自然はポンプで出来ている

巨大な渦巻きポンプ

 昨年の夏と秋に、ここ倉敷市の海岸地帯一帯は二度も海水による浸水被害を受けました。

過去にも大潮の時など部分的な浸水はあったようですが、これほどまでに大規模な浸水は

ありませんでした。昨年の八月、その日は大潮の日でした。そして台風は瀬戸内海上空を

通過したのです。ただでさえ高い潮位の上に台風が来たのです。台風は強風によって海水

を沿岸地方に押し寄せただけでなく巨大な吸引ポンプとなったのです。 

 通常1000ヘクトパスカル以上ある気圧が900ヘクトパスカル台へと下がったのです。今まで

高気圧でおさえられていた海水は気圧が下がったので吸い上げられるような状態になったの

です。大潮、満潮、強風、気圧低下とすべてが同じ時間と重なり最悪状態になりました。

 こうして海水は一挙に2.5メートルも上昇したのです。通常の時でも満潮時には不気味な

ほど高くなっていた海水面が一挙に2.5メートルも高くなったのですからたまりません。目撃

者の話によると、まるで海面が盛り上がるように押し寄せてきたと言います。2.5メートルと

いう潮位は南海、東南海沖の大地震が起きたとき瀬戸内海沿岸を襲うであろう津波と同じ高さ

だと言われています。倉敷市の玉島、児島、水島、隣の玉野市、向かい側の高松市の海岸

一帯はかつてないほどの被害を受けました。

 この日、夕方のニュースでは地元の放送局が盛んに異常潮位について注意を呼びかけて

いました。その注意に耳を傾けていた人が何人いたでしょうか。多くの人は、そうは言っても

今まで何もなかったのだから今回も同じようなものだろうくらいに、のんきに構えていたのかも

知れません。注意勧告のあった時間通り、海の水は押し寄せてきたのです。

地下水を汲み上げるもの

 私の畑には大きなドングリの木が何本もありました。この木の下にキウイを植えていました。

キウイはどちらかというと水を欲しがる果樹です。大きな葉を何枚も広げていますから蒸発する

水の量も半端なものではないようです。そのキウイが夏になるとしおれるのです。大きなドングリ

の木の下で日陰なのにと不思議に思っていました。

 ある日、水やりをしていてふと気が付きました。葉の大きな鉢植えのアジサイはすぐにしおれて

しまうのです。あれほどたっぷり水をやっていたのにと思うことが何度もありました。原因は葉の

面積が大きくて蒸発がすごいのです。大きな葉をしているものや葉の数の多いものは総じて

水切れになり易いようです。そうだ、あれほどの巨木であれば蒸発する水の量も大変な量だろう。

そう思いキウイ周辺にあった大木4本を切ってしまいました。すると翌年から土の乾き具合が

変わったのです。日陰はなくなったのですが水やりの回数が減りました。大木が如何に大きな

ポンプの働きをしていたか気が付いたのです。

 同じような例で竹藪があります。竹藪にはいると不思議に湿気を感じることがありません。

竹は思いのほか水をたくさん吸い上げる植物のようです。私の野菜畑周辺には竹藪があります。

この藪からたくさんの根が畑に伸びてきます。そして、伸びてきた根の周辺はからからに乾いて

います。根が大量の水を吸い上げて行くからです。こんな事があって以来、畑の周辺には竹の

根が入ってこないように塩ビの板で囲いました。

海の底の大きな流れ

 南極には棚氷という大きな氷の固まりがあります。これは南極大陸の内陸部に降った雪が

固まって徐々に海岸まで流れ出してきたものです。いわば巨大な氷河です。毎年何センチか

海に向かって動いているのです。

 その棚氷の下は大きな冷蔵庫のようなものです。周辺の海水はこの棚氷で冷やされ、重く

なった海水は海底に沈んでいきます。新たに冷やされた海水はまた沈んでいき下の海水を

押し出します。こうして絶え間ない循環が行われています。この冷やされ沈んでいった海水の

流れが海の中の川となって赤道直下の海まで運ばれていきます。棚氷の下が巨大なポンプと

なって海水の循環が行われているのです。棚氷は海水を押し出す巨大なポンプと同じなのです。

自然は巨大なポンプ

 もっと大きなポンプは自然そのものではないでしょうか。海の水は太陽の熱で温められ大量

に蒸発します。それは雲となって上空に溜まります。やがて雲は冷やされて大量の雨となって

地上に降り注ぎます。この循環は巨大なポンプそのものです。これだけ大量の水を汲み上げる

エネルギーはとてつもなく大きなものです。

 先年、南米のイグアスの滝へ行って来ました。巨大な滝へ絶え間なく供給される膨大な水に、

滝の巨大さよりも興味がありました。この水はどのようにして作られるのだろう。そのことばかり

を考えていました。亜熱帯の森に降る雨が集まって、この巨大な滝を作っているのです。その

雨は自然循環によって作り出されたものです。ここにもとてつもなく大きな自然のポンプがある

のです。

地球を囲むもの

 そして、更に大きなポンプは空気の流れを作り出している大気そのものではないでしょうか。

大気中には高気圧と低気圧があります。低気圧の典型的なものは台風です。風は気圧の高い

ところから低いところへ流れます。空気は地上付近で温められ軽くなって上空に上がっていき

ます。すると地上にあった空気は薄くなりますから、周辺から大量の空気が流れ込んで来ます。

こうして絶え間なく循環が生じています。

 台風は赤道近くに発生します。ピースボートで赤道を通過したとき水平線近くに巨大な雲を

たくさん見ました。赤道付近の海水面は太陽の熱で温められています。そして温められた海水

は盛んに水蒸気となって蒸発します。蒸発した水蒸気は上空で冷やされ、やがて大きな入道雲

になります。この入道雲がたくさん集まったのが台風の雲です。

 また、温められた空気は軽くなって上空へ上がっていきます。するとそこへ周辺から空気が

流れ込んできます。これが絶え間なく続くようになると大きな空気の流れが出来、渦になります。

これが台風の強い風になります。こうして厚い雲と強い風が一緒になって移動を始めるのです。

近年、地球温暖化現象のためか熱帯性低気圧、いわゆる台風やハリケーンは大型化している

ようです。

夏の風物詩

 夏の夕暮れの事です。昼間に温められた空気や水蒸気は一気に上空へ上がっていきます。

そこで冷やされ大きな雲になります。入道雲つまり積乱雲です。やがて入道雲の先端が崩れ

始めると空一面が暗くなり周辺がにわかに騒々しくなります。強い風が吹き始めます。稲妻が

光り雷鳴が空を揺るがせます。ぼつぼつと大粒の雨が落ちてきます。乾ききった地面からは、

ほこりが舞い上がり土臭い匂いが漂ってきます。と間もなくバケツをひっくり返したような雨が

降ってきます。これは繰り返される夏の風物詩ですが、ここでも局地的な水の循環である小さな

ポンプが出来ているのです。

                                   2007年3月16日掲載

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