釣り紀行  その8

山口県の青海島沖に小さな島がある。周辺の海に夕闇が迫る頃になると集魚灯を明々と灯した漁船が次々とこの島の

周辺に集まってくる。島影にはいるとそれまでの時化は嘘のように静まり波静かな海面となる。

烏賊釣り船の真ん中には千燭光というから1kw位の電球だろうか、大きな電球が何個かぶら下がっている。

烏賊はたくさんこの照明に向かって沖合から集まってくるらしい。

私達は烏賊釣りで友人の奥さんの里である青海島に二度お邪魔した。

一回目の時は、さすが日本海はすごいなあと思わせるような波荒い激しい海であった。とにかく隣を走る僚船が見え

なくなるような波の高さで、私達は寒さと恐怖心で小さくなっていた。船が波の上にのると遠くまで見渡せる。

飛び魚がまるで鳥のように胸びれを広げて波頭を船の進む方向に向かって飛んで行く。それは本当にすばらしい眺めだった。

そして船が波の底になると周りはすべて水の壁となる。水の中に飲み込まれてしまうような景観である。

沖合いの島は小さな島に見えるのだが、島影に入るとこの大波が嘘のように静まるのだから実に不思議な気がする。

船を停めて釣りの準備が終わると頃になると周りはすっかり暗くなる。海面だけを照らす集魚灯を点灯し、海面近くに持っていく。

すると暗い海面が昼のように明るく照らされ、小さな魚がたくさん集まってくる。烏賊はこの子魚を狙って集まってくるらしい。

烏賊がこうこうと照らされた照明の中をすいすいと泳いでいる。泳ぐと言っても魚のように頭を先にして泳ぐのではなく、

すぼめた足を先にして泳いでいる。魚を捕まえようとしているのだから当たり前といえば当たり前の話だが、何となく

奇妙な感じがする。魚に似せた針のたくさんついた疑似針を投げ込むと、しばらくして当たりがあって重くなる。

糸をたぐり寄せると烏賊がひっかかって上がってくる。さしたる技術もいらない釣り方だ。

最近の漁船はほとんど自動化されているようで、手でたぐり寄せるようなことはないらしい。船上に引き上げるとぷっと

墨をはく。気を付けないと着ているものが黒く汚れてしまう。この海域で釣れる烏賊は「剣先烏賊」と「するめ烏賊」だ。

どちらも大半は干して出荷する。もっとも最近は保冷技術が進歩したので生のまま遠くまで出荷したり、一夜干しに

したり、その他の加工品にしたりと様々らしい。とれとれの新鮮な烏賊を烏賊そうめんなどにして食べると烏賊の

甘みが口の中に広がって何とも言えずおいしい。

烏賊に混じって飛び魚も寄ってくる。漁師さんが大きな手網で上手に掬ってくれる。この飛び魚を船上で刺身料理に

してくれるのだが、これが又とびきりうまい。この地方の人は飛び魚のことを「あご」と呼んでいる。

山陰地方では「あご」の野焼きなどといって、ちくわが名産品として売られている。

私達は夜半近くまで釣って帰路についた。本業の人達は一晩中釣って朝戻ってくるらしい。烏賊は夜釣り専門なのだ。

しかし、最近は次第に漁獲量が減っていると言っていた。確かに最初行った時と二度目の時とでは明らかに釣れた

量に差があった。最近はどうなんだろう。

これも広い海のこと、本当に乱獲で少なくなっているのか、あるいは自然現象なのか定かではない。

ともあれ友人のおかげで貴重な体験をさせて貰った楽しい思い出話である。

今でも店先に並んでいる剣先烏賊などを見ると、あの時の景色を懐かしく思い出す。

2000年3月20日掲載

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