第一話 『駐在さんは、正義の味方』
空港・・・・。その乗客を飛行機へと乗せる為の発着ロビー。そこに二人の少年がいた。
一人の少年は沢山の荷物を抱え、にこやかに笑い、そしてもう一人の少年は、その少年を羨望の眼差しで見ていた。
「先輩!遠征試合頑張ってください!!」
少年が先輩と言った少年に向けて力強く言った。先輩の少年は笑っていた。
「ああ!任せておけ、将!」
先輩の少年は、将と言う少年に向けサムズアップして答えた。そして背中の荷物から一本の竹刀を取り出して言った。
「お前の姉ちゃんから貰ったこの竹刀に賭けてな!!」
竹刀は真新しい。先輩の少年はそれを誇らしげに見つめていた。
「それにしても・・・見送りがお前一人とはな〜。せめてお前の姉さんでも来てくれていれば、もうちょっと気合が入るもんだがな。」
「先輩!」
「ははは!冗談だよ、冗談。まあ大勢に見送られるのは苦手でな。お前一人の方が気が楽だよ!」
「先輩ってば・・・・」
その時、ロビーにアナウンスが鳴り響いた。搭乗手続きを知らせるアナウンスだ。
『ハワイ行き、SAL1342便搭乗のお客様は、第四搭乗口にお集まりください・・・繰り返します・・・』
「おっと、時間だ。じゃあな将!行ってくるぜ!!」
「先輩!いってらっしゃ〜い!!」
将が旅立とうとしている先輩に大きく手を振り叫ぶ。
「おう!任せて安心よ!!」
少年はこれから旅立つ先に希望と期待で胸が一杯だった。そして見送る少年も偉大な先輩を見送る事ができる喜びに満ち溢れていた。
・・・・・・ここまでは
その期待は打ち砕かれた。突然空港中が爆発と炎に包まれた。突然の出来事に人々は何が起きたのか確認する事も出来なかった。
「なっ!!」
少年のいる場所も例外ではなかった。突然の爆発に、少年は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐはっ!!」
少年は口から血を吐き出した。体中が痛む、恐らく胸骨が折れたのだろう。他の部分も何本か折れているに違いない。額からは止めど無く血が流れる。たち上がれるかどうかも難しい状態だった。
「な、何が・・・起きたんだ・・・?!」
次の瞬間、少年は自分の置かれている状況を理解した。
「これは・・・」
先ほどまで喧騒であれほど騒がしかったロビーが喧騒やアナウンスの代わりに炎と煙、そして爆音に包まれていた。
「事故か・・・?そうだ・・・将は・・・」
少年は思い通りに動かない体を必死に動かし、後輩を探した。
「将!!」
少年は自分を実の兄以上に慕ってくれる後輩を見つけ出した。だが、後輩の少年は天井から崩れてきたガレキに体の半数以上を覆われていた。
「今・・・助けてやるからな・・・」
少年は、必死で後輩に覆い被さったガレキを取り除き始めた。普段は何とも無い動作も今の少年にはこたえる。どうやら肋骨も折れているようだ。
「はあ・・・はあ・・・」
少年は息も絶え絶えにガレキをどかした。
「良かった・・・大した怪我はしてない・・・・」
少年は後輩の様子を見て、少し安堵した。幸い後輩に覆い被さったガレキが丁度テントの屋根のようになっていたおかげで、軽い打撲ぐらいで済んでいた。ただ完全に気を失ってはいるが・・・
「お前が死んだら・・・俺はお前の姉さんに合わせる顔がねえ・・・・」
少年は重傷ながら、微笑んでいた。
「早いトコ・・・ここから逃げようぜ・・・将・・・」
少年は後輩を抱え上げた時、新たな爆発が起こった。少年達の頭上に巨大なガレキが降ってくる!!
「将!!」
少年は無我夢中で後輩の体を突き飛ばした!後輩は助かったが、その代わりにガレキは少年の体を無常にも押しつぶした・・・
(俺は・・・死ぬのか・・・?・・・死ぬんだな・・・)
少年は今まさに息絶えようとしていた。ガレキは彼の左半身を完全に潰していた。例え助かったとしても、切断は免れ様も無い。
(良かった・・・・将は無事か・・・)
少年は薄れて行く意識の中、後輩が無事な事を確認していた。
(これで・・・香田奈に・・・どやされなくて・・・済むな・・・)
段々意識が遠のいてきていた。視界も狭い。どうやら片目が駄目になっているらしい。残った視界も赤く染まってきていた。
(将・・・あんまり姉さんに手間かけんなよ・・・香田奈・・・遠征終わった後で約束していたデート・・・駄目になっちまったな・・・)
少年の呼吸は止まっていた。そして心臓の鼓動も・・・
(短い人生だったな・・・夢が叶えられなかったのが心残りだぜ・・・師匠・・・今・・・いきます・・・)
少年の物理的生命活動は止まった。
本名、備前長船(びぜん おさふね)、享年十六歳・・・・その短すぎる生涯を閉じた。
後にこの火災事故は、反政府運動の過激派によるテロによるものと判明した。犠牲者は多数。その中には長船も含まれていた。
なおこの事件に巻き込まれ、長船によって一命を取りとめた少年は、無事救助された。
何かが、長船を見ていた。そこに人がいるわけではないが、何かが確かに『見て』いた。
何かは、潰された長船に向かって語り出した・・・
この少年か・・・・
はい
確かに、彼なら適任だな・・・
ええ、人間をはじめとする生物・自然・そして地球を愛する人間は星の数ほどいますが・・・
これほど条件を満たして、都合のいい人材は・・・
他にはいないと言う事か・・・・
彼には残酷な仕打ちだな・・・
解かっています・・・でも・・・
大の虫を生かす為には小の虫は殺す・・・か
彼はやがて真相を知るでしょう・・・・
彼には君が悪魔に見えるだろうな・・・
承知しています・・・我々の正義など誰も定義できません・・・
では、はじめるがいい
はい。『奴等』に対抗できる『力』を彼に・・・
彼が道を踏み外す事のないよう・・・
大丈夫です。彼はそんな弱い人間ではありません。
そうか・・・
真相を知った時、彼は私を許してはくれないでしょう・・・
時を見とおさないのか?
今は見ないほうが・・・
うむ
頼みましたよ・・・・長船さん。・・・いえ『ガルファー』。沢山の仲間と地球が貴方を支えてくれます。
そして・・・ごめんなさい・・・・
長船の体は光に包まれて行った・・・・
「駐在さん!起きて!駐在さん!!」
やかましいオバサンの声で俺は目を覚ました。
「駐在さん。昼ゴハン持ってきたよ。いくら暇だからって居眠りはいかんよ。」
「ああ・・済まない。いつも助かるよ・・・」
オバサンは、大きな握り飯四つと卵焼きがのった皿を駐在所の俺の机に置くと、そのまま帰って行った。オバサンはこの近所に住んでいる農家の人だ。俺がここに配属されてから駐在所に昼食を届けてくれている。
「またあの夢か・・・。ここに配属されてから、しょっちゅうだ。」
俺の名は、備前長船。このA県某郡の山間にある小さな農村の駐在だ。
俺は、自慢じゃないが大学在校時に、国家公務員第二種試験に合格。卒業と同時に警察学校へ入校した。
「セミキャリアって奴だったんだよな・・・俺。」
俺は麦が幾分混じった玄米の握り飯にかぶりつきながら、呟いた。
「バカ正直すぎたもんな〜」
これも自慢じゃないが、俺は警察学校を主席で卒業した。それに合わせてセミキャリアのこの俺だ。エリートコースまっしぐら・・・のはずだった。
「まあ、出世には興味が無い・・・と言えば嘘になるな。」
二つ目に噛みついた。俺は巡査として一年間、警官として精一杯やったつもりだ。その為か昇進試験も合格。キャリア組でもないのに、若干二十四歳にして巡査部長だ。勿論これも自慢する気はない。
「まあ、上司に恵まれなかったからな。」
その通り、俺は上司に恵まれなかった。俺の上司はいけ好かないキャリア志向の警部捕だった。何かにつけて、エリート風吹かしやがる。
俺達の仕事は、市役所じゃないんだ。平和を守る警察官だ。だからわざと過激派が集会を行っている場所の警備に連れ出して、びびらせてやった。気分がスーッとしたね。あんな奴等にビクビクしてたんじゃあ平和は守れない。そうだろ?
「その結果がココなんだよな・・・」
バカな上司だったが、影響力を持っていた。だからかな、こんな所に飛ばされたのは。まあいい、給料はちゃ〜んと支給されるし、村は平和で仕事も楽だ。しかも家賃はタダときた。
『平和を守る』という崇高な使命が果たせないのはいささか不満だが、一個人としては少々不便なところはあるがいい場所だ。ここに配属されて3ヶ月、ようやく村の雰囲気にも馴れてきた所だ。
「よしっ、食ったぞ。」
俺は最後の握り飯をお茶で流し込んだ。事務的な仕事は殆ど無い。俺は腹ごなしに昼の巡回に出ることにした。
「さ〜て巡回だ〜。」
俺は駐在所の外に止めてある自転車に乗った。こいつが普段の俺の愛車だ。前任者がする事がなかった為か、えらく綺麗に整備してある自転車だった。
「そういや、前任者は定年で止めた後、息子と自転車屋やってるって聞いたな・・・道理で。」
ピカピカに整備された自転車で俺は巡回に出かけた。
「考えてみれば、変な村だよな〜ココ。」
俺は、いつもそう考える。この村は『実花村』という名で農業がこの村を支えている。
「実花って割には、花を栽培している農家が無いんだよな〜」
そうだった。まあ、何を育てているかは農家の自由だ、俺の口出しするような事じゃない。もしかしたら昔は綿花か何か栽培してたのかもしれないし。
「ヤケに閉鎖的なんだよな。」
この村は閉鎖的だった。ヤケに同じ苗字も多い。まあ本家とか分家とか言うんだろう、自慢じゃないが俺の家は本家だが。
だが、この村はよそ者が入る事をやたら拒む。よそ者と知れば、冷たい視線と態度が待っている。それゆえ、この村を訪れると言えば、一部の気のいい清掃局か、農協の人間くらい。あとは俺のような駐在か・・・
前任者は定年退職まで、この村にいたが、とうとう最後まで村人と打ち解けなかったらしい。だが、俺の場合は違っていた。何故か着任するやいなや歓迎された。若い男だからか、という理由もあるのだろうが、なにかが違っていた。
「何か・・・裏があるような・・・」
警官として俺の勘がそう言っていた。だが証拠は無いし、村人達も親切なままだ。
そんな事を考えてる内に俺は大きな民家の前を走っていた。
「ここは村長の家だ。土地安いからな〜、でかい家建てられるよな〜。」
そうは言ったが、村長の家は先祖代々伝わったものらしい・・・と最近になって知った。
「村長は変わった趣味があるんだよな・・・」
村長の趣味は古銭採集だ。まあコインを初めとして古い金に執着するマニアは多い。別に責めるつもりは無い。興味はないがな・・・・
「・・・にしても変わってるんだよな。」
古銭に執着するのは悪い事じゃない。これも立派な趣味だ。だが、村長が集めているのは大正から昭和初期のものばかりだ。古銭と言ってもまだ歴史的には『新しい』部類に入る。
「戦前、戦中の生まれの方がまだ多く、ご存命しているこの村では珍しくもないだろうに・・・」
俺はそんな事を考えながら、自転車を走らせた。
しばらくすると、村外れの神社にやってきた。古めかしい神社だ、何でも大昔から何かを祭っているらしい。それがこの村の守護神みたいなものらしい。
「さてと・・・最後は・・・」
俺は神社裏を回って巡回を終える事にしている。神社裏にはこの村の聖域とも言える場所がある。
「いつ見ても・・・この村には似つかわしくない泉だよな・・・」
そう、泉があった。この村の住民が古くから神聖なものだと言っている『天女の泉』だ。その証拠に、泉の近くには祭壇があり、天女の像が泉の中央に立っていた。
「天女って割には、仏教的な造形じゃないな・・・。まるで聖書の女神像のようだ。」
俺は仏教や聖書などの宗教に詳しいわけじゃない。だが、仏教の神社裏に祭られている割には、いやに西洋的だ。
「まったく・・・へんてこな村だ。」
俺は泉を後にした。
俺は一日の勤務を終え、夕食の準備に取りかかろうとしていた。農家のオバサンが届けてくれるのは昼食だけだからだ。
過疎化が進むこの村には、小さな雑貨屋程度はあるものの、コンビニは無い。独身男性にとってコンビには無くてはならないものだ。俺は駐在所の駐車場に止めてある、自分の大型スクーターで片道三十分以上掛かるコンビニまで出かけようと思った。
そんな時、俺は村長の呼び出しを受けた。なんでも夕食がてら話があるそうだ。
晩飯がタダで食えるなら、村長の話しぐらい聞いてやってもいい。俺は早速、村長宅を訪れた。
「来てくれたな、駐在。まあ飯でも食え。」
俺は、挨拶もそこそこに、用意された食事に食らいついた。山間の村にしては珍しく、上等な刺身が並んでいる。腹も減っていた俺は、早速いただいた。
「それでだ、駐在。今日はアンタに大切な話がある。重要な事だ・・・」
村長は本題に入った。ある程度食らって腹も落ち着いた俺は村長の話を聞く事にした。
「まずはこの村に伝わる、大昔の事を聞いてくれ・・・」
村長は語り出した。どうやら言い伝えとか、伝承とか言うものらしい。今だこの村の詳しい事情を知らない俺だ、黙って聞く事にした。
「この村にある『天女の泉』は知っておるじゃろ。大昔この村・・・いやこの国は恐ろしい『時鬼』という魔物に襲われたのじゃ。」
「ときおに?聞いた事の無いモンスターの名前だな。」
「もんすたあ?ああ・・魔物の事か。とにかくその時鬼によってこの国は滅ぼされようとしていたんじゃ・・・」
俺は昔話の一種として聞く事にした。よくある地方や村に伝わる伝承の一種だと思っていた。自慢じゃないが俺は昔話をいくつも丸暗記する事が得意で小学生の時は有名だった。
「国中の人々が悲しみに暮れた時、天より一人の美しい天女様がおいでくださったのじゃ。」
「なるほど。そして天女様がその時鬼ってのを倒してめでたしめでたしって訳だな。そんでそれをたたえてあの像を作ったんだな。」
俺はそう言って話を締めくくろうとした。だが、村長は悲しそうに首を横に振った。
「いや・・・天女様は時鬼と懸命に戦いなさったが、力及ばず敗れ去ってしまったんじゃ・・・」
「じゃあ、時鬼はどうやって倒したんだ?」
俺はいつのまにか村長の話に聞き入っていた。
「天女様は傷つき、もはや戦う事は出来なかった・・・しかも命とも言える羽衣を引き裂かれ、天に帰ることも出来なかったんじゃ・・・」
村長はいつのまにか涙を流していた。
「だが、天女様は無力な民の為に、もう一度戦うご決心をされた。じゃが傷ついたお体では鬼と戦うのは無理じゃった。そこで天女様はこの村に身を隠し、この村の男との間に子をお作りなり、その御子に鬼を討たせようとしたのじゃ。」
「・・・・」
俺は黙って話を聞いていた。単なる昔話では無い。俺はそう感じていた。
「天女様は、引き裂かれた羽衣を秘術を使って武具に造り替えたのじゃ。そしてそれを御子に纏わせ鬼を討ったのじゃ。」
「・・・・すげえ。」
「じゃが、引き裂かれた羽衣から造った武具では力が足りず、鬼を完全に討ち倒す事は出来なかった。そこで天女様は、最後の力で鬼を『時の空洞』と呼ばれる大穴に封じ込めたのじゃ・・・」
「それで戦いは終わったのか?」
村長は頷いた。
「ああ。じゃが、傷つき、地上の男と交わった汚れた体、羽衣すら失った天女様では完全に封印できんかった。そこで自らのお体を人柱とする事で何とか封印したのじゃ・・・じゃが、その苦痛と悲しみからか天女様は多くの涙を流され、時の空洞は天女様のお涙で一杯になってしまった。」
俺はそこで感づいた。
「じゃあ、まさか天女の泉は・・・」
村長は頷いた。
「そうあれは天女様のお涙で埋まった時の空洞じゃ・・・」
「・・・・・」
俺は何も言えなかった。いつのまにか村長の昔話にのめり込んでいた。しかもそれが作り話でも、おとぎばなしにも聞えなかった。
「天女様の御子は、母の悲しみを繰り返させない為に、泉を聖地として管理する事にした・・・時鬼の封印を守る為にな・・・そして決して誰も近づけんようにな・・・」
「まさか・・・この村がよそ者に、冷たいのは・・・」
村長は頷いた。
「そうじゃ・・・ここの村人は、全て天女様の御子の子孫なのじゃ。わしらは生まれながらにして鬼の封印を守る番人でもあるのじゃ・・・」
「でも・・・よそ者の俺にどうしてこんな話を?それに俺はこの村に着任した時からやけに歓迎された。前任の奴は、偉く冷たくされたって聞いていたのに。」
村長は少し黙り込み、茶を一口飲んでから話し出した。
「実はな・・・天女様の御子が残された書物・・・『天女の書』というものの一説によると、天女様の封印は時間と共に弱まると書かれているんじゃ・・・もって数百年とな。そして数年前にその封印は解けてしまったんじゃ。その証拠に天女の泉の湧き出す水の量が減ってきている。」
「なんだって!!でも・・・モンスターなんか何処にもいないぜ・・・」
「時鬼というものは・・・その名の通り『時の鬼』じゃ、いつの時・・・つまりどの時代にも現われる事が出来ると天女の書に書かれていた。恐らく数百年前に現われたのは、襲うのが楽じゃったからだろうな・・・」
「じゃあ今この瞬間にでも時鬼が現われても不思議は無いと・・・」
村長は頷いた。
「だからだ。お前を呼んだのは・・・」
村長の鋭い眼差しが俺を突き刺した。俺は一瞬ビビッた。これが還暦を越した爺さんの目か!・・・と。
「まさか・・・俺にその時鬼と戦えっていうんじゃ・・・」
村長は頷いた。俺はうろたえた。
「ちょっちょっと待ってくれ!いくら俺が警官だからって何で鬼と戦わなきゃならないんだ!しかもこの村に何の関係も無いこの俺に・・・」
「関係ある!!」
村長は叫んだ!気臆する俺。自慢じゃないが、こんなにビビッたのは中学生以来だ。
「わしらがただの農民だと思わん事だな。」
村長はそう言って背後の襖を開いた。そこには!!
「うそっ!!」
そこには、並のソフト開発会社顔負けの電子機器の数々・・・つまりコンピューターがぎっしりと敷き詰められていた。
「過疎化の進んだ農村とはいえ、世間の荒波はよ〜く知っておるわい!今や農家もITの時代じゃ!」
「・・・・それと鬼がどう関係するんだ・・・」
村長はニヤリと笑った。
「官公庁のデータバンクに侵入するなんぞ、数年前からいつものようにやっておるわい!そしてやっと見つけたんじゃい!天女様の直系の血筋のおめ〜さんをな!!」
「で・電脳犯罪・・・・こんなじ〜さんが・・・」
俺は言葉を失いかけた。
「お前の経歴を調べ上げて、さらにDNAデーターを知合いの病院にある人物のDNAと照合させたんじゃ!そうしたらよ、数十年前、この村を逃げるようにでてった備前とこの娘の孫がおめーさんだ!!」
俺は何も言えなかった。だが、考えてみれば俺は、ばあちゃんの事は殆ど知らない。何処かの村から夜逃げしてきたとは聞いていたが、まさかココだったとは・・・」
「さらに言うと、お前をここに赴任するように赴任先のデータを改ざんしたのもこの村の連中だ!三年前から目ぇ付けとったんじゃい!お前さんの異動のチャンスをな〜。」
「悪魔・・・・そこまでして俺に鬼と戦わせたいのか!!」
「そうじゃ!!この国を・・・いや!今の言葉で言ったら『地球の平和の為』じゃ!!」
俺はそこでピンときた。思わず顔がにやける。
「村長。やってもいいぜ鬼退治。」
「本当か!!」
村長の目が輝く。
「だけどよ。肝心要の鬼がいないんじゃ〜戦い様がねえな。」
俺はわざと茶化すように言った。村長の言った事は事実だろう、だが、戦う相手がいないのなら、それは成立しない。俺はそう甘く捉えていた、だが・・・次の瞬間俺は先程の言葉を心の底から後悔する事になった。
「村長!てえへんだ!!」
一人の村人が血まみれで、部屋に飛び込んできた!
「ど、どうしただ!!それにお前、その怪我は!?」
村長が血まみれの村人に詰め寄る。村人は息も絶え絶えだ。
「出ただ・・・ついに鬼が・・・時鬼が・・・天女様の封印破って・・・」
村人はそこで気を失った。
「駐在・・・・来る時が来たようじゃ・・・」
村長は真剣な眼差しで俺を見つめた。
「来い!!」
村長は外へ飛び出した。俺もそれに続いた。俺はタダならぬ雰囲気に腰の拳銃のを確認した。弾は六発入っている。いつも暇なので手入れは欠かしていない。いつでも万全で発砲できる。俺は訓練以外で発砲したことは無い。
「やれるのか・・・俺・・」
俺は緊張しながら走った。すると、俺の眼前には地獄絵図が待っていた。
「ひ、ひでえ・・・」
俺の前には血まみれの村民達が文字通り『散らばっていた』。手や足がちぎられたり、内臓を腹から無造作に広がっていたりした。
「お、おばさん・・・」
俺は絶句した。いつも昼食を届けてくれるオバサンの生首が転がっていた。
「いたぞ、駐在!あいつが時鬼じゃ!書物の通りの醜い姿じゃ!!」
村長が指差す。その先には二メートル以上はある異形の怪物が立っていた。まさしく鬼だった、頭に大きな角が二本生えていた。そしてどす黒い肉体を揺らしこちらに近づいてくる。
「まさし!!」
村長が叫んだ。時鬼の右腕に中年の男が頭をがっしりと掴まれていた。
「・・・村長、駐在さん・・・・お、俺、死にたくねえ・・・助けてくれよお・・・」
次の瞬間、男の頭はトマトのように赤い飛沫を飛び散らせ、砕けた。
「まさしぃ!!」
村長の絶叫!時鬼は右手についた血を美味そうに舐めた。その光景に俺は怒った。
「この野郎・・・・」
俺は拳銃を抜き、時鬼に発砲した。だが・・・
「くそっ!きかねえ!!」
弾丸は全て鬼の肉体に弾かれてしまった。そんな時俺の肩を村長が掴んだ。
「そんなモンは効かん!!神社まで走るぞ!」
「わ・解かった・・・」
俺達は懸命に走った。鬼は追ってこない。どうやらじっくりと村人を吟味する気らしい。
「ふざけやがって・・・」
「今は堪えろ!!奴を倒せる武具が神社に封印してある!!」
俺は頷き、黙って神社まで走った。すぐに村長を追い越したが気にはならない。
やがて目の前に神社の鳥居が見えた。もうすぐだ、すると神主が鳥居の前に現われ、なにやら鉄の箱を抱えて俺を手招きする。
「駐在さん、ようきた!これを!天女様がお造りなされた武具が入ってる!」
神主は俺がこれを身に纏う事を知っているようだった。
「よし・・・」
俺は箱を開けた。だが・・・
「は?手袋と手甲だけ?」
俺は拍子抜けし、神主に詰め寄る。
「これだけか!鎧とか剣とかは無いのか!?」
「これだけじゃ!!間違い無い!」
神主は強く頷いた。俺は怪訝に思った、本当にこれだけで鬼と戦えるのか?と・・・
だが、状況は俺の気持ちなど考えてくれないようだ。
「ぎゃあああ!!」
神社の近くから絶叫が!村長の声だ。見れば鳥居の下に村長の頭を掴み、こちらを睨みつづけている鬼がいた。
「村長!!」
俺は叫んだ!!
「駐在!わしに構うな!早くコイツを天女様の武具で倒せ!!」
「村長・・・」
俺は手袋をはめ、手甲を両腕に装着した。
「許してくれとは言わん・・・・お前の人生を狂わすような真似をしたからな・・・だが!奴等から人々を守れるのはお前だけだ!!戦ってくれ!駐在!正義の為に!!」
それが村長最後の言葉となった。
「村長ォォ!!」
先程の村人同様、村長の頭が砕け散った。鬼は今度は俺を狙っている・・・俺は鬼に対する恐れより、怒りの感情がそれを制した。
「任せてくれ・・・村長。自慢じゃないが、俺は人の信頼は裏切った事がないんだ・・・」
俺は拳を握り締めて鬼に向かって走った。
「天女様よぉ!俺がこいつ等を完全に葬ってやるぜ!!」
俺は吠えた!!腹の底から!心の奥底から!その時、俺の体は光に包まれた。
(何だ・・・?ここは・・・)
(待っていた?俺を・・・)
(誰だ、あんたは・・・天女様か?)
(ガルファー?なんだそれは、・・・・そうか、俺の名か!!)
光が消え去った。だが、そこには今までいたはずの若い警官の姿はいなかった。
その代わりに、銀色に輝くメタリックボディーの装甲に身を包んだフルフェイスマスクの戦士が立っていた。
「おお!あれこそ天女様が自らの羽衣から造られた武具の真の姿!!」
神主が叫んだ。鬼が怯んだ。
「解かる・・・解かるぞ・・・全てが!天の力と人の力!!輝かしくも神々しく美しい光の力。全てを包み込む安息をもたらし、邪なれどそれこそ人の生きる証の闇の力。」
今の俺には全てがはっきりと感じていた。
「俺は・・・俺の名は・・・」
俺は覚えの無い言葉を叫んだ。だが、知っていた。何故かは解からないが知っていた言葉を!!
「聖魔装甲!!ガルファー!!」
次回予告
自慢じゃないが、次回の予告だ。
俺は、聖魔装甲ガルファーについに変身した。だが、なんだぁこの姿は?子供向け特撮ヒーローまんまじゃないか?天女様よぉ、一体何考えたんだい?
まあいい時鬼よ、俺がしっかりあの世に送ってやるぜ!!正義の名の元に!
次回 サイバーヒーロー作戦 第二話『変身駐在の鬼退治!』 自慢にならないな・・・
次回も任せて安心!!