実に衝撃的な事件が起きてしまいました。21世紀という新時代の幕開けとしては、あまりにも

凄惨な大事件となってしまいました。いかなる事があろうとも、暴力で主張を通そうという考えは、

容認できる事ではありません。一方、事件の背景には考えて見なければならない多くの問題が

潜んでいる事も事実であります。

 2001年9月11日午前9:00前後(現地アメリカ時間)、ハリウッドも描き得なかったような衝撃

的な映像が、テレビの画面に映し出されました。アメリカの富の象徴とも言うべき世界貿易センター

ビル(ツインタワー)めがけて、事もあろうに大型の旅客機が飛び込んで行きました。その映像は、

まるでスローモーションビデオを見ているようでした。一機目が北のビルに飛び込んで大騒ぎを

している時、二機目が南のビルに飛び込みました。激しい炎はやがて巨大なビルの崩壊へと続き

ました。燃えるビルの窓から体を乗り出すようにして助けを求める人達、たまりかねてビルから飛

び降りる人達、生き地獄としか思えないような光景が次々と展開されました。事の推移全てが中継

カメラによって映し出され、まるで白日夢を見ているようでもありました。崩壊したビルは救出作業を

行っていた警察官や消防士を飲み込んで完全に崩壊してしまいました。ビルに飛び込んだ旅客機

には多くの旅行者が乗っており、今回の事件を起こした犯人と一緒に、命を落とさざるを得ません

でした。

 今回のテロのために乗っ取られた旅客機は4機だったようで、二機は世界貿易センタービルに、

他の一機はピッツバーグ近郊に墜落したようですが、もう一機はペンタゴン(アメリカ国防総省)に

激突し、ここでも多くの犠牲者が出たようです。

 今回の事件で多くの方々が亡くなられ、傷つかれました。史上最悪のテロ事件ではないでしょうか。

亡くなられた方々に対し、心から哀悼の意を表します。そして、傷つき入院されている方々が一日

も早く退院されん事を心からお祈りをしています。

 さて、冒頭にも書きましたように、この事件の背景には多くの問題が潜んでいることを見逃すわけ

にはいきません。犯人やこの事件を画策した人物については色々取りざたされています。それは

当局の捜査に委ねるとして、この事件が起きた背景を考えてみたいと思います。この事件の背景に

は、これからの世界の有り様を示唆しているような、多くの問題点を含んでいるような気がしてなり

ません。

 アメリカはここ十数年、未曾有の経済発展を遂げてきました。そして、ソ連崩壊後は東西対立の

図式が崩れ、軍事力においても他を圧倒するようになりました。その上、本土ミサイル防衛(MND)

システムの強力な推進を計り、日本等、同盟国にも協調を求めてきています。また、つい最近では

戦略ミサイル制限条約の一方的な破棄すら宣言しています。東西対立がなくなって世界が平和を

希求している時に、何故、時代に逆行するような事をしなければならないのでしょうか。世界との

協調を無視した、やりたい放題といった昨今の状態です。私達の生存に関わる地球温暖化防止の

ための京都議定書を批准することすら拒否しています。

 経済面ではグローバル化と称して金融市場の開放を求め、自国の経営手法を押しつけ、他人の

家に土足で踏み込むような事を平気でやって来ました。一国(タイ)の経済を破綻させてしまうような

デリバティブという手法を助長してきたのも、すべてアメリカ発の金融資本のモラルを無視したやり方

です。そういった世界の富を一国に集中させるための、吸い上げポンプとしての役目を果たしてきた

のが、今回狙い撃ちされた世界貿易センタービルだったのではないでしょうか。日本からも多くの

金融関係の会社が入っていたことは、今回の事件で明らかになったところです。自国の主張を通す

には、どんな手段をも選ばないというアメリカの姿勢に対しては、口には出さないまでも多くの国々

が反発を感じているところです。その現れが先のイタリアのジェノバサミットでした。特定団体に限定

されないグローバル化反対のうねりは一般市民を動員しての大きなデモ騒動に発展しました。ここ

数年、年を追う毎に参加者は増え、激しさを増しているようです。

 イスラム諸国では石油による莫大な富によって、近代化への道を歩んで来ました。一方、それを

こころよく思わない人達がイスラム原理主義を掲げ、イスラム諸国の団結を呼びかけています。

恐らく、激しい西欧化の波の中でイスラム教の存在価値自体までも失われてしまうことを極度に

おそれているのではないでしょうか。

 また、イスラエルとパレスチナの相容れない対立関係があります。アフガン問題も依然くすぶり

続けています。イラクとアメリカの積年にわたる激しい対立関係も続いています。中東諸国は石油

の利権と、それを我が手中にしようとする先進諸国、特にアメリカ資本の思惑がからんで、いつ、

どこで、どんな事が起きても不思議ではないような状態がずっと続いています。

 そして、いつの場合もその中心にいるのがアメリカという国です。クリントン政権時代には中東政策

が目に見える形で存在していました。しかし、ブッシュ政権に変わって以来、ブッシュ政権が中東

問題をどう扱おうとしているのか、ほとんど見えて来ません。イスラエルとパレスチナの対立は

日に日にエスカレートし、血で血を洗うような抗争が続いています。本来、仲介役であったアメリカは

なりを潜めていました。アフガニスタンのタリバン一派はイスラム原理主義の元、結束を誇示する

ため、歴史的遺産である石仏の破壊等、野蛮な行為をほしいままにしています。

 いま世界は混沌としています。このように多くの問題が複雑に絡み合い、依然、将来の展望すら

見えていないのが実状です。テロ行為に及んだ連中に、どんな理論が存在するのか定かでは

ありませんが、今回の事件は起きるべくして起きたと言えなくもありません。その標的が世界貿易

センタービルであったと言うのもうなずけるような気がするのです。彼らの頭の中にはイスラム原理

主義を貫くにも、イスラム諸国の結束を図るにも、アメリカという標的なくしては存在し得ないことで

あったに違いないのです。

 これからの21世紀を語る時、一国だけの突出した存在はあり得ないのではないでしょうか。国の

大小や経済力があるなしに関わらず、お互いに強調しあっていかなければ、このように凄惨な事件

はなくならないと思うのです。最早、力を力で押さえる時代は終わったと見るべきではないでしょうか。

 今回の事件を背景に、政府自民党の中には、早速、有事法制であるとか、憲法9条を変えてでも

集団的自衛権を確立しなければと騒ぎたてている連中がいます。主客転倒も甚だしいと言わざるを

得ません。根本原因を質さずして何の解決があるというのでしょうか。

 イスラム原理主義は封殺できてもアメリカが押しつけてくるグローバル化の波の中で、一国の支配

を嫌う真の価値観に目覚めた人達の行動は、イスラム原理主義とは、また異なった形で現れてくる

ものと思います。この動きや言葉に素直に耳を傾けないと、今回の事件では済まないような、もっと

大きな事件が相次いで頻発するようになることは間違いないと思っています。

 明るい未来の展望が開けることを夢見ていた者にとっては、あまりにもひどすぎる21世紀の幕開

けとなってしまいました。一人勝ちであったアメリカ経済にも大きなかげりが見え始めています。この

問題の収拾如何によっては、ますます深刻さを増すことになるのではないでしょうか。目に見えない

テロの恐怖はアメリカ国民に大きな精神的ダメージを与えたことは間違いありません。

 恐らくアメリカは近日中に、これだという対象を探し出して報復に出ることは間違いないでしょう。

力による封殺は更に力による反発を生み、止めどもない愚かなる殺戮の繰り返しになることは

間違いないと思います。アメリカ国民にとっては、生き地獄のような深刻な時代が訪れるのでは

ないでしょうか。日本が真の同盟国と言うならば、この事態にこそ、平和的解決に持っていくため

の努力や助言を惜しむべきではないと思うのです。

 この事件がアメリカをはじめとする文明社会の「崩壊へのシナリオ」にならぬ事を切に祈っています。

「おごる平氏や久からず」決して一国だけの我が世の春は長続きをしないのです。

                                             2001年9月15日掲載

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