欲望の果てに

 人間の欲望には限りがありません。少なくともアメリカを初めとする国々から資本主義の考え方が入ってくる

までは、儒教や仏教と言った人々の欲望を抑えるような考え方が一方にあり、日本人の暴走を押さえていました。

慎ましやかに生きることが美しいことであり、清貧が美徳でもありました。小林一茶や良寛さんといった欲望から

離れた世界に生きる人達を素晴らしいと思う心もありました。

 しかし、戦後、日本がアメリカナイズされるに連れて、そんな教えや考え方は忘れられてしまいました。欲望の

行き着く先は地獄です。それは昨今の世の中を見れば良く分かることです。有り余るほどの物は、これもあれも

と私達に消費を迫ってきます。また、私達が物を買い、物を消費しなければ経済は維持できなくなっています。

そのために、大量生産は大量の未消化物や廃棄物を作ってきました。売れ残った物は惜しげもなく破壊され、

使い捨てられた物は大量の環境汚染物質になって来たのです。

 瀬戸内海では昔から底引き網が行われています。比較的水深が浅いからです。その底引き網には、毎回、

おびただしいプラスチック製品が引っかかってきます。魚の数よりは多い事も少なくありません。これらは全て

川に流されたり、海に捨てられた物なのです。木や草であればいずれは腐ってしまいますが、プラスチック製品

はいつまでも残るのです。会社の側に遊水池があります。ここにも大量のプラスチック製品が浮いていたり、

岸に打ち上げられています。これらを見る時に、人間は今まで何をしていて、これから先、何をしようとしている

のだろうと考えさせられてしまいます。

 先日、NHKスペシャル 富の攻防「要塞町の人々」という番組がありました。アメリカには一般住宅区域から

離れた場所に、街の周辺を高い塀で囲んだ住宅地があるそうです。この住宅地には警備員がいて、ここの住人

以外が出入りすることを厳しく制限しています。そんな高級住宅街ですから、住んでいる人達は経済面で成功

した人達です。IT企業、投資会社のエリートビジネスマンやベンチャー企業の経営者等です。会社の幹部社員

だとか、自分で開業している人や、自分の才能だけで成功した人達など様々です。

 しかし、要塞町に住み続けるには毎月多額のお金が必要です。事業に失敗したり、会社を解雇された時には

哀れです。今まで通りの生活を維持していくためには、わずかばかりの貯蓄は、たちまち底をついてしまいます。

また、生活費は夫だけの収入では足りず、夫婦共稼ぎも少なくないようです。共稼ぎ夫婦の場合、仕事のために、

すれ違い生活を余儀なくされます。幹部社員は家にいても仕事が追いかけてきます。ここでの生活を維持しよう

とすれば、決して安閑と快適な生活を楽しんでばかりはおられないのです。そんな綱渡りのような生活を支えて

いるのは、人よりは立派な家に住みエリートの生活をしているという優越感だけなのです。

 貸倉庫業で財をなした夫婦についても紹介されていました。事業が成功するまでは、大変貧しい生活だった

ようです。何とか早く、こんな苦しい生活から抜け出したいという思いが、成功するまでの夫婦の生き甲斐でした。

夫婦の血のにじむような努力があって事業が成功し、大きな財産を手に入れる事が出来ました。一生遊んで

いても生活できるような財産です。しかし、そんな思いをしてまで手に入れた、要塞町での生活でしたが、彼の

心にはいつも満たされない思いがありました。彼は苦労を共にした妻を置いたまま、家を出たのです。成功して、

この町に入ってくる人、事業に失敗したり解雇されて、ここでの生活を諦めなければならない人、明暗を分ける

人の出入りが常にあるようです。

 成功したとは言え、満ち足りぬ思いや、成功者と言えども決してのんびりとはしておられないど、考えさせら

れることの多い番組でした。

 私達が子供の頃には家に鍵をしないで寝ていました。泥棒に入られても盗られるようなものは何もなかった

からです。また、いくら貧乏をしていても、人様の物には手を出すなと厳しく戒められていました。泥棒をしようと

言う人もいなければ、盗まれて困るような財産もありませんでした。何という清々しい社会ではないでしょうか。

確かにその通りなのです。財産があるから蔵を建てなければならないのです。高い塀を巡らして泥棒の侵入を

防がなくてはなりません。家にも二重、三重に鍵をしなければなりません。

 無いと言うことほど安心な事はないのです。しかし、口で言うほど単純な事ではない事も事実です。将来への

不安や、贅沢に慣れきった私達の心が容易にそれを許さないからです。かくいう私も、どっぷりと物質文明の

中に浸かって生活しています。しかし、思い起こせばほんの数十年前、私達が貧しい子供時代には、そんな

生活が当たり前だったのです。子供達にとって紙芝居が唯一の楽しみであり、魚取りや虫取りが日課の生活

でした。大人達も夕方は早めに風呂に入り、一杯飲んで夕涼みをしていました。今日のように朝早くから夜遅く

まで仕事をしているような人はいなかったのです。

 それでも、それはそれで楽しい毎日でした。近所付き合いも和気藹々としていました。今では隣に住んでいる

旦那さんの顔も見たことがないような事も良くあります。子供達が非行に走るのも、現代社会がもたらした弊害

の一つだと言われています。家賃が高く、物価の高い都会では共稼ぎが当たり前になっています。そんな家庭

では厳しい社会情勢の中で夫婦とも疲れ切っていると言います。そんな夫婦がほっと一息つけるのは、日曜や

休日です。自分たちの体の疲れや精神的な疲労を癒すのが精一杯で、子供達に目を向けてやる余裕がないと

言うのです。最近では、そんな生活に疑問を感じて都会を離れる人もいるようですが、多くの場合、こんな生活

が当たり前になっているのではないでしょうか。

 もう一度、「豊かさとは何か」と言うことを考え直してみたいものです。豊かさとの引き替えに、多くの大切なもの

をどこかに置き忘れているのではないかと・・・・。

                                               2003年8月17日掲載


番組の解説から

NHKスペシャル・地球市場・「富の攻防」   第3回「要塞町の人々」〜アメリカ・競争社会の勝者達〜 

アメリカで今、「要塞町」と呼ばれる高級住宅地が次々と出現している。周囲を塀で張り巡らし、出入りを

警備員が監視し外部の人間の出入りを閉ざす町である。

 住人の多くは、IT企業、投資会社のエリートビジネスマンやベンチャー企業の経営者など、90年代、

空前の好景気で富を築いた新富裕層。アメリカの過酷な 競争主義を勝ち上がってきた「勝ち組」である。

 競争主義は、経済に活力を与え、アメリカ経済ひとり勝ちの原動力となった。 しかし、その一方で、

一握りの勝者と多くの敗者を生み出し、勝者への富の集中が加速している。また、ひとたび勝者となっても、

決して安泰ではなく、常に転落の不安と背中合わせで、高い生活水準を維持するためには、さらなる

ハードワークに駆り立てられる。

 今や地球市場共通のルールとなろうとしている競争主義が人々の暮らしに何をもたらしているのか、

要塞町を舞台に見つめる。

【「要塞町」について】

 数十軒、数百軒、数千軒単位の住宅地で、周囲が塀で囲まれ、ゲートなどによって、外部からの自由な

出入りを規制している地区。行政単位の「町」と、必ずしも一致するものではありません。英語では

「GatedCommunity」として一般に紹介されています。「Gated Community」は、その様式が、中世ヨーロッパ

の要塞都市に似ていることから、研究者やマスコミの間では「Fortress(要塞)」と表現される場合が多く、

番組では、「Gated Community」を「要塞町」として紹介しました。

【番組で取り上げた場所・団体について】

★コトデカザについて
 カリフォルニア州オレンジ郡の南部、ロサンゼルスから南へ約100キロの位置。
 全米に約2万ヶ所ある「要塞町」の中でも最大規模。人口約1万3千人。
 詳細については、下記ホームページ参照
 全体情報 http://www.coto.com/default_flash.asp
 Coto De Caza専門不動産のページ http://www.aboutcoto.com/

★コーンフェリー社について
 KORN/FERRY INTERNATIONAL(コーンフェリー・インターナショナル)
 世界36カ国に70ヶ所の事務所。
 CEOなど、企業のエグゼクティブを中心に人材斡旋、転職先紹介を行う世界最
大のリクルート会社。本社はロサンゼルス。
 http://www.kornferry.com

★番組内で紹介した「個人コーチ」タレーン・ミーダナーさんについて
 Talane Coaching Company (Talane Miedaner )
 P.O. Box 1080 New York, NY 10156
 http://www.lifecoach.com

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