ヴィレッジ

 この映画、つい最近近くのツタヤからレンタルしたものだ。ホラー映画かと思ったが、まじめな

映画だった。

 みなさんは深い森や林の中に入ったことがあるだろうか。あの富士山のすそ野に広がる青木

ヶ原樹海を想像して貰いたい。この樹海を見たことがなければ近くの山の中を想像してみて下

さい。外見的には美しい森であっても一人で中にいろと言われると、少し躊躇してしまうのでは

ないだろうか。私が子供だった頃、私の住んでいた家の近くには幾つもこんなところがあった。

カブトムシを捕りに行った山や友達と遊んだ山。冬の朝早く外が真っ暗な内から起き出して山

登りをしたお宮の裏山。学校のすぐ近くの近道と言われた山の麓。お宮の横に広がる藪の中。

数え上げればきりがないほど色んな場所があった。

 しかし、自然の中で本当に恐ろしいところがあるのだろうか。森の中を渡る風の音、落ち葉が

鳴る音、木々がこすれる音、それらはすべて自然が奏でる音だ。しかし、こんな音でさえ時には

恐ろしい音に感じたりする時がある。それは自分自身が作り出した想像がそうさせるからだ。

 この世の中で一番恐ろしいのは私達人間自身だ。自然までも自分の意のままに変えてしまい、

その上、今や環境までも激変させてしまった。そんな人間なのに私達の心から恐怖心はなくなる

ことはない。それは人間の想像というものが作り出す不思議な世界があるからだ。

 ここに「ヴィレッジ」という映画がある。周辺を森に囲まれた小さな村がある。ここの住人達は

周辺の森には魔物が住んでいると信じていて、決して森に入ったり森を抜けて町へ出て行こう

とはしない。外の世界と完全に接触を断って生きている人達だ。従って、夜は周辺にたいまつ

を灯し見張り番を立てて魔物が近づくのを監視している。

 魔物との間には幾つかの約束事があった。この約束さえきちんと守っていれば魔物も村に入

ってくることはなかった。一見平和そうに見える村の中だが小さな波風の立つ事はある。狂気

を帯びた男が好きな女を取られたと友人の男を傷つけてしまった。このままにしておくと命は

なかった。傷付いた男の恋人は盲目だったが、愛する男の命を救いたいという一心で魔物が

住むという森を抜け町まで薬を探しに行こうと決断する。しかし、娘を町に行かせることは村の

掟を破ることになる。娘の父親は恋人の命を救いたいという娘の一途な思いを押しとどめるこ

とは出来なかった。

 父親は村はずれの小屋へ娘を連れて行き、小屋の中にあるものをさわらせる。それは魔物

の形をしたものだった。そして、魔物など森の中にはいやしない、実はみんなを町に行かせない

ようにするための作り事だったのだと打ち明ける。しかし、にわかに魔物はいないのだと言われ

ても信じがたいことだった。子供の頃から恐怖心を植え付けられ、その中で成長してきたからだ。

 娘の恋人の命を救いたいという思いは強かった。こうして盲目の女性は盲目であるが故の恐

怖とひたすら闘いながら森をさまよい町へ向かう。静かな森にも音はある。盲目であるが故に

音には敏感だ。その度におびえ、音から逃げる。頼みになるのは川の流れる音だけだ。川の

流れに沿っていけば町へ行ける。その娘を追うものがいた。あの魔物だった。いないはずの魔

物が何故。その魔物の衣装を着ていたのは恋人を傷つけた狂気を帯びた男だった。その男を

自分が落ち込んだ穴に誘い込み落としてしまう。我と我が心の恐怖と闘いながら、ついに森と

町を隔てる境界線にたどり着く。そして、守備良く薬を手に入れるのだが。

 実はこの村、町から逃げてきた人達の集団が作った村だった。これらの人達は町の中で色

んな事件に巻き込まれ、家族を失い悲しい思いをしてきた人達だった。町との関係を断ち切り、

自分たちが理想とする安住の地を求め、人里離れた深い森に囲まれたこの場所に村を作った

のだ。それを知っているのは長老と呼ばれている一握りの人達だけだった。

 家族を守るためには町との関係を絶つ。そのためには、みんなの心の中に魔物という恐怖

心を作り町へ行かせない。何年もの間、守り続けられてきた秘密であった。人間に恐怖心とい

うものがなければ出来ないことであった。この映画、演出もさることながら原作が良かったので

はないだろうか。ミステリー映画に最適の原作だったように思われる。人間の持つ恐怖心は様

々なものを作り出す。折しも今は夏。魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する季節だ。

あなたも「ヴィレッジ」をみて、夏の恐怖を味わってみては如何だろうか。

                                        2005年8月5日掲載

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