密室の中の安楽椅子

趣味の部屋へ

このページは、ある社員の方が最近読んだ探偵小説の中から
これはという物から、こりゃだめだという物まで
ピンからキリまで紹介してくれるそうです。
たまには本でもという方は、ご参考にいかがですか

「そして二人だけになった」森 博嗣 (講談社ノベルズ)
いつものシリーズ物ではなく、始めての単発物です。
世界最大級の海峡大橋の巨大な柱の中に秘密のシェルターに、科学者、医者6人が集 まった。
そうなるとやっぱり出口や通信機は破壊され完全密室の中での連続殺人事件の始まり です。
この小説の味付けとして盲目の天才科学者はじつは身替わりの弟が紛れ込んでいたと いうのです。
兄弟の入れ代わりというとどっちかの首無し屍体が出てきてさてどっちのだ、という のが多いですが、
そこはもうひとひねりはきいてます。目の見える弟が主人公ですが、出番の少ない盲 目の兄はどう絡むのかが鍵です。
しかし、謎解きあたりから話しが幻想的になってしまうのが残念です。最後まできっ ちりと理論でまとめてほしかったです。
きみは 読まずに死ねるか


「過ぎ行く風はみどり色」倉知 淳(東 京創元社)
作者、初の長篇です。
デヴュー作の連作短編集で出てきた猫丸先輩がまたまた登場です。
30過ぎで停職なし、何にでも首をつっこみ回りの人を強引に引っ張りまわすこのキャ ラクターは、
名探偵の素質十分です。変に回りの人に気を使い、警察との駆け引きがうまい探偵よ り傍若無人の方が個性的ですきです。
お話は、猫丸の後輩の家の離れで爺さんが撲殺されます。そこに集まっていた、家族、 霊媒師と心理学者たちには
みな際どくアリバイがあったのでした。
猫丸は現場には出てこず、後輩から話しを聞きながら事件の核心へと近づくのであっ た。
トリックは小説の中ではのもので映像で表現するのは難しいものです。伏線は全て張 られているので気おつけて読めば、
あなたも猫丸になれるかも。
きみは 読まずに死ねるか


「鏡の中は日曜日」殊能将之(講談社ノ ベルズ)
名探偵、石動(いするぎ)の元へ14年前の事件の再調査の依頼があった。
それは小説の中の事件と思っていたが、じつは実際の事件を元にしていたのだ。
しかもその中での名探偵 水城の最後の事件は推理を過ったのではないかと思われた。
調査の為14年前の事件の関係者に一人一人会っていくうちに石動に危険が迫る。
真の名探偵はどちらだ。過去と現在、小説の中の小説、小説の中の現実が入り乱れ、 あなたは目眩を覚えるでしょうが、
そこに作者が周到に仕掛けた罠があるのです。
読みはじめてすぐに何か違和感をもったあなたは鋭い。
ただそこがメインのトリックで無い所がすごい、映像化不可能とでもいえば、ほらも うピンときたでしょう。
きみは 読まずに死ねるか


「QED式の密室」高田 崇史(講談社ノ ベルズ)
本を密封してあるので本当の密室本となっています。
シリーズ化しているQED。今回は陰陽師の末裔が密室で刺殺されるという事件だ。
密室の部屋の前にいた人物は人は誰も出て来なかったと証言、嘘はついてないと思わ れるが。
陰陽師の操る式神が犯人なのか。ほんとうに式神は存在するのか。歴史は強者によっ て書かれ、闇の部分は伝説として残るもの。
式神の正体が何であったのか解る時、密室の謎も解き明かされる。
今回も探偵役は漢方の薬剤師、桑原崇。酒を飲みながら延々と語られる陰陽師の歴史。
それが終わった時、決して表に出ない暗い日本の歴史が明るみにでるのであった。
封印された差別の歴史を突き付けられ、何を考える。
きみは 読まずに死ねるか


「鬼流殺生祭」貫井 徳郎(講談社ノベ ルズ)
舞台は明詞7年の東京。
元武士の屋敷での密室殺人事件が発生する。殺された男の友人で暇な元公家に九条は 探偵気取りで首をつっこむが、
中々捜査は進まない。出来たばかりの警視庁の刑事もお手上げ状態。
そこで別の友人の朱芳(すおう)にアームチェアーディティクティヴを依頼するが、、 、。
明治の街や人物の描写が端正ですばらしい、映像が目に浮かぶようだ。
二人のコンビもホームズとワトソンのように絶妙で最後の最後まで部屋から一歩も出 ずに謎を解いてしまう所が徹底していていい。
時代的に科学捜査は無いが、これだけ本格物に仕上げてるのはすごいと思う。
この先このシリーズが出てくるのが愉しみだ。
きみは 読まずに死ねるか


「妖奇切断譜」貫井 徳郎(講談社ノベ ルズ)
九条と朱芳(すおう)のコンビによる第二弾です。
連続美女バラバラ殺人事件にまたも首をつっこむ九条であるが、
病弱で家から出られない朱芳の助言がなかなか聞きだせない。
そのうち友人の妹も事件の被害者になってしまう。なぜか死体は一部が過けていて、 稲荷に捨てられるという
共通点があるのだが、その意味とは?。
さらに磨きがかかるきめ細やかな人物描写はすばらしい。死体を発見するだけの子供 にも日々の生活を伺わせる物語が
あります。そして過去数々あった死体をバラバラにする理由にまた一つ新たな解答が 加わりました。
きみは 読まずに死ねるか


「QED百人一首の呪」高田 崇史(講談 社ノベルズ)
読む順番が逆になりましたが、QEDシリーズの第一弾でデビュー作です。
百人一首のコレクターでもある会社社長が殺された。手に1枚の札を握りしめて。
これはダイイングメッセージなのか。
関係者はみなアリバイが証明されたが一人の自殺によって事件は終わったかにみえた が、、、、。
百人一首に封印された謎に挑戦する桑原崇はダイイングメッセージの意味を読み取る ことができるのか。
事件の謎より百人一首の謎の方がすばらしく、ただの歌留多としか思ってなかった人 には感動ものです。
この華麗なる謎が解けた時、事件の真相が明らかになるのであった。
きみは 読まずに死ねるか

「R.P.G.」宮部 みゆき(集英社文庫)
インターネット上に仮想の家族を作った4人。
その中のお父さんが現実の世界で殺された。仮想家族の子供達はお母さんが殺したと 言う。
現実の世界では、愛人の友達が犯人ではないかと警察が考えていた。
そして取調室に仮想家族の息子、娘、そしてお母さんがそろった。マジックミラーの 向こうには本当の娘が、
彼等の取り調べを観ている。この限られた空間で進む密室劇、果たして犯人は誰なの か。
作者の仕掛ける大きな罠は、この題名の中に隠されています。と言うか、R.P.G.の正 確な意味さえ解れば、
誰がこのゲームをプレーしているのかが明らかになるでしょう。
きみは 読まずに死ねるか


「ナイフが町に降ってくる」西澤保彦 (ノンノベル)
お馴染みのSF本格ミステリーです。今回は、何かに疑問を持つと時が止まってしまう 奇癖を持つ男のお話です。
そんな彼の前を通り過ぎた男が突然倒れた。ナイフを腹に突き立てて。
時間牢と化した町に取り残された女子高生と共にこの謎を解く為に町を彷徨うが、
そこにはナイフに刺された犠牲者が次々と発見される、彼が納得できる解答を見つけ 出さないと永遠に
元の世界へは戻れない。はたして二人は時間牢から脱出できるのか。
この話しは本格ミステリーの本質を突いている、ミステリーとは謎に対しての真実を 当てるのではなく、いかに説得力
ある解答例を読者に提示するかにかかっている。彼が納得したことが真実なのです。 納得するのが読者のつとめかな。
きみは 読まずに死ねるか


「日曜日の沈黙」石崎 幸二(講談社ノ ベルズ)
「ミステリーの館」が、あるホテルの横に建つ。ここは密室で死んだ作家、来木来人 の館。
ここで、彼の遺した「お金では買えない究極のトリック」を見つけるためのイベント が行われた。
友人の作家、評論家、ミス研の学生、その中にミステリー好きのサラリーマン石崎と 女子高生の二人。
このトリオが、ホテルの用意した、連続殺人劇の謎をつぎつぎと解いていく。三人は 「究極のトリック」に
辿り着くことができるのか。
二人の女子高生に徹底的にミステリー小説そのものをコケにされてもなお本格の道を 進む石崎の姿に自分を見る人も
少なくないと思います。これも立派なメフィスト賞受賞作です。
きみは 読まずに死ねるか


「仔羊たちの聖夜」西澤保彦(角川書店)
キャンパス3人組、タックとタカチとボアン先輩が一年前のクリスマスイヴの夜、飛 び下り自殺に遭遇する。
そのとき一緒に落ちて来たプレゼントを偶然持ち帰ってしまった。
一年後、そのことに気付いた彼等は遺族に返そうとするが、身元を調査するうち5年 前にも同じ場所で飛び下りがあったことが
わかった。しかもどちらも遺書は見つかって無い。自殺なのか他殺なのか、彼等の捜 査つづくが......。
こちらのシリーズは純粋な本格ミステリーです。しかも回を追うごとにテーマが重く なっていくようで、それに耐えて
読まなけれがいけません。得にタカチとタックの過去が絡んでくるとさらに重くなり ますが、どこにでもある家庭の闇の部分が
むき出しになることで。なにかの救いになればいいのですが。
きみは 読まずに死ねるか


「ルー,ガルー」京極 夏彦(徳間書店)
時代設定が昭和20年代からいきなり西暦2030位に変わり文体も多少変化がみら れます。
この時代個人情報が完全にデーター化され、管理されています。学校もなくなりほと んどのことが、自宅の端末で
できるようになっていて、外にでることが無くなっている街で連続少女殺人事件が起 こります。
人と人が話しをするリアルコンタクトよりデーターの中の情報を重視しそこから真実 を捜す警察。
人は嘘をつくがデーターは嘘を付かないというが、データーはそれを手にした者によっ て公開されたものが真実として認知される
ことを考えると真実は作られる物なのか。この本の中の世界は今の現実の未来の姿な のか。
登場する少女達とカウンセラーは絶滅寸前の狼のごとく人気の無い街を走る。
きみは 読まずに死ねるか


「生ける屍の死」山口 雅也(東京創元 社)
アメリカの田舎の葬儀屋を舞台とした本格物なのですが、一つ問題があります。
なんと死んだ人間が生き返るという事件が多発してそれがもう街の人たちがあり得る 事と認識していると
いう前提で物語が始まります。さてこうなると、殺された人間がいきなり起き上がり 「こいつに殺された」
などと叫んでいては、あっという間に事件が終わってしまいますがなかなかそうはい きません。
そこは本格ミステリーという体裁は踏まえているので、この状況をいかに利用してト リックを成立させるかが
腕の見せ所なのです。
探偵役を勤めるパンク青年も途中で死んじゃいますが、復活して事件解明に挑みます。
さて体が滅びゆく前に解決できるのか。
きみは 読まずに死ねるか


「朽ちる散る落ちる」森 博嗣(講談社 ノベルズ)
超音波研究所の地下の完全密室に一つの死体、そして地球に帰還したスペースシャト ルの乗組員全員の死体。
前人未到の宇宙密室か。と思って読んでみると失敗します。
この手のトリックはハードボイルド的な小説なら許して貰えるかもしれないけど、本 格でこれはないです。
地下密室も現代的なところは良いと思うけど、ここまでロボットの技術が進歩したら 中からドアに鍵をかける
ことは簡単なこと。ただ技術的に可能ということとそれを実行する犯罪者が居るのか ということがどうも
ピンとこない。小説なのだから多少の情緒も必要なのでは。
せっかく理系ミステリーとしての地位を獲得したのに、あまりにもメカに走り過ぎた 為小説としての味が薄く
なってしまってる。その味をキャラクターだけで補うのは間違ってると思うのです。
きみは 読まずに死ねるか


「安達ケ原の鬼密室」歌野 晶午(講談 社ノベルズ)
終戦間近、升型をした屋敷に迷いこんだ少年は鬼の仕業と思われる密室殺人に遭遇す る。
そして50年後、探偵がこの謎に挑戦することになる。
特殊な屋敷での密室のトリックとしては超物理的で圧倒されました。。
ただこのトリックのヒントしてなのか、いきなり別のお話から始まります。
小学生の男の子が井戸の中におもちゃを落としてしまう事件、留学生がアメリカで巻 き込まれる木の上に
捨てられた死体のなぞ、そして探偵の助手が過去に関わった、墜落した溺死死体の謎。
などなど遠回しに語ってくれてるんですが、あまりに本編から遠すぎてよく解らなく なってしまいました。
謎の根底に流れるものが共通してるので別々の本にするのは抵抗があったのでしょう。
きみは 読まずに死ねるか