天敵を失った人間達

 生物の生存や繁殖にとって大切なことは、餌となるべきものが存在することが第一条件だ。しかし、必要な

ことは、それだけなのだろうか。私は、その事に勝るとも劣らないものが自分より優位にあるもの、つまり天敵

という存在がないということではないかと考えている。

 庭を例にとって考えてみたい。庭にはたくさんの草が生えている。この草を抜いても必ずその次の草が生えて

くる。今まで生えていた草に邪魔をされ芽を出すことが出来なかった草達である。このように邪魔者がいなく

なると、その代わりのものが、わが世の春とばかりに顔を出す。

 森の中でも同じ事が繰り返されている。大木が枯れて倒れると大きな空間が出来る。大木の下には、小さな

木や木の種がその時が来るのをじっと待っている。太陽の光が差し込む空間が出来ると、大木の跡を埋める

ように幼い木は成長を始め、種は芽を出し始める。このように、天敵ではなくても自分が生きていくことを妨げる

ものがなくなれば生き物は爆発的に繁殖や成長を始めるのである。

 岡山県の鷲羽山は数年前、山火事で焼けてしまった。その時、植林をしなければ緑の回復は無理では

ないかと思われていた。ところが焼け跡には数年を待たずしてたくさんの松が生えてきた。今まで下草などに

邪魔をされて発芽しなかった松の種が一斉に芽吹いたのである。今、風化花崗岩の不毛とも思えるような

大地は見事な緑に覆われている。

 植物だけでなく、微生物と言われている多くの生き物たちは自らの環境を替えながら進化を遂げてきたと

言われている。酸素がほとんどなかった原始の地球に酸素を作りだし、今日の地球環境を作ってきたのは

ストロマトライトという原始的な生き物達であった。また、噴火によって生き物が死に絶えてしまった火山台地

にも苔が付着し、やがてその苔が作り変えた環境を拠り所として他の植物が根を下ろす。こんな事が絶え間

なくこの地球上では繰り返されてきた。

 この地球上では何度も生命が絶滅するほどの大きな出来事が生じている。すべての原因が解明されている

わけではないが、巨大隕石や小惑星の衝突も原因の一つだろう。そんな中でもかろうじて生き残った生物は、

その後爆発的な繁殖をしている。それらは事件後のおびただしい化石を見ても分かることである。天敵が

いなくなれば生物はその空白を埋めるように異常繁殖をするようである。その最たるものが人類の異常繁殖

ではないだろうか。原始的な微生物は別として、ある種の生物だけがこんなに繁殖した例は過去にない。

今や地球資源を使い尽くすほどに異常繁殖をしてしまった。

 ちなみに、生物にとっての餌は地表や海の浅いところにあるものだけではない。人や動植物にとって非常に

毒性が強い硫化水素でさえも餌にしているものがいる。また、酸素を必要とせず、太陽系の生き物であり

ながら太陽の光をまったく必要としないものもいる。それらは、より天敵の少ない深海底の熱水鉱床のような

ところで生きている。生命の多様性とたくましさを感じずにはいられない。

 従って、繰り返し言うが生物にとって大切なのは餌だけではなく、自分の繁殖を妨げるものがいないという

ことが繁殖の必須条件のようである。しかし、自然界ではけっして一つの種だけが生き残ることを許していない。

必ず繁殖を妨げるものがいる。極端な例では、特定の植物しか食べないという昆虫もいるのである。

 今日、人間一人だけが天敵がいないほどに異常繁殖をしてきた。しかし、人間にも恐ろしい天敵は少なく

ない。その最たるものはウイルスだろう。エイズやインフルエンザウイルスなど、今も克服することの出来ない

ウイルス病はたくさん残っている。

 そして、天敵と言うにはふさわしくないかも知れないが、その最大なるものは自然そのものではないだろうか。

今日、地球環境を変えるほどに異常繁殖をした人間は、自ら大きな負の財産を背負うことになってしまった。

自分達が作りだした地球環境の変化によって厳しいしっぺ返しを受けようとしている。現に、ここ数年の異常

気象はその現れではないのだろうか。アジア一帯で生じている豪雨による大水害、関東周辺の観測史上例を

見ない酷暑等の自然現象だ。昨年、一昨年とヨーロッパ各国でも似たような異常気象現象が起きている。

このまま推移すれば100年後には平均気温が5℃上昇するとも言われている。そうなれば南極や北極の氷が

一挙に溶けだし想像を絶するような大異変が生ずるとも言われている。それは最早、遠い将来のことではなく

なった。

 天敵を失った人間達の奢りは、手強い相手を敵に回すことになってしまったようだ。どうする人類。

                                                  2004年8月21日掲載

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