植物三題

ハイビスカス

 一本の鉢植えのハイビスカスがある。このハイビスカスが我が家にどのような経過で入って

きたのは、まったく記憶がない。最近では品種改良されたハイビスカスが多い中で、我が家の

ハイビスカスは原種に近いオーソドックスな形と赤い色をしている。

 何度も冬になると枯れかけて翌年にはけなげにも芽を吹いてきた。一度は冬の寒さによって

根が枯れてしまった事があった。春になって鉢を動かすと、妙にぐさぐさしているので引っ張って

みると簡単に抜けてしまった。鉢の中に充満しているはずの根がまったく付いていなかった。完

全に枯れて腐っていたのだった。そんな状態であったにも関わらず、夏になると見事に赤い花

をたくさん咲かせた。

 昨年、私達はピースボートに乗っていて十二月、一月と冬の間家にいなかった。本来なら温室

に入れて加温している時期だったが、それをしていなかった。帰ってみると幹はひび割れ、葉は

木に付いたまま小さく縮んで枯れていた。見た目には完全に枯れた状態だった。もうダメなら抜

いて捨てるしかないと思い幹にナイフを入れてみると緑の幹が現れた。木は死んでいなかった

のだ。

 春も過ぎ初夏がやってきた。そんなある日、偶然にも緑の小さな芽を目にしたのだった。そし

て6月に入った今、芽の数はどんどん増えて、ほぼ全体に小さな芽吹きが見られるようになった。

枯れずに生きていたのだった。

 今は植物のたくましさを感じている。さあ、これから花は咲くのだろうか。どうかこの夏を深紅

の花で飾って欲しいものである。ハイビスカスがんばれ。

黒い粒のトウモロコシ

 今、温室の中のビニールポットの中で一斉に芽吹いているトウモロコシがある。このトウモロ

コシは先の地球一周の船旅で知り合いになった人から送って貰ったものである。私自身は種を

貰う約束をしたことなどすっかり忘れていた。その人は律儀にも私との約束を覚えていて、種蒔

きシーズンが近づいた五月のある日、手紙を添えて送ってくれたのである。

 封筒の中には小さな黒いトウモロコシ一本と種蒔きの時期を手短に書いた手紙が入っていた。

手紙に書いてあったように6月に入り早速蒔いてみた。このトウモロコシ野生に近いのか、どの

種も見事に芽を出した。なかなかたくましい品種のようだ。手紙にはもちもちとした食感が良い

と書かれていた。大変楽しみである。

 そもそもトウモロコシなる植物はジャガイモと同じように中南米が原産地のようだ。かつてイン

カ人達が太陽神への捧げものとして酒の醸造に使っていたようだ。マチュピチユのインカ遺跡に

は天空に届くかのような高地に段々畑を作り、そこで栽培をしていたと言うから歴史は古い。

 今、植物の品種改良が盛んに行われている。その改良に欠かせないのが原種に近い植物だ

と言われている。アメリカの大手種苗会社などは血眼になって原種の種を探している。野生の

強い遺伝子を注入することによって病害虫に強い品種を作ろうとしているようだ。

 その原種の多くは中南米にあると言われている。中南米はトウモロコシだけでなくトマトやジャ

ガイモやピーマンなど多くの植物の古里である。

駿河蘭

 夏になると何とも言えぬ高貴な香りを漂わせる蘭がある。それが我が家にある駿河蘭だ。こ

れら東洋蘭と言われている蘭の仲間には、春先に特徴的な香りを漂わせる春蘭がある。駿河

蘭も東洋欄の一種だと言われている。

 私がこの蘭と出会ったのは大阪の阪急百貨店の一角にあった花屋さんだった。その頃、労働

組合の中央執行委員をしていて月に二回ぐらい上阪していた。昼食が終わるとビルの中に居

てもつまらないので散歩を兼ねて梅田界隈を歩き回っていた。その時、得も言われぬ良い香り

に出会ったのだ。その香りは百貨店の一角にあった花屋さんからのものだった。花屋さんは切

り花だけでなく鉢植えの花も売っていた。その中の一つが駿河蘭という名札の付いたこの花だ

った。香りの主は駿河蘭だったのだ。昨今のシンビジュームのような派手さはない地味な花だ

った。しかし、香りだけは強くどの花にも負けない良い香りだった。

 けっこう、良い値段だったが花の誘惑には勝てなかった。何度か思い悩んだ挙げ句ついに買

ってしまった。ここで買わなければ再び出会うことはないと思われたからだった。

 こうして二十数年、今も我が家で毎年花を咲かせている。実は駿河蘭はもう一鉢ある。これは

空き家となり取り壊されるのを待っていた私達が住んでいた社宅の庭にあった。誰が放置した

まま出ていったのだろうか。持ち主の分からない鉢植えが幾鉢か転がっていた。その中の一つ

が駿河蘭だった。この時には葉先が枯れ花も咲いていなかったから駿河蘭かどうかははっきり

しなかった。しかし、何となく駿河蘭だという確信めいたものがあった。持ち帰り植え替えをして

翌年、病気と思われた葉もきれいになり見事な花を咲かせた。やはり駿河蘭だったのだ。

 こうして我が家には二鉢の駿河蘭がある。今年の冬は殊の外寒さが厳しかった。少し弱った

かに見えた駿河蘭だったが一鉢からは良い香りが漂っている。この蘭はどうかすると一年に二

度花を咲かせることがある。昨年は二度花を咲かせた。花の存在を目で確認できなくとも香り

で花開いたことを教えてくれる。そんな駿河蘭を心から愛している。

                                     2005年6月19日掲載

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