ALWAYS三丁目の夕日

 集団就職、上野駅、蒸気機関車、小さな自動車修理工場、売れない小説家、親に捨てられ

た子供、親の借金に身を落としていく女、家族を戦争で失った町医者、たばこ屋のおばさん、

三種の神器と言われた電気冷蔵庫、電気洗濯機、テレビジョン、駄菓子屋、レスリング、一杯

飲み屋、ちんちん電車、下町の風景、そんな下町でくったくなく遊び回っている子供達。それら

を見下ろすように日に日に高くなっていく東京タワー、そして、そんな下町をいつも赤々と照らし

て沈んでいく夕日。これが「ALWAYS三丁目の夕日」の全てです。時代は昭和二十年代から昭

和三十年代。それは私たち世代が子供だった頃でもあります。

 私は昭和十九年生まれです。終戦は昭和二十年年八月十五日でしたから、その前年の生ま

れと言うことになります。戦争が終わっても十数年間は戦争の後遺症が色濃く残る時代でした。

幸い私の父は太平洋戦争に徴兵されることなく生きていました。しかし、同級生の中にはお父

さんが亡くなられた人やシベリアに抑留された人もたくさんいました。抑留がどんな事かも知ら

ず、数年後に帰ってこられたと言う話を聞いて他人事ながら、ほっと胸をなで下ろしました。

 私のおじさん(父の弟)も顔を知らぬまま南方の戦地で亡くなりました。ニューギニアで見かけ

たという話を聞きましたが、それ以後の消息は不明です。昨年、思わぬ経緯からピースボート

に乗りニューギニアにも立ち寄ることになりました。長年の夢がかないラバウルの戦跡地を訪

ね、おじさん達ニューギニア一帯で亡くなった多くのみなさんの霊安かれと祈ってきました。そ

れにしても、こんな厳しい環境で食料もなく、マラリアなどの伝染病に冒されながら、どんな思い

で死んでいったのかと思うと思わず涙がこみ上げてきました。私の話を聞いた親切な女性は、

戻ってこない遺骨の代わりにと貝殻を拾ってきて下さいました。

 そんな暗い時代を経て戦後の復興期を迎えました。何も悩みがなかったと言ったら嘘になり

ます。みんな何らかの形で戦争の傷を抱えたまま日々の暮らしに追われていました。天皇が

戦争終結宣言をして五年後、私は小学校に入学しました。お弁当の時間にそっと教室を抜け

出す子もいました。貧しくてお弁当を持ってくることが出来なかった子供達です。成長期の子供

達にとって、どんなにひもじくてつらい事だったでしょう。ご飯の代わりにサツマイモやお餅を入

れてくる子もいました。みんなに見られたくないので両手で隠して食べていました。心ない友達

がからかっていました。しかし、何でもよいから持ってくることが出来ただけでも幸せだったかも

知れません。

 お父さんが戦死したという家もたくさんありました。どんな事情があったのか知りませんがお

母さんが生活のために芸者をしていて、みんなに蔑みの目で見られていた子もいました。また、

多少でも洋裁や和裁の出来るお母さんは人の洋服や着物を仕立てて子育てをしていました。

それぞれに生きていくことが精一杯の時代だったのです。

 そんな苦しい時代は明日への希望が持てる時代でもありました。戦争という抑圧された時代

を経て、一挙に開放された時代でした。何となく明るく溌剌とした時代でもありました。それだけ

戦争というものが人々の心に大きな暗い影を落としていたのです。

 私達はお金がないことや家庭にある様々な問題や周辺の人々の苦しみを何も知らずにくった

くなく成長していました。私も父が時々酒に酔いつぶれて家に帰ってこないことがあったことを

除けば幸せに大きくなった方かも知れません。悩みがない家庭などなかったはずです。

 「ALWAYS三丁目の夕日」にもそんな時代の人々の生活が東京の下町を舞台に描かれてい

ました。ここではストーリーを追うことはやめておきます。みなさんに見ていただきたいからです。

上映中は、そんな時代の事を懐かしく思い、自分の育った環境と重ね合わせて見ていました。

思わずこみ上げてくる涙は同時代をたくましく生きてきた人々の姿と、描かれている人々の素

朴な人情だったように思います。

 先日、富士五湖に行き河口湖のほとりにある「与勇輝」さんの人形達に会ってきました。与さ

んの作品には戦前、戦後という区別はありませんでしたが、素朴な人形達の姿の中に過ぎ去

った子供時代の心豊かだった頃の懐かしさを感じました。そして今、思い出しているのは石井

美千子さんの人形展の事です。石井さんの人形達には「ALWAYS三丁目の夕日」そのものが

描かれていました。それは私達同時代に生きてきたもの達の心の古里なのです。

                                       2005年12月5日掲載

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