生命の多様性とたくましさ

 先日、NHKの「地球・ふしぎ大自然」という番組で、「海面を花が走る・西表島 海の神秘」と題するテレビ放送

がありました。沖縄の西表島周辺の海岸に繁茂している不思議な藻の生態について取材したものでした。ご覧

になられた方も多いのではないでしょうか。

 番組の解説によりますと、この植物は1億年かけて陸から海へと住みかを変えたウミショウブというものだそう

です。西表島の海岸の浅瀬一面に繁茂しているそうです。不思議なのは、この花の開花なのです。独創的とも

言えるのは、夏の大潮、しかも昼の干潮時に一斉に開花することです。そして、何千万という雄花は、それぞれ

が切り離されて水面に飛び出します。すると花びらが反り返って水の上に立ち上がります。小さなダルマのよう

にも見えるその形は、水に浮かんだ妖精のように可憐な姿なのです。そして、海を渡る風に乗って海上を走り

ます。そして、潮が引いて海面に顔を出した雌花のところに次々と漂着するのです。受精の時間は潮が引いて

いるわずかな時間です。この植物は、何故、夏の大潮の時期を知っているのでしょうか。考えれば実に不思議

な事です。自然の持つ偉大なる力としか言いようのない不思議な営みなのです。

 南極大陸と言えば厳寒の不毛の大地です。そんな不毛の大地のすぐ側の海の中には多様な生き物たちが

悠久変わらぬ営みを続けているのです。コモンウエルス湾という海の中のことです。こんな極限に近い厳しい

環境の中でどのようにして生きてきたのでしょうか。昆布のような巨大な海草が繁殖し、ここを住みかに多くの

動植物が繁殖しています。クリオネやたくさんの魚もいます。限られた環境の中ではあっても、きちんと食物

連鎖が出来ているのではないかと思われます。微生物がいてそれを餌にするプランクトンがいる。そして

プランクトンや海草を餌にする軟体動物や魚がいる。限られた環境の中ですが、きちんとした食物連鎖が

出来ているのではないかと思われます。

 深海の奥深く海底火山の噴きだし口にも生き物たちはいます。貝や軟体動物、エビなどの甲殻類です。

彼らは海底火山から吹き出してくる各種のミネラルを栄養にして生きています。恐らく彼らよりもっと小さな

生物が海底火山からのミネラルを餌にして繁殖しているに違いありません。

 研究者達が防毒マスクを付けたものものしい姿で洞窟の中に入っていきます。その先には毒ガスである

硫化水素が吹き出しているのです。ところが、こんな劣悪な環境とも思えるような場所に微生物が繁殖して

いるのです。しかも、彼らは猛毒であるはずの硫化水素を餌にして繁殖しているのです。おびただしい数の

微生物たちはコロニー(かたまり)を幾つも作って岩壁から垂れ下がっているのです。

 この洞窟は、どうやら火山活動と関係のある洞窟のようでしたが、防毒マスクなしには入れないような洞窟で、

硫化水素やしみ出てくる硫黄分の多い物質を餌にして生きているバクテリアがいるのです。生命のたくましさに

驚嘆する他はありません。

 私達を始めとする生き物の最下層には、莫大な種類と数の微生物がいると聞いています。これらは顕微鏡を

通してしか目にすることは出来ませんが、その量は地球上に住む全動植物の質量以上だとも言われています。

 彼らは私達がこの地球上に誕生するずっと以前から、この地球上に住んでいたのです。そして、ガイア説に

よれば、彼らこそ、この地球上の主人公であり、彼ら自身の力で、この地球を住みやすい環境に作り替えてきた

のだとも言われています。

 今、ウイルスが各種の病気を引き起こして注目を集めていますが、彼らも又、生物の進化には欠かせない役割

を演じてきたと言われています。人間が生物の頂点などと威張っていますが、私達が誕生する遙か昔から、これら

目に見えない小さな生き物たちは、自らが住みやすいように地球環境を変え、命を繋いできました。

 そして、生き物の最小単位だと言われているウイルスは、今も生物の進化の鍵を握っているのです。生かすも

殺すもウイルスの胸三寸とも言える状態は今も続いているのです。36億年とも言われている生命の営みを見て

いますと、目先のことばかりにとらわれて生きている私達人間の姿が小さく見えてきます。そして、小さな生き物

たちがまるで巨人のように大きく見えてくるのです。

                                                  2004年3月8日掲載


 3月10日、NHKのBSハイビジョンで中米沖の海底火山周辺を取材した放送がありました。すでに日本の

深海探査艇での発見として、何度か紹介されたことのある各種生物が出てきました。ここで、上記記事を補足

する意味で追記しておきます。

 海底火山が作り出すブラックスモーカーと呼ばれるものからは、大量の熱水が噴き出しています。この中には、

金属イオン等とともに、大量の硫化水素が出ています。この硫化水素を栄養源として、太陽に依存することなく

生きているおびただしい生物集団があります。

 それは、チューブワームという奇妙な生物を初めとして、ポンペイワームやシロウリガイ、ケヤリムシ、ヨコエビ

深海コシオレエビ、ユノナハガニ、また、シロウリガイなどを餌にするゲンゲといった魚などです。チューブワーム

は、取り込んだ二酸化炭素や酸素、硫化水素と言ったものを共生する化学合成細菌に供給し、その見返りとして

化学合成細菌が作り出す有機物を栄養源として生きています。

 また、数百度という高温の熱水の近くでも生きていけるように特殊なタンパク質を持った生き物もいるようです。

このように長く、生物はいないものと思われてきた深海で、しかも熱水や硫化水素といった猛毒の物質が噴き

出す海底火山に実に多様な生き物の世界が作られていることに驚きを感じます。

 とともに生物のたくましさをも感じます。また、40億年以前に海の中から原始的な生物が誕生したということも

あながち嘘ではないと言うことも理解できるのです。


このページでは、生命の多様性とたくましさについて書いてきました。先日、新聞を読んでいましたら南極大陸

のスカルブスネスの淡水湖「なまず池」への潜水記事が載っていました。水温摂氏3度という低温にも関わらず、

湖底にはびっしりととさか状の苔と藻の複合体が群生していたといいます。冬は表面が2メートルくらい凍るそう

ですが、それより下は水温が一定で、湖面の氷からは光も射し込むそうです。南極大陸近くのコモンウエルス湾

の各種の生き物についてもそうですが、生命のたくましさに改めて驚かざるを得ません。

 また、南極海には地球温暖化を抑える機能があるとされています。低温の海水が炭酸ガスを大量に取り込み、

大発生する植物プランクトンが大量の炭酸ガスを吸収するからです。また、大気中に放出された硫化ジメチル

が雲粒の核となって出来た雲が日差しを遮って温暖化を抑えていると言われています。こんな働きを海の小さな

生き物たちがしていることに驚かされます。

                                                2004年3月22日追記


 またまた、センセーショナルな記事が載っていました。「35億年前の食事跡」というタイトルです。発見した

のはノルウエーのベルゲン大学等のチームです。南アフリカで見つけた岩の中に微生物が食べながら掘り

進んだと思われる痕跡が残っていたというのです。痕跡は、今も海底地殻の岩石にすむ微生物が作った

ものと似ているのだそうです。

 地球では40億年ほど前に大陸地殻ができ、38億年ほど前に海が出来たと見られています。火山活動が

活発で、その頃、流れ出した溶岩の隙間に海水が入り込み、ここに微生物が住み着いたのではないかと

考えられています。35億年前と言えば地球上に生命が誕生したのではないかと考えられている遙か昔の

事です。地球誕生からあまり時間のたっていない頃の生命の痕跡、命のたくましさを感じる記事です。

                                                 2004年4月29日追記

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