密室の中の安楽椅子

趣味の部屋へ

このページは、ある社員の方が最近読んだ探偵小説の中から
これはという物から、こりゃだめだという物まで
ピンからキリまで紹介してくれるそうです。
たまには本でもという方は、ご参考にいかがですか

「天空の蜂」東野 圭吾(講談社文庫)
本格ミステリーと言うよりもクライシスサスペンスといった赴きの小説です。
超大形ヘリコプターをリモコン操作で強奪し原子力発電所の上でホバリングしたまま 政府を脅迫する犯人。
要求は全国の原発の停止だった。
早朝のヘリ強奪から午後3時ぐらいのほんの10時間のドラマを圧倒的は緊迫感で一 気に進む物語は凄い。
最近、北朝鮮の核のニュースで軽水炉と言う単語がよくでてくるが、この小説で軽水 炉と高速増殖炉の大きなちがい が良く分かって良かった。この犯人の狙いと言うのもこの辺に隠されていて考えさせ られるものです。
原子炉の不安を抱えての生活と今の生活から電気を3割カットの生活とどっちを日本 人が取るかの選択を 迫られているのです。
きみは、読まずに死ねるか。


「それでも警官は微笑う」日明 恵(た ちもり)(講談社)
メフィスト賞をとった女流作家のデヴュー作です。
本格的な警察小説で知らずに読むと女性が書いたと思えないほど武骨な小説です。
一人の麻薬中毒者の持っていた製造元不明の拳銃を巡って、所轄の刑事と麻薬取締官 がそれぞれ捜査を開始した。
暗躍する組織は裏から圧力をかけ、組織という壁にぶつかった二人の取る行動はもち ろん単独捜査だ。
本格ミステリーに出てくる探偵のような名推理とはいかないが、執念の捜査と協力者 によって次第に犯人に迫っていく。
刑事が捜査の段階で犯人に出くわすのは偶然だけでは無い、そこには小さな推理と閃 きの積み重ねがあっての事。
警察の中にも名探偵は存在する。
きみは、読まずに死ねるか。


「聯愁殺(れんしゅうさつ)」西澤 保 彦(原書房)
見ず知らずの男に殺されそうになった梢絵はその動機が解らなかった。
運よく助かったあと、その男が連続無差別殺人犯であり自分が最後のターゲットだっ た事を知るのであった。
現場に残った手帳から犯人は分かったが、男は事件のあと失踪し行方不明に。
それから4年後、どうしても自分を襲った動機がしりたくて、ミステリー作家達で作 られた「恋謎会」に
調査を依頼するのであった。
それぞれが持ち寄った証拠を元に推理を展開するのであるがこれといった決めてが無 い。
梢絵はその推理に一喜一憂するが、肝心の動機が見えてこない、だがその心理の動き の中に真実が隠されているのであった。
事件部分はそこそこに、安楽椅子探偵が展開するミステリー。舞台劇のような設定で あって舞台では表せない心理描写が決めて。
きみは、読まずに死ねるか。


「ウエディングドレス)」黒田 研二 (講談社ノベルズ)
ちょいと前のメフィスト賞ものです。
ユウとサチコの二人の視点が交互に変わり物語りは進んでいきますが、
結婚式の当日からそれぞれの視点での話しが食い違って来ます。
サチコから語られる話ではユウは事故にあって死んでしまいますが、ユウからではサ チコが失踪します。
ここからが本格ミステリー。なぜ食い違うのか、どこがトリックなのか読みながらい ろいろと考えてしまいます。
まず考えられるのが時間的ずれ、そして同一人物では無いということ。
そのへんの仮説を立てながらどこかにある伏線やヒントを拾いあつめて推理するのが 面白いのですが、
そう簡単にはいきません。あなたも挑戦してください。
きみは、読まずに死ねるか。


「今日を忘れた明日の僕へ」黒田 研二 (原書房)
まだまだつづく叙述トリック今回は記憶障害と日記ものです。
事故によって記憶の蓄積が出来なくなり一晩寝ると全て忘れてしまう体になった男は、 それ以来毎日日記を付ける用になった。
と、毎朝妻が説明するのであった。
事故にあって半年の間に友人が失踪していたり、妻の友人が事故と同じ日に死んでい たり、
さらに失踪の直前に自殺した女子高生の新聞記事の切れ抜きを日記に挟んでいたのだっ た。
さまざまな謎を解く鍵は日記の中にあった。
日記に書かれていることのどこが本当の事でどこが嘘なのか、その嘘は誰が誰を騙そ うとしているのかが、
今回のメイントリックです。
自分で自分を騙す為なのかそれとも罠なのか、その謎の答えも日記の中にあります。
あなたはその謎を見つける事ができるか挑戦してください。
きみは、読まずに死ねるか。


「双樹に赤 鴉の暗(くろ)」高里 椎 奈(講談社ノベルズ)
薬屋探偵妖綺談という副題があるように、3人の妖怪がでてきますが正当な妖怪話し の探偵小説です。
何気ない貴金属店泥棒の自殺事件の犯人には事件の前の行動に得体の知れない蟠りを 感じる刑事がいた。
一方、うだつの上がらないサラリーマンに取り付く二匹の子鬼は同居させてくれれば、 恩は返すと言う。
人間の心の隙間に忍び込んでくる妖怪は天使か悪魔なのか人が犯罪に走る時には何か に囁かれているのだろうか。
妖怪というものが人間の世界の中でどのように潜んでいるのかという意味での正統派 と言えると思います。
テーマは正義とはどうすることか。正義の名のもとで何をすることが良いのかを問わ れる。
ねじれた正義感は心の隙間となって悪魔にそそのかされる事になるのか、自分の正義 を他人に主張することが
正しいのか。そういえば今自国の正義を他国に強要してる国があるようだけど、二匹 の子鬼になにか囁かれたのかも。
きみは、読まずに死ねるか。

「クビキリサイクル(青色サヴァンと戯 言遣い)」西尾 維新(講談社ノベルズ)
絶海の孤島に棲む令嬢が5人の天才と呼ばれる女性を招待した。
これで何も起こらない訳がなく、孤島の密室に首無し死体と本格のてんこ盛り。
工学の天才少女と付き添いでやって来た冴えない名も無い友人が天才の犯罪を証明で きるか。
作者20才の時のデビュー作です。若い作家の方が下手に知識が無い分自分の言葉で 書いているのが良く解り好感が持てます。
作家も手慣れてくると、資料を掻き集めての知識のお披露目のごとくだらだらと解説 文を書く事が増えて来ます。
それはそれで面白いのですが、お話の流れとは関係ないので、作者の声が聞こえてき ません。
このデビュー作で思想、哲学を作者の言うとこの「戯言」で出し切った事で、これか らのスタイルをこれで通すのか、
それとも、別のキャラで違うスタイルを見せてくれるか、楽しみな作家です。
きみは、読まずに死ねるか。


「サイコロジカル(兎吊木垓輔の戯言殺 し)上、下」西尾 維新(講談社ノベルズ)
天才工学士、玖渚友と名も無い友人のぼくが主人公のシリーズの第4弾です。
かつてのハッカーのチームのひとりが謎の研究施設に捕われた。友とぼくは救出に向 かうが、
そこに待っているのは密室、磔、バラバラ死体だった。
戯言シリーズも4冊目となると、しゃべってばかりはいられず、走って跳んで戦う青 春エンターテイメント小説となっております。
しかしまだまだあふれる戯言は絶好調で、聞く者を惑わし欺きます。
登場人物の描き分けも上手くストーリーの展開の合間に呟く戯言がいいリズムになっ て読みやすいです。
ただ肝心のトリックの方が少し安易で普通に考えればすぐに気付くことができるので、 作者の戯言に惑わされない様にする事です。
きみは、読まずに死ねるか。


「Q.E.D.竹取物語」高田 崇史(講談社 ノベルズ)
日本の闇の歴史を鋭く抉るQ.E.D.シリーズの最新作です。
奥多摩の村で不吉な手毬歌になぞって起こる連続殺人事件。これに挑むは漢方薬剤師。
事件の本質を解き明かすべく、「竹取物語」の真実から「かぐや姫」の正体に迫る。
どこの国の歴史もその記録を遺したのは常にその時代の勝者であり権力者であるので、 そのまま書いてあることを
鵜のみにしていたのではその影に隠れている庶民の生活は見えて来ない。
その闇の部分に光を当てるこのシリーズ、今回も神話、民話の世界が当時の真の歴史 を解く鍵となっている事を、
丁寧に解読してくれます。今の生活習慣がどのように成り立っているのか確認する為 には今の常識を疑わなければいけないということです。
きみは、読まずに死ねるか。


「赤緑黒白」森 博嗣(講談社ノベルズ)
10作目になる泥棒探偵シリーズもこれにて終了か。
いつもは異常な空間での異常な人々の集まりの中で事件が起こる事が多かったのです が、今回は設定がとても素直です。
深夜、マンションの駐車場に真っ赤に塗装された死体が発見された。被害者の恋人か ら調査を以来された探偵は容疑者で事件に
良く似た設定の小説を書いている作家をマークするが、第二の事件が発生するのであっ た。
殺人を犯す動機と死体を塗装する動機それを理解することに意味があるのでしょう か。
塗装する為に殺人があって、殺人の為に動機を作るということが世間に理解されるか どうか、理由があってそれを理解できなければ
事件として成立しないかどうかがテーマのようです。動機とは考える物ででなく感じ る物なのか。
なんにでも理由が無いと落ち着かない現代の人に読みこなせるかが問題です。
きみは、読まずに死ねるか。


「ヒトクイマジカル(殺戮奇術の匂宮兄 妹)」西尾 維新(講談社ノベルズ)
戯言シリーズの第5弾です。
戯言遣いのぼくは、「死なない研究」をしている助教授の研究所にアパートの住人二 人とモニターのアルバイトにやってきた。
そこには助教授と永遠に生き続ける少女のほかに、その二人の命を狙う一人で二人の 二重人格の殺し屋、匂宮(におうのみや)が居た。
そしてやはりと言うか、誰かの陰謀によって一晩泊まることになった翌朝。僕以外の 人間は全て殺されていた。
犯人は僕なのか、外部の犯行なのか。
シリーズを追うごとに癖のある登場人物の秘密が少しづつ明らかになっていきます。
ここまでくると、新本格ならぬ新青春エンタの様相が強く、謎解きはさらりと流して る感じです。
あとは、語り部の僕に自分をどれだけ投影できるかで好きか嫌いか分かれる小説です。 完結も近い。
きみは、読まずに死ねるか。


「少年たちの密室」古処 誠二(講談社 ノベルズ)
密室と題名にありますが、密室の中に死体だけがあるという状況ではなく閉ざされた 空間で限られた人間の中での事件です。
謎の事故で亡くなった少年の葬式に行く為、担任の教師はワゴン車でクラスの生徒を 誘い合うのであったが、最後の生徒のマンションの地下駐車場に
来た時に突然地震に遭いマンションの出入り口は崩壊。
地下駐車場に閉じ込められた六人の高校生と教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で頭 を割られて死亡した。
事故か、殺人か、全く光りの無い状況で犯行は可能なのか。動機は謎の事故で死んだ 少年に関係があるのか。
現代の高校生と教師の関係、それぞれの立場とそれを守る為ににすることが回りにど う影響するのかが事件を大きくしていくようです。
本格ならではの用意周到な伏線と高校生の屈折した正義感が熱い感動を呼ぶことは間 違いないでしょう。
きみは、読まずに死ねるか。