ガイア

 先日、CGで作られた「ファイナルファンタジー」という映画を見ました。映画館では、あまりヒットしなかった

ようですが、なかなか良くできた映画でした。この映画のテーマは「ガイア」でした。「ガイア」という言葉を聞か

れた人も多いと思います。元々はギリシャ神話に出てくる「地の女神」の事ですが、地球の環境問題が懸念

され始めて急に広く知れ渡った言葉です。

 「ガイア」とは、地球の環境問題を分かりやすく解説するために、ある学者がたとえ(比喩)として用いた言葉

です。今日は、その学者が日本に招かれた際、インタビューの中で語った事について紹介します。これは、

ネット上に掲載されたものです。私だけの知識にしておくのはもったいないと思い、ここで紹介させて貰います。

 なお、ことわりなく掲載致しますので、掲載者の方から無断掲載の指摘を受けましたら直ちに取り下げます

ので、ご容赦頂きたいと思います。

 また、読みやすくするために、文章を少しだけ編集させて頂きました。そして、青文字はジェームズ・ラヴロック

氏の話しているところ、この中で、特に重要と思われるところは赤文字にさせて頂きました。お許し下さい。

                                                      もの作り


筆者による解説

 2000年暮れに来日した地球生命体=ガイア説のジェームズ・ラヴロックと初対面し、インタビューする機会を

得た。『地球生命圏――ガイアの科学』と『ガイアの時代』(ともに工作舎)という初期2冊の著作邦訳を手がけた

者として積もる話はあったが、発想から30年あまり経ったガイア説を提唱者自身が現時点でどう説明するのか、

とりあえず聞き役に徹してみた。

 ガイア説は、地球の大気、水系、土壌、表層地殻にまたがる生命圏(バイオスフィア)全体が、一つの巨大な

生物のように気温、海洋塩分濃度、大気ガス組成などを自己調節・維持しているとみなす。ラヴロックが60年代

にNASAの火星探査計画にかかわったとき、惑星の大気組成から生命の存否を判断する方法を考案したことで

仮説化し、その後理論にまで練り上げてきた。1997年、旭硝子財団のブループラネット賞受賞に続く今回の来日

は、龍村仁監督による映画『地球交響曲/第四番』出演の予告上映会のため来日。(提供=オメガ)


 〈ガイア〉とは、ノーベル賞受賞作家のウィリアム・ゴールディングが地球を名づけて呼んだ名前です。1960年

代後半、私は地球が気候や化学組成をいつも生命にとって快適な状態に保つ自己制御システムではないかと

いう仮説を考え出しました。隣人であるゴールディングと村の雑貨屋へぶらぶら歩きながらその話をすると、

「そういう大がかりな理論を打ち出すなら、ふさわしい名前をつけたほうがいい」と力説し、〈ガイアGaia〉を提案

してくれたのです。でも古典の素養が乏しい私には、しばらくその意味がピンときませんでした。(笑)

――ギリシア神話の大地の女神ですよね。提起された当時の「ガイア仮説」が、現在は「ガイア理論」と呼んで

いいものに発展したわけですが、その内容をひとことで説明するとしたら?

ガイア理論は、生物種が自然選択によって進化するというダーウィン進化論を踏まえた新しい展開ですが、これ

までの生物学のように、所与条件としての環境に生物がただ適応するという考え方を斥けます。そのかわり、

生物は環境に適応するだけでなく環境を改変すると考えるのです。そして生物は環境を変えることにより、

岩石、大気、海洋などのすべてと、全生命自身とを含むシステムの一部となる。微生物から樹木、ユリ、クジラ

たちにいたるまで、文字どおり生きとし生けるもののすべてが、絶え間なく物理環境と相互作用を続けていると

見るのです。そして、その相互作用から〈ガイア〉という自己制御システムが出現します。

――ご著書によれば、それは大気圏の大部分と、土壌、地殻上層に広がる?

有意な量で循環するすべてを含む領域です。一定以上深いマグマでは表層の影響を無視できるほどになるし、

大気最上層についても同じことが言えますが。

――つまり地球全体のほとんどが含まれる、と。

いや、せいぜい地下100マイル(160km)位まででしょうか。地球の大部分は従来どおり無機質な物体と考えて

かまいません。

――〈ガイア〉は地球の皮膚みたいなものですね。

そのとおり。およそ地下に100マイル、上空に100マイルの厚さと考えればいいでしょう。

――それは憶えやすい。80年代前半に2冊のご著書を訳して以来、ガイア説の受け入れられ方を客観的に見て

きて感じるのは、「そうか、地球は生き物なんだ!」という理解が、英語圏だと、はじめは『ホールアース・カタログ』

に代表されるニューエイジ的な文化領域から、日本では『地球交響曲』シリーズのような媒体を通じてだんだん

一般社会にまで浸透していったわけですが、その一方で科学的な厳密さを要求する人びとが、そんな一般化に

疑問を呈する傾向も強まったことです。あなた自身も、〈ガイア〉をシステムとして記述することに留意してこられ

たと思います。

それはメタファー(喩え=たとえ)の問題でね。こんなふうに説明するとわかりやすいでしょう。私と共同研究者

のリン・マーギュリス(細胞の「内部共生説」などで知られるアメリカの女性生物学者)は、彼女以外の生物学者

たち全員を敵にまわして闘うことになったわけですが、彼らは汚い手口を使いました。生物学者がリチャード・

ドーキンスの言う「利己的な遺伝子」を語るのは不問に付されるのです。考えてみてください。どうして遺伝子が

利己的になんかなれますか?(笑)それはメタファ ーでしょ。そっちのほうは許される。ところが、私が「地球は

生物のようにふるまう」とか「生きている地球」と言うと、「それは違う、そんなことはありえない」と反論される。

これはダーティ・ファイトです。

――それで「もっと厳密な表現をせよ」と批判されるわけですね。でも、あなた自身は「地球生命体」と言おうと

「恒常性維持複雑系としての地球生命圏」と言おうとかまわない?

いや、大いにかまいます。その理由はこうです。もし科学者として適切な仕事をしたければ、自分の科学をごく

普通の人に説明できなくてはいけない。それができないとしたら、結局自分でもよくわかっていないということで

しょう。しかし、路上の一般人に説明するには、メタファーを使わざるをえません。それしか方法がないのです。

なのに、なぜ科学者たちがそれに異議を唱えるのかわからない。異議を唱えるのは、ただ頭を切り替えたくない

からではないかと思います。「利己的な遺伝子」を問題なく受け入れられるなら、「生きている地球」だって受け

入れられなければおかしい。

――つまり、一般の人たちが地球を新しい目でとらえ、いままでと違う敬意を払うようになるためなら、「われ

われが生きているのと同じように地球は生きている」という説明のしかたで問題ないと?

そのとおり。地球を月や火星のような死んだ石のかたまりと考えるよりはるかにましです。

――仮説から理論への発展について聞かせてください。

ガイア説の理論化には二つの足場がありました。まず、仮説から導かれた予測を実地テストにかけること。

予測が正しければ、論駁の余地は少なくなります。次は、それをもとに数学的基礎を築く。そこまでいくと、

仮説ではなく理論と呼ばれるのが普通です。仮説とはその名のとおり「こう仮定してみよう」という段階で、次に

テストしてみて「たしかにそのようだ」となれば理論です。ガイア理論の場合は、仮説を理論に昇格させられる

裏づけ証拠が少なくとも10ほど出てきています。

1)一つめはリン・マーギュリスによるもので、惑星の維持管理にバクテリア生態系の果たす役割がきわめて

  大きいこと。

2)二つめは、気候制御の主要メカニズムの一つとして、生物が助長する岩石風化による大気中からの二酸化

  炭素取り込みがあること。これは観測を通じて充分な確認ができています。

3)三つめは、海洋藻類が主要元素の循環にかかわっていること。とくにイオウ、セレン、ヨウ素などは、この

  生物介在の循環作用がなければ地表からほとんど消えうせていたでしょう。

4)次は、海面から放出される硫酸ジメチル(DMS)が雲の形成に深く寄与していること。これが気候におよぼす

  影響 はとても大きい。実際いまでは、もし海洋藻類によるDMS放出で雲ができなければ、地球の気温は

  少なくとも現在より摂氏10度は高いだろうと考えられています。

5)その次がデイジーワールド(仮想惑星に黒から白まで明度の異なるヒナギクが生育するだけで環境条件が

  創発的に制御されることを示した画期的なシュミレーション手法)です。このモデルによって、システムが

  目的論とはかかわりなく作動しうることがわかった。つまり、だれかが先を見越して計画しなくても自己制御

  メカニズムが働くということですね。このモデルは、あらゆる方面で大躍進をとげてきました。最近、国際的

  に使われる大規模な気候予測モデルはその好例です。また現実の地球でも、熱帯雨林が白デイジーの

  役目、シベリアやカナダの北方針葉樹林が黒デイジーの役目を果たしているのではないかと考えられて

  います。

――ガイア説がそれらの刺激剤になった?

そのとおり。大きな副産物は、環境を完全に無視して、生物種の競争だけで進化を説明しようとする生物学者

たちの頑固な信仰が、まったく根拠を失ったことです。60年間も生態学的モデルを追究してきて、彼らが発見した

のはカオス理論だけでした。生態学的モデルに二種類の生物を入れたとたん、システムのふるまいはカオス

(無秩序)と化してしまいます。しかし環境を含めれば、百種類の生物種を入れてもシステムは安定するのです。

――それはたいへんな違いですね。

それでも生物学者たちは環境との相互作用を認めまいとがんばりますよ。最近は複雑性理論などと名前を

変えて。しかし、環境を除外するモデルには成算がないでしょう。

――現在、世界中で地球温暖化問題に取り組もうと二酸化炭素の削減をめざしていますが、ガイア理論を

取り入れなければ防止の対策や行動がうまくとれないのでは?

取り入れられてはいます。たとえば、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は3年ごとに報告書を出すの

ですが、前回のレポートを送ってきたあと意見を求めたので、私は次のような返事を書き送りました。ガイア

理論から見ると、地球はいま間氷期で正(ポジティヴ)フィードバック過程にある。そこへ熱を加えれば、

〈ガ イア〉の正常状態である氷河期のように影響が緩和されるのではなく、システム全体で増幅されてしまう。

とすると、IPCCによる大気中の二酸化炭素増加試算は見積りが低すぎる可能性が大きく、地球温暖化は

彼らの予想より速く進行するだろう、と。ガイア的なモデルを取り入れた最新のレポートでは、そのとおりの

観測を示しています。温暖化は従来の予想よりずっと速く進んでいるのです。97年のレポートでは、2100年

までに摂氏3度の気温上昇が起こりうるとしていたのに対し、最新の報告書は6度となっています。しかも、

彼らはガイア理論のごく一部を取り入れたにすぎないのですよ。海洋藻類の果たす役割なんか、まだ全然

考慮されていない。温暖化が進んで藻類の生育や分布が変われば、正フィードバックにいっそう拍車が

かかる恐れが あります。

――温暖化のスピードがもっと速くなる可能性もある?

ええ、地球温暖化の危険はたいていの人が考えるよりずっと大きい。わかりやすい話をしましょう。地球は

いま、あなたや私がインフルエンザにかかって熱を出しているような状態にあります。いつもは体温を摂氏

37度に自己調節している体内のあらゆるシステムが逆転してしまう。考えてみてください。熱が出ると震え

ますよね。でも、本来それは寒いときやるべきことで、加熱状態で震える必要はない。皮膚が乾いて、汗も

止まります。それも寒さ対策で、暑いときにはふさわしくない。そんなふうに、新陳代謝がすべて逆転して

しまうのです。

――地球温暖化はもう止めようがないと思いますが、せめて進行を遅らせるために、あなたの提唱する

〈惑星医学〉の観点から何かできることはありませんか?

悲しいかな、答えはノーです。人類は温暖化の結果、最初の大災害が起こるまで何もしないでしょう。ヘビー

スモーカーみたいなものだと思いますよ。タバコを吸い続けたら心臓病や肺ガンになるという新聞記事を

どれだけ読んでも、まったく効き目ありません。「いや自分には起こらない」、「起こっても10年か20年後のことだ」、

「それまでにバスかなんかにはねられて死ぬんだから、くよくよしたってはじまらない」と言って紫煙をくゆらせる。

温暖化に対するみんなの気持ちもこれと似たりよったりで、不意討ちを食らうまでは何もしやしません。植林の

ような安易な対策は実行するでしょう。あいにく最近の研究では、それが逆効果かもしれないと出ました。つまり

北半球での植林は、地球温暖化を抑えるのではなく促進してしまう可能性があるというのです。

――本当ですか?

ええ、たしかに樹木は二酸化炭素を空気中から取り込みますが、地表を黒々と覆うアルベド効果(地表の明度

差による熱反射率の変化)と呼ばれる影響で裸地より太陽熱を吸収するため、二酸化炭素の取り込み効果を

しのぐ温暖化ファクターになりかねない。だとしたら解決にはなりません。これは、植林によって車社会の存続を

図ろうとするアメリカなどの国々にはおもしろくないでしょう。

――知人の地球科学者が、ガイア説は地殻内部からの熱を過小評価していて、地表気温は半分ぐらいマグマ

の熱で保たれていると言うのですが

地中から盛んに熱が上がってくる国の人の偏見じゃありませんか。(笑)それは冗談として、われわれもその

計算はずっと前にやりました。太古の地球は太陽から受ける熱が現在より25パーセント弱く、しかも地殻の

核反応が活発だったため火山活動による熱がいまの3倍あった。それでも、生命発祥のころ地表気温に対する

地下からの熱の寄与は1パーセント以内だったと思います。現在は0.3か0.2パーセント以下でしょう。日本では

多少違うかもしれませんが。ただ、仮にその人の考えが正しいとしても、地球生命圏の自己制御メカニズムその

ものが変わるわけではありません。

――もう一つ、ガイア説がまだ考慮に入れていないと思われるのは、グリーンランドの氷が解けて沈み込み、

太平洋の真ん中までめぐってくるという深層海流です。地球全体の冷却装置になっているらしいですが。

たしかに、ガイア理論を考えるときには研究が進んでいませんでしたから、その影響を組み込んではいません。

重要なファクターであることは認めます。しかし、深層海流についてはいまでもわからないことが多い。たとえば、

北大西洋での沈み込みが近年、弱まったのか盛んになったのかもはっきりしません。

――ついこのあいだ、それが止まりそうだという記事を読みました。

いやいや、それにも二つの説があってね。海底で測ると下降流が止まったように見えるけれど、いろいろな深度

で測ってみると、海底より少し上では盛んに流れているというのです。いままさに論争中で、どちらに軍配が上がる

かわかりません。

――ひと筋縄にいかないわけですね。

北大西洋での沈み込みが止まった場合、冷気が滞留して、北ヨーロッパは氷河期さながらに寒冷化するという

予測もあります。地球のほかの場所は温暖化していくのにですよ。

―人間が〈ガイア〉を視野に入れにくい一つの理由は、ゾウとノミより大きなスケールの差ばかりでなく、私たち

の時間と〈ガイア〉の時間とがかけ離れすぎていることにあるのではないかと思います。私たちの時間感覚は

〈ガイア〉の時間に比べてあまりにも速く、狭い。

生命が地球上に40億年近く存続してきたことは、ほとんど間違いありません。それは宇宙の年齢の約3分の1、

非常に長い時間と言えます。そして、〈ガイア〉は生命発祥の直後に生まれたと考えられる。直後といっても

100万年以内とか、そういう話ですがね。

〈ガイア〉をめぐる謎の一つは、ものすごく長い幼年期を送ったことです。

――というと?

地球はほんの10億年前まで、微生物生態系つまりバクテリアが支配していました。40億年のうち30億年は微生物

しかいなかったのです。われわれとか、樹木とか、魚とか、図体のでかい生物が出現するのに、どうしてこんなに

長くかかったのでしょう?人類なんて、まだほんの6?700万年ですよ。ひどく遅咲きというか、惑星にとっては思春期

の産物です。われわれを通じて、このすばらしい生命惑星がはじめて自分の姿を見ることができたのですから、

有意義な青春ではありますがね。

――美しい表現ですね。

いや、これは本当にすごいことじゃないですか。大いにロマンもかき立てる。 ただし、残念ながら彼女はちょっと

遅咲きすぎました。というのも、〈ガイア〉の寿命はせいぜいあと10億年ですから。それは、太陽が指数関数的に

熱くなっていくためです。太陽もいまの地球と同じように温室効果に悩んでいる。水素が燃えると排ガスとして

ヘリウムが生じますが、ヘリウムは水素より不透明なので、ヘリウムが増えるほど太陽内部は熱くなるのです。

それが正フィードバック作用を引き起こすために、この先10億年で過去40億年と同じくらい加熱するでしょう。

――じゃあ、太陽系はもう中年をすぎた?

ええ、〈ガイア〉は私と同年輩ですよ。人間の寿命が長くて100歳としたら、私はいま80歳ですから。〈ガイア〉も

ちょうど人生の5分の4を終えたくらいです。

――だとしたら、〈ガイア〉はいつ恋愛したり、子どもを産んだりしたんでしょう?(笑)

リチャード・ドーキンスが言うのはそこですよ。生殖できないものなんか生命じゃない、と。

――〈ガイア〉がそんなに高齢だとは思いませんでした。

ちょっと意外ですよね。でも、本当の謎は長すぎた幼年期です。

                                                   2004年1月16日掲載

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