技術伝承

切るのは簡単だが育てるのは難しい。

1999.12.15掲載

私達は団塊の世代として高度経済成長の中を生きてきました。団塊の世代である私達は、やがて一線から退こうとしています。

私が働いている工場でも世代間の落差が大きく、私達の世代が退職した後は、私達の子供のような世代が中心になっていきます。

私は何年も前から会社幹部に私達の後継者となるべき若い世代の養成を、ことあるごとに進言してきました。

会社は営利を目的としていますから、その当時、余剰人員は置けないとして聞き入れられませんでした。

技術屋と言われる職業は、一朝一夕には育ちません。私の体験では、ベテランと言われるまでには、最低でも20年は

かかると思っています。いくら優秀な人材でも、あるいは有能な資格を持っていても、やはり経験がものを言う世界ですから

それくらいの年数が必要なのです。大工さんや左官さんが一人前と言われるのに要する年数と同じなのです。

いろんな失敗の積み重ねを含め、多くの経験が年輪のように積み重なって、一人前の技術者を育てるのです。

現在、私達が働いている化学産業は未曾有の不況の中にあり、重厚長大と言われた産業の多くが厳しいリストラを

迫られています。とても余剰な人間等、置いておける状態にはありません。ぎりぎりの要員の中で後継者の育成を

迫られています。将来の会社、工場を背負って立つべき若い技術者達をどのようにして育成していくのか、

待ったなしの状況の中で、いろんな方法を模索しています。

一方、理屈抜きに長年かかって一人前になった人達を経営の建て直しと言うだけで簡単に首にしてしまっています。

経営に携わっている人達は、一人の会社人が一人前になるのに何年かかると考えているのでしょうか。例えは適切で

ないかも知れませんが、杉や檜でさえ柱になるまでには、最低でも20年、30年はかかるのです。

ましてや人間が一人前になるためには、多くの歳月がかかっているはずです。

本人のたゆまざる努力と、会社もそれだけの投資をしてきているはずです。それを10把一からげで切ってしまう

のは人材の浪費としか言いようがありません。

人間のリストラによって一時は採算も良くなり黒字に転ずるかもしれません。しかし、人あっての会社です。

苦しい時ほど、お互いに知恵を出して乗り切る事こそ肝要です。人を切るということなど最低の策といわざるを得ません。

会社再建のために、今まで営々として育ててきた人材をもっと活用し、お互いに知恵を出し合って厳しい時代

を乗り切りたいものです。

おそらくは、多くの会社が高齢化の問題と後継者不足という問題に直面していると思います。

後継者となるべき若者達が一人前になるまで、退職者や退職前のベテランといわれる技術者達の知恵と力を活用したいものです。


この記事を書いているときに、大手電機メーカーでは公的年金の支給年齢引き上げに伴い、雇用を65歳まで延長する

方針を労使間で確認したと言うニュースが報道されました。理由はともかく雇用が延長されることによって、技術伝承の

空白が埋められるのであれば幸いです。


 先日、新年の挨拶に来られた協力会社の人も話していました。この会社も次代を引き継ぐ技術者が育っていない

との事でした。私が電気屋として在籍をしていた時に考えていたのは、優秀な協力会社に委託さえすれば、たとえ

後輩が十分育っていなくても当面は何とかやっていけるのではないかということでした。しかし、協力会社も同じような

状況であれば、それも望めないわけで大変難しい先行き不透明な時代が目の前に来ていることを実感しました。

                                              2002年1月17日追記

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