報道の自由とプライバシーの侵害

 国会議員の田中真紀子さんの長女が、東京地裁に自分の離婚記事を載せたということで出版差し止め

の訴訟を起こしました。これを受け東京地裁は文芸春秋社に対し、週刊誌「週刊文春」の出版差し止めの

仮処分命令を出しました。裁判所からの連絡が遅く、週刊誌の大半は地方発送が終わっていました。文芸

春秋社は、売るか売らないかの判断は販売先に任せました。その結果、多くの週刊誌が売られてしまった

ようです。

 評論家やニュースの解説委員の多くの人が述べているように、地裁の決定には多くの問題をはらんでい

ます。個人のプライバシーを守る(基本的人権)ということと、報道の自由を守るという両面があるからです。

どちらを優先すべきか大変難しい問題です。それを裁判所の決定という形にしてしまうと、報道の自由に

裁判所が介入したということになってしまいます。法治国家では、報道の自由こそ何ものにも優先して保障

されるべき事ではないでしょうか。ましてや、日本は戦前の報道管制という苦い教訓があるはずなのです。

 ここまで大きく報じられる事がなければ、田中真紀子さんの娘さんの離婚記事と言った程度の事で済んで

いたような気がします。ほんの一部の人の中に買っていく人はいても、さして大きな問題にはならなかったと

思います。裁判所の決定という事になったため、かえって大きく報道され、無関心であった人でさえ興味本位

に買っていったのではないでしょうか。

 確かに、田中さんサイドから考えれば、知られたくない私生活を知られたために苦痛を感じておられることと

思います。しかし、世間というものは、政治家とか芸能人といった有名人の私生活については、何かと興味を

持っています。それは古今東西、変わらないことなのです。また一般大衆は、自分たちの不平や不満をこう

いった記事によって解消していることも事実なのです。

 離婚問題が別に珍しくもなくなった現代、そこまで大騒ぎをしなくてはならない事なのでしょうか。私は外相

時代からの田中さんの行動を見ていて、国会議員の奢りというようなものを感じてなりません。確かに、

お父さんは立派な政治家だったかも知れませんが、田中真紀子さんにお父さんほどの資質があるようには

思えません。政治家は誰しも、もっと謙虚であるべきなのではないでしょうか。ましてや二世、三世と言われる

ような人は、自分の実力で今日を築いたわけではありません。全ては親の七光りなのです。こういう政治的

土壌も改めて行かなければなりませんが、今は何よりも政治家一人一人が襟を正すべきなのです。

 さて、話が横道にそれてしまいました。週刊誌が売り上げを伸ばすために、面白おかしく個人のプライバシー

を書き立てるべきではないと思います。しかし、だからといって、この問題のために報道の自由が歪められ

てはならないと思っています。

 昨日(2004年3月31日)、東京高裁から最終判断が出ました。その内容は、プライバシーは尊重され

なければならないが、そのために報道の自由が制限されてはならないと言うものでした。また、今回の訴訟

内容からして個人の名誉が回復不能とまで言えるようなものではないという結論でした。最も妥当な判断と

言えるのではないでしょうか。


ここに東京高裁の決定に関する「goo」からの転載記事を掲載しておきます。

 田中真紀子前外相の長女の私生活を報じる記事を掲載した「週刊文春」(3月25日号)が出版差し止めの

仮処分命令を受けた問題で、東京高裁は31日、表現の自由を尊重する立場から文春側の主張を認めて

仮処分命令を取り消す決定をした。根本真裁判長は、記事によるプライバシー侵害があったと認定しながらも、

「暴露された私事の内容・程度を考慮すると、出版の事前差し止めを認めるほど重大で著しく回復困難な

損害が出る恐れはない」と述べた。長女側は、決定を不服としており、最高裁への許可抗告と特別抗告を

検討している。

 表現の自由を優先するのか、それともプライバシー侵害を未然に防ぐことの方が重要なのか、の判断に

あたって、根本裁判長は「表現の自由は民主主義体制の存立と健全な発展のために必要な、憲法上最も

尊重されなければならない権利だ」と前置きした。そのうえで、「出版物の事前差し止めは、この自由に

対する重大な制約で、これを認めるには慎重な上にも慎重な対応が要求されるべきだ」と述べ、極めて

例外的な場合でなければ差し止めは許されないとの判断を示した。また、表現の自由は「(送り手だけでなく)

受け手(読者、視聴者)の側も含む」と指摘し、表現の自由を享受する側の権利であることも指摘した。

 出版物の事前差し止めは原則的に認められず、一定の要件を満たした場合にのみ許されている。要件は、

記事の内容が(1)公共の利害に関するものでなく、(2)掲載に公益目的がないことが明白で、(3)公表される

ことで書かれる側は著しく回復しがたい重大な損害をこうむる――との3点だ。

公共性について文春側は、長女が著名な政治家一家の一員で、「記事は前外相の後継者に絡む問題を

報じた」と主張。しかし、高裁は「自ら政治家志望の意向を表明している場合などは別だが、現時点では

政界入りするかどうかは憶測にすぎない」と述べて公共性を否定。「現時点では一私人の私事に過ぎず、

公表によってプライバシーが侵害される」として公益性も認めなかった。

 そのうえで、根本裁判長は、被害者が受ける損害の程度を検討した。文春が報じた長女の私事は、日本の

婚姻制度のもとで、それ自体は社会的に非難されたり、人格的に負をもたらすものと理解されたりする事柄

ではないと指摘。「当事者にとって広く伝わることを好まない場合が多いとしても、日常生活で人が耳にし、

目にする情報の一つにすぎない」とし、「事前差し止めを認めなければならないほどの重大な損害が出る

恐れはない」と結論づけた。

 仮処分命令に反したときは長女側に1日274万円を支払うよう文春側に命じた東京地裁の「間接強制」

決定は、高裁決定によって効力を失う。

 この問題をめぐっては、16日に東京地裁(鬼沢友直裁判官)が長女側の申し立てを相当と認め、出版差し

止めを命じた。文春側が異議を申し立てたが、同地裁(大橋寛明裁判長)は19日に異議を退けた。これを

不服として文春側が東京高裁に保全抗告していた。

 文春の3月25日号は、77万部のうち74万部が流通ルートに乗っており、決定の効力が及ぶ範囲は未出荷

の3万部のみ。

 根本裁判長は大阪高裁時代の00年、大阪府堺市で、19歳当時に殺傷事件を起こしたとされる男性の実名

と顔写真が「新潮45」に掲載されたことの可否をめぐる訴訟で、「掲載は社会の正当な関心事」を認める判決

を言い渡している。プライバシー問題に詳しい判事だけに、抗告審の決定が注目されていた。

                                               2004年4月11日掲載

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