ノウと言える勇気

 手元にある雑誌に大きな事故となった4つの事例が紹介されています。原子炉で使われる原子核燃料を作っていて

事故を起こしたJCO事故、一つは記憶にも新しい雪印乳業の乳製品による食中毒、更に一つは、もうこういう事故は

起こらないであろうと思われていた信楽鉄道の衝突、そして、もう一つが患者の取り違えによって、全く別人の手術を

してしまった事件です。

 いずれも人間の過失による人災とも言えるような事件や事故ばかりです。背景には慢性的な人手不足や過去に同様

のヒヤリがありながら、たまたま大きな問題にならずに済んだので、今回も大丈夫だろうという甘えや過信等、多くの

問題があったようです。

 人災と言えるものの中には、誰かが気付き、誰かが注意をしていれば、あるいは防げたかも知れない事がたくさん

あります。しかし、組織の中で発言できるような環境がなければ、なかなか個人の勇気だけでは発言できません。

組織は自らの中に問題を指摘しやすい雰囲気と、自らを浄化するためのシステムを持たなければならないと思うの

です。

 雪印乳業の事がよく引き合いに出されます。今回の大きな事件になる前にも同様のトラブルがあったようですが、

その時には、さして大きな問題にもならなかったので、その後の対策を取らなかったようです。そんな過去があった

からこそ、今回も大丈夫だろうという慢心があったのではないでしょうか。食品を作る会社として、衛生に関わる

問題は最優先で取り組むべき問題です。それが、バレなかったからと言って何の対策も取らなかったとは、一体

どのような会社だったのでしょうか。現場のものが上司に報告をしなかったのか、上司に報告はしたけれど、

上司から何の指示もなかったのか、いずれにせよ、人間サイドの大きな問題が潜んでいるように思われます。

 信楽鉄道の事故は赤信号が出ていて駅長は出発を止めていたのにも関わらず、運行係の課長が出発の指示

を出したようです。そのために、尊い人命が失われてしまいました。鉄道会社やバス会社は人を安全に運ぶことが

最大の使命です。そのことを忘れていたのではないでしょうか。この事故の前にも信号のトラブルが何度かあった

ようです。その度に運行時間が大幅に乱れていて、そんな事へのあせりのようなものがあったのかも知れません。

しかし、一度事故を起こしてしまうと、そんな言い訳は通じません。

 上記4件の事故やトラブルに共通することは、いずれも人間サイドに起因する事故やトラブルばかりです。人間は

とかく間違いを起こしやすい動物だと言われますが、これらは、そんな事では済まされないような問題ばかりです。

根本的に間違ったものの考え方や発想から生じたものです。

 如何に大きな企業でも先進的と言われる企業でも人で成り立っています。それにも関わらず企業が巨大になれば

なるほど、個々人の存在は小さくなっていきます。とかく末端の発言は無視されてしまいます。そんな事から小さな

水漏れが、やがて大きな事故に繋がっていくのではないでしょうか。いかに組織が大きくなろうとも、個々人の意見

に真摯に耳を傾ける組織作りが必要です。

 組織の中での社員は歯車の一つに過ぎません。しかし、歯車の一つ一つは大切な役割を持っています。その歯車

の一つが異常音を発した時には、その原因を突き止めなければなりません。その責任は常に経営のトップにあると

言っても言い過ぎではありません。経営のトップは奢ることなく謙虚に歯車の音の一つ一つに耳を傾けている事が

大切です。今日ほどトップの姿勢が問われている時代はありません。

 もし、企業が個々人の発言に耳を傾けるようなシステムになっていないのでしたら、今からその体制を作るべきでは

ないでしょうか。そして、個々人も自分の良心に照らして組織の何かが間違っているのであれば、たとえ上司の命令

であろうとも、「ノウ」と言える勇気を持たなければならないと思うのです。

 最近、ISOの取得や取得していることを企業イメージアップのために使っているケースを見かけます。ISOを取得

したからと言って一挙にその企業が変わるとは思われません。企業の体質というものは長い時間かけて作られて

きたものです。社会の目をごまかしてきたような企業が、環境に優しい企業だといっても、にわかには信じがたい事

です。それには、その企業に働くみんなが変わらなければなりません。ましてや、舵取り役の企業のトップが真摯な

態度で取り組まなければ下部末端は容易に変わりません。

 今や大企業でさえも社会的信用を失墜するような事態が生じた場合、企業の存続そのものが危うくなることを肝に

命じて、企業の体質そのものを変えていく努力が必要なのではないでしょうか。

                                                   2003年7月12日掲載

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