純情戦隊ピュアレンジャー Innocent heart PURERANGER

 銀河の辺境。太陽系の第3惑星…地球。
 果てなく広がる宇宙では、比較的“田舎”とも言うべきこの惑星ほしに、降り立つものがあった。

 ひとつは、闇。

 そして…
 ひとつは、光。


 ―――急がないと!
 ―――この惑星ほしが、闇黒に覆われる前に…!











 純情戦隊ピュアレンジャー/Innocent heart PURERANGER

 Act:1「イノセント・ハート」











 初夏の柔らかな日差しが、木々に茂る若葉を鮮やかに彩る。アスファルトに映る木漏れ日を、一つの影が遮った。
「くぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 朝っぱらから大きな声を発しながら、半袖の開襟シャツに黒いスラックスの夏制服を着た少年が、坂の上へ…おそらくは、その坂の頂上の向こう側にいるであろう人物に向かって…走っていく。
「…あら、レンじゃない」
「あ。おはようっ、レンくんっ」
 少年がちょうど頂上にさしかかったころ…。その気配を感じ、登校中だった二人の少女がこちらに振り向いて挨拶を交わした。
「お・は・よ・う・じゃ・ねぇぇぇぇぇぇぇっ」
 そう言いながら、レンと呼ばれた少年は両手で背の低い方の少女のほっぺを掴み、引っ張った。

     むにぃぃぃぃぃ

 …活字にすればこんな効果音が聞こえそうな感じで、少女のほっぺが伸びる。
「いひゃっ、いひゃひひょれんひゅん〜」
「…ホラホラ、話が見えないわよ。とりあえず事情を説明しなさいな。こゆきの顔が伸びきったお餅みたいになっちゃう前に」
 ぐにぐにとほっぺを引っ張るレンに、もう一人の少女が呆れ顔で言った。
「いや、朝メシのことなんだけどな」
「朝メシ? それならこゆきが毎朝つくってアンタの家の食卓に置いてってるじゃない。今日だってそうでしょ、こゆき?」
 少女の言葉に、こゆきと呼ばれた少女がほっぺをつままれたままこくこくと頷く。
「ほらぁ。…いっつもやってもらってることなんだから、感謝こそすれ怒ることじゃないじゃないのよ」
「そりゃ確かに感謝はしてるさ。…だがな、その内容が問題なんだよ今朝は」
「ふにゃ?」
 右手をこゆきのほっぺから離し、こめかみを押さえながら呟くレンに、思わず朝食を出した張本人であるこゆきも首をかしげた。
「…なんで朝メシにケーキが出てるんだ?」
「…へっ?」

 沈黙。

「や…ヤだなぁレンくん。デザートだよ、デザート」
 ひきつった笑顔で弁明するこゆき。
「あれのどこがデザートだっ! あのボリュームのどこがっ!」
「うにゃっ」
「主食にケーキ、おかずにケーキ、あまつさえデザートにケーキ…朝っぱらから俺を胸焼けさせる気かっ!?」
「…うげ、想像しただけで胸が…」
 長身の少女も思わず顔をしかめる。
「あは、あははは…」
「笑ってごまかさないの」
 困ったように引きつった笑いをうかべるこゆきを、少女がたしなめる。
「あぅ、ひどいよかりんちゃん…」
「ひどいのはむしろこゆきの方だと思うんだが…」
 ジト目でこゆきを見るレン。
「あーっ」
 と、こゆきが素っ頓狂な声を上げた。
「何よ?」
 半ば呆れ顔で、かりんが尋ねる。
「…8時半…5分前」

 ・
 ・
 ・

「「なにぃーーーーーーーっ!!?」」
 かりんとレンが同時に大声で叫んだ。慌てて各々の腕時計を覗き込む。かりんのアナログ、レンのデジタルとも、8時半を目指し、刻々と時を刻んでいく。

「ンにゃろっ、遅刻するわけにいくか。急ぐぞ、こゆき、かりん!」
「わかってるわよっ」
「わわっ、二人とも、置いてかないでよぉ〜」
 慌しく3人が学校へと走り、先刻まで彼らがいた通学路に静寂が訪れた。



 …やがて柔らかい初夏の風が流れ、アスファルトの地面に再び影が差す。白く薄い生地のワンピースの様なものをまとった少女が、まるで翼をはためかせるかのように衣装の裾をふわりと広げ、地に降り立った。

「…うん。ようやく……見つけた」
 何かを確信したかのように一人頷き、“彼女”は小さく地面を蹴る。と、現れたときと同じように、彼女の体は軽やかに宙を舞い、次の瞬間には、そこに彼女の姿は無かった……。


     * * *


「ふぃ〜っ、間に合ったぁ…」
 窓際後方にある自分の席にどっかと座り、安堵の息を漏らすレン。
「もぉっ、折角余裕みて家出たっていうのに…」
 そのレンの真後ろの席から、かりんの溜息交じりの呟きが聞える。
「はぁっ、はぁっ…二人とも… 速……い…よぉ…。 はぁっ、置いてか…れるかと…思った…よ…」
 そんな二人から送れること数十秒。はぁはぁと荒い息を吐き、教室に滑り込んだこゆきが胸を押さえながらレンの隣の席についた。
「こゆきが遅ぇんだって。運動の基本は足腰だぞ?」
「あぅ…。ヒドいよぉ、わたしが走るの苦手なの知ってるくせに…」
 ようやく呼吸を整え、こゆきは恨めしそうにレンを見ながら机の上に投げ出した鞄を横のフックに引っ掛け、勉強道具を取り出す。

     ガラガラガラッ…

「こらぁっ、とっとと席につくっ!」
 それと同時に教室の扉が勢いよく開かれ、担任が顔を出した。


     * * *


 4限目の授業が終わり、昼食を求め生徒達がぞろぞろと動き出す。
「レンくん、かりんちゃん。お昼一緒しよ?」
 こゆきが二人を誘い、中庭へと向かう。
「ちょっと張り切りすぎて、おべんといっぱい作りすぎちゃって」
 てへっ、と小さく舌を出しながら、巨大な弁当箱の包みをかかげてみせる。
「…また中身ケーキオンパレードなんつーことは無ぇだろな?」
「無いよぉっ」
 軽口を叩くレンに、こゆきが必死になって抗議した。そんな様子を見て、かりんがくくくっ、と小さく笑う。
「ん? なぁに、かりんちゃん」
 怪訝そうに首をかしげるこゆきに、かりんがこみ上げる笑いを押さえながら言った。
「んーん? 相変わらず仲イイわねーって、思っただけよ」
「そぉか?」
 今度はレンが首をかしげる。
「つき合い長いんだもんね、あんたたち」
「…そーだな。物心ついた頃にゃすでに隣にいたもんな」
 レンの言葉にこゆきもうなづく。
「親同士が仲良かったのもあって、兄妹みたく一緒だったよね」
 当時を思い出しながら、こゆきがしみじみと呟いた。
「…腐れ縁だな。ウン」
 実も蓋もない物言いをするレンに、すかさずかりんのツッコミが炸裂するのだった…。

 ・
 ・
 ・

「こりゃまた豪勢なお弁当だこと…」
 お重…とまではいかないが次々と出される弁当箱にかりんが唖然となる。
「それでなんで朝がアレなんだ…せめて弁当の残りモンのおかず寄越してくれりゃよかったのに」
 今朝のケーキ攻めの朝食を思い出し、レンがブツブツとぼやいた。
「まーま。ちゃんと昼ご飯にありつけるんだから。ちゃんと感謝しなさいよ。レン?」
「わぁってるよ。んじゃ、いっただっきまーす…」
 ハシを構え、レンが卵焼きに手を伸ばそうとしたそのときだった。

     ドサッ

 突然、背後で何かが落ちた。
「…?」
 物音にレンが振り向き、こゆきとかりんがその後ろからのぞきこむと…
「女の…コ?」
 白いワンピース…のようなものを身に着けた少女が、そこに倒れていた。
「だ…大丈夫……ですかぁ?」
 何者か尋ねる前に、安否を問うこゆき。
 が、当の彼女からは何の反応もない。
「ちょ、ちょっと…こんなところで行き倒れ?!」
 かりんはかりんで、いきなりズレた発言を飛ばす。
「ンな泰平の世に行き倒れなわけねーだろ。…おい、大丈夫か? どっか痛いとこねぇか?」
 レンが少女を抱き起こし、軽く揺り動かす。
「…………な………いた…」
 ふと、少女の小さな唇から声が漏れた。
「ん?」
「おなか…空いたぁ……」

 ・
 ・
 ・

「…は?」
 きゅるるるる…と彼女のお腹が小さく鳴り、一瞬、レンたちの思考がフリーズした。


   * * *


「…はぐはぐ…ご、ごめんなさ…はぐ。…3日間ほど…はぐはぐ、何も…食べて…はぐはぐ…なかったから…んぐ」
「…食うか喋るかどっちかにしろって」
「……」
 こくんとうなづき、少女は食べるほうに専念した。こゆきが“作り過ぎた”ハズの弁当はあっという間に消費され、今度は急遽レンが買ってきた菓子パンを頬張っていた。
「その華奢な体のどこに入ってるのかしら……」
 かりんの呟きに、レンもこゆきも同意する。
 と、ようやく落ち着いたのか少女の口が止まった。こゆきに差し出されたポットの紅茶をこくこくと飲み干すと、幸せそうな表情で一息ついた。
「…おちつきました?」
 こゆきが尋ねると、少女はふわりと微笑んで答えた。
「うん。…ありがとう」
 天使か女神とでも形容したほうがいいのだろうか、それくらいの愛らしい笑顔だ。
「…にしても、なぜにあんなところで腹空かせてたんだ? 見たところ、ウチの学生って訳でもなさそーだし」
 レンが問いかけると、彼女はその笑みを崩さぬまま、
「…人を、探してたんです」
 と言った。
「誰を?」
「……あなたを」
 そう言ってさらに微笑みレベルをアップさせた少女の視線の先には…レンがいた。
「…俺?」
「はい」
 目がテンになったレンの疑問を、少女はあっさりと肯定する。
「ちょ…ちょっとレン、あんたいつの間にこんな美少女と口説いてたっての!?」
 急にかりんが声を上げて立ち上がった。妙にけんか腰だ。
「知るかぁっ!」
 反射的に否定するが、知らないのは本当だ。
「…あ、あのさ、キミ。…俺、少なくともキミとはハジメテのショタイメンだと思うんだけどどーだろ?」
 混乱して日本語がうまく組み立てられてないが、とりあえず当面の疑問を口にするレン。
「ええ、始めましてです」
 少女の答えに、それみたことかとレンがかりんに視線を向ける。
「…でも、あなたを探していたのは本当。…それに、あなたと、あなたも」
「「えっ??」」
 不意に視線を向けられ、こゆきとかりんが同時にハテナマークを示す。
「強い“イノセント・ハート”の持ち主を、私は探してた。そして…やっと見つけた」
 それが、あなたたち―――
 そう言って、少女はもういちど柔らかな笑顔を見せた。

「ちょっ、ちょっと待て」
 僅かな沈黙ののち、レンが素っ頓狂な声を上げた。
「あのさ、イマイチ…話が見えないんだけども」
 その言葉に、こゆきとかりんも同意する。
「…ってゆーか、アナタ何者?」
 かりんが問いかけたその時

     キ―――ンコ―――ンカ―――ンコ―――ン

「わっ、今の本鈴だよっ。急がないと遅れちゃう!」
 チャイムの音に腕時計を覗き込んだこゆきが声を上げた。
「げっ。マジかよっ!」
 弾かれたように飛び出す三人。と、2、3歩飛び出したあたりでレンが少女のほうに振り向く。
「ともかく、話は後で聞くから。ガッコー終わるまでそこで待ってて! いいね?」
 それだけ言って、レンは両脇の二人をせっつかせながら校舎に消えるのだった。


   * * *


 かくして放課後。

 レンたちはHRが終わったと同時に中庭に向かった。
 無論、約束通り少女の話を聞くためだ。
「しっかし。探してただの、イノセント・ハートだのって、あのコ、一体ナニモンなんだろーな?」
 必要最低限のモノしか入れない軽いカバンをブラブラとさせながらレンが呟く。
「それは話し聞くついでに説明されるんじゃない?」
「そだな」
 教室から中庭へはそう遠くない。ほどなく床一面を人工芝に覆われた広い空間に出る。流石に昼休みと違い、放課後にここに来る人間はそういない。今日もここにいるのはレンたち3人だけだ。
「…って、アレ?」
 先頭を歩いていたレンが素っ頓狂な声を上げる。それに気づいたこゆき、かりんがレンの後ろから前方の様子を伺う。
 レンたちの視線の先には、昼休みにレジャーシートを広げて昼食をとった大木の下。そこで待っているはずの少女の姿は無い。
「…居ない?」
 こゆきが近づいてきょろきょろと辺りを見回すが、やがて顔をこちらにむけてふるふると首を振った。
「おいおい、話聞くっつーたのに…」
 大木のそばまで近づき、何の気なしに上を見上げるレン。と、
「…あん?」
 白い布。が木の枝に引っかかっているかのようになびいているのが見えた。
「…ハンカチか?」
 いや。違う。
 レンが目を細めて、さらに遠くを見る。
「ん?」
 それにしたがって、その布が、ワンピースのような衣服の一部であることが、レンの知覚に認識される。
 そして、それを纏った少女の姿が、瞳に映る。
「…いた」
「え?」
「木の上」
 ひょいひょい、とレンが指差す先に、こゆきとかりんも視線を向ける。
「あ…」
「はわ〜…」
 少女は枝に腰かけ、すやすやと小さな寝息を立てていた。
「そういや、さっきも木の上から落ちてきたんだっけか…」
「…お気に入りなのね、きっと」
 かりんが、微笑んで言った。
「……」
「…レンくん?」
 少女の寝顔に見惚れているレンに、そうとは気づかずこゆきが声をかける。
「んあ? …あぁっと、起こさなきゃ話も聞けないわな」
 その声に、レンが少し慌てながらも我にかえる。
 一呼吸おいて、

「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!」

 レンの大声が校舎の壁に響く。

「……」
「どしたの、レン?」
 と、またも固まるレンに、今度はかりんが声をかける。
「…あのコの名前、なんつったっけ?」
「…あたしが知るわけ無いじゃない」
「…だよな」

「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ、キミ!」

 再び壁に響くレンの声。
 しかし、返事は無い。

「…ただのしかばねのようだ」
「アホかいっ!」

  スパァンッ

 どこから出したのか、かりんのハリセンチョップがレンのドタマに炸裂する。
「あだぷっ……冗談だよ、冗談」

「まったく、冗談にも限度ってもんがあるでしょーに」
「そうですよ、勝手に殺さないで下さいね」
「悪ぃ、悪ぃ………って、うぉあ!?」
 いつの間にか隣に立っていた少女にレンは思いっきりびっくりする。
「どうしました?」
 そんなレンの様子にも動じず、少女は安らかな寝顔からそのまま移行したような柔らかな笑みを浮かべた。
「あ、いや、なんでも…」
「?」
「ってか、それより!」
 思わず彼女のほんわかムードに流されかけていたレンだが、ここで気合一閃、どうにか持ち直して改めて少女と向き合った。
「約束どおり、話聞きに来たんだからさ。とりあえずは説明してもらえんかな?」
 レンの真剣な瞳を見た少女は、さっきまでの表情から一転して真面目な顔をする。その雰囲気から、かなり大切な話であることは、レンをはじめ、こゆきやかりんにも感じられた。


「…それでは、すこし長くなるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」
 三人が頷いたのを確認して、少女はその小さな口を開いた。


「…私が最初に言った“イノセント・ハート”というものは、何事にも負けない、強く、まっすぐな、心の事。地球人に限らず、意思を持った者であれば、誰しもが持ちえることが出来る力なんです」
「つまり、“ピュアな心”の持ち主ってことね」
 かりんの言葉に、少女はこくりと頷き、続ける。
「そして、あなたがたは地球人の中でもひときわ強いイノセント・ハートの持ち主。あなたがたのその心があれば、この惑星ほしを救うことができます―――」
「って、ちょっと待った」
 不意にレンが少女を制す。
「救うことが…って、狙われてるのか、地球が?」
「…ええ」
 大真面目に頷く少女に、あっけにとられる一同。
「ま、まさか…。ヒーロー番組でもあるまいし…」
「そ、そうだよ。いくらなんでも…」
 こゆきもかりんも、まるで信じてはいない。
「大体、何から地球を救うってんだ? ショッ○ーか? それとも○クーってか?」
「それは……」
 少女が口ごもった、そのときだった。

「―――!!!」

 急に少女の顔が青ざめ、頭を抱える。
「お、おい! 大丈夫か!? どーしたんだよ急に?」
 レンが近づき、少女の肩に手を置く。小刻みに震える肩と、冷水を頭からかけられたように冷え切った体温に、思わずギョッとなる。
「…く、来る」
 震えながら、絞り出すかのように声を出す少女。その弱々しい声は、その震えにすらかき消されそうなほどだったが、レンたちは聞き逃さなかった。
「来るって…?」
「何…が…?」
「……」
 こゆきたちの言葉には答えず、少女がゆっくりと手を伸ばす。その先にあるのは…
「校庭…?」
 レンがつぶやいた、次の瞬間。


     ドォォォォォォォォン!!!


 校庭のド真ん中に漆黒の塊が叩き付けられ、轟音とともに、土煙が舞い上がる。
「!」
 校庭で部活をしていた生徒たちが数人、何事かと落下地点に近づいていく。
「…いけないっ!」
 少女の小さな悲鳴が中庭に響いたとたん、再び落下地点から爆音が轟いた。あわてて近づいていった生徒たちが逃げ出し、遠巻きに見つめる。
 やがて土煙が収まる。ぼんやりとしたシルエットが、はっきりとした形をとっていく…
「なっ、なんじゃありゃ…」
 冷蔵庫だのテレビだのガラクタを寄せ集めて出来たそれは、校舎に匹敵するほどの巨体を持った人型の異形だった。
「そんな…もう侵攻を始めたなんて…!」
 身体の震えを押さえ込み、少女が校庭へと飛び出す。
「お、おいっ!」
「どこ行くのぉっ?」
 レンたちが駆け寄るのを、少女は視線で制した。
「危ないですから、下がって」
「いや、危ないって…」
 それはキミも一緒だろ…とレンが言いかけたその時。

『アクセスっ!』

 バッ、と両手を広げる。右手にはいつの間にか小さな鍵…のようなものが握られ、左手首には、大きな装飾を施されたブレスレットを装備している。

『メタモルフォーゼっ!!!』

 両手をクロス…否、鍵をブレスレットに差し込んだ瞬間、少女の身体を白い閃光が包む、が

「きゃああぁっ!」

 ブレスと鍵の間から火花が走り、小さな爆発が少女のすぐそばで起こる。爆風に弾き飛ばされた少女の身体を、寸でのところでレンが受け止める。
「そんな…変身できない? まさか、あのときの事故で…?」
 よろよろと立ち上がりながら、少女はもう一度校庭に近づく。
「ちょっ、おい! 危ないって!」
 レンが少女の前に回りこみ、両手を広げて進行を妨げる。
「…このままじゃ、本当に、この惑星ほしは闇に…」
 思いつめたように、少女がつぶやく。やがて、何かを決心したかのように三人を見た。
「みんなの力を、貸して!」
「…あたしたちの」
「力…?」
 急に視線を向けられ、戸惑う面々に、少女はどこからともなく三つのブレスレットを差し出した。少女の装備しているそれに似ているが、形状はまったく異なるものだ。
「…これは?」
「“イノセント・マインダー”です」
 少女に促されるまま、イノセント・マインダーを手に取る三人。
「あなたたちには、“ピュアフォーム”を装着する資格があります。イノセント・ハートの戦士と戦巫女(いくさみこ)として、あの“闇”と戦ってください!」
「戦えったって…」
 口ごもるレンに、かりんがニヤリと嫌な視線を向ける。
「何、怖いの?」
「ンだと?」
 反射的にムッとするレン。
「戦う力があるのに。誰かを守ることの出来る力があるのに。それをしないなんて、男の子のすることじゃないわよねぇ?」
「…そこまで言われちゃ黙ってられねぇな。やってやろうじゃん!」
 ブレスを左腕にかざす。ベルトが伸び、完全に固定される。
「レバーを引いたら、ウィングが展開します、そしたら中央のクリスタルに触れて!」
「オッケー。こゆき、かりん。…行くぜっ!」
「うんっ」
「ええ!」


 『『『アクセス!』』』

 ブレス上部のレバーを引く。本体に格納されていたウィングが展開し、スタンバイ状態となる。

 『『『メタモルフォーゼ!!!』』』


 三人の指が、各々のクリスタルに触れる。次の瞬間、クリスタルが輝き、緑、ピンク、そして真紅の閃光が辺りを包む。
「…っと」
「…わわっ」
 閃光が収まったとき、そこには緑色のスーツを身に着けたかりんと、ピンク色のスーツを纏ったこゆきの姿があった。
「やった、成功ですっ」
 少女が飛び上がらんばかりに喜ぶ。
「へぇ、なかなかよく出来てるじゃない」
「…なんか変な感じ…だねぇ」
 二人は、自分と相手の姿を互いに見比べ、そんな感想を漏らした。


「…って、アレ?」
 と、そこにレンの間抜けな声が飛び出した。
「どうしたの?」
 こゆきが、そこでようやくレンの姿を見る、が。
「レンくん…変わってない?」
「なんで俺だけ…?」
 そう、レンだけ。
 レンだけが変身できず、学生服のまま、その場に立ち尽くしていた。
「ど、どーなってんだよ? オレにもあるんだろ? イノセント・ハートってのが。変身できるんだろ?」
 問いかけられる少女の顔にも疑問が浮かぶ。レンにイノセント・ハートを感じて、マインダーを託したのは自分なのだ。なのに、彼は変身できない。
「わ…わからない。だけど、ひとつだけ言えるのは…」
「…言えるのは?」
「今のあなたに、なぜかイノセント・ハートの鼓動を感じない……」

 沈黙。

 少女は、信じられない、といった表情をしている。
「あの時、初めて会ったときに確かに感じたのに。他の誰にも負けない、強く、雄々しいイノセント・ハートの鼓動を……」


     ゴォォォォォォォッ


「!」
 突如、校庭で轟音が響き、四人は視線を校庭に向けなおす。と、さっきまで動きを見せなかった怪物が、奇声を発しながら動き出していた。巨大な足で砕かれていく校庭の様子に、そばにいた生徒たちはパニックを起こして逃げ惑う。
「いけないっ! こゆき、あたしたちは先に行って、みんなを避難させましょ! レン、どーしてか分かんないけど、アンタもとっとと変身しなさいよね!」
 そう言って、かりんはこゆきとともに校庭へと飛んでいった。


   * * *


「…どうしてなの? あの時感じたイノセント・ハートの鼓動は私の勘違いだったの?」
「そんなことより!」
 混乱する少女を落ち着かせて、レンは再び校庭を見た。こゆきとかりんは、既に生徒の避難誘導を終え、怪物の注意を引くべく、周りをつかず離れず動き回っていた。時折怪物の目から熱光線が迸り、二人を狙うが、紙一重のところで避わされ、地面をえぐっていく。
「あいつら、まだ戦い方とかわかってないんじゃねぇのか? 倒すにしたって、方法がわかんなきゃ何も出来ない!」
 レンの言葉に、少女がはっとなる。
「そ、そうです! 私たちも行きましょう!」
 レンは少女の手をとって、校庭へと向かった。


「二人ともっ!」
 戦い方ががわからず、手をこまねいていた二人の耳に、少女の声が届く。
「?」
 視線を向けた先に、息を切らせたあの少女の姿が見える。
「“イノセント・フォース”を使って!」
「イノセント・フォース?」
「胸の“イノセント・クリスタル”に意識を集中させて。戦う力が具現化するから!」
 少女の言葉に、こゆきとかりんは胸に手をかざし、意識を集中させる。
 次の瞬間、クリスタルが輝きだし、その光が少しずつ別の形へと変わっていく。
「“ウィンディ・スピナー”!」
「えと、“ブルーム・ポッド”っ!」
 かりんの周囲に二つの球体が、こゆきの背後に花びらの形を模したようなブースターが現れる。
「後は、スーツが戦い方を教えてくれます!」
「ええ、わかったわ!」

 改めて臨戦態勢をとり、怪物と対峙する二人。だが、その巨体に立ち向かうには、いかな変身したといえど、力不足は否めなかった。
『スピニング・ハリケーンッ!!!』
 烈風を纏ったウィンディ・スピナーが怪物の身体を削る。
『ブラスティック・クエイクーっ!!!』
 ブルーム・ポッドから放たれたエネルギーが大地を砕き、怪物にダメージを与える。

     ゴガァァァァァァ…

 だが、やはりそれも微々たるもので、怪物の勢いは衰えない。

     バシィィィッッ!!

「きゃあっ」
「あうっ」

「こゆき! かりんっ!」
 熱光線をマトモに受け、こゆきとかりんの身体が虚空に舞い上がり、地面にたたきつけられる。
「だめ…。やっぱり巫女だけじゃ…。戦士がいないと…」
 少女が言っているのは、レンのことだ。自分のふがいなさに拳を握り締め、苦々しくつぶやく。
「クソ…なんでこんなときに何も出来ないんだ、俺はッ!」
 視線を下に向けたときに、ふとレンの視界に何かが入る。金属バットだ。野球部の生徒が逃げる際に置いていったのだろうか。
 衝動的にそれを握りしめ、怪物をにらみつける。
「何を…?」
「決まってんだろ? あいつらを助けにいく」
「無茶です!」
 そんな危険なマネはさせない、と少女が手を開いて制する。
「腐れ縁だけどな、あいつらはかけがえの無い友達だ! 見捨てるなんてできねぇよ!」
「でも! 変身もできないのに…」
「変身できなくたって、男には行かなきゃ行けない時ってのがある。…今がその時なんだよ」
「…ごめんなさい」
 ふと、少女が視線をそらし、謝罪の言葉を紡いだ。
「…え?」
「私があなたたちを巻き込んでしまった。本来、私がどうにかしなきゃいけないことなのに。あなたたちにはあなたたちの人生があるって、知ってたのに……」
 涙で言葉をにじませる少女に、レンはそっとハンカチを差し出す。
「それ以上言わなくてよし」
「え…?」
「俺たちは、少なくとも自分の意思でこれをつけたんだから」
 と、マインダーをつけた左腕をかざして、レンが笑顔で言った。
「なんだかんだでさ、俺たちって、お人よしなんだよな。
 困ってる人見てると、ほっとけないってか。…根っからの“正義の味方”なのかもな、俺たち」
 照れ笑いを浮かべながら、レンが言った。
「だから、そんなことで気に病む必要は無い。変身できなくたって、きっとなんとかなるさ。イザとなりゃ、気合で変身して見せるぜ!」
「…レン…くん」
 少女が口を開いた、その時。
「危ないッ!」
 急にレンが少女を抱きしめ、押し倒す。
「きゃっ」
 刹那、レンの背後で熱光線が走り、さっきまで少女が立っていたあたりに大穴が開く。
「ンにゃろ、狙いをこっちに絞ってきやがったか!」
「…私を狙ってる」
 少女が、こちらに矛先を向けた怪物を見て、つぶやいた。
「え?」
「逃げて! 私が囮になるから!」
 レンを突き飛ばし、少女は一歩前に出た。
「って、そーいうのは冗談でも言わない!」
「?」
 さらに少女の一歩前に出るレン。
「…言ったろ? 困ってる人、ほっとけないって」
「……」
「キミを狙ってるってんなら、なおさら守らないと。知ってる? 男ってのは、女の子を守りたいからガンバれるんだ」
 レンはそう言って、笑った。

  パァァァァァァァァ…

「!?」
 と、突然レンのイノセント・マインダーが光りだす。
「……あっ」
 少女が何かに気づく。
「どうしたの?」
「感じる…あなたのイノセント・ハートを。強い…始めてあったときに感じたものより。ううん、今も、強くなっていってる…」
 その強くなっていくイノセント・ハートの鼓動に呼応するかのように、マインダーの光が強く輝く。

     ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 怪物が咆哮をあげる。口を模した部分に熱が集中し、紅く光りだす。
「…ねぇ、キミ」
「?」
 それを知ってか知らずか、レンが少女に声をかける。
「…俺、戦うよ」
「えっ?」
 その表情に笑顔はなかったが、その瞳には強い意志の光が宿っている。
「…だから、俺を信じてくれ」
「……」
「俺も…君を信じる。君の言う、イノセント・ハートの力を」

     バシュゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

 怪物の口から熱光線が発せられる。刹那、レンは視線を真っ向から熱光線に向け、右腕を突き出した。
「見ててくれよ、俺のイノセント・ハート!」

     バシィィィィィィィッ!

 熱光線がレンに突き刺さる。全てが白い閃光に覆われ、視界をさえぎる。
「……」
 やがて、少女の目に視力が戻っていく。そして、少女は見た。
「…………あ」
「…よっ」
 真紅のスーツとアーマーを身にまとう少年の姿を……。

「…信じて、よかったろ?」
「…うんっ」
 レンの言葉に、再び少女は目に涙を浮かべながらも笑顔を見せる。
「…さァて、今度は…こっちの番だぜ!」
 レンが叫ぶと同時に、身体が浮き上がり、怪物のもとへと飛んでいく。
「こゆき、かりん! 無事かッ!?」
 その声に、うずくまっていた二人がゆっくりと起き上がる。
「う、うん…」
「なんとか…ね。…って、あんた変身できるようになったの?」
「まーな。…よおっし、バケモン退治といきますか。こゆき、かりん。援護頼むぜ!」
「「うんっ」」

   ギュオォォォォッ!

 宙に浮いたこゆきとかりんが旋回し、怪物をかく乱する。
「もう一回だ! もう一回大技叩き込んで動きを止めるんだ! 後は俺が!」
「…簡単に言ってくれるわねっ… 『スピニング・ハリケーン』!」
「がんばって、レンくんっ! 『ブラスティック・クエイク』!」

   ガガガガッ!

 戦士…レンがいることでからなのか、互いのイノセント・ハートの鼓動が呼応しあって、パワーが強くなっていく。先ほどは殆ど効かなかったこゆきとかりんの攻撃も確実に怪物にダメージを与えていく。

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 レンの咆哮が校庭に響く。胸のイノセント・クリスタルが太陽に負けないくらいに輝き、レンの身体を炎と燃やす。
「“ファイヤー・ガントレット”!」
 レンが両の拳を打ち付ける。体中に纏っていた炎が両腕に集まり、篭手型の武具に姿を変えた。
「燃え上がれッ、俺のイノセント・ハート!!!」
 イノセント・ハートが、魂の輝きが極限まで高まり、両の拳の熱量も増していく。
「闇よ消え去れ! 拳よ、灼熱の炎となれ! 『ブレイジング・フィスト』!!!」

     ズバァァァァァァァァン!!!

 足が大地を蹴り、巨大な火の玉となった拳が怪物の巨躯を貫く。

     グオォォォォォォォォォッ!!!

 断末魔の叫びとともに、身体を形づくっていたガラクタとガレキが。そしてその中に巣くっていた“闇”は、完全に消滅した…!



 ―――レンたちは、勝利したのだ。



   * * *



「やったな、俺たち」
 レンの言葉に、こゆきとかりんが大きく頷いた。
「…もっとも、これで最後…ってなわけでもないんだろうけどな」
「…ごめんなさい。巻き込んだりして」
 しゅんとなる少女に、
「だからいいってば。俺たちは俺たちの意思でここにいるんだから。なっ」
「うんっ」
「そーよ。あたしたちの好きでやってるんだから」
 笑顔でかえす三人に、少女も笑顔になる。
「…ありがとう、みんな……」


「改めて自己紹介するわね。あたしは稲葉(いなば)かりん」
「藤原(ふじわら)こゆき、です」
「俺は、穂村恋(ほむら・れん)。…キミの名前は?」






「私は、ルカ。ルカ=ウル=リピュア=ラ=イノセント。


 ……“るぅか”って、呼んでくださいね?」






 レンの問いかけに、少女は今まで出一番の笑顔を浮かべ答えるのだった。













 To Be Continued…



 次回予告

 おーっす、レンだ。

 ―――俺達の前に現れた不思議少女・るぅか。
 しかもその娘がウチのガッコに転入してきて、もー何がなんだか…

 とにかく色々不慣れな彼女を助けて、色々一緒に居ることが多くなったんだけど、
 どーにも最近こゆきの機嫌が悪いんだよなァ…?
 …俺、なんかしたっけ?


 次回・純情戦隊ピュアレンジャー 「幼なじみのユウウツ」

 燃え上がれ、俺のイノセント・ハートッ!


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