GUARDIAN SPIRITS/第1話

 漆黒の闇に無数の光が散らばる空間。人はそれを、宇宙と呼ぶ。
 終わりの無い宇宙空間の、片隅にある一つの青き惑星。その星に住むもの達が、“地球”と呼ぶその星に、一筋の光が…降り立った。

「…ここが……地球」



 がぁ〜でぃあんHearts・Another Story
 GUARDIAN SPIRITS
 第1話:星降る夜の小さな出逢い



『…感動している場合ではないぞ、カズヤ=マイグレート』
 背後で響く声に一人の青年が振り向いた。年のころは16、7くらいだろうか。重力を無視したようにハネ上がった銀髪と金色の瞳。そして、胸元には大きな魂の水晶クリスタルが真紅に輝いていた。
「…解っていますよ、先輩」
 そう言いながら、カズヤと呼ばれた青年が目の前に浮かぶ光る球体―――恐らくは通信ユニットだろう―――にむかって敬礼した。
「不肖、カズヤ=マイグレート。“ガーディアンハーツ”の名にかけて…地球の平和を守ってみせます」
『頼もしい返事で何よりだよカズヤ。…史上初の男性のガーディアンハーツとしての、君の活躍を期待している。…ただ……』
「ただ?」
 と、言葉を濁した“先輩”に、カズヤは怪訝に右眉を上げた。
『この“地球”と言う星は、数多くの正義の味方がいるらしいが、正体がすぐに一般に広まってしまうようだ。正体露見の末、強制送還…のような憂き目は晒すなよ、カズヤ』
「…了解です」
 改めて敬礼をしながら応えるカズヤ。その言葉を聞き、安心したかのように(?)球体は瞬き、宙へと消えていった。

「ふうっ…やれ、先輩も心配性だな。いくらなんでもそうそう正体がバレるなんぞ…」
 そう言いながら変身を解く…もとい、この星での生活に支障の無い姿、地球人と変わらぬ容姿に変わる。
「さて、と。これからどうするかだが…」
 と歩き出そうとした、その時だった。


「…ひ、ひにゃにゃ…?」


「!」
 背後に気配を感じ、あわてて振り向くカズヤ。そこには一人の少女が大きな瞳ををぱちくりさせて立っていた。
「お…前…。いっ、いつからそこにいた!!?」
 思わず口調が荒くなる。もしかしたら変身を…正体を見られたのかもしれない。そんな焦りがカズヤの身体を走る。
「ひにゃ…。ひ、ひなは何も見てないですっ
 正義の味方っぽい男の子が変身してるところなんて見てないですぅ〜〜〜〜〜っ
 言うが早いか、少女は脱兎の如く走り去る。

 ・
 ・
 ・

…って、しっかり見てんじゃねーか!!!
 思わず虚空に突っ込みを食らわせつつ、走り去っていった少女の後を追う。
 公園を飛び出し、街路へと出て、きょろきょろと辺りを見回す。
「どこ行った…?」
 当然のことながら、地球に来たばかりのカズヤに土地勘などあるはずも無い。地元の人間にしかわからないような抜け道に逃げられたらアウトだ。
 とはいえ、相手は普通の女の子。よっぽど運動神経が高くない限り、足の速さはたかが知れているハズ。
「…いた、アイツだ」
 はたして彼女はすぐに見つかった。小走りで距離を詰め、逃げる少女の腕をつかむ。

「ひにゃぁぁっ」
 夜の街に少女の悲鳴が響く。
「わっ、変な声を出すなっ!」
 無理な話だ。
 暗い夜道で、女の子の腕をつかんで悲鳴を上げられた時点で、どのような言い訳をしようがつかんだ側…つまりはカズヤ…がワルモノに見られて当然である。

「…………」
「…………」

 例に漏れず、周りにいた人々の視線がカズヤに突き刺さる。かなり痛い。
「は、離すですっ!」
 そんな周囲の視線に思わず固まったカズヤの腕を、少女が振り払って脇道に逃げ込む。
「しまった!」
 ここで見失ったら絶望的だ。カズヤの脳裏に強制送還の文字が浮かぶ。頭を振って嫌なイメージを追い出し、カズヤは再び少女を追い走った。



「…思わず大きな声出しちゃったですけど……」
 一方その頃、カズヤを振り切った少女の方は、今走ってきた方角を振り返り、小さく溜息をついていた。
(…でもでも、あそこで捕まっちゃったら、ひなはきっとトンでもないことになってたです! あ〜んなことやこ〜んなことになって… はっ、あの男の子の正体を知っちゃったからって、記憶も消されちゃうかもですっ! ひにゃぁぁぁぁ…早くおうちに帰って鍵閉めて布団かぶって隠れなきゃです!!)
 妄想(の割には結構的を得ている気もするが)を広げきって勝手に恐れおののく少女は、兎にも角にも家に戻るために駆け出した。
 が。

   パァァァァァァァ……!

 けたたましいクラクションが鳴り響く。少女が思わず振り返ると、ヘッドライトをギラつかせ、大きなトラックが猛スピードで向かってきていた。
 彼女がいたのは歩道だったが、そんなことはお構いなしに突っ込んでくる!
 ヘッドライトがさながら猛獣の眼光のように少女を捉える。逃がれようにも恐怖に足がすくんで動けない。
「ひにゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
 思わず目を閉じたそのときだった。
 遠くに聞こえる衝突音に、激突した!と思った瞬間、自らの身体に妙な浮遊感をおぼえた。
「…ひにゃ?」
 恐る恐る目を開くと、眼前には星空が広がっていた。
 少し視線をずらすと、先ほど少女が見かけた銀髪の青年…カズヤの顔が間近にある。
 そこでようやく少女は、今カズヤに“お姫様だっこ”をされてる状況であることに気付き、思いっきり赤面した。

 手を伸ばせば届きそうな、いや、むしろ星が降ってきそうなほどに瞬く夜空に、少女と、少女をを抱きかかえるカズヤの姿が幻想的に浮かぶ…。

 やがて、カズヤはふわりと地に降りたった。
「大丈夫か?」
 いつの間にか変身を解いたカズヤの声に、意識を完全に取り戻した少女はぱっと離れ、こくこくとうなづく。耳どころか首筋まで真っ赤だ。
「…そうか、よかった」
 カズヤが安堵の息を漏らす。本気で心配してくれている…そう思った少女は幾分緊張を解いた。
「…ところで」
 と、カズヤの声のトーンが沈む。
「?」
「…見た…んだよな?」
 カズヤの言葉を理解するのに、しばしの時間を要した。
「ぁ……ぅ…」
 言葉に詰まる少女、その様子を見て、カズヤは大げさに溜息をついた。
「……やっぱり見られたか…。まいったな…」
 これがバレたら即刻本星へ強制送還だ。今後の展開を予想して、カズヤは軽く鬱にひたる。
(念願の地球地区守護任務が、…ものの数10分で終わるとはな…)
 そう思ってもういちど溜息をつく。と、
「あ、あのっ!」
 ふいに、少女から話しかけられ、カズヤは顔を上げた。
「その…やっぱり、ひなの記憶、消されちゃうですか?」
 記憶処理。
 確かにその手もある。
 しかし、それはあくまで“最後の手段”であり、強制連行の際に、関わった人間の記憶を消す用途に使われるのがほとんどだ。
「…あぁ、恐らくな」
 そして、今がその状況に最も近い。
 このコには悪いけど…早めに記憶を処理しないと意識の奥深くに記憶の根を張られると忘れさせにくくなってしまう。そうなれば後は全ての記憶を消去しなくてはならなくなる。それだけは避けなければいけない。
 そう思って、腰の万能銃に手を伸ばそうとしたそのときだった。
「バレたら困るのって…他人だから…だよねっ?」
「…は?」
 突然、妙なことを聞かれ、カズヤの思考がストップする。
 や、そりゃまぁ確かに関係者以外にバレるからダメなのはそうなのだが。
「だ、だったら、家族になればいいですっ!」
「…なんですと?」
 名案とばかりに、ぐっと握りこぶしを作ってひとりうなづく少女。
「そうですっ、家族なら正体がばれても無問題と書いてモーマンタイですっ! そうと決まれば善は急げですっ、早速母さんにお願いしてみるです〜っ」
 言うが早いか今度は少女がカズヤの腕をひっつかみ、ぱっと駆け出した。
「えっ? …おい、ちょ、ちょっと? いや、いくらなんでもお願いしてみてどうにかなる問題でも……って

 人の話を聞けぇ〜〜〜〜〜〜っ!!!」





     * * *


了承サ
 一秒。
「いや、ちゃんと考えてモノ言ってます?」
 さりげなく失礼な物言いをするカズヤを尻目に、少女の母親―――“サキ”と名乗った―――が少女に話しかける。
「それにしても娘が自分から婿さん連れてくるとは、いやはや流石の母さんもビックリしたサ」
「って、誰が婿だ誰がっ!」
 あれから少女に強引に引っ張られ、家にまで連れてこられたカズヤは、少女の(一部誇張があるような)説明を聞きながら、意識をどうにか保っていた。
 そして話が核心に迫ったところで、少女がストレートに「家族にして!」と一言。
 先刻のサキの台詞は、それに対する返答である。

「ひにゃぁ、おムコさんだなんて、そんなぁ…ひな照れちゃうですよぉ…」
「照れんでいい照れんで」
 なぜか赤面する少女に至極冷静にツッコミをくりだすカズヤ。
「それはともかく。…あの、本当にいいんですか? 自分で言うのもなんですがどこの馬の骨とも知れない人間をあっさりと」
「おや、アンタそんな悪い子なの?」
 サキの言葉に、カズヤは返答に詰まる。
「…だろ? こう見えても母さん、人を見る目は自信があるつもりサ。それに聞いた話じゃ、アンタこの街にきたばっかりって言うじゃないサ? 泊まるアテとか、あるのかい?」
 首を横に振るカズヤ。
「そういうことなら、ウチはいつでも大歓迎サ。この家、あたしと娘しか住んでないからねェ」
 ふと、サキの目に哀しげな光が一瞬だけ映る。
「サキさん…」
「じゃ、決定サ?」
「は?」
 さっきの雰囲気はどこへやら、すっくと立ち上がったサキに連れられ、カズヤは二階へと向かう。
「今日からここがカズヤの部屋サ」
 と、通された部屋はどう見ても人が生活している空気だ。
「ひにゃ、ひなと一緒の部屋です!」
「はあっ!?」
 あまりに無茶苦茶な展開にカズヤも思わずのけぞる。
「ちょっ、ひなと一緒の部屋って…一緒に生活させる気なのか!?
 単純に一つ屋根の下に住むってことだけでも抵抗を感じていたのに、そのうえ一緒の部屋に暮らすことに?
 事態を想像して、カズヤは慌てて首を振った。
「へ? どうせ高校卒業したら一緒になるんだろ?
 けろりとした顔で答えるサキ。
「いや、さっきからなんか勘違いしてるだろ!」
 大体、他にも部屋があるじゃないか!
 …そう抗議するも
「他の部屋物置になってるからねぇ…。片付けるのが面倒なのサ」
 などとしれっと言われてしまう。
「や、だからって…」
「いやぁ、母さん前から息子が欲しいと思ってたサ」
 完璧にカズヤを無視してはしゃぐサキ。
「ひなも前からお兄さんとか、欲しいと思ってたです〜」
 少女も一緒になってはしゃぐ。
「いや、兄とか違うし。…っていうか、二人ともそれでいいのかよっ? …いいの?」
 カズヤの呟きは、むなしく部屋の空気に霧散していくのだった。


     * * *


「…やれ。着いて早々、とんでもないことになっちゃったな……」
 屋根の上で星空を眺めながら、カズヤはここ数時間のことを思い出し呟いた。
 結局、少女とは同じ部屋になってしまった。というか、ああも喜ばれては断るに断れない。
「地球、か…」
 感慨深げに、街の夜景に視線を向ける。遠くに見えるビル街は、深夜になっても未だその灯を消すことは無かった。
「…あ、こんなところにいたです?」
 不意に、背後で声がした。
「…あぁ」
 少女が、あぶなげに屋根をとてとてと歩く。
「わととっ…」
「おっとっ」
 よろけた少女を、とっさに支える。
「あ。ありがとう…です…」
 顔を赤らめて、少女はうつむいた。

「…あ、そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったよな。…カズヤ=マイグレートだ」
 ふと気付いて、カズヤが言った。確かに初めて逢ってからけっこう経つのに、まだ互いに名乗ってもいなかった。
「あ…。えと、ひなは…じゃなくって、わたしは、渡ひな、ですっ」
 言われて気付いたのか、少女―――ひなも名乗る。妙に緊張してるのか、なぜか敬礼をしている姿が、妙に可笑しく、可愛らしかった。
「…地球のことは資料とかで知ってたけど、いざ来てみて、いろいろ迷惑かけることもあるかと思う。そのときは、色々フォローしてくれるとありがたいな」
 カズヤの言葉に、ひなはこくん、と頷いた。
「それじゃ…」
「?」
「これからよろしくな、ひな」
 照れ隠しに頬を掻きながら、そう言って、カズヤはすっと右手を差し出した。
「……は、はいですっ!」
 その手を握り、ひなは満面の笑みで応えるのだった……。






 つづく


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