串本あれこれ




望郷の句

私の恩師である中(なか) はまの先生は次のような俳句を読まれました。

満開の梅の向ふの海光る

ふる里の串本節を年忘れ

松蝉や潮曇りして枯木灘

中先生は1911年串本に生まれ,東京の和洋女子学院本科師範科に進学,和歌山県師範科を終了された後,教職に就かれました。そして33年の教員生活を終えて,1971年に息子さんの居る横浜へ転居されました。以来,1997年86歳で亡くなられるまで,横浜からふるさと串本をしのんでは望郷の句を読み続けておられました。晩年になっても俳句,日本画,詩吟,書道など知識欲は衰えることなく,亡くなられる寸前まで積極的に活動をなされました。(右の写真は若かりし頃の中先生。先生の第3句集「思い出」から転載)

中 はまの先生のこと

1959年私が串本小学校に入学したとき,担任は女性のベテラン教師(当時40代後半)の中先生でした。その当時は,今はもう絶滅しかけているポリオ(小児麻痺)が猛威をふるい,周囲には必ずその病魔に襲われた子供がいたものです。一年生の私のクラスにも吉田君(仮名)という,ポリオの後遺症で片足の不自由な子供が入学してきました。入学してまもなく,中先生は吉田君を教壇のところに呼び,彼を高く抱え上げてズボンのすそをまくり,太さと長さのちがう2本の足を見せました。私たちは唖然として先生の大胆な行動を見ていました。「みなさん,吉田君の足をちょっと見てごらん。みんなの足とは少し違っていますね。吉田君は赤ちゃんの時,小児麻痺という病気にかかったんです。悪い ばい菌が吉田君の足をこんなふうにしてしまったのです。吉田君が悪いことをしたわけではありません。足はみんなとは少しちがうけど,他はみんなと同じです。みんなのお友達として仲良くしましょうね。」---もやは60年ほど前のことなので先生が実際にどうおっしゃったのかは正確にはわかりませんが,だいたいはこのようなお話をされたのだと思います。当時の吉田君の表情,裸の足が今でも鮮明に 脳裏に焼き付いています。いじめが今ほど陰惨ではなかっとはいえ,障害児に対する好奇心や差別は当時もあったと思います。中先生は吉田君のことをはっきりさせるということで先手を打ったのです。一つ間違えば大きな問題になりかねない先生の行動も,私たちは幼いながら十分理解しました。先生のこの機転のおかげで吉田君を差別するようなことはクラスでは一度も起こらなかったのです。(左の写真は晩年の中先生。先生の句集「貝殻」より転載)

* * *

和歌山県西牟婁郡串本町串本は私のふるさとでもあります。人口2万人程度のこじんまりした半農半漁の町で,観光産業にも大きく依存しています。 ごたぶんにもれず,過疎化が進みつつあります。私もふるさと を出てしまっているので過疎に拍車をかけた一人です (^^ゞ。
ここではそうしたふるさと串本をなつかしみつつ,串本方言に ついて説明したいと思います。

特徴ある語彙

まいせー

【意味】やめておけ
【発音】最後の「せー」は少し上げてから急激に下降します。
【用例】「おら,タバコやめよう思うんや」「そんなん,まいせー
※(注)串本弁の「おら」は東北弁の「おら」とちがって,「お」を 高くしないでほぼ平坦に発音します。

あがら

【意味】わたしたち
【発音】「が」を高めに発音。
【用例】「あがら,コーヒー飲んでこか?」

・・・のうよう

【意味】・・・ね
【発音】いずれの「う」も低めに発音。
【用例】「あんのうよう・・・」(=あのねえ・・・)

かいだるい

【意味】しんどい,疲れた
【発音】「しんどい」という気持ちで発音。
【用例】「そんな重たいもん持って,かいだるうないかい?」

・・・こ

【意味】・・・だろ?
【発音】英語の付加疑問形のように発音。
【用例】「ええんちゃう?」(=いいんじゃないの?)

※ちょっと恥ずかしいですが,しばしば「ええんとちゃうんこ」とも発音!

・・・ら

【意味】・・・しようじゃないか
【発音】「ら」は少し低く。
【用例】「つれもていこ」(=いっしょにいこうや)

きばる

【意味】許す
【発音】ほぼ同じ音程で。
【用例】「おいよーまー,きばったってくらんしよー」(=ああ,許してやってちょうだいよ)

がいに

【意味】強く
【発音】「い」を少し上げ気味に。
【用例】「もっとがいに持たな」(=もっと強く持たないと)

※(くだけて,強調して)「がいたらくう」

あたんする

【意味】八つ当たりする
【発音】ほぼ平坦に。
【用例】「あしにあたんしても知らんで」(=私に八つ当たりしてもしらないよ)

まろうて

【意味】弁償して。古語「償(まど)ひ=償う」からか?
【発音】ほぼ平坦に。
【用例】「これ,まろうてくれる?」(=これを弁償してくれるか)

・・・がい(または「がえ」)

【意味】・・・ですよ
【発音】念を押すように発言の最後に付加する。
【用例】「天気ええからのうよう,散歩しよんやがい」(=天気がいいので,散歩してるんですよ)

・・・くらんし

【意味】・・・ください
【発音】「し」を心持ち下げて発音。
【用例】「また来てくらんしよ」(=また来てくださいね)

※(注)串本町から出るところに「また来てくらんし」の看板がある。

えーせん

【意味】できない。古語「え・・・せぬ」からか。
【発音】平坦に発音。
【用例】「あしゃ,そんなんえーせん」(=私はそんなことはできない)


串本の思い出

わたしゃ串本両浜育ち 色の黒いはごめんなれ

串本は本州と潮岬(しおのみさき)とを結ぶ砂州の上にある町です。 海抜はせいぜい数メートル。西部には高さ数十メートルの「祇園山(ぎおんさん)」があります。いわばここが串本の最高峰。かつて,夏の「祇園山祭り」はにぎやかでしたが,今はさびれてしまいました。この小さな山は地元の子供達にとっては秘密基地作りなど魅力的で貴重な自然だったのです。串本の町は長細い砂州の上に乗っているので,西にある上浦(かみうら)から東の下浦(しもうら)までは10分もあれば突き抜けてしまいます。海辺に近いため私の小学校低学年の頃は先生に連れられて「大水崎(おみさき)」まで水泳に行ったものでした。

串本はもともと漁師町で私の家も代々漁師でした。地元では数代前の祖先の名前が屋号となります。私のうちは曽祖父の「幸七(こうしち)」が屋号です。町の人はすべてが知り合いで,イヌの顔までわかっていました。今から考えると車一台がかろうじて通れるほどの路地なのに,子供の目からは広々とした道路でした。太平洋に面し,昔はブラジル,オーストラリアなど海外への出稼ぎや移民が多かった町でもあります。(オーストラリア移民については,「読書案内」の「木曜島」を参照してください)和菓子屋「儀平」の「薄皮まんじゅう」は上品な甘さで人気があり,今でも行列ができています。地元の子供達は串本小学校,串本中学校,そして串本高校を経て,ある者は都会の大学へある者は家業を継ぎます。名産は鰹節,削り鰹節など海産物が中心です。潮岬(しおのみさき)は串本から見て高台にあります。広々とした「望楼の芝」から太平洋の荒波を眺めるのも楽しいものです。(右上の写真は,埋め立てられて今はなき大水崎での小学生の海水浴風景。当時男子は白い「まわし」を締めて泳ぐのが慣わしでした。中先生第3句集「思い出」より転載)




串本に関するリンク

串本町のホームページ

串本町が運営するホームページです。「観光スポット」には橋杭岩や望楼の芝などなつかしい写真があります (^.^)

和歌山県立串本古座高等学校ホームページ

我が母校串本高校(現在は串本古座高校)のホームページ。

和歌山県沿岸・航空写真

由良から新宮まで,串本を含む各地域を空から眺めた航空写真を見ることができます。



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