音楽好きの原点

 私が始めてレコードを買ったのは就職をした昭和38年でした。それまで音楽とは全く縁のない世界に住んでいました。

買ったレコードはジャニーギターやハーレムノクターンが録音されているドーナツ盤でした。他にも何曲か入っていたと

思いますが思い出せません。いずれも19歳の私には、似つかわしくない大人の味がする曲ばかりでした。

 ジャニーギターはペギー・リーが主演したアメリカ映画のテーマ曲でした。その映画を見たこともなかった私が何故この曲

を知っていたのかそれは分かりません。この映画を見たのはずっと後のことでした。

 もう一枚のレコードはサキソホーンの音色が何ともやるせないハーレムノクターンという曲が入っていたレコードです。

未だ見たこともないアメリカのハーレムとは、どんなところなのだろうと想像を逞しくしたものです。今となっては無性に当時

のことが懐かしく思い出されます。

 熊本工場の会社の寮には、その頃まだ珍しいステレオを持っていた先輩がいました。ビクター製の何もかもが一体に

なったステレオでした。ホールの音響効果を出すためにリバースの効いたステレオでした。大変羨ましく思ったものです。

入社仕立ての私にはとても買えそうもない高価なものでした。

 そして私がレコードを聴くために買ったのはナショナル製のラジオでした。ラジオにはレコードプレーヤーが接続出来る

ようになっていました。レコードプレーヤーをどういう手段で手に入れたのか定かではありません。小さなプラスチック

ケースに治まった、今から考えればおもちゃのようなプレーヤーでした。そして初めて聴いたのが、先程紹介した二曲

です。何とも言えない満足感を感じたものです。そして繰り返し繰り返し何度も聴きました。

 やがて時代は移り、倉敷での寮生活になりました。音楽好きは、ますますエスカレートして、最初に買ったのがトリオ製

のステレオセットでした。この頃になると、色んな会社がステレオセットを売り出していました。ビクター、パイオニア、トリオ

等です。その後にサンスイとかヤマハ等も作り始めました。

 トリオのステレオセットは長く私の側にありました。レコードも毎月買っていましたから随分増えていました。もっぱら

クラッシック曲が中心でした。中にはドーナツ盤の流行歌や洋楽と言われるポピュラー曲も何枚かありました。

 音楽好きの欠点は同じ機械の音に飽きてしまうことです。音質の良いセットに出会うと更に上のものが欲しくなることです。

ピックアップ部分を変えたり、レコードプレーヤーを変えたり、スピーカーを変えたり、録音がしたくなって録音機を買ったり

と色んなものを買い足して行きました。

 そして最後にたどり着いたのがヤマハのスピーカーセットでした。もうその頃は一体型のセットではなく、アンプはサンスイ、

プレーヤーはオーディオテクニカ、スピーカーはヤマハと言うようになっていました。

 しかし、十分活用することなくヤマハのスピーカーは音が出なくなってしまいました。高音を出すツイーターはベリリウムと

いう特殊金属で出来たものでした。重量感のあるスピーカーセットでしたが、意外に寿命は短かったようです。

 今はミニコンポのセットに変わってしまいました。それまで大事に置いていたアンプやレコードプレーヤーなどは、ほとんど

廃材として捨ててしまいました。残っているのはヤマハのスピーカー以前に買ったパイオニアのスピーカーと、捨てるには

惜しいと思いとっておいたCDプレーヤーでした。そしてそれらは、今、私の部屋である二階に、新しく買ったアンプとセット

で置かれています。決して悪くはない音です。

 こうして流行病(はやりやまい)のように私の音遍歴は続きました。もうこの先買い換えることはないでしょう。そして今は

久しく聴いた事のないLPレコードがたくさんあります。

                                                     2003年3月26日掲載

今の世を生きるのページへ戻る