職員室に揃えておきたい特殊辞典



これは研究社「現代英語教育」1998年1月号に岡山朝日高校の鷹家秀史先生と共同で発表したものです。

 先日、生徒に「先生、ユンポ(油圧式ショベル)って英語でどう言うの」と聞かれていろいろな辞典・事典を調べた。これがありそうでなかなか見つからない。同僚に聞いてもわからないという。英和・和英・カタカナ辞典・外来語辞典・国語辞典・イミダスと思いつく限り調べてみたが見つからない。こうなると最後は図解辞典に頼るほかない。答えはjumboだった。堀内克明/國廣哲彌編(日本版)『英語図詳大辞典』(小学館、1985)はこういう時のためにある。一体どんな辞典・事典が現場教師には役に立つのか?かくして特殊英語辞典探索の旅が始まることになる。予算は10万円。高校の教員には痛い出費だが中身の濃い旅になれば望外のもうけものと言える(語法辞典、イディオム・Phrasal Verb辞典は除く)。

 

1.世界の英語と類義語辞典

 

 我が校のALTはNew Zealand出身で、先日印刷室で出会ったら“Do you have a PIN?”と聞く。そんなものはないと答えるとしきりに“pin”を繰り返す。ふと気がついて“Do you want a PEN?”と尋ねると“Yes, a PIN.”と答える。New Zealand English では“pen”は“pin”のように発音されることをその時思い出した。彼の前のALTはAustralia出身でその前はIreland出身というふうに、生徒が学ぶ英語はまさにWorld Englishesになっている。「世界の英語」に関する専門書は色々出ているがコンパクトでかつ内容・バランス・情報量の点で満足できるものは少ない。そういう中でThe Right Word at the Right Time (Reader's Digest 1985)という本は出来がよい。本来、類義語・語法に関する保守的な記述が中心の本だけど予想外にいろいろためになる情報を載せている。多様な英語の紹介として American, Australian, Canadian, Irish, New Zealand, Scottish, Standard, Welsh English, South Asian, South Americanなど幅広く取り上げているし、また記述も総論・発音・語彙・文法とバランスが取れている。ためしにNew Zealand English をひくと“Another characteristic of New Zealand English is the sound of the 'short vowel'--A New Zealander's pan may be heard by an Englishman as pen; his pen as pin; and his pin as something like pun...”と書いてあるのが見つかる。この本は他にも興味深い話題を提供してくれる。たとえば発音・つづりが紛らわしい単語のリスト、英語におけるsexism / euphemismの説明、スラング、借入語の説明、英語における「Uとnon-U」、vogue words, metaphors とsimilesというふうにバラエティに富んでおり、しかも説明のしかたも要領がよい。

英語・米語の違いに話を限定すれば Norman W. Schur著、豊田昌倫ほか訳『イギリス/アメリカ英語対照辞典』(研究社出版 1996)が出色の出来である。もともとこの辞典はBritish English, A to Zed (Facts on File 1987)の翻訳なのだが、そのタイトルが示しているようにこれは「イギリス英語とアメリカ英語は共通の言語だと思いこんでいるアメリカ人への手引書としての、イギリス語法の語彙集」である(A to Z[zi:]ではないことに注意してもらいたい)。全体はイギリス語⇒アメリカ語の順に並ぴ、イギリス語のアルファベット順が基本だが、索引を使えばアメリカ語からも検索できるし、付録を使えば英・米語のシンタックス・発音・口語用法・比喩的な言い回し・句読点とスタイル・スペリング・通貨・財政用語・計量単位・数・自動車用語・楽譜・俗語;食物名・動(植)物名における一般的な相違について多くが学べるようになっている。

 上述の The Right Word at the Right Time はもともと類義語(句)に関する本なのだが、英語の類義語に関する辞典ということになると定番は Merriam-Webster's Dictionary of Synonyms (G. & C. Merriam 1984) と Choose the Right Word (HarperCollins 1994)であろう。しかし、これらの本はどうも使いにくい。大型の辞書ならたいてい類義語の説明をつけているのだがこれもなかなか分かりにくい。むしろ Longman Language Activator(Longman 1993) の説明のほうが役に立つことが多い。収録語数は多くないが、最所フミ編著『英語類義語活用辞典[増訂新版]』(研究社出版 1984)や田中実著『英語シノニム比較辞典』(研究社出版1992)のほうが納得させる説明を与えてくれることが多い。この手の類義語辞典の問題点は何を類義語と考えるかで日本人と英米人の問で差があること、収録語数に制約があること、言葉の意味の違いというよりコロケーションの違いという場合が結構あるということである。

ところで、この項を書いているときちょうど出版されたばかりの Longman Essential Activator (Longman 1997) が手に入った。親版に比べて収録語数は少なくなったが、「基本語」を中心にその運用のネットワーク化をはかり、個々の場面毎に必要な情報を与えてくれて、日本人のための発信型の辞書としては親版以上の出来である。用例も中級程度の学習者を対象としているのでわかりやすくなっている。しかも非文情報も入っており、たとえば delicious という単語は very deliciousではなく absolutely / really で強調されるなどという記述は親版にはない。

 

2.コロケーションを知る

 

これだけ英和辞典・学習英英辞典が充実しても我々日本人にとってわかりにくいものに単語と単語のつながり方(collocation)や相性というものがある。ある特定の単語とつながる動詞、修飾する形容詞・伴う前置詞などはどうしても日本語からの連想が干渉してnon-native には頭痛の種となる。最終的にはコーパスに基づく英和辞典の完成が待たれるが、当面の所、市川繁治郎ほか編『新編英和活用大辞典』(研究社 1995)や寺澤芳雄監修『BBI英和連語活用辞典』(丸善 1993)が役に立つ。前者は勝俣銓吉郎の『新英和活用大辞典』(研究社1939)の全面改訂版で評価も高い。旧版では「本当かな」と疑問に思っていた個所もあったが新版では用例はすべて native が作成し38万に達しているという。<雑> の項も面白い。CD-ROM版も出ており利用価値が高い。後者は3人の著者の頭文字をとって BBI と名づけたもので、編者の経験にもとづく連語活用辞典である。翻訳書のほうが用例の漏れを補いしかも追加したものはきちんと印(☆)を付けておりおすすめである(オリジナルの改訂版The BBI Dictionary of English Word Combinations (1997)が出た)。

 

3.雑学と cultural literacy

 

高校の英語教師の仕事を考えると英語に関する専門的な知識も必要だが雑学も必要である。『不思議の国のアリス』を教えるときには「Lewis Carrollはペンネームで、本名は Charles Lutwidge Dodgsonというオックスフォード大学の数学の講師であった。彼ははにかみ屋で、どもるくせがあり、講義は非常に退屈だったといわれる。しかし、幼い少女の世界が好きであり、彼女たちのために好んで、なぞなぞやゲームをつくってやった。ヴィクトリア女王はこの『不思議の国のアリス』がすっかり気に入り、著者に次の作品をぜひ贈ってほしいと頼んだ。そこで、彼は次の自著を贈ったが、それは『行列式原論』 An Elementary Treatise on Determinants だった」などという挿話がおもしろい(ただし、ヴィクトリア女王の件は Dodgson自身が否定している)。こうした挿話を集めたものにトム・バーナム著、堀内克明編訳『英語雑学事典』(研究社出版 1982)がある。これはポートランド州立大教授の Tom Burnam という人が書いた本だが、生物学からスポーツまで様々な分野が取り扱われている。また同様のものとして大庭勝・村石利夫編著『英語話題事典』(ぎょうせい 1991)がある。内容は「『ファミコン』、『しゃぶしゃぶ』はアメリカで通じるか」といったような言語に関するものが多いが、「アメリカの子供はどんなおもちゃで遊ぶか」といったような文化的なものもある。

 教科書に扱われている内容によっては日米英の教育制度の相違を知る必要がおこることもある。米国の学校制度が日本のように単一でなく説明しがたいということはだれもが知っているが、以下の点を認識している人がどのくらいいるだろうか。

 

*アメリカでは city や town とは無関係に state がいくつかの school district に分か

れている。school district の government は住民の選挙によるメンバーからなる

school board を最高機関として持つ。

*school board は superintendent of schools(教育長)を全国から公募によって任命し、

教育長が有給で日常の業務を処理する。教育長は次長、校長、教職員を任命する。この

school board 及ぴ教育長が school district の固定資産税を財源に小・中・高の教育

行政を行なう(日本のように高校は都道府県の教育委員会が指導したり、文部省・県の

教育委員会が教育行政を行なうことはない)。

*6-3-6 制の場合 elementary school?junior high school--high school となるが、5-3-4,

 4-4-4 制の場合 primary school--middle school high school となることが多い。

 

本稿で取り上げる辞典は実際に問題に出くわして答えを求めて引く辞書がほとんどだが、なかには通読に耐える内容を持ち、しかも適切な量にまとめられたものがある。秋間浩著『アメリカ200のキーワード』(朝日選書1991)がその一つである。上に述べたアメリカの教育制度についての記述はこの本のなかで見つけた。日本の市(市長)とcity (mayor) の違い、郡と county の違い、健康保険制度や医者のかかりかた、アメリカで結婚した女性の名前がどのように変わるのか、national bank は国立銀行ではない、green card とは何か、residentと citizen の違い、university とは何かなど、accent から始まって ZIP Code で終わるアメリカ社会の文化的な背景に関する興味深い内容が著者の滞米生活30年の経験をもとにつづられている。現場英語教師には必読の書と言える。同じようにアメリカの法律・制度・習慣についての要領のいい情報を与えてくれる中島文雄編『英米制度・習慣事典第2版』(秀文インターナショナル 1988)もぜひ揃えておきたい。

 

4.アメリカの大衆文化を知る

 

英語を読んでいて困るのは、映画のタイトルやテレビドラマ、世間を騒がせた有名人・事件、アメリカ人(イギリス人)なら誰でも知っている映画スターや歌手の名前、商品名やファッションや流行り言葉がピンとこないことだ。このような情報を教えてくれる辞典・事典といえば以前は堀内克明ほか編『最新英語情報辞典第2版』(小学館 1986)や山田政美編著『英和商品名辞典』(研究社 1990)であったが、数年前にでた松田徳一郎ほか編『リーダーズ・プラス』(研究社 1994)とその CD-ROM版は驚異的な情報量をわれわれに提供してくれる。従来から定評のあった松田徳一郎ほか編『リーダーズ英和辞典』(研究社 1984)に収録しきれなかった口語・俗語・卑語・固有名詞(地名と人名)、建物の名前、商品名、文学・民話・神話上の架空の人名・地名、科学・経済の語彙、雑学的な情報と大衆文化というふうにありとあらゆる情報が19万語収録されており『リーダーズ英和辞典』とあわせて45万語の収録語数を誇っている。翻訳を志す人には必需品だが、英語教師にとってもその価値は計り知れない。政治・経済の用語も充実しており本書と『ランダムハウス英和大辞典第2版』(小学館 1994)とあわせれば、たいていの情報はこの2冊でまかなえるという代物だ。

しかし欠点がないわけではない。Forrest Gump となると1994年という出版年からしてもういただけない。エリザベス女王の“annus horribilis”も同様だ。大辞典の類はどうしても出版に小回りがきかないので出版されたときからもう時代遅れになる運命を背負っている。こういう時には小回りのきく笹井常三ほか編『時事英語情報辞典』(研究社出版 1997)が便利だ。本書の最新の情報量は時代の移り変わりの激しい1990年代を扱う場合は必携と言ってもよい。adult children, Vreutzfeldt-Jakob disease, Ebonics, EQ, hate crime, parental-rights laws, Product Liability Law, Sega generation, subliminal advertising, televangelist, three strikes-you're-out law, Tony Blair, Unabomber, Year 2000 Problem などたまたま目にした項目だけを見てもその情報のもつ新しさとセンスのよさには脱帽するばかりである。また類書にないほどの中国人名が掲載されていることも本書の特徴の一つとなっている。また田崎清忠編著『アメリカ日常語辞典』(講談社1994)も優れている。これは普通の英語辞典や百科事典、アメリカについて書かれた専門書や一般書などに載っていない「生活に密着した」「素顔の」英語の日常語を描こうとした辞典である。写真も多く載っており、生活語彙不足の日本人英

語学習者には得るところの多い辞書である。題名がそのままズバリのフレッド・L・ワース著、渡辺洋一/リチャード・B・マート監訳『スーパートリビア事典』(研究社出版 1988)も面白い。これはアメリカの大衆文化にターゲットを絞り、ありとあらゆるアメリカの大衆文化の雑学的な知識を消化・吸収しようとした書である。原著者は Fred L. Worth であり、彼は航空管制官の仕事のかたわらこのような雑学事典を書いたという。たとえば、

 Three Little Pigskins:「3バカ大将のフットポール試合」[映]1934年の3バカ大将(Three Stooges)の短編で、ルシル・ボール(I Love Lucy『ルーシー・ショー』)が共演。3人がカブスのフットボール選手になって、タイガースと試合する。彼らのジャージーの背番号は、ラリーが1/2、カーリーが?、モーがH202。

といった具合に、とにかく博覧強記、何でこんなことまで載せなきやいけないの?というほど些末な事柄のオンパレードである。アメリカの英語や大衆文化についてはこの他にも色々と雑学事典の類が出版されている。しかし、イギリスのものとなると数が少なく、手元にあるのは Adrian Room著、渡辺時夫監訳『英国を知る辞典』(研究社出版 1988)や Ewart James, NTC's Dictionary of the United Kingdom (NTC Publishing Group 1996)ぐらいしか見つからない。

ところが、これでも情報の深みに物足りなさを感じられる向きには Jane & Michael Stern's, Encyclopedia of Pop Culture (HarperPerrenial 1992)という本をおすすめする。取り上げている項目数は事典のたぐいには負けるが、写真とそれにまつわる興味深いエビソードをふんだんに提供してくれる。たとえば50年代から現在に到るまでの話題となったテレビ番組(60年代に日本のテレビで有名だった『3バカ大将』は The Three Stooges というグループの主演だったことがこの本の中で写真を見ていて気がついた)、それぞれの分野で影響力のあった人物たち( Frank Sinatra, Ralph Nader, Stephen King, Bob Dylan, Muhammad Ali)、時代に影響を与えた事物・流行( Holiday Inn, Haagen Dazs, yuppies, Star Trek, 7-Eleven, refrigerator magnets, potato chips, Playboy, Peanuts, McDonald's, fanny packs, E.T., Deep Throat, Baby on Board)などなど、各項目ともゆったりスペースを取ってちょっとした読み物になっている。

大衆文化といえば映画を無視するわけにはいかない。数年前に『ショーシャークの空に』だったか、『ショシャークの空の下に』だったかはっきりしないが、なかなかおもしろい映画を見た。無実の罪で刑務所に入れられた男が脱獄し、刑務所所長の悪業を暴くという内容だった。ところがこの映画がいつ頃の作品で、誰が主演だったか、また原題は何だったのかわからない。今となってはおぼろげな記憶を頼りに、固有名詞に強い先ほどの『リーダーズ英和』などで、Showshark などとでたらめに引いてみるのだが、結局はわからずじまい。普通ならここで終わりだが、最近こうした問題を解決するのに最適の辞書が現れた。日英両方で引ける『和英・英和タイトル情報辞典』(小学館 1997)である。これによると、この映画は1994年のもので、原題は Shawshank Redemption。主演はティム・ロビンズ。なんと原作は Stephen King の『刑務所のリタ・ヘイワース』であることまでわかった。この辞典は映画だけでなく、題名にあるように「タイトル」なら本でも、歌でもなんでもOKである。テレビがまだ白黒の時代にはアメリカ直輸入の番組が多かったが『ポナンザ』『じゃじゃ馬億方長者』『名犬ロンドン物語』『怪傑ゾロ』などの60年代の懐かしいタイトルも載っていてなかなか飽きない。

映画といえば Cinemania 97(桐原ユニ販売 1997)というとんでもない CD-ROM が発売されている。これは1914〜1996年のハリウッド映画・邦画・ョーロッパ・オセアニア・アジアで公開された3万件以上の映画データベースである。まだ手に入れてないので詳しいことは分からないが映画に関して分からないことはないというのがうたい文句

のようだ。

 

5.語のイメージとしぐさ

 

 コミユニケーションを円滑に進めるのに必要なものは何も雑学だけではない。ジェスチャーのような non-verbal language に関する知識も不可欠である。よく使われているのに意外と知られていないジェスチャーとして、両手の入差し指と中指を折り曲げてひっかくようなしぐさがある。これはdouble quotation mark のジェスチャーで「いわゆる、世間で言われているところの」という時にネイティブがよくやる。これを真似ようとするとそのタイミングがなかなか難しい。「いわゆる」といった気持ちで、その言葉を発する直前に、立てた人差し指と中指を2回ほどすばやく折り曲げるのだが、やってみると指が動く前に言葉が先に出てきてしまいぎこちなくなるので注意。

 あるアメリカ人と話していたときのこと、彼が「車を運転していて割り込んでくるやつがいたんで、f_ _ _ you! と言ってやったよ」といいながら、左手を右腕の内側の関節の所にパシッと勢いよく当て、右腕を折り曲げ、力こぶを出すようなしぐさをした。あまり見かけないしぐさだったので記憶に残ったのだが、久保清子著『写真でみるジェスチャーの英語』(明日香出版社 1995)を読んで合点がいった。そこにはまさしく彼がやったのと全く同じ動作の写真(なんとこの本では美しい女性が大胆にもこのポーズを披露している!)が載っていて、この身ぶりは例の中指を立てるしぐさと同じ意味であるが、「動作が大きい分、怒りも大きいと見て構いません。このジェスチャーは特に若者の間ではケンカによく使われます」と説明されているではないか。すべてに具体的な写真がついているので分かりやすい本である。

 同じようにジェスチャーを扱う辞典に小林祐子編著『しぐさの英語表現辞典』(研究社 1991)がある。この本はしぐさに関わる英語表現を徹底的に集めたもので、小説などを読んでいて分かったようで分からない主人公のちょっとした仕種を表わす英語表現を日英比較を織り交ぜながら説明している。全体を eyes, hair, leg, teeth... など体の部位ごとの表現に分類してその表現例を列挙したり、体の各部分が持つ背景的な知識にも論及している。たとえば英語圏で歯の矯正具(braces)を子供たちが身につけている理由は、歯並ぴにも気を配れるほどの上流階級の出身であることを示そうとするからであるなどといったことまで教えてくれる。

 

6.辞書にない語を調べる

 

辞書に載ってない表現を知るという意味では『探検する英和辞典』(草思社 1994)という英和辞典を是非紹介せねばならない。この辞典は知る人ぞ知る飛田茂雄という人が書いたもので、「筆者が文献や会話で実際に出会った語句だけを取り上げ---中略---『リーダーズ英和辞典』や『英和商品名辞典』など、特に優れた英和辞典にさえ十分には(あるいは全く)載っていない」語句のみを見出し語にしているという辞書である。例えば SAT はthe Scholastic Aptitude Test の略号だと思い込んでいる人が多いが実はそうではない。

SAT,the[米]= the Scholastic Assessment tests;(1993年までは)the Scholastic

Aptitude Test. 「大学進学適性試験」と訳されているが、「適性」というよりも「学習基礎能力」のテストである。--中略--93年まで記述式の問題はなく、すべて多項選択式であった。全米の平均(93年)は verbal で 424、mathematicalで478、計902点であった。アジア系米国人(950点)と白人(938点)の成績が最もよい。黒人は741点であった。...

もっとも SAT にはイギリス版 the Standard Assessment Task(1991年に導入され 7・11・14歳で受験することになっている)があることは触れられていない(『プログレッシブ英和中辞典』第3版(1997)はこれを載せている。日本の英和辞典はすごい)。またこの辞書は日本の英和辞典に見られる伝統的な誤りについても適切なアドバイスを与えてくれ、目から鱗が落ちる思いをさせてくれる。用例は著者のカードから全て取られており、しかも著者単独の仕事であることを考えると背筋が寒くなるのは私だけであろうか(同じ著者の『いま生きている英語』(中公新書 1997)もすごい)。

 

7.CD‐ROM版百科裏典とインターネット

 

上にあげた SAT の新しい正式名称は 1993年以降に出版されたアメリカの Webster系の辞書にも記載がない。ところがインターネットで SAT を検索するとちゃんと the Scholastic Assessment Testsであることがわかる。その意味でインターネットは新しい形態の英語百科事典として利用できる。またCD-ROM版の百科事典も便利だ。今度でた World Book Multimedia Encyclopedia '97(桐原ユニ販売 1997)には The World Book Encyclopedia 全22巻と World Book Dictionary の 225,000項目、Around the World の地図、100本以上のビデオがCD-ROM2枚におさめられている。しかも1カ月ごとにInternet を経由して新しい内容を取り込むことも出来るという結構な代物である。ここでも SAT の新しい名称がきちんと記述されていることを発見した。他にも新しい百科事典のCD-ROM版が出ているのでお気に入りの CD-ROM を一冊は仕入れておきたい。

 



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