企業とは

相次ぐ不祥事とその背景

 特に一昨年頃から企業の社会的な責任が色んな事件を背景に厳しく問われ始めている。そのきっかけ

となった一つの事件が、大手食品会社である雪印乳業の不祥事であった。雑菌によって汚染された牛乳

である事を知っておきながら、被害者が出るまで積極的な手も打たず放置していた。また、大きな事件に

なってもその非をなかなか認めようとしなかった。以前にも、幾度となく同じような事が繰り返されてきた

ようだが、再発防止の抜本策を考えていなかったようだ。大手食品会社の傲慢さ背景にあったのではない

だろうか。

 このように、大企業が起こした事件の多くは、今まで社会的問題に発展する事はまれであった。消費者の

権利意識が低かった事と、諸外国から入ってくる同じような事件の情報が少なかったことにある。しかし近年、

日本企業が海外に出ていくようになり、また、多岐わたる日本製品の輸出が増えるに連れて、商品による

トラブルは国内だけの問題ではなくなってきた。

 アメリカは非常に消費者意識の高い国である。アメリカに輸出された自動車に欠陥があって、それが原因

で事故が起きた場合、多額の補償費を支払わなければならない。大企業であっても場合によっては会社の

命運を左右するような大問題になってきた。こんな事から自動車の場合はリコールという制度を設け、欠陥

が見つかれば大きな事故を起こす前に、いち早く欠陥箇所の点検や部品の無償交換を行うようになってきた。

 今回、三菱自動車はトラックのハブに欠陥があることを知りながら放置したために、多くの物損や人身事故

が発生した。欠陥が分かっていながら放置してきたことにも問題はあるが、更に大きな問題は自動車にとって

もっとも重要な足回りの部品でありながら、十分なテストを行わないまま販売に踏み切った事にある。食品や

自動車といった商品は、消費者に直結しているものだけに衛生や安全面には細心の注意が必要だ。

 東京電力は原子炉のシュラウドという部分にひび割れがあったにも関わらず、内部告発があるまで何年間も

原子力保安院に報告せず放置していた。また、何社かの化学会社は、決められた箇所の定期点検を行わず、

あたかも実施したかのような虚偽報告をしていた。大手都市銀行は大事なお客さんのお金を預かっていながら、

政府の援助を受けなければ企業倒産に追い込まれるような放漫経営をしていた。

 これらすべては、いかなる事情があろうとも企業の経営責任である。企業のトップにいる幹部の責任である。

絶対に言い逃れは出来ないのである。このような事件を見ていると企業とはいったい何だろうという素朴な

疑問が湧いてくる。企業には新たに倫理規定を設けるまでもなく、会社によっては社是や定款に企業として

の使命を書いているところがある。それなのに、改めて企業倫理を作らなければならないところに、企業の

社会的責任意識の欠落があるように思われてならない。

企業風土としてあるべき事

 企業は儲けさえすれば良いのではない。企業活動を通じて社会的責任を果たしていかなければならない。

そもそも企業は誰のためにあるのだろうか。会社で働く人達にとっては自分たちが安心して生活できるような

仕事の場であって欲しい。そして、それなりの賃金を生活費として保証しなければならない。今回の三菱自工

や以前の日産自動車がそうであったように、会社の経営不振により多くの従業員の雇用不安や賃金カット等

を生ずるような事があってはならない。

 また、企業は生産する商品やサービスが、お客さんに危害を与えたり不満を抱かせるようなものであっては

ならない。そして、環境に悪影響を及ぼすことなく安心して使えるような商品を作らなくてはならない。

 工場は地域と共存共栄の関係にある。地域の人に企業活動を通じて雇用の場を提供し、企業活動を通じて

得たものは社会に還元しなくてはならない。

 このように考えていくと、企業を中心とした企業と従業員、企業と地域社会、企業と消費者といった大きな

輪が描けるのではないだろうか。企業がいかに巨大になろうとも、従業員や地域社会や消費者と絶対に

切り離せない関係であることを、もっと自覚する必要がある。

 いかに大会社のトップであっても私達と同じ人間である。間違いを起こすこともあれば、判断に迷いを生ずる

事もあるに違いない。その時、的確な助言や提言が出来るのは企業内の人間であり、地域社会の私達であり、

消費者自身なのである。厳しい目で見守っていくことが、企業トップに対し社会的責任の大きさを自覚させ、

企業そのものも逞しく大きくしていくのである。

風通しの良い企業に

 かつての雪印はワンマン社長が長く社長の椅子に座っており、誰も逆らうことは出来なかったと聞いている。

不祥事を起こした企業の多くは非常に風通しの悪い企業のようだ。小さな事だが、誰でも自由にものが言える、

そんな企業でなければならない。企業トップの多くが「裸の王様」になってはいないだろうか。古い体質のまま

の企業になってはいないだろうか。一見立派に見えても体力的にも体質的にも非常に脆弱な企業であること

が多いようだ。

 事件や事故を起こしたとき、社長が言い訳がましい事を言うような企業であってはならない。答弁を部下任せ

にするような企業であってはいけない。そして、言い訳がましいことは言わず、社長は非を認めたら素直に謝る

べきではないだろうか。

 その上で、不祥事を生じた原因は何だったのか、企業の総力を挙げて原因究明を行い対策を講じなくては

ならない。そうすることが社会的責任を果たすことになり、企業の将来にも繋がることになるのではない

だろうか。開き直ったり辞めたりすれば済むようなものではないと思うのだが。

政治家にも言えること

 同じような事は、経営者ばかりでなく政治家にも言えるのではないだろうか。今回の年金を巡る国会討論を

聞いていて感じた事だが、国会議員自身が自分達の年金がどうなっているのかさえも知らないで他人事の

ように議論をしている。こんなバカな事があって良いのだろうか。過去の経緯がどうであろうと認識不足は

否めない。恐らく、年金問題だけでなく、多くの場合がこんな調子で議論されてきたのではないだろうか。

 政治家は企業トップ以上に国民の生命と財産を守る立場にあることを強く自覚しなくてはならない。ただ、

漫然と国会議員であってはならないのである。国民の将来を考えれば眠れないような日々があるくらいの

自覚が必要である。議論をもてあそぶだけが国会議員や地方議員ではないはずである。

国民はお客さん

 一方、国会議員でさえも気付かなかったような事態を招いた社会保険庁にも問題があるのではないだ

ろうか。自分たちは大切な国民のお金を預かって、それを円滑に運用管理する立場にあると言うことを

忘れているのではないか。未払いの人がいるのであれば、その人に連絡をする位の事が何故出来なかった

のだろうか。

 また、コンピュータ化してしまった今、大きな問題が発覚している。年金の二重支払いである。それも並の

数ではないようだ。また、二重支払いを解消すれば未加入率も下がると言うくらいだからデタラメも良いところ

である。ここまでくれば職務怠慢もあきれてものが言えない。

 私は先日、厚生年金の受給手続きに社会保険事務所に行った。大勢の人が狭い待合所にいた。待合所

は玄関脇にあり、名前を呼ばれても隣の人に立って貰わなければ出ていけないような狭い場所であった。

また、30分以上待たされた。手続きに必要な時間は10分あまりで、待ち時間は30分以上という大病院並

の状態であった。

 別途、待合室を作るとか、所員を増やすとか、手続きの簡素化をするとか、そんな考えはないのだろうか。

電話予約をして指定された時間に行くようなシステムがあっても良いのではないだろうか。何か工夫が足り

ないような気がしてならない。国民をお客さんだと思えば、サービスのために何が必要であるか気付くはず

である。

 世は上げて無責任時代と化している。親は子育ての責任を忘れ、企業は企業としての社会的責任を忘れ、

国会議員を初めとする議員は政治家としての自覚をまるで忘れてしまっている。これで日本は良いのだろうか。

 その意味合いにおいて、いま広がりつつある社会的責任投資という制度は画期的である。この事に多くを

言及するつもりはないが、きちんと社会的責任を自覚し、それを企業活動に生かしている企業に投資をし、

後押しをしていこうという制度である。この種の投資は単に投資をして儲けようと言うことではなく、投資という

行為を通じて自分たち消費者や従業員の立場から、より良い企業を育てて行こうという考え方である。そう

することが企業を見る目を養い、企業自身も多くの投資を勝ち得るために、更に企業を良くしていこうという

意識が育つのである。

むすび

 最近、盛んに「人に優しい」とか「環境に優しい」といったコマーシャルが使われているが、本当にそうなの

だろうか。本来、宣伝しなくても商品はそうあるべきなのではないだろうか。それを強調しなければならない

ほど、おざなりにされてきたと言うことではないだろうか。商品とは宣伝するまでもなく、本来、消費者の立場

に立ったものであるべきだ。経済評論家の藤原直也さんは、これらすべての事に対して企業文化が育って

いないと語っている。まったく、その通りだと思う。

                                                2004年6月8日掲載

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