傷跡−kizuato−

傷痕−kizuato−


リョオ(     )
ユーリ(     )


      幕が上がる。

      何かがあったか跡のような瓦礫の山。しかし、辺りに人の気配はない。
      <SE>ノイズ

      無線機の前に一人の少年(リョオ)が座っている。

リョオ「MAY DAY、MAY DAY! こちら08(ゼロハチ)小隊、こちら08小隊。先の戦闘でこちらはほぼ壊滅。至急、応援を願います!MAY DAY、MAY DAY! こちら08小隊、こちら08小隊。応答せよ、応答せよ!」

      しかし、ノイズの向こうからは何も聞こえない。

リョオ「…応答なし、か……」
リョオ「中央司令部からの最後の通信があってからもう2ヶ月か…他の小隊の消息も途絶えちゃってるし、議会軍全滅しちゃったのかなぁ…?
 …やっぱり、あの新型爆弾の情報が漏れてたのが敗因…ってトコかな?」

      間

リョオ「ま、もっともそんなものなくっても、内輪もめ起きてた議会軍じゃ、敗けて当然か……
 …ん? でも待てよ…。今ボクが使ってるのは20世紀モデルの無線機だ。こんな、3999年の今となっちゃおもちゃ同然のマシンで、相手に傍聴されない筈がない。ジャミングで通信を遮断してた形跡もないし…」
リョオ「…も、もしかして、連合もレジスタンス軍もみんな全滅しちゃったのか…!」

      間

リョオ「…まさかね……。いくらなんでも、90億もの人間が、2ヶ月そこらで死滅だなんて、それこそありえないよ……」

      間

      リョオ、無線機に飛びついて

リョオ「(大声で)こちら08小隊、こちら08小隊。応答せよ、応答せよ……!
 …ねえっ!誰でもいいから応答してくれよぉっ!!」

      <暗転>

リョオ「…こちら08小隊、こちら08小隊。応答せよ、応答せよ……」

      <溶暗>
      <SE>ノイズ

リョオ「…ダメか……」
リョオ「…もう3ヶ月…だっけ? …日にち数えるのも飽きたな…」

      間

リョオ「……もう、ホントに誰もいないのかなぁ…?
 この広い地球に住んでいた全ての人が死んで……ボクだけになって……ボク独りになって…」

      間

リョオ「寒い…。何か…寒い……。嫌だよ……。独りぼっちは、嫌だ……」

      <SE>ノイズ
      と、ノイズからかすかに声が聞こえる。

少女(声)「…ますか……聞こえ…ますか…?」

      はっとして、無線機に向かう少年。

リョオ「声……? 人が、人がいる…!?」

      しかし、その声はノイズにかき消される。

リョオ「どこっ、どの周波数から……! くっ、見失って、見失ってたまるかあっ!!」

      やがて…

少女(声)「聞こえますか…聞こえますか…! 聞こえたら返事をください…」
リョオ「…見つけたっ! …アロー、アロー。こちら08小隊、こちら08小隊。聞こえますか、どうぞ!」
少女(声)「…! 聞こえる! 聞こえます! やった! つながった!!」
リョオ「良かった…まだ人がいたんだ。 えっと、そっちの状況を教えてくれますか?どうぞ」
少女(声)「私の隊は3ヶ月前の戦闘で、全滅しました…。生存者は、私ひとりです…。食料も、底ついちゃって…」
リョオ「……」
少女(声)「足を負傷して動くことも……。このままじゃ…」
リョオ「…今、何処に……?」
少女(声)「…えっ?」
リョオ「今いる場所だよ。何処にいるの?」
少女(声)「ポイント…HX−02…」
リョオ「なんだ、それなら目と鼻の先だよ。意外と近いところにいたんだね」
少女(声)「えっ?」
リョオ「よしっ! これから食料とか持ってそっちに行くよ。念のため、無線機の電源は入れておいて。こっちから逆探知してて探すから」
少女(声)「う、うん…」
リョオ「それじゃ、また後で!」

      <暗転>

      <溶暗>

      ところ変わって、少女のいるポイントHX−02。
      先の場面と同じく、ガレキの山。
      上手側に少女(ユーリ)が上体をやや起こしているが、上手側からは見えない設定。

      <SE>電子音
      リョオ、下手から登場。背中にはリュック、手には受信機を持っている。

リョオ「ポイントHX−02と言えばこの辺なんだけど…。このポイントって確か……」

      と、不意に電子音が大きくなる。

リョオ「近い!?……あ、あっちだっ!」

      ユーリ、人の気配を感じて起きあがる。

ユーリ「あ…」

      そこで始めてリョオとユーリが出逢う。

リョオ「……。見つけた」
ユーリ「……」

      ユーリ、リョオを見て何かに気付く。

リョオ「始めまして。キミが無線をくれた人だよね?」
ユーリ「あんたが…無線の……?」
リョオ「うん。ボク、08小隊の…」

      その言葉をさえぎり、少女が拳銃を少年に向ける。

ユーリ「議会軍……!」
リョオ「!?」
ユーリ「荷物を下ろして。(リョオそれに従う)そしたら手を頭の後ろに。早くっ!」
リョオ「な、何がどうして…?」
ユーリ「とぼけないで! 救援を装って内部から破壊工作をするつもりでしょう!?」
リョオ「なに言ってるか解らないよ! 一体キミは……?」
ユーリ「あたしは対議会軍特殊部隊『ジャッジ』!議会軍は誰であろうと生かしておかない!」
リョオ「対議会軍……レジスタンス!? キミが? キミみたいな女の子が!!?」
ユーリ「あんただってまだ子供でしょう!そういう考え方、中世的って言うのよ、覚えときなさい。
…さぁ、引導を渡してあげるわ」

      と言って立ちあがろうとするが、足を痛めているユーリは倒れてしまう。

リョオ「だ、大丈夫!?」
ユーリ「触らないで!撃つわよ!!(リョオに銃を向ける)」
リョオ「…足折れてるじゃないか…!応急処置もしてないなんて…」
ユーリ「聞こえないの! 本当に撃つわよ!!」
リョオ「動かないで!」
ユーリ「……」
リョオ「……」

      リョオがユーリの足に包帯を巻いていく。
      やがて……

リョオ「…よし、終わりっ」
ユーリ「……」
リョオ「……」
ユーリ「あ…ありがと……」
リョオ「…」

      間

リョオ「…リョオ=サオトメ」
ユーリ「?」
リョオ「ボクの名前。……キミの名前は?」
ユーリ「…ユーリ。……ユーリ=カンザキ…」
リョオ「ユーリか…。いい名前だね」
ユーリ「……」
リョオ「……」

      間

リョオ「さて…と」
ユーリ「ちょっ…。何をするつもり?」
リョオ「何って…。怪我してるキミを放っておくわけにはいかないよ。だから…ボクはここにいる」
ユーリ「何……!」
リョオ「…?」
ユーリ「……」
リョオ「…大丈夫だよ。寝込みを襲う、なんて度胸ボクには無いから」
ユーリ「! そ、そういう問題じゃない! …確かに来てくれたのは助かった。感謝しているわ。
 だけど、あんたは議会軍よ。あたしの……敵…」
リョオ「……。ボクが信じられなかったら、いつでも後ろから撃ってもらって構わないよ」
ユーリ「!……」

       間

ユーリ「解った。疑って悪かったわ」
リョオ「…ありがとう、信じてくれて」

      <暗転>

      <溶暗>

      <SE>ノイズ
      リョオが無線機をいじっている。ユーリは銃の手入れをしている。

リョオ「ユーリ。足はどう?」
ユーリ「もう大丈夫。骨は完全にくっついてるみたい」
リョオ「そう、良かった。でもまだ無理はダメだよ」
ユーリ「…解ってる」

ユーリ「リョオの方はどう?無線の調子」
リョオ「(首を横に振って)…無線機自体の調子はいいんだよ。周りに電波が全然無いんだ」
ユーリ「周りって…どのくらい?」
リョオ「地表全土。つまり、全世界から人工の電波が消えちゃってるってこと」
ユーリ「それってつまり、人間が全て死滅しちゃったってこと!?」
リョオ「まだ解らない。もしかしたら、たまたま生き残ってる人たちが無線機が使えないだけって事もありうるしね」
ユーリ「でも、いくら使えないって言っても、半年もあれば独学で使うことは可能なはずよ。それすらないってことは、やっぱり……」

      間

ユーリ「(ポツリと)もうこの地球(ほし)には、あたしとリョオしかいないのかもね……」
リョオ「…そんなこと、言うもんじゃないよ」
ユーリ「いいんじゃない?誰一人いなくなったこの地球であたしたちだけ…。もう争いなんてしなくてもいい。平和な世界になる……」
リョオ「…やめて。それ以上言わないで!」
ユーリ「何が嫌なの!? もうあたし達を縛るものは何も無い! あたしたちが……」
リョオ「(さえぎって)やめてくれよぉっ!!!」

      間

ユーリ「…ご、ごめん……」
リョオ「…いや、ボクの方こそ…取り乱して…」

      リョオ、去ろうとする。

ユーリ「リョオ?」
リョオ「……ちょっと、頭、冷やしてくる…」

      リョオ、去る

ユーリ「リョオ……」

      <暗転>

      <溶暗>

      <SE>潮騒
      ポイントHX−02近くの海。リョオが座りこんでいる。

リョオ「……」

      しばらくして、ユーリが現れる。
      沈黙。

ユーリ「…隣り、いい?」
リョオ「……」

      間
      やがて、ユーリがポツリポツリと話し出す。

ユーリ「あたしね、生まれてすぐに、戦場で両親を無くして、レジスタンスに拾われたの。
 物心ついたときから戦士として育てられて……。10歳の時には、もう人を殺していたわ」
リョオ「……」
ユーリ「あたしたちは、いつも死と隣り合わせの日々を送っていた。毎日々々、生き延びる為に闘ってた。
 “議会”からの開放なんて、あたしには関係無かった。…死にたくない。ただ、それだけだったわ……。
 そのうち、一人死んで、二人死んで…最後にはあたし独りだけになった……」

      沈黙。

リョオ「…ボクは、戦争を知らずに育った。分厚い壁の中で、外のことは、誰に聞いても教えてくれなかった。
 全てを…第3次世界大戦の事を知ったのは、12の時だった」
ユーリ「……」
リョオ「ボクの父さんは技術者で、沢山新しい兵器を造っていた。小さなものから大きなものまで、人を殺すための道具を造ってた…。
 ある日、その情報がレジスタンス側に漏れた。当時諜報部にいたボクは真っ先に疑われた。
 …ボクが戦争を嫌っていることを知っていたからね。
 もちろん、ボクはそんなこと知らなかった。でも、誰も信じてくれなかった。
 それからボクは、08小隊に配属になった。
 最前線送りになって、始めてボクは戦争ってやつを全身で感じた。轟く爆音、銃弾の嵐、散らばるひと、人、ヒトの死体…。死体を焼くイヤな匂いが辺りに充満して何度も吐いた。
 食べ物も喉を通らなかった日だってある……。

 でもね、そんなボクをいつも励ましてくれた人がいた。08小隊の小隊長なんだけど、その人、まるでボクを自分の息子みたいに思ってくれてた。
 ボクがいろいろ悩んでたら、一緒に一晩中悩んでくれた。眠れない時、自分の昔話を聞かせてくれた。
 …そうそう、ボクが何も食べれなかった時、おにぎりムリヤリ口に押し込んで食べさせようとしたこともあったっけ。『メシは喰える時に喰っとけ』とか言いながら……」

      間

リョオ「…でも、半年前の戦闘で……隊長はボクをかばって、ボクを守るように死んでいった。
 気を失っていたボクが目を覚ますと、隊長はボクを見て、にっこり笑って…そのまま、息を引き取った…。
 ずっと一緒だった仲間も、みんな死んで、ボクは独りぼっちになった……」

      沈黙。
      リョオが肩を震わせている。

ユーリ「…リョオ?」

リョオ「……。どうして…どうして人は戦争をするんだろう…
 どうして人は、そう簡単に命を奪えるんだろう…
 どうして…どうして…だよ…
 (ユーリに)ねぇ教えてよ……。どうして人は殺し合うの? どうして人は憎しみ合うの!? どうして、どうして人は……!
 教えてよユーリ!教えてよ父さん…母さん……!!!」

      リョオ、うずくまって泣き出す。こぼれる嗚咽。

      ユーリ、リョオに近付いて

ユーリ「リョオ…」
リョオ「寒い…寒いよユーリ…。独りぼっちは、もう嫌なんだ…!」

      間

ユーリ「(静かに、力強く)怖くない。怖くないよ、リョオ…。大丈夫。あたしは、いなくならないから……
 この戦争がどんなものだったか。それは今からでも十分考えれる。あたし達が答えを出せなくても、次の世代がきっと答えを出してくれる。
 だから…生きよう?ちゃんと前を見て、ちゃんと"現在(いま)"を生きよう…?」

リョオ「……ユーリ。…ユーリ……!」

      リョオ号泣。 泣き声が小さくなるにつれ、照明FO。

      <溶暗>
      リョオとユーリが始めて出逢ってから1年が経過した世界。
      相変わらず殺風景だが、そこには確実に“生命”が息づいている。

      <SE>小鳥のさえずり

リョオ「んーっ、いい天気。こんなに晴れたの久しぶりだなぁ」

ユーリ(声)「リョオーっ!」

      ユーリが走って登場。

リョオ「おはよ、ユーリ。…どしたの?」
ユーリ「見てみて、これっ」

      と、ユーリが差し出したのは、一輪の小さな花。

ユーリ「綺麗でしょ?さっきそこで見つけたの」
リョオ「へぇ…」
ユーリ「いまの世界…ううん、いまのあたしたちに必要なのは、こういうものなのかも知れないね」
リョオ「…そうだね」
ユーリ「こんな小さな花も、少しずつ。ホントに少しずつだけど、その数を増やしてく……
 ねぇ、見ていかない?この花が、おっきな花畑に変わる所を…!」

      ユーリ、花を抱えて嬉しそうに廻る。
      それを見てリョオが、ふと含み笑い。

ユーリ「(気付いて)? なぁに?」
リョオ「…いや。ユーリ、始めて逢った時から、随分変わったなって」
ユーリ「そ、そうかな?」
リョオ「…憶えてる?1年前、始めて逢った時、ユーリってばいきなりボクにピストル向けたんだよ」
ユーリ「(苦笑しながら)…よく憶えてるね、そんなこと」
リョオ「憶えてるよ。ユーリとの事、始めて逢った日から全部憶えてる」

      そこまで言って、ふと口をつむぐリョオ。

ユーリ「どしたの、黙っちゃって?」
リョオ「ん……。なんでもない」
ユーリ「…変なの?」
リョオ「…………」
ユーリ「あ、そうだ。ちょっと行って来るね」
リョオ「…どこに?」
ユーリ「……こーら。女の子にそんな野暮なこと聞かないよーに!」
リョオ「あ。ご、ごめん……」
ユーリ「あはは!冗談々々。ちょっと海見てくる!」

      ユーリ、退場。

リョオ「ははは…かなわないなぁ、ユーリには」
リョオ「……(溜息)」
リョオ「気付いてないんだろうなァ…ユーリ。やっぱり」

      そのとき、遠くで銃声。

リョオ「!」

リョオ「海の方だっ!!!」

      リョオ、走って退場。
      小暗転。

      溶暗。
      うずくまるユーリの横で、低く笑う男たち。

ユーリ「うぅっ……」
男A「へへっ、いくら兵士つったところで、所詮は女ってワケか」
男B「たりめーよ。結局のところ、女は男にゃ勝てねえの」
男C「おい、んでこのアマどーする、バラしちまうか?」
男A「あせんなよ…。ちょーど女に飢えてたとこだ…。かまやしねぇ、ヤっちまおうぜ!」
男B「ああ…バラすのはそれからだ(舌なめずり)」
ユーリ「あぁ……っ。リョ…オ……!」
男C「助け呼んだってムダムダ。誰も来やしねぇからよぉ…。うへへ…」

リョオ「ユーリッ!!!」

      リョオが叫びながら飛びこんでくる。男たちを無視してユーリに駆け寄る。

リョオ「ユーリ!ユーリ!!」
ユーリ「…リョ……オ…」
リョオ「大丈夫!?(男たちに向かって)い…一体、この娘(こ)が何をしたって言うんだ!」
男A「…へっ、なにもしちゃいねーよ。オレらはただやりてーからやった。そんだけだよ」
リョオ「そんな……!!!」
男B「けっ、なんか興ざめしちまったな。(Aに)おい」

     男A、マシンガンをリョオに向ける。引き金を引き、放つ。
     ユーリ、起きあがってその体を盾にリョオを守る。
     一瞬、世界が真っ赤に染まる。

リョオ「ユーリィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
男C「おおっ、このアマ盾になりやがったぜ」
リョオ「ユーリ、ユーリィ!返事してよッ!!!」
ユーリ「……ョオ…。…し…てる…。アイシテル……」
リョオ「……!!」
ユーリ「ずっと…あなたと……いたかった…。ずぅっと…一緒に……」

      ユーリ、絶命
      ぐったりとうなだれるリョオ

男B「へっ。お涙ちょうだいのラブストーリーってか?吐き気するぜ…」
男A「…くっだらねえ。けえるぞ」

      男たち去ろうとする。

リョオ「待てッ!!!」
男A「!?」
リョオ「(ゆっくりと立ちあがり)さない……。許さない……」

      リョオ、ピストルを抜く。しかしその手は震えている。

リョオ「ボクは…ボクは…。生まれて始めて、人が憎いと思った。
 生まれて始めて、人を殺したいと思ったッ!!!」

      ピストルの音が空間を支配し……
      暗転。


      溶暗。
      リョオがユーリの体を抱いている。
      リョオの体も、全身傷だらけで、血が滲んでいる。

リョオ「…ユーリ……」

リョオ「……行こう…か……。誰もいない場所へ……。遠い場所へ…。ボク達しか…いない場所へ……」

リョオ「そこで、一緒に暮らそう…。一緒に…………」

      リョオ、後ろを向き、歩き出す。

      ゆっくりと、ゆっくりと……



         幕



戻る