たそがれ清兵衛

 人情ものの小説は作家「藤沢周平」氏がもっとも得意とするところです。また、人情ものの時代劇は私の

好きなジャンルの小説でもあります。藤沢氏の小説も読みましたし、亡くなられた山本周五郎氏の小説にも

一時期、熱中しました。

 今日、紹介する映画「たそがれ清兵衛」は劇場で公開された時、所用が多くて見に行くことが出来ません

でした。先日、レンタルビデオショップに立ち寄りましたら、このビデオテープがありました。早速、借りて

来ました。以前から、コマーシャルや新作映画の紹介番組等で、何度か断片的な場面を見ていましたので、

どんなドラマが展開されるのか、大変楽しみでした。

 また、この映画は、あの「フーテンの寅さん」で有名な山田洋次監督が、メガホンをとった初めての時代劇

だと言うことでも話題性がありました。主演男優は真田広幸、主演女優は宮沢りえさんでした。

 簡単にストーリーを紹介します。たそがれ清兵衛こと井口清兵衛は、ごくまじめな下級武士でした。時は幕末、

舞台となったのは庄内地方の小藩・海坂藩です。清兵衛は妻に先立たれ、二人の幼い娘と耄碌しかけた

老母の世話をしていました。そして、禄高は少なく貧乏暮らしのため、勤めが終わるとすぐに帰宅し内職に

励むのが毎日の暮らしでした。そんな家事と内職に明け暮れる生活に疲れた清兵衛を仲間はあざ笑い、

からかい半分に付けたあだ名が「たそがれ清兵衛」でした。

 ある日、清兵衛は、幼馴染の飯沼倫之丞に久しぶりに再会し、彼の妹、朋江(宮沢りえ)が嫁ぎ先から

離縁して帰っていることを聞きます。清兵衛は幼少の頃から彼女にほのかな思いを寄せていました。しかし、

身分も違う事から叶うことのない夢とあきらめていました。

 そんな清兵衛にある事件が持ち上がります。それは他でもない朋江の分かれた夫の逆恨みによる果たし

合いでした。その果たし合いで清兵衛は相手を一撃の下に下してしまいます。そんな彼の剣の腕が藩内の

うわさになります。その頃、藩内では藩主が亡くなり、お家騒動が起きます。そして、実権を握った家老から

清兵衛に反対派粛清のための上意討ちの役目が下されます。

 必死の辞退にもかかわらず、「藩主の命であるぞ!」と無理矢理引き受けさせられてしまいます。仕方なく

決意を固めた清兵衛は、朋江や家族への想いを胸に身支度にかかります。しかし、身支度をするにも女手は

なく、仕方なく清兵衛は朋江に来てくれるように使いを出します。清兵衛からの頼みとあって、急ぎ朋江は

駆け付けて来ます。朋江はかいがいしく、戦に出かける夫を送り出す妻のように清兵衛の衣服や髪を整えます。

 そんな朋江に家を出る時、清兵衛は押さえていた自分の思いを打ち明けます。しかし、時すでに遅く朋江

には再婚の相手が決まっていたのです。清兵衛は寂しさを振り切るように闘いの場に向かいます。

 刺客として乗り込んだ家の中は暗く、やつれた姿の男が部屋の片隅に座っていました。立場こそ異なるとは

言え、藩のために自分と同じような運命に弄ばれた男の悲しい末路を見たのです。

 ぽつりぽつりと話す男の身の上話を聞きながら、敵対することのない長い長い空白の時間が過ぎていきます。

しかし、結局は剣を抜き合うことになり、死闘のあげく清兵衛が相手を倒します。

 清兵衛自らも傷つき、重い体を引きずるようにして我が家に帰り着きます。そこには居るはずのない朋江が

待っていてくれました。こうして、この後、二人は結ばれるのです。

 しかし、時代は幕末から明治へ、小藩のお家騒動など押し流してしまうような時代でした。朋江との幸せな

日々も長くは続かず、清兵衛も官軍との戦の中で流れ弾に当たって死んでしまいます。清兵衛が上意討ちを

果たして二年後の事でした。わずかな二年間でしたが、清兵衛にとっては朋江との束の間の幸せな日々でした。

 暗くやるせない思いのする映画でした。しかし、最後まで見ずにはおれない映画でもありました。それだけ

見る人を引きつける何かがあるからではないでしょうか。それは何でしょうか。人間愛とも言うべきものでしょうか。

山田洋二監督にとっては時代劇もフーテンの寅さんのような現代劇も変わらないのではないでしょうか。ごく

普通に生きる人達の生き様のようなものは時代を越えて変わらないと思うからです。そんな監督自身の人間愛

のようなものが描かれた映画だと感じました。

 それにしても、清兵衛が家を出る時に朋江に対する愛を打ち明ける場面には、ほろりとさせられるものがあり

ました。お互いに思いは山ほどありながら素直には話せない二人、その二人の思いが画面を通じて痛いほど

伝わってきます。きまじめな貧乏武士を演じた真田広幸、清兵衛に寄せる思いを昔の女性らしく慎ましやかに

演じて見せた宮沢りえ、そして手堅い脇役や子役等、すべての出演者の素晴らしい演技が、この映画を完成度

の高いものに仕上げていたような気がします。久々に清々しい日本映画らしい映画を見た思いがしています。

                                                   2003年8月6日掲載

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