は名前にコンプレックスを持っていた。長船という古臭い名前をあまり気に入っていなかったのだ。それゆえカッコイイ名前には憧れていたのだ。
 「備前さんは、どうしてこんな時代に呼びこまれたのか解ってるんですか?」
 「いいや・・・解らん。とある使命によって呼びこまれた・・・ってのが筋かな?」
 するとセツナは表情を曇らせた。
 「備前さんもですか・・・。私も、似たようなものです。」
 長船は直感的に何かを察した。この子も俺と同じで、戦う為にやってきたのでは・・・と。
 その時だ。近くいた客達の会話が二人の耳に入った。
 
 「ええ・・・また出たんですって、魔物が・・・」
 「知ってますわ。浅草寺に現れたんでしょう?何でも新聞には『麗しの乙女』が退治したって書かれていましたけど。」
 「魔物に怪蒸気・・・。最近の帝都はどうしてしまったんでしょうね・・・」

 その言葉に二人は敏感に反応した。セツナがいきなり席を立った。
 「ご馳走様でした。わたし・・・行かなきゃ!」
 長船も無言で立ちあがった。
 「待ちなよ。浅草寺に行く気だろう?俺も行く。何か手がかりがつかめるかもしれないしな・・・」
 そして二人はバイクで浅草寺に向かった・・・・。


 二人は浅草寺に辿りついた後、一言も交わさずにあちこちを何か探すように探りまわった。だが、二人とも何一つ、掴めてはいなかった。
 解った事と言えば、数ヶ月前にここを魔物が襲ったと言う事だけであった。
 そして・・・日が暮れてきた。
 「手がかり無しか・・・・。」
 「(セツナ・・・)」
 「大丈夫よ華麟。」
 少し疲れた様子のセツナに長船がソフトクリームを持ってやってきた。
 「疲れたろう?ほら・・・」
 ソフトクリームを渡しながら長船は、セツナの隣に腰掛けた。
 「魔物と聞いて君の表情が変ったが、君も戦う為にこの時代に来たのかもしれないな。」
 長船はそう告げた。
 「・・・・それは・・・。」
 「話したくないなら話さなくてもいい。人には触れて欲しくない一面もあるからな・・・」
 しばらくの静寂が二人を包んでいた。日はどんどん暮れてくる。
 「もう遅い、宿を取って出なおさないか?」
 だが、その時!
 「(セツナ!!)」
華麟が突然叫んだ。セツナは不意に立ち上がり、周囲を見回した。
 「来るの?華麟・・・」
 「(はい・・・来ます。多くの・・・深闇(ふかやみ)の者が・・・)」
 セツナは、長船に向かって叫んだ。
 「備前さん!逃げてください!います・・・魔物が!」
 「何?」
 すると、二人の周囲にいつのまにか、紫色の異形な怪物が多く現れた。2mくらいの大きさの羽を生やした魔物が何匹も二人を見ていた。
 いや・・・目のような物は無いが、確かにこちらを見てた。気配でそう感じるのだ。
 「私は・・・いえ私の家は代々、深闇に組する異形の者から人々を守る為の『守護者』でもあるんです。さあ!早く逃げてください!いくわよ、華麟!」
 「(はい!セツナ!)」
長船は見た。セツナの身体にまるでバリアーのように覆う華麟を!そしてセツナが何やら呪文のようなものを唱えると、セツナの手に銀色の剣が現れた。
 「もしかして・・・彼女は、こいつらと戦う為に・・・この時代に?」
 セツナは剣を振りかざし、魔物に斬りかかっていた。見事な剣さばきではあったが、未熟な点は拭えない。しかもいくら華麟がバリアーになっているとはいえ、一人で十体近い魔物を相手にするのは無理そうに見えた。
 「備前さん!早く逃げて!!」
 だが長船は逃げずに微笑んだ。
 「残念だが、それは出来ない。何故なら・・・・」
長船は制服の袖を少しめくった。露になる手甲!
 「俺も君と似たような使命を持たされた身でね!」
 「え?」
長船は右腕を高々と掲げて叫んだ。
 「天女降臨!!」
 すると、まるでスポットライトのように長船に一条の光が照らされた。そして、美しい羽衣を纏った天女が長船に舞い降りた!
 「ガルファァァァ!!」
 そして天女が長船を後ろから優しく抱き締めた。そのすぐ後、天女の身体は光となり、長船を覆った。
 そしてセツナは見た!先程までいた若い警官の代わりに、銀色の装甲を見に纏った戦士を!
 「聖魔装甲!!ガルファー!!」
 長船はポーズを取って、名乗りを決めた!!ヒーローの御約束だ。
 「だ・・・断罪さんに似てる・・・。」
 セツナはそう呟いた。だが長船・・・いやガルファーの耳には届いていない。ガルファーのマスクのゴーグル部分に魔物の情報が示されていた。長船はそれを読み取る事に集中していたからだ。
 「降魔(こうま)?そうか・・・降魔って言うのか、この魔物は・・・」
 長船は禍禍しい降魔を見て、身震いしていた。
 「へえ〜!武器は強酸と爪・・・上級降魔になると光線まで放てるのか・・・。こいつらは・・・全部下級降魔か。先代はこいつらとも戦った事があるのか〜。」
 長船は先代に感謝しながらも、腰に手を当てた。光と共に現れたのは、神主から譲られた日本刀だ。
 「ガルファー!ブレード!!」
 声に呼応して日本刀が変化した。ガルファー用の剣、ガルファーブレードだ。長船は正眼に構えた。
 「行くぞ!!」
ガルファーは目の前にいた降魔を一体両断した。

 ガルファーとセツナはナイスコンビネーションとまではいかないが、徐々に降魔達を倒していた。
降魔は、数はそれ程多くないのだが、何せ耐久力が高い。しかもさすが魔のものだけあって生命力もずば抜けていた。
 ガルファーはともかく、セツナには体力的に辛くなってきた。
 「残光乱!!」
 セツナが剣を横に振る。光の矢が降魔に突き刺さる。だが、精神力もつきかけているのか、効果が薄い。降魔の身体に傷をつけたにすぎない。
 「はあ・・・はあ・・・」
 「(セツナ・・・しっかり・・・)」
華麟が励ましてはいたが、やはりセツナは限界に近い。すると、それに気付いたのか一体の降魔がセツナ目掛けて突っ込んできた。
 「くっ・・・・燐凰断!!」
 セツナはジャンプし、横回転・・・・まるでバレエのように回りながら降魔を切り裂いた。
 「・・・・・・白か・・・」
 長船は思わず、そう言ってしまった。セツナがジャンプし、回転した時に、スカートの中がチラッと見えてしまったのだ。セツナは気付いていないのか、気付いていても疲労で何も言えないのか、とにかくしゃがみこんで肩で呼吸をしていた。
 「まずいな・・・・」
長船は、セツナをかばうように前に出た。降魔の残りは三体。しかもまずい事に、変身限界時間が迫っていた。
 自分一人なら、なんとかなるかもしれないが、セツナをかばいながら戦うとなれば、苦戦は必死だ。
 「どうする・・・・」
 長船は被害が拡大するのを承知で拳銃を抜こうとした。ガルファーリボルバーなら降魔も一撃で倒せそうだが、威力が大きすぎて、浅草寺付近まで流れ弾が飛びかねない。
 「ん?」
 長船は腰に回した手が銃とは別の物を触っているのに気付いた。それは三種の神器の一つ、短剣だった。
 「そうだ・・・。ガルファーは一人じゃないんだった、仲間がいるんじゃないか!!」
 長船は短剣を抜き、腰のケースから宝珠を取り出した。だが!
グオオオ!──
 声を上げ、降魔が突進してきた。それはガルファーではなくセツナを狙っていた。長船はとっさにセツナに覆い被さった。
 「(!!??・・・・この感じ・・・何処かで・・・・)」
 長船はセツナに覆い被さった瞬間、何かを感じた。そう・・・以前もこうやって誰かをかばった憶えがあるのだと・・・
バシーン!!──
 降魔の爪が二人を弾き飛ばした。
 「ぐっ!くそ・・・時間がない・・・・!!??宝珠が無い!」
 立ちあがった長船は手に持った筈の宝珠を手放してしまったのだ。あちこちに散らばって転がっている。
 「くそっ!」
 拾いにいこうにも、降魔が邪魔をする。変身時間も残り数分・・・・ピンチだ。

 「備前さん!んん?何これ・・・」
 セツナは自分の足元に転がっている青い宝珠に気がついた。思わず手に取った。よく見れば、半透明の青い玉の中に何かが見えた。
 「犬・・・・いや・・狼?」
 「(セツナ・・・その宝珠に不思議な力を感じます)」
 「そうなの華燐・・・。」
 そう言っている間にガルファーのピンチにセツナは我に帰った。
 「助けなきゃ!備前さん、今行きます!」
 セツナの声に長船は反応した。そしてセツナの手にある物を見て長船は叫んだ。
 「セツナちゃん!そいつを投げてくれ!!」
 「は、はい!!」
 セツナは宝珠を思いっきり、ガルファーに向けて投げた。思いっきり手を伸ばすガルファー!
パシッ!!───
 「キャッチ!」
 青い宝珠を手に掴んだ長船は、宝珠を短剣の穴にはめ込んだ。そして・・・
 
「獣皇召喚!!」
 高々と短剣を掲げた。すると・・・・
 「なに!?」
 夕暮れだと言うのに、空の一部だけ青空が現れ、そこから虹が伸びてきた。そしてその虹の上を何かが駆けていた。
 虹は長船のすぐ近くまで伸びてきた。そして虹の上を駆けていたのは・・・
 「狼・・・、ロボットの狼・・・」
 そう、まるでロボットのような金属的な質感を持つ青色と銀色の狼が虹の上からまっすぐ長船の元へ駆け寄ってきた。
ウオォォォォン!!───
 地面に降り立った狼はガルファーを見て、遠吠えをした。大きさは2m近くある狼だった。青と銀の配色でまさに『銀狼』と呼ぶに相応しい風格を持っていた。
 「お前が獣皇・・・そうか、お前は『フェンリロウガン』か!!」
 何故、名前がわかるのかは解らない。だが、それに答えるようにフェンリロウガンは一鳴きした。
 「よし!フェンリロウガン。俺と一緒に降魔を倒すぞ!」
フェンリロウガンは「その命を待っていた」と言わんばかりに、近くの降魔に飛びかかって行った。
 フェンリロウガンの攻撃はまさに狼そのものだった。敏捷性を活かし、降魔の攻撃を避け、降魔の咽に噛みつき、食い千切る。さらに前足の鋭い爪で深深と降魔の身体を切り裂く。
 「頼もしい奴だな!俺も負けてられないな!」
 長船は腰に手を当て、警棒を取り出した。警棒を構えると、警棒は今度は如意棒ではなく、両先端に刃のついた槍と化した。
 「今度は槍か!」
 右腕に槍を構えたガルファーは真正面の降魔に向けて突進した。
 槍をチアガールのバトンのように回転させながら、駆け寄った。降魔は恐れを抱いたのか強酸を連続して発射したが、全て回転する槍に阻まれる。
 「食らえ!
ガルファー旋風槍(せんぷうそう)!!」
 回転する槍が降魔をまるで輪切りにしたスイカのように切り刻まれた。
 「ラスト一匹!!フェンリロウガン来いっ!」
 「オオオ!!」
 フェンリロウガンが吠え、ガルファーはその背に乗った。フェンリロウガンと同体となったガルファーは疾風のごとく駆けた。目の前には最後の降魔がいる。
 「行くぞ!!
ガルファー!!疾風槍!!
 古の騎馬武者のごとく、槍を突き立てたながら突き進むガルファー!!次の瞬間には降魔は串刺しにされていた。
 
 「大丈夫か?セツナちゃん・・・」
戦いを終えたガルファーがセツナに歩み寄ってきた。
 「はい・・・。」
 セツナは散らばった宝珠を拾ってくれたらしく、両手に五つの宝珠を抱えていた。
 「備前さんのその姿は・・・・?」
 「これが、俺の真の姿って所かな?君と同じで訳有りでね。」
 長船は苦笑した。傍にはぴったりとフェンリロウガンが寄り添っている。
 「お前に助けられたな、フェンリロウガン・・・感謝するぜ。」
長船はそう言ってフェンリロウガンの頭をなでた。嬉しそうに尻尾を振るガルウルフ。
 「犬じゃないんだから・・・尻尾振るなよ・・・。」
またも苦笑する長船。そしてフェンリロウガンは役目を終えた事を理解したのか、また虹の橋で空に帰っていった。
 「また頼むな〜!」
 空に向かって手を振るガルファー。すると変身が解けた、丁度時間切れとなったようだ。
 「ふ・・・時間切れか。とりあえず、宿でもとって休まないか?俺はもうクタクタだよ。」
 セツナは苦笑しながら頷いた。



 (まずまずと言ったところですね・・・・)
 (そうだな・・・・。彼女を一番先に接触させたのは正解だな・・・)
 (あとは帝国華激団がどうでるかが・・・・)
 (そこが焦点だな・・・・。それで君の最も信頼する彼等をぶつけるんだな・・・)
 (はい・・・。そして華激団は思い知らされるでしょう・・・・。敵の強大さに・・・)
 (奴等は手強い・・・・。だが、彼等なら対抗できる・・・)
 (彼等の戦闘能力と経験があれば、ガルファーもセツナも華激団も・・・)
 (彼等並の戦力になるな・・・)
 (彼等が成長しえるまでのサポートをあの三人に任せたのは正解なのか・・・・)
 (それは・・・・全知全能の私達にも理解できない問題ですね・・・)



 「どうだった?」
 「二日ぶりにお風呂に入れましたよ・・・。」
湯上りのほこほこした浴衣姿のセツナが部屋に入ってきた。どうやらセツナは長船の二日前に、この時代にやってきたようだった。
 「晩飯が来てるぜ。とりあえず食事にしよう。詳しい話はそれからだ・・・」
 「はい。」
 二人は戦闘の後、近くの旅館に宿を取った。長船もセツナも疲労でクタクタだったからだ。二人は用意された食事に疲れを感じさせないくらいに食べ始めた。
 特にセツナは話を聞けば、二日間何も食べていなかったらしい。育ち盛りの彼女には厳しい断食であったのは容易に想像できる。
 「イ・プラセェル?君は最初にその世界に召喚されたのか?」
 「はい。俗に言う異世界と言われるものです、ゲームなんかに登場するファンタジー世界みたいなものと考えてください。」

 セツナは、自分が何者であるか、そして華麟との関係を語り出した。
 セツナの家系は代々、『邪影(やかげ)』と呼ばれる異形の魔物のような存在から人間を守護する役割を持たされていたらしい。剣技は、その為に習得したようなのだ。
 ある日、彼女は邪影との戦いの最中、何者かの声を聞いた。それが『華麟』だった。
 華麟は実体を持たない意識体であった。何故か彼女に惹かれたセツナは彼女と融合した。
 その直後、彼女はイ・プラセェルに召喚された。召喚された理由に付いては華麟が関わっている事は確かであったが、詳細は解らなかった。
 「なるほどね・・・。それでその世界でどうしてたの?」
 「私達は、『絶対存在・イハドゥルカ』と呼ばれている存在を知りました。」
 「絶対存在!?」
 長船はセツナの言葉に驚いた。
 「はい。イハドゥルカと呼ばれる存在は、多次元に存在する脅威的な生命体と言われていました。そこでイ・プラセェルの人達は、イハドゥルカを『封神領域』と呼ばれる場所に封じたのですが、一時しのぎに過ぎないらしいのです。」
 セツナは言葉を続けた。
 依然として変らぬイハドゥルカの脅威から、イ・プラセェルの人々はイハドゥルカを倒す為、力持つ異世界の人間の召喚計画を実行したと言う。その結果数人の男女が召喚されたと言う。
 「で、君もその一人って訳?」
 セツナは首を横に振った。
 「いいえ、どうやら私達だけは、イハドゥルカ本人に召喚されたようなのです。ですが、その理由がさっぱり解らないのです。」
 セツナは表情を曇らせた。
 「その理由を知るために、その異世界で戦っていたのか・・・」
 「はい・・・」
 長船は、遠い目をした。
 「俺と同じか・・・・」
 「それって、どう言う事ですか?」
長船はその問いに答えてやることにした。そして長船は何故ガルファーになったのか、何故戦いを決意したのかを語った。
 「俺は、自分が何者か知るために戦う。勿論自分の課せられた仕事も忘れちゃいないつもりだ。」
 「そうだったんですか・・・。そうですよね・・・・誰だって自分が何者か知らないのはつらいですよね・・・」
僅かな静寂が二人を包んだ。その空気にいづらさを感じたのか、長船が口を開いた。
 「ところで、その異世界からここに召喚されたのは、どうしてだい?」
 「それが、解らないんです。イハドゥルカがいる封神領域の扉を開いたら、ここに来ていたんです・・・」
 「そうか・・・。解らない事だらけだな。」
 セツナはその言葉に頷いた。
 「そうですね・・・。さっきの魔物の事もありますし・・・。もしかしたら私達の他にも、この時代にやってきた人達がいるかもしれませんね・・・。」


 
「ぶえっくしょんっ!」
 長船とセツナが泊まっている旅館のはずれの部屋から、若い男がくしゃみをした。
 その男は頭に金のリングをはめ、両の腕に同じような金の腕輪をしていた。
 「風邪ですかい?アニキ。」
 一緒にいた、筋骨隆々のスキンヘッドの男が尋ねた。
 「春に風邪ひくなんて、アニキらしゅうないですぜ。」
 もう一人の同じようなスキンヘッドの男が言った。
 「こんな隅っこの安部屋泊まってるからダスよ〜。」
 アニキと呼ばれた若い男はそう言った。確かに彼等三人が泊まっている部屋は、長船達が泊まっている部屋に比べれば、狭く薄暗い。出されている料理も質素だ。
 「うう・・・銀シャリが食いたいダス・・・」
 麦が多く混じった玄米の飯と冷奴を食べながら男はぼやいた。
 「麦飯は身体にいいっスよアニキ。」
 「そうそう、サムソンの言う通りですぜアニキ。それに豆腐は高たんぱく食品ですぜ。」
 スキンヘッドの二人が慰めるように言った。
 「お前等はそれでいいかもしれんダスが、オラはそんな食事に馴れていないんダス〜!!」
 男は涙を流しながら言った。
 「うう・・・なんでブラフマー様はオラ達をこんな所に送ったんダスかね・・・。それならもっとカネよこして欲しかったダス〜!!」

 翌朝、ぐっすりと眠り休息を取った二人は、宿を引き払い、また情報収集の為に街へ出た・・・・
 そしてその十数分後・・・・・
 宿の親父の一言。
 「金が無い?」
 
「胸を張って言うほど事じゃないダスがな〜!!ハハハ!」
 
同じ宿に泊まっていた三人は、ポーズを決めてそう叫んだ。
 「出てけ。」
 三人は親父に蹴り出されてしまった・・・・


 「備前さん。これからどうします?」
 セツナが不安そうに尋ねてきた。彼女はこれからどうしたらいいのか解らないのだ。
 「そうだな・・・。とりあえず・・・」
その時であった。二人は町の人間が何か騒いでるのに気付き、聞き耳を立てた。
 「上野公園に、また例の怪蒸気が出たらしいぞ!」
 「今度は一匹じゃねえ!何匹もいるらしいぞ!」
 「くそ〜。軍隊や警察は何してやがんでえ!」
 長船は、今まで押していたバイクのエンジンをかけた。
 「行こう!何か手がかりが掴めるかもしれない!」
 「はい!」
 二人は全速力で上野公園へ向かった。そこで二人はとんでもないものを見た!

 「ろ、ロボット!!」
 「これが・・・怪蒸気・・・」
 上野公園に辿りついた二人が目にした物。それは十体近い数の身長3m程の人型ロボットが上野公園で破壊活動を行っている光景であった。
 上野公園は逃げ惑う群集と煙と炎に包まれていた。
 「ひ・・酷い・・・」
 あまりの惨劇にセツナが悲しげな声を上げた。
 「許せん・・・・。こうなったら俺が!!」
 長船は、怪蒸気達に怒りを感じた。袖をめくり、手甲をさらけ出す。
 「天女降・・・」
その時であった!いきなり地面から4色の爆炎が上がった。そしてその中から・・・・・
 「なに!?あれ・・・・」
 セツナが驚愕の目で見た。
 煙の中から現れたのは、白・ピンク・紫・黒でそれぞれ塗装された4体のロボットであった!
 4体のロボット達は怪蒸気達に向けて叫んだ。
 
「帝国華激団・参上!!」
 すると長船は何かに気付いた。胸の勾玉が光を発している。それは4体のロボット達を示していた。
 「あの・・・ロボットが、何か俺に関係していると言うのか・・・?」



次回予告


 姿を現した謎の4体のロボット!帝国華激団とは何者か!?そして、ついに現れた時鬼の尖兵!長船は果たして勝てるのか!?
 さらに、大いなる存在が最も信頼すると言う、男たちが長船の前に姿を現す!圧倒的な力を有する彼等の正体は?
 そして謎の筋肉三人組の行く末は・・・・・

 次回、サイバーヒーロー作戦 第四話 『対決!華激団VSサイバーナイト!!』 
  太正時代の霊能力者と二十四世紀の傭兵達が大激突だ!!
  大神「あ〜刀が溶けたぁ!!」  ブレイド「レイブレードを鉄で受けるか?普通・・・」




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