チョンギース

 何だろうと思われるかも知れない。これはキリギリスの事である。私達が子供の頃、キリギリスをチョンギースと

呼んでいた。理由は明らかに鳴き声から来ていた。鳴き声とは言っても昆虫であるから声を出すことはない。

背中の羽根をこすり合わせて出す音である。チョンギースの雄だけが音を出す。

 雌は音の出る羽根は持たない。その代わり、尾の先に剣のような産卵管が付いている。コオロギも鈴虫も同じ

である。キリギリスの雄は音を出して何をしているのだろう。雌を呼んでいるのだろうか。それとも自分の縄張りを

主張しているのだろうか。

 今は、たくさんいても子供達は見向きもしない。もっぱら養殖で繁殖させたカブトムシやクワガタムシの方に

目が向いている。そんなわけで、我が家の周辺にもたくさんいる。

 私は子供の頃、チョンギースを虫かごに入れて飼っていた。ナスビかキュウリかスイカの切れ端さえ入れて

おけば夏休みの間くらいは生きていた。虫かごの中で「チョンギース」と鳴いていた。

 アリとキリギリスのお話がある。アリは働き者で夏の暑い盛りでも一生懸命餌を運び、キリギリスは一夏中、

楽器を奏でて遊んでいるというお話である。冬になって食べ物がなくなった頃、遊んでいたキリギリスは食べ物

もなく、あてどなくさまようと言うものである。つまりアリは働き者で、キリギリスは怠け者の代表のようにされて

いる。本当にそうなんだろうか。

 キリギリスの名誉のためにも弁解しておくが、キリギリスは怠け者でも何でもない。アリと生活スタイルがまるで

異なるのである。キリギリスは一夏しか生きられない。従って冬の蓄えなど必要ないのである。次の夏の子孫を

残せば、それで一生は終わりなのである。

 キリギリスは雄と雌を一緒に飼っていると雌が雄を食べてしまう。これは雌が凶暴なのではない。雌は次世代を

残すために大仕事が残っている。大仕事のためには栄養が必要だから手近な雄を食べてしまうのである。雄は

雌に自分の精子を渡したら自らの体も差し出すのである。そう言えばカマキリも同じような事をするらしい。これは

尊い犠牲なのだ。自然界のたゆまざる営みと言う他はない。

 私は何度かそんな現場を目撃している。初めは雌だけになった籠を見て不思議に思っていた。その後、図鑑か

何かでこの事実を知り納得したのであった。雄の鳴き声のしなくなった虫かごは寂しい。従って、雌はそっと虫籠

から放してやった。

 炎天下、今日も山の畑の草を抜いていると何匹かのキリギリスを見かけ懐かしく思ったものである。

                                                   2003年9月6日掲載           

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