いざ出発、バックの景色は大正池と焼岳

掲載写真は全て2001年5月26日から5月27日に撮影したものです。

大正池の湖岸の木々は新緑に輝いていた。私達はここを起点にして歩き始めた。懸念していた

お天気も次第に回復傾向にあった。決して最高の天気とは言えないまでも、この季節としては

まずまずの天気であろう。大正池の向かいにある焼岳の山頂には薄雲が懸かっていた。しかし、

風が出たせいか、時折、山頂が見え隠れしている。足下には小さな可愛らしい花が咲いている。

そして、何よりも素晴らしいのは梓川の流れだ。雪解け水が大きな流れとなって、轟々と音を

立てて流れている。

 私達一行は5月25日の夜中に倉敷を出発し、ひたすら高速道路を走り継いで、26日の早朝

沢渡(さわんど)の駐車場に着いた。一行は女性二人、男性四人だった。沢渡の駐車場で朝食を

取り、腹ごしらえをした。早朝のせいもあって周辺の山は全て薄もやの中にあった。上高地は

一般車両の乗り入れを禁止している。美しい自然を守るためだ。そう言えば尾瀬もそうであった。

こうしなければ自然の維持存続は難しいのだろう。

 沢渡からはハイブリッドカーが出ている。ディーゼルエンジンの排気ガスを極力少なくした大型

のバスである。松本から数えて22番目だというトンネルを抜けると上高地に入る。焼岳に連なる

この周辺の地盤は脆く、トンネルのあちらこちらでは崩落があるらしい。今のトンネルの横にもう

一本新しいトンネルを掘っている。今のトンネルは道幅も狭く、バス一台が通るのがやっとである。

従って、観光シーズンともなると、行き交うバスやタクシーが長い列となる。

 私達は大正池を出発し、左に梓川、そしてその分流、分流が作る湿地帯などを歩き、カッパ橋

に向かって歩いた。歳月の流れは早いもので、私が初めてこの地を訪れて以来、もう十数年が

過ぎている。その間、川沿いには新しい建物も建ち、道も整備されている。

 早朝だというのにハイカーは多い。みんな思い思いの格好で歩いている。バスが運んできた

ツアー客もいる。年輩者、若者を問わずペアのハイカーも多い。私達のような小集団もいる。そして

何よりも目に付くのは大きな三脚と立派なカメラを持った人達だ。ここはと思うようなビュースポット

では、必ず数人のカメラマン達がシャッターチャンスを狙っている。 

  

左はカメラマン達がシャッターチャンスを待っていた田代池、右は遠くに穂高を眺める梓川のほとり

 朝日が雲の間から姿を見せ始めた。途端に水面がきらきらと光り始める。幻想的な景色だ。

ケショウヤナギの新緑と高くそびえる雪の山、梓川の流れと、どこをとっても絵になる景色だ。

道縁には白い花のコミヤマカタバミ、黄色い花のオオバキスミレ、青い花のエゾムラサキ等、

可憐でかわいい花達が点々と続いている。私はフィルムの残り枚数を気にしながらも何度回も

シャッターを押していた。あれもこれもと道草が余りにも多く、予定時間を大幅に超過していた。

  

道縁には可憐な山野草が花を開いていた。左はコミヤマカタバミ、右はタチスボスミレ

 午後からの行動の事もあり、上高地温泉ホテル前での休憩も、そこそこに出発した。そして、

カッパ橋に着いた。いつ来ても、この周辺は大勢の人で賑わっている。カッパ橋からは正面に

山襞に雪の残った穂高連峰が見える。素晴らしいロケーションだ。写真を一枚写しただけで、

足早に通り過ぎ、目的地の明神池を目指した。今日の宿泊先である「山のひだや」がある場所

である。

   

雲の切れ間から顔を出した手前六百山と西穂高、右は梓川の正面に位置する穂高連峰

 明神池には12時少し前に着いた。旅館とも山小屋とも言えるような、ひなびた作りの宿である。

いつでもどうぞお使い下さいという宿の人の案内で、一度、荷物を置きに部屋入った。お茶を飲み

一服したところで、部屋に荷物を置き身軽になって外に出た。昼食はコンビニで買った弁当だった。

すでに梓川の河原では昼食弁当を広げている人でいっぱいだった。私達も河原の見晴らしの良い

場所に陣取り弁当を開いた。弁当を食べ人心地着いた頃、U君が急にお腹が痛くなったと行って

旅館へ引き返してしまった。

  

間近になった明神岳、切り立った峰の姿が神々しい、右は宿泊先の「山のひだや」の正面玄関

 やむなく残りの四人はU君を残したまま出発した。今日の最終目標地である徳沢を目指した。

さすがに、このコースに足を踏み入れてからはハイカーも少なくなった。その昔、一般観光客で

明神池まで歩く人は少なかった。最近では、そんなツアーもあるのか、観光バスの客らしき軽装

の人達が、それこそ、列をなして明神池を目指していた。しかしさすがに、明神池から先のコース

には、そんな姿の人はいなかった。

   

徳沢に向かう途中、梓川の河原が開けたところ、右は大きく展望が開けた穂高連峰

 道は山に入り、又川沿いへと続く。その道沿いにはニリンソウの群生地が広がっている。

何枚か写真に写したが、次々に展開する美しい景色に前の写した写真の影が薄れるような

感じであった。ニリンソウの周辺にはハシリドコロ、サンカヨウ、ラショウモンカズラなども群生

している。確かに明神池までの道沿いとは植生も異なっていた。山肌には巨木が群生し、岩を

巻き込むように大きな根を張っている。山から流れ落ちてくる川はどこからともなく湧き出し、

再び大地に没している。川縁には雪が残っており、その下を穿つように川が流れている。

  

森林を抜ける道すがらニリンソウの群落地が次々と展開する、白く小さな可憐な花だ。

 いつしか周辺の景色が変わっていた。私達が正面だと思っていた山も大きく回り込んだため

その山の側面を眺めるような位置に立っていた。しかし、それはあくまで眺める人間サイドの

問題であって、どこまでも行っても山には正面もなく、側面もありはしないのだが。

 色んな植物を楽しんで歩いているうちに、徳沢の歴史について書かれている看板のところに

たどり着いた。ここからは、もうそう遠くないところに徳沢の山小屋がある。かつて、ここは牛や

馬の放牧地であったとのことで、この周辺の場所としては珍しく開けた空間であった。山小屋風

の建物が二棟建っていた。さすがに、このシーズン登山客は少なく、テントサイトも閑散としていた。

 広場に入る途中の道すがら珍しいものを目にした。一つはアズマヒキガエルのつがいであり、

もう一つはアナグマだった。あれこれと議論をしたのだが、結局、アナグマか何なのか分からず

帰りに立ち寄ったビジターセンターの人に聞いてやっとアナグマだということが判明した。

 徳沢から引き返す頃には、さすがにばてていた。私一人が大きく遅れていた。女性二人は元気

良く山を下っていた。帰りは道草をせず、一気に下山した。空は一段と雲行きが怪しくなっていた。

 明神池に着いた頃、旅館で休養していたU君と連絡をとり、一緒に明神池に行ってみることにした。

明神池は神の池として祀られている池だとのことで、入場料を取られることになっている。一金

250円也であった。明神池は実に神秘的な池であった。さして深くもないような池だが周辺の景色

を映して静かに広がっていた。池にはイワナがいて、慣れていると見えて、水音を立てると餌を

くれるものと思って近づいてくる。羽の色どりが美しいオシドリも泳いでいる。

 この頃からぽつぽつと大粒の雨が落ち始めた。私達は大急ぎで宿に引き返した。雨は本格的に

降り始めた。今夜は女性客の方が多いと言うことで、男性は小さい方の風呂となった。4人が

やっとという大きさの風呂であった。しかし、少し熱めの湯は疲れた足腰に心地よい。湯の中で

十分に足を揉みほぐす。

 風呂が終わったら夕飯だ。さして豪華ではないが、魚も付いている。隣の大きなグループは

どうやら野鳥の会のメンバーらしい。幹事さんらしき人が明日の朝の行動について説明をして

いる。程良いアルコールの量と山の幸に満足して部屋に戻る。私は布団に入るやいなや深い

眠りについた。夜中の何時頃だろうか。耳を澄ませると雨音がしている。トイレに行き、再び深い

眠りに落ちた。次に目が覚めたときは、外が白み始めた頃だった。野鳥の会の人達は出かけた

後だった。疲れはとれていた。服を着替え、トイレに行き、顔を洗った。窓の外は昨晩の激しい

雨が嘘のように小降りになり、階下に降りていった頃は止んでいた。

 大急ぎでカメラを手に外に出た。昨日撮り損ねていた明神池の景色を写すため、明神池に

向かった。受付で250円を払い、管理地に入った。池の畔に立つと面前に明神岳の勇姿が

あった。さすが神の山と崇められるだけあって、その姿は人間の立ち姿にも似ていた。雨上がり

特有の霧が山肌をぬうように立ち上っていた。神々しいまでの景色であった。早朝でもあり、

観光客はまばらで静かであった。あちらの角度、こちらの角度と何枚も写真を写した。池は鏡の

ようであった。納得いくまで何枚もの写真をとって宿に引き返した。

  

早朝の明神池一の池、左の写真は桟橋から右の景色、右の写真は正面の景色

湖面は風もなく周辺の景色を映す鏡のようだ。

  

早朝の明神池二の池、まるで箱庭のように小さな島が点々と浮かんでいる。

前の日には、かわいいおしどり達も遊んでいた。

   

雨上がりの雲が懸かり墨絵のように幻想的な明神岳、右はご神体を明神岳とする明神神社。

明神池周辺は針葉樹を中心とする、このような森林となっている。

 朝食を済ませ、出発準備。雨が降り出さない内に下山をしたいと考えていたのだが、雨は

出発間際になって再び降り始めた。カッパを着て、雨の中に出た。小雨であった。上高地の

ビジターセンターに着いた頃には止んでいた。帰りのコースは本道と言われている梓川左岸の

コースであった。このコースは梓川の流れから少し離れた山道であった。昨日見た草花の他に、

イチイの木やシナの木が深い森を作っている。梓川は幾筋かの分流を作って流れている。中には

バイカモという清流にしか育たないと言われている貴重な藻が繁殖している川もある。

帰りの道すがら道より少し高いところにシャクナゲが咲いていた。

 私達はカッパ橋左岸にまで戻ってきた。やはり早朝から多くの人で賑わっている。土産物屋で

おみやげを買い帰り支度を整えた。この頃になると、雨はすっかり止んで、薄日が射し始めていた。

帝国ホテル前の駐車場から沢渡行きのバスに乗り、車を停めている駐車場に戻った。上高地から

トンネルに入る前に最後の焼岳を見た。一片の雲も架かっていない素晴らしい眺めであった。

一泊二日の短い旅行であったが本当に楽しい旅行であった。

 帰りは飛騨の高山に寄って帰った。高山へはほんのわずかな時間立ち寄っただけであった。高山

は改めてゆっくり来てみたい町である。いずれの日にか、その機会もあるだろう。

                                              2001年7月1日掲載


第1日目のコース

沢渡→大正池下車→梓川左岸→田代橋→穂高橋→上高地温泉ホテル(休憩)→カッパ橋→

梓川右岸コース→明神池→山のひだや→明神橋→徳沢

第2日目のコース

山のひだや→明神橋→梓川左岸コース→上高地ビジターセンター→カッパ橋→帝国ホテル前→

沢渡


上高地の植生

ともすれば見過ごしてしまいそうに目立たない小さな草花ですが、こうして写真にしてみると大変

可憐で美しいものです。

   

左は小さな青色の花が可憐なエゾムラサキ、右は毒草とも言われているハシリドコロ

   

左は黄色い小さな花が群れ咲いているミヤマキケマン、右は照りのある丸い葉が特徴のマイズルソウ

   

左は葉の形が蟹の甲羅に似ているカニソウ、右は葉の形がコウモリに似ているコウモリソウ

   

左は珍しく黄色のすみれオオバキスミレ、右は紫の色が鮮やかで良い香りがするラショウモンカズラ

   

遠目にはジャガイモの花のようにも見えるサンカヨウ、右は葉の真ん中に花が一輪シロバナエンレイソウ

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