鳥インフルエンザ

 昨年はSARSが中国を中心に大流行をした。新手のウイルス病として、発生源の特定が出来ないまま終息

してしまった。今年も流行の兆しはあったようだが、中国当局の徹底的な対策もあって、幸い今のところ昨年の

ような大流行の懸念はないようである。

 昨年の秋から冬にかけては鯉の病気である鯉ヘルペス病が、東南アジアから日本にも飛び火して大流行を

した。私の住んでいる岡山県では昨年の夏ぐらいから既にその兆候はあったようである。倉敷市内の用水路

で鯉だけが死んでいるとの報道があった。しかし、その頃は何が原因かハッキリしなかった。霞ヶ浦等で養殖

の鯉が大量死するという報道があって、あの時、鯉だけが死んでいたのは、鯉ヘルペスウイルスによるもの

だったのだと合点がいった。食用の鯉だけでなく観賞用の鯉にまで被害が及び、一匹何万円といった高価な

鯉を大量に処分しなくてはならなくなり、養殖業者にとっては大きな痛手となった。私の家内の親戚も大量の

鑑賞鯉を処分したようだ。おばさんが泣いていた。実に気の毒な話である。

 今年は鳥インフルエンザがアジア各国で多発している。それぞれの接点がどこにあるのかハッキリしないが、

お隣の韓国では早くから深刻な被害が出ていた。日本も対岸の火事だとばかり思っていたら、思わぬところへ

飛び火をしてしまった。今のところ山口県の一養鶏場(この記事を書いているときはそうだった。)だけのよう

であるが、安心は出来ない。日本での発生が、どのルートからのものなのか特定出来ないからだ。この記事

を書いている間にも、ベトナムでは人への感染や隣国の中国ではアヒルの感染が確認された。どうやらアジア

全域に拡大してしまったようだ。

 山口県や大分県で発見された鳥インフルエンザはかつて中国復帰前の香港を震え上がらせたウイルスと

同じ「H5N1型」と言われているウイルスであり、香港で大流行したときには6名の命が奪われた。これ以上、

人への感染を恐れた香港保健局は150万羽もの鶏を殺し、拡大感染を水際で防いだ。鳥インフルエンザ

とは言え、鳥から人、人から鳥へと感染を繰り返す内に、毒性を強めていくことが懸念されるのである。

 インフルエンザは、人間にも昔から深刻な被害を及ぼしてきた。そしてインフルエンザウイルスは鳥や家畜

(特に豚)、人間という種を超えた感染を繰り返す内に、次々と姿を変え、色んなタイプのものが生まれている。

かつて、スペイン風邪と言われて猛威をふるったウイルスは、中国南部で発生し、たちまちの内に全世界に

広まったインフルエンザウイルスである。その他、毎年のように繰り返し流行しているA香港型と言われる

インフルエンザも未だ流行を繰り返しているのである。

 ウイルスという細菌より小さい生物は、インフルエンザだけでなく免疫不全症候群と言われるHIV(エイズ)の

病原体でもある。HIVも、またサルに固有の病気であったものが、突然変異で人間に感染するようになったと

言われている。日本でも若者の間に感染者が増えている。アフリカでは一国が滅びてしまうのではないかと

言った深刻な事態になっている。今のところ治療薬はあっても完成された予防薬はない。その治療薬さえも

高くて買えない人もたくさんいる。

 ウイルスは実にやっかいな病原体である。と同時に、感染源が特定出来ないところに対策の難しさがある。

ウイルスは生き物の中でしか増殖しない。そして、ウイルスは生き物の体の中へ入ると、生き物の細胞の中で

自らの遺伝情報を変えてしまう。そのために、感染を繰り返す内に突然変異がたくさん出来る事になる。細菌

が新しい特効薬に対し次々と耐性が出来て、強い菌になっていくのとはプロセスが異なるのである。

 C型肝炎ウイルスもやっかいなウイルス病である。多くは輸血や血液製剤から感染すると言われている。HIV

もそうであるが、ウイルスに汚染された血液かどうかを判定する事はなかなか難しいようだ。また、血液は人工

では作れない。従って、どうしても採血に頼らざるを得ないのである。HIV感染者(エイズ)である事が分からない

ままに使ってしまい、その後で感染者である事が判明したというニュースが先頃報道されたばかりである。

 かつてこんなに次々とウイルス病が蔓延した時代があっただろうか。近年になって急にウイルスによる病気が

多発しだしたのは何故だろう。人の行き来が従来になく激しくなった事も原因の一つだろう。また、養鶏のように

同一品種の鶏を同じ環境で大量に飼育するという方法にも爆発的な感染の一因はあるだろう。しかし、それとは

異なる原因があるような気がしてならない。

 動物の病気では牛が感染する口蹄疫、鯉ヘルペス病、鳥インフルエンザ、鶏、猫、牛の白血病、そして人が

感染するインフルエンザ、SARS、HIV(エイズ)、風疹(おたふく風邪)、ヘルペス、C型肝炎、また、アメリカ映画

にもなったエボラウイルスによる感染症など、これらウイルスによる病気は、どれ一つとして決定的な予防策を

持たないまま、益々猛威をふるっている。

 ただ、人間は無為に日を過ごしていたわけではなく、小児麻痺の原因であるポリオウイルスに対しては不活性化

ポリオワクチンを開発し、天然痘はジェンナーが始めた種痘によってこの地球上から姿を消した。

 さて、その後の報道では、北欧のノルウエーでも鳥インフルエンザのウイルスを検出したとのことで、ヨーロッパ

地域への拡大も懸念されている。アメリカでは鳥インフルエンザ「H5N2型」という新種が確認されたと報道され

ている。また、バングラデシュではニパウイルスという聞き慣れないウイルスによる感染症による死者が出たと

報じられている。このウイルスは、コウモリから豚に感染し、豚から更に人間に感染したのではないかと言われ、

インフルエンザと良く似た感染経路である。

                                                   2004年2月8日掲載

                                                   2004年2月16日追記

                                                   3004年2月25日追記 


爆発的な広がりを見せ始めた鳥インフルエンザ

 一時は終息したかに見えた鳥インフルエンザだったが、ここに来て急速に拡大を見せ始めた。山口、宮崎に

ついで、京都府や香川県でも感染が確認されている。特に悪質なのは京都府の養鶏業者だ。大量死したことを

知りながら、残った鶏を売り払い、その一部が食肉として既に市場に出回っていることだ。政府は混乱を避ける

ために、食べて感染した事例はないと言っているが、事例がないと言うだけで、その保証は何もない。

 また、食肉加工業者は直接鶏に触れるわけで、この人達に感染しないと言い切れるのか。下にも書いている

ように、ウイルスは今も変化し続けていることを考えれば、いつ人にも感染するような型に変化するか分からない。

 お隣の中国ではエイズの拡大が懸念されている。それも農村部で拡大しているという記事が出ていた。社会

主義の国とは言いながら開放経済の中国では都市部と農村部の所得格差が急速に拡大している。そのため

農村部では、農業収入だけでは足らないので、親達は自分の血を売って生活費の足しにしている。しかし、

採血の際、使われる注射針からと思われるが、エイズウイルスが売血者に感染し、拡大していると言うのだ。

 いずれにせよ、ウイルスは動植物の進化と密接に関わってきた。それだけに私達の生活スタイルの変化にも

目を向けていかなければならないのではないだろうか。特に、京都府の食肉業者の場合などは、人間の考え方

そのものを問い直さなければ解決しない問題である。また、中国のエイズの感染拡大も社会制度そのものに

原因があることを考えれば、ウイルス達が私達に警鐘を鳴らしているようにも思えてくるのである。

 今後も鳥インフルエンザの感染拡大は続くかも知れませんが、関連記事はここで打ちきりと致します。

                                                  2004年3月2日掲載


 ここに一冊の本がある。「驚異のウイルス」と題された、この本の執筆者は、長くウイルス学に携わって

来られた「根路銘国昭」先生だ。この本の中に大変興味ある事が書いてあったので、紹介しておきたい。

その1

 エイズウイルスの項に、こんな一文があった。

「エイズウイルスは、輸血型、売春婦型、麻薬型に分かれて進化していったことが突きとめられたが、それらの

すべてがアフリカに起源をもっている。エイズウイルスは人の文化を知りつくし、それに沿って自分の生活

スタイル、進化のパターンを決めているのではないだろうか」

 そもそもエイズウイルスはアフリカに住むサル特有のウイルス病だったようである。長くサルの中だけに生き

続けてきたウイルスが、密林が破壊され人への感染が始まったと言われている。いわば人の手による開発が

ウイルスを長い眠りを目覚めさせたと言えるのではないだろうか。

その2 

 エイズウイルス等に代表されるレトロウイルスによって、本来、RNAしか持たないと言われてきたウイルス

が逆転写酵素を持っており、この酵素の働きによってDNAをも作ることが解明された。

 また、レトロウイルスは海から陸に上がってきた生き物たちの進化の後や、日本原人の旅物語も説いて

くれる。先生は、その事をこう表現されている。

「恐るべきウイルスの世界。いかなる理由で、いかなる戦略を企てて、その後の生物進化に役立ってきたので

あろうか。推理の根拠は、ウイルスの有する遺伝子連合、突然変異、あるいは遺伝子の同化という戦略で、

この戦略で肩を寄せ合って成長し、次なる生命の土台となった単細胞生物への出現に役割を演じていたとも

考えられる。多分、そうした頃、およそ三十八億年前、その次にどうしても遺伝子を安定で強固なDNAワールド

へと進化させる必要があった。これを実現させたのは、もしかすると、この地球上で唯一RNAをDNAに変える

酵素を保有するエイズの仲間のレトロウイルスファミリーの存在ではなかっただろうか。まさに生命誕生の

指揮者のように振る舞ってきたと、その舞台裏を語っているようである」

 先生の解説によるとRNAは非常に壊れやすく、そのため同一種を固定させるにはDNAという壊れにくいもの

を作る必要があった。それを可能にしたのは皮肉にも今一番恐れられているエイズウイルス達の仲間である

レトロウイルスであった。

 また、ウイルスは壊れやすいRNAを持っているが故に動植物の中に入り様々に姿を変えることが出来るのだ。

その3

 ウイルスの構造は中国の城郭都市の構造に似ていると言われている。根路銘さんは、こう語っている。

「城の中の蔵書の保管場所(ウイルス遺伝子の収納場所)には木簡や紙の上に記された史実、教育、政治、

芸術、仏教といったその国の過去から未来に至る情報が蓄積され、それが何度も書き写されて(遺伝子の

転写)中国の広大な地域に広まったことだろう。多分遺伝子の支配は、われわれの行動を、脳細胞の複雑

な編集能力を通して、文化へ文明へと進化させ、そしてついには都市構造のデザインまで可能にしたのだろう。

人類が作りだした都市構造はウイルスの戦略と似ているのである。」

 つまりウイルスの遺伝情報システムや構造は、進化の頂点にある人間にウイルス時代の遠い記憶を再現

させているのではないかと言うのである。実に面白い発想であり、もしやと思わせるに十分なものがある。

その4

 そして、この本の締めくくりにはこう書いておられる。

「生命系の現象を説明するのに、仏教の思想は最もふさわしい」

「生物の進化はダーウインの唱える適者生存、つまり利己的な生き方を原則とするというが、未来の進化は

適するものとそうでないもの、強い者と弱い者が協調していくという姿勢にこそ希望がある。ウイルスで見て

きた遺伝子戦略は、まさにこれを実践し、今日の生き物たちの繁栄を導いてきた。相互進化こそ未来への

道のりなのだ。揺れる人間の社会、理由なき若者たちの殺人、凶暴化する社会行動、今こそ、人類が自然と

向き合う図式、人間の枠組みを超えた自然への回帰を考えるべきではないだろうか。攻撃から共生へと

転じてみせるウイルスの自然はそれを語っている。」

 ある時は、生あるものすべてを抹殺するほどの猛威を見せ、ある時は生命の進化に手を貸し、密林の奥深く

息を潜めている様は、意志あるものが行動しているようにも見えてくる。いったい、ウイルスとはいかなるもの

なのだろうか。謎は深まるばかりである。

本の紹介

「驚異のウイルス」  人類への猛威と遺伝子が解く進化の謎

根路銘国昭著  羊土社(ひつじ科学ブックス)

                                                  2004年2月25日追記

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